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第61話 母の存在
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学校が終わり、冬季講習が始まった。夏季講習は外部の生徒がいたが冬季講習はいない。受けない生徒がいるため、いつもよりも教室が広く感じた。
まとまった講習は最後であるためか、講師の熱を感じた。
行きたい学校が決まると、以前よりもやる気に満ちた。
この日は12月のテストの返却があった。成績は事前に母に教えてもらっていたため、驚きはしなかったが焦りを感じた
志望校には偏差値が足りない。
テストの結果を見て2月1日は確実な学校を受けて、それ以降に本命を受けるという案が出されたが否定した。2月1日がもっとも受かりやすい。その日を逃したくはなかった。だから、千葉で受かりやすい学校を受けて東京に望むこととなかった。
冬季講習では貴也とすれ違うことがあったがほとんど会話がなかった。以前は憲貞を気にして声を掛けられることがあったが今はその余裕もないようだ。
塾から帰宅すると、リュックを置いて、父の仕事部屋に憲貞とともに向かった。
「今日は過去問を行う」
そう言って、算数の過去問を50分でおこなった。時間を気にしながら解いていくとかなりキツイ。計算問題は確実に取らなくてはならないがそこに時間を掛けると以降の問題までに時間切れになってしまう。
「そこまで」
結局、大1の計算問題と大2の図形を少し解いたところで終わってしまった。
チラリと徳貞の机に上にあった答案見た。真っ白であった。
父が憲貞と和也の答案を回収して、じっと見た。
「憲貞君。まぁ、なんつうか厳しいね。65を超える学校は癖があるんだよね。解説するね」そう言いながら和也の方を見ると、プリントを一枚渡した「これやってて」
プリントを見ると、びっしりと書かれた計算問題であった。しかも、分数と少数が混じっていて尚且つ式の途中を解答するものだ。
父はタイマーをスタートさせると憲貞の解説を始めた。
鉛筆を持ち、プリントの問題を解き始めた。えげつないほど、苦手な計算問題ばかりならんでいた。歯を食いしばり手に力を入れたため字が濃くなった。
憲貞の解説が終わり次の指示をすると、父は和也がやっていたプリントを覗き込んだ。
「うん。そうだね。これ、毎朝やって」と丸を付けながら言った。朝の計算は毎にやっているがこのこんなに難しくない。
思わず、顔が引きつると「受かりたいだよね」と笑顔を向けられた。目が笑っていない脅しのような顔でうなずくことしかできなかった。
「じゃ、解説するよ」
父はホワイトボードの前に立つと、過去問の図形問題で間違えた場所の解説を始めた。必死にノートを取り解説を理解しようと頑張った。
父の解説は一方的ではなく、対話を行うのでわからない部分はその都度解決できてやりやすかった。
全てが終わるとシャワーを浴びて自室に戻った。
机に向かうと、塾の宿題と父から出された課題を置いた。
「えげつねぇ量だな」
志望校を伝えてから父からの課題が難しくなった。“希望する学校に行くには実力をつけなければいけない”のはわかっていたが荷が重かった。
「そういや、のりちゃん。過去問真っ白だったな。大丈夫かなぁ。でも、のりちゃんは内部進学で桜華いけんだよね。あそこ上位校じゃねぇか」
自分の妬む気持ち気づくと、ため息をついてローテーブルに頭を付けた。その時、ドアを叩く音が聞こえ返事をすると憲貞が入ってきた。
「なに?」
「うむ。貴也とメールしているのだが、冬季講習が始まってから返事がない。塾で見かけるが話し掛けづらくてな」
「そっか。そんな余裕ないんじゃねぇの?」
「そうなんだろうが……。心配だ」
落ち込む憲貞にため息をつき、自分の頭を乱暴にかきむしった。
「あのさー、余裕ないのはのりちゃんもじゃねぇーの? 心配している暇あったら勉強したら? 過去問、真っ白だったじゃねぇーか」
