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第52話 足りないモノ

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塾に行く時間になり、憲貞と共に向かった。自宅でぎりぎりまで勉強していたため自習室にはいかずにすぐに各自授業が行われる教室に入った。

教室に入るとすぐに隣の席に座る岡田光一が声を掛けてきた。
面倒くさいと思いつつも、笑顔で返事をした。

「あのさ、今、森田さんと話していたんだけどさ」
「うん」
「桜華なんだけど」

“桜華”と言う言葉に、素早く光一の方を向くと彼は困った顔した。

「いや、そんな期待した顔しないでくれ。この前、聞いた以外に分かったかなって聞こうと思ってさ」

一気に身体から力が抜けるのを感じた「そうなんだ」と言って椅子に座り直した。

「そんなに露骨な態度取らなくてもいいじゃん」
「でも、江本君さ。最近良く表情変わるよね。前はなんていうか、人形みたいだったし」

光一の隣に座る森田日向子がケラケラと笑うと「そうだね」と光一が頷いた。

「あ、でも、森田さんは桜華に知り合いいるんだよね?」
「あー、まぁ」日向子は歯に物が挟まったような言い方をしたので、貴也も光一も不審に思った。

2人の目を見ると日向子は覚悟を決めた顔をした。

「知り合いは嘘。天王寺だから桜華だと思っただけ。桜華を受けようと思ったのは本当よ。だから情報がほしくて」

ごめんねと、日向子は舌出した。その様子に、貴也と光一は顔を見合わせて肩を上げた。

「桜花会の話を聞いたら、ちょっと私には無理だと思ったわ」
「そっか。まぁ、6年通うし楽しい方がいいよね」
「岡田君は行きたいって言っていたよね?」
「うん。俺、桜華なら特待とれるだろうし、江本君と一緒なら楽しそうじゃん」
「そうね。江本君なら戦う組織みたいの作ってやれそうよね。私はごめんだけど」
「組織ねぇ」

光一は引っかかったようだが、日向子は当たり前のように自分が仲間を作ると考えているようだった。そのことに貴也は眉を寄せた。

貴也は桜花会の独裁者である中村幸弘と戦うつもりではあった。しかし、どうせ自分よりもバカだと思い単身で挑む気であった。
誰かと組むつもりなどなかった。

そこで、学校の男子が和也の言う事を聞いていたのを思い出した。最初はサル山の大将だと思っていたが違うようだ。

和也の周りにいる男子は自分を取り囲む女子とは質が違った。

「組織かぁ」
「お、なんだ? 中村幸弘とやらを倒すなら一緒にやるよ」

無意識に言った言葉に光一が素早く反応した。
彼は自分よりは劣るが成績は良い。仲間にするにはいい人材だと思った。

「一人よりはいいか」
「へ? まさか一人で戦う予定だったのか?」

驚く光一に、当たり前だと言わんばかりに頷いた。

「そんなん無理でしょ。相手は中村幸弘一人じゃなくて桜花会でしょ? 更にバックにいい家柄の親もいるんじゃないの?」
「確かに」
「なら、天王寺君の力も借りないとね。それに、江本君自身の親は? 確か医者でしょ?」

使える物をなんでも使おうとする光一の発想に面くらった。

「もしかしてプライドが許さないとか?」

図星だ。
ここのところずっと自分のプライドと戦っている。

「何が大切か考えるべきだよ」とゲラゲラと笑う光一を日向子が「江本君なら大丈夫よ」と言って止めた。それに光一は眉をひそめた。

「あのさ、何を根拠に江本君なら大丈夫って言うのかな?」
「えー、だって。頭いいじゃないの。それにイケメンだし、学校ではクラスのリーダーだよね」

ニコニコする日向子に光一は鼻で笑った。すると、日向子が不満そうに光一を睨みつけたが、彼はヘラヘラを笑い馬鹿にしたように彼女を見た。

もう少し、周囲の状況や他者の気持ちを考えなければならないと貴也は感じたのであった。
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