上 下
58 / 73

第57話 寂しいと言ってる暇はない

しおりを挟む
貴也は机ではなく、憲貞が勉強していたローテーブルの前に座っていた。お互い勉強していただけ多く会話をしたわけではないが、いなくなったことで胸に穴が開いたようであった。

この事態をまねいた自分に不甲斐なさを感じていた。

大きく息を吸うと、ローテーブルの上にテキストを出し勉強した。

ふと気づくと23時であった。テキストをまとめるとシャワーを浴び冷蔵庫を開けた。そこには、母が作った料理があった。憲貞がいないため量が少なくなっていた。その横にはゼリータイプの栄養ドリンクがあった。

「新に買ってきてくれたのか」

ゼリータイプの栄養ドリンクに手を伸ばしたが、止めた。憲貞や和也が自分のことを心配し気遣ってくれたことを思い出した。

「俺はいい友人を持った」

そう言って母の作った料理を温めると食べた。食べているうちに視界がぼやけて、箸を持っている手が濡れた。悲しくて悔しくて仕方なかった。
泣くつもりはなかったが涙が止まらなかった。

「その友人に俺ができることは」

腕で顔をふくと皿を空にした。そして、それを流しに入れて自室に戻るとまたローテーブルに向かった。
日付が変わっても勉強を続けた。

窓からの光で目を覚ますと、自分がローテーブルに頭をつけて寝ていたことに気づいた。その時、憲貞が同じ格好で寝ていたのを思い出して笑いがこみあげてきた。

小さく息を吐くとまた、勉強を始めた。

数時間経つと学校へ行く時間になった。行きたくない気持ちが強かったが、和也に憲貞の様子を聞きたかったため重い腰を上げた。
憲貞にメールをしたのだが“大丈夫”としか返ってこないため詳細がよく分からなかった。

学校に着くと、ランドセルを放るように机に置き和也にもとに飛んで行った。

「ねぇ、のりちゃんは? どう?」

挨拶もなしに言いたいことだけを言う貴也に和也は眉をひそめて「おはよう」と言った。すると、貴也はバツの悪そうな顔をして挨拶を返した。

「のりちゃんは大丈夫だ。大丈夫で逆にすげーよ。オヤジの授業って初めて受けたがスパルタすぎる。のりちゃんは平気な顔でついていっているんだよ」和也は大きくため息をついた「朝の計算の授業に参加しなかったら、ベッドの周りにプリントが並べられていて、それをやらないとベッドから降りれねぇんだよ」

和也の文句は更に続いた。

「だいたいさ、やるかやらないかは自分次第みたいなこと言っているくせにさ。結局強制だぜ」
「のりちゃんはやっているんだよね」
「あいつはドMだ」そう言いながら、指を指された「お前もドMだ」

苦痛が嬉しいわけじゃないから“ドM”ではないと思いながらも、憲貞の元気な様子が聞けて安心した。

「自習室にも来なくなったら心配していたんだよ」
「塾の授業以外は、鬼といるよ。勉強は塾講師と鬼の前でしかやってねぇ」
「鬼……。お父さんがそんなに怖いのか?」
「勉強教えている時のオヤジは鬼以外のなんでもねぇ」

和也は顔を青くして身体を震わせていた。

「でも、のりちゃんはメールでいい人だって言っていたよ」
「あ? のりちゃんにはな。鬼の言われたこと全部こなしているからな」
「叶も頑張ればいいじゃん」
「できねぇ」

顔を机につけたため、表情が見えなくなったがいい顔はしていないだろ。

「そうか。がんばれ」としか言えず、貴也は自席に座ると寝た。屋上で寝ていて探された日から授業中に睡眠をとっても誰も何も言わなくなった。担任も嫌な顔をすることがなくなったので安心して眠ることができた。

学校が終わると、すぐに自宅に帰り塾に向かった。
授業が始まる前に、講師を捕まえて分からない問題の解説を聞きたかった。やはり、解説を聞くと理解できるのだがテストになると分からなくなる。

自習室で解説してもらった問題を解き直してから教室にはいった。

先に教室にいた森田日向子と岡田光一に挨拶をしてから自席に座った。すると、すぐに講師がきて授業が始まった。授業が始めると一瞬で教室の空気が張り詰める。いつもふざけた事を言っている光一も一切笑わない。

ピリピリと刺激的なこの空気が好きだ。

授業が終わり教室を出ると、憲貞と和也の姿があった。声を掛けようとしたが、彼らはわき目もふらずにエレベーターの方へ向かったのでやめた。
彼らも頑張っているのだが邪魔してはいけない。

自習室で勉強していると、光一が志望校別の特別講習を受けるのかと聞かれた。
来月から始まる特別講義の受講テストは合格していた。行くつもりである事を伝える光一は素っ気ない返事を返した。

「受けないの?」
「受けないじゃなくて受けられないの」

拗ねたように光一が言ったのでそれ以上は声を掛けなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...