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第46話 約束してしまった
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いつもよりも塾に早く着いた。
玄関で受付カードをかざすと、間の前にあった前回受けたテストの順位が目に入った。相変わらずトップには江本貴也の名前があった。そのまま視線を下げていくと天王寺憲貞の名前も見つけたがその場所に驚いた。
「のりちゃん、クラスアップしている」
和也は下位クラスのままであったが、真ん中あたりの位置にいた。それを見て自分より勉強してないバカがいると安心した。
自習室で貴也を見たが、切羽詰まったような顔を見ると声を掛けづらかった。隣にいた憲貞と目があったため軽く会釈した。
自習室で勉強して授業時間の少し前にクラスに入ると憲貞が座っていた席には違う子どもが座っていた。それは当たり前な事であるが違和感があった。それだけで、随分とメンバーが変わってしまったように感じた。
一通り授業を受けて帰ろうとすると、クラスの入り口に憲貞がいた。メールを返していない事を思い出して気まずさを感じ避けようとすると憲貞から声を掛けてきた。
「ちょっと」
余裕のない憲貞の顔に思わず「うん」と頷くと少し強引に手を引かれて自動販売機まで連れて行かれた。
その前にある椅子に隣同士で座った。
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、メールしても返事がないし今日は学校を休んだのだろう。それなのに塾は来て勤勉だな」
心配そうな顔をする憲貞に、嬉しく思った。休んだこと純粋に自分の事を気遣ってくれたのは憲貞だけであった。
こんな優しい友人にメールの返事をしなかったことを後悔しながら携帯電話を取り出した。それを見ると、メールの数に戸惑った。
「ちょ……これ」
「すまない。心配でたくさん送ってしまった」
「いや、うん。まぁ」
気にしてくれるのは嬉しいが憲貞の名前でびっしり埋まったが画面を見ると不安になった。
「あのさ、なるべく返すようにするけど俺も毎日携帯電話見てるわけじゃないから1回送ったら数日は待ってくれねぇか?」
「でも、心配だ」
「そんなに心配しなくても大丈夫、別に一人で暮らしてるわけじゃねーし。親もいるから」
「……そうだな」
納得してくれたようで安心した。その時、目の前に不穏な気配を感じて頭を上げると不愉快そうな顔をした貴也がいた。
「江本、顔怖い」
「……そうか」
「マジ、顔色悪いぞ。寝てねぇって話じゃねぇか」
「関係ないだろ」
「関係なくねぇよ。俺の発言がお前を追い詰めてんるじゃねぇのか?」
「ちがっ」貴也が否定しようとすると、それに被せて憲貞が「違くない」ときっぱりと言った。
いつも遠慮がちに話す憲貞の言葉に2人は言葉を失った。
「あ、いや、カズの提案が悪いわけではない。素晴らしい案であるが貴也が無理しているのは事実だ」
「でも、のりちゃん……、これはのりちゃんのためなんだ。そんなに悲しい顔しないでよ」
泣きそうになる憲貞に、貴也が戸惑っているようであった。
「じゃー、のりちゃんも同じ生活をすればいいじゃんねぇ」
「なるほど」
その場の空気を和ませようと思って言った台詞に憲貞が食いついてきて、驚いた。
「なるほどじゃないよ。ちゃんと寝ないと知識は定着しないだよ」と貴也が慌てた。
「それなら貴也も同じではないか」
必死に反論する憲貞の横で「ブーメラン」と馬鹿にしたような口調で和也が言うと貴也は黙りニヤリと笑って頷いた。その笑顔から恐怖を感じで口を閉じた。
「じゃ、俺ら全員で同じ生活をしよう」
「はぁ?」
貴也の言っている意味が全く分からなかった。憲貞も同じようでキョトンとした顔をしている。
「勉強、睡眠時間を同じにしよう。その条件ならのんでもいいよ」
「何、言ってんだ」
抗議したが、貴也に無視された。憲貞は大人しく彼の話を聞いていたが、和也は不満であった。
「朝4時から学校行くまで勉強、学校から帰ったらすぐに塾へ行く。夜は23時まで勉強」
「ふざけんな。そんなに聞けるか」即座に否定すると、貴也は頷いた。
「そう、なら今まで通りでいいね」
貴也のその言葉に、和也はイラついた。こんな無茶苦茶な提案は蹴りたいと思ったが憲貞の青い顔を見たら、“やだ”とは言えなかった。
「カズ」と憲貞の小さな声が聞こえに心が揺れた。
「分かったよ。でも