「それは……」
「人のこと言えねぇけどさ。江本を心配とか言ってスマートフォンを見たり、俺の部屋に来ているなんて、ずいぶん余裕じゃね? あ、あれ? 最悪内部進学できるもんな。江本も助けてくれるしさ。あ、その江本から連絡ないんだっけ?」
言い過ぎ、そんな事はわかっている。けど、止まらなかった。
「ごめん……」そう言うと憲貞は扉を閉めた。走って部屋から離れる音がした。
「泣いていた。俺、最低」
額を思いっきりローテーブルにぶつけた。大きな音がしてジーンという痛みが広がった。
「貴也に御三家焚きつけたのも、のりちゃんを家に招き親父を紹介したのも俺じゃねーか」
何度も何度も机に頭を打ち付けた。そのうち痛みを感じなくなった。その時、部屋の扉が開いて母が入ってきた。
「なにしてんの?」
母の大きな声が聞こえたかと思うと頭が動かなくなった。後ろから押さえつけられたのだ。その手を無理やり外すことができたが「やめて」と言う母の声を聞いたら力抜けた。
「俺……」
「憲貞君に言ったことは全部聞いていたよ。あんな大声で怒鳴るのだもん。佐和子もびっくりしていたわ」
「ごめん」
小さな声で謝った。すると、母に後ろから抱きしめられた。
「和也は頑張っているよ。受験勉強だけでなく友だちのために必死に動いていんだよね。憲貞君の件で土下座されたときは私もお父さんも驚いたよ」
母の温かい心に涙が出た。抱きしめる母の腕をぎゅっとつかんだ。
随分と母に触れていなかった。最初は抱きしめようとする姿もあったが和也が否定するとそれもいつのまにかなくなっていた。
「憲貞君に言ってしまったこと反省しているんだよね。後悔しないように話してきなよ」
「うん……」
「好きなようにしていいよ。また困った時は全力で力になるよ」
母の言葉にうなずいた。憲貞の件はずいぶん悩んだ。父を利用すると言い出したのは母だ。そんな母の言葉だから信じられる。
「ありがとう」素直に礼の言葉が出てきた。自分でも驚いた。母の手を離すと彼女は「信じている」と言って再度ぎゅっと抱きしめると部屋を出て行った。
信じているその言葉がとても嬉しかった。
まとまった講習は最後であるためか、講師の熱を感じた。
行きたい学校が決まると、以前よりもやる気に満ちた。
この日は12月のテストの返却があった。成績は事前に母に教えてもらっていたため、驚きはしなかったが焦りを感じた
志望校には偏差値が足りない。
テストの結果を見て2月1日は確実な学校を受けて、それ以降に本命を受けるという案が出されたが否定した。2月1日がもっとも受かりやすい。その日を逃したくはなかった。だから、千葉で受かりやすい学校を受けて東京に望むこととなかった。
冬季講習では貴也とすれ違うことがあったがほとんど会話がなかった。以前は憲貞を気にして声を掛けられることがあったが今はその余裕もないようだ。
塾から帰宅すると、リュックを置いて、父の仕事部屋に憲貞とともに向かった。
「今日は過去問を行う」
そう言って、算数の過去問を50分でおこなった。時間を気にしながら解いていくとかなりキツイ。計算問題は確実に取らなくてはならないがそこに時間を掛けると以降の問題までに時間切れになってしまう。
「そこまで」
結局、大1の計算問題と大2の図形を少し解いたところで終わってしまった。
チラリと徳貞の机に上にあった答案見た。真っ白であった。
父が憲貞と和也の答案を回収して、じっと見た。
「憲貞君。まぁ、なんつうか厳しいね。65を超える学校は癖があるんだよね。解説するね」そう言いながら和也の方を見ると、プリントを一枚渡した「これやってて」
プリントを見ると、びっしりと書かれた計算問題であった。しかも、分数と少数が混じっていて尚且つ式の途中を解答するものだ。
父はタイマーをスタートさせると憲貞の解説を始めた。
鉛筆を持ち、プリントの問題を解き始めた。えげつないほど、苦手な計算問題ばかりならんでいた。歯を食いしばり手に力を入れたため字が濃くなった。
憲貞の解説が終わり次の指示をすると、父は和也がやっていたプリントを覗き込んだ。
「うん。そうだね。これ、毎朝やって」と丸を付けながら言った。朝の計算は毎にやっているがこのこんなに難しくない。
思わず、顔が引きつると「受かりたいだよね」と笑顔を向けられた。目が笑っていない脅しのような顔でうなずくことしかできなかった。
「じゃ、解説するよ」
父はホワイトボードの前に立つと、過去問の図形問題で間違えた場所の解説を始めた。必死にノートを取り解説を理解しようと頑張った。
父の解説は一方的ではなく、対話を行うのでわからない部分はその都度解決できてやりやすかった。
全てが終わるとシャワーを浴びて自室に戻った。
机に向かうと、塾の宿題と父から出された課題を置いた。
「えげつねぇ量だな」
志望校を伝えてから父からの課題が難しくなった。“希望する学校に行くには実力をつけなければいけない”のはわかっていたが荷が重かった。
「そういや、のりちゃん。過去問真っ白だったな。大丈夫かなぁ。でも、のりちゃんは内部進学で桜華いけんだよね。あそこ上位校じゃねぇか」
自分の妬む気持ち気づくと、ため息をついてローテーブルに頭を付けた。その時、ドアを叩く音が聞こえ返事をすると憲貞が入ってきた。
「なに?」
「うむ。貴也とメールしているのだが、冬季講習が始まってから返事がない。塾で見かけるが話し掛けづらくてな」
「そっか。そんな余裕ないんじゃねぇの?」
「そうなんだろうが……。心配だ」
落ち込む憲貞にため息をつき、自分の頭を乱暴にかきむしった。
「あのさー、余裕ないのはのりちゃんもじゃねぇーの? 心配している暇あったら勉強したら? 過去問、真っ白だったじゃねぇーか」
「それは……」
「人のこと言えねぇけどさ。江本を心配とか言ってスマートフォンを見たり、俺の部屋に来ているなんて、ずいぶん余裕じゃね? あ、あれ? 最悪内部進学できるもんな。江本も助けてくれるしさ。あ、その江本から連絡ないんだっけ?」
言い過ぎ、そんな事はわかっている。けど、止まらなかった。
「ごめん……」そう言うと憲貞は扉を閉めた。走って部屋から離れる音がした。
「泣いていた。俺、最低」
額を思いっきりローテーブルにぶつけた。大きな音がしてジーンという痛みが広がった。
「貴也に御三家焚きつけたのも、のりちゃんを家に招き親父を紹介したのも俺じゃねーか」
何度も何度も机に頭を打ち付けた。そのうち痛みを感じなくなった。その時、部屋の扉が開いて母が入ってきた。
「なにしてんの?」
母の大きな声が聞こえたかと思うと頭が動かなくなった。後ろから押さえつけられたのだ。その手を無理やり外すことができたが「やめて」と言う母の声を聞いたら力抜けた。
「俺……」
「憲貞君に言ったことは全部聞いていたよ。あんな大声で怒鳴るのだもん。佐和子もびっくりしていたわ」
「ごめん」
小さな声で謝った。すると、母に後ろから抱きしめられた。
「和也は頑張っているよ。受験勉強だけでなく友だちのために必死に動いていんだよね。憲貞君の件で土下座されたときは私もお父さんも驚いたよ」
母の温かい心に涙が出た。抱きしめる母の腕をぎゅっとつかんだ。
随分と母に触れていなかった。最初は抱きしめようとする姿もあったが和也が否定するとそれもいつのまにかなくなっていた。
「憲貞君に言ってしまったこと反省しているんだよね。後悔しないように話してきなよ」
「うん……」
「好きなようにしていいよ。また困った時は全力で力になるよ」
母の言葉にうなずいた。憲貞の件はずいぶん悩んだ。父を利用すると言い出したのは母だ。そんな母の言葉だから信じられる。
「ありがとう」素直に礼の言葉が出てきた。自分でも驚いた。母の手を離すと彼女は「信じている」と言って再度ぎゅっと抱きしめると部屋を出て行った。
信じているその言葉がとても嬉しかった。
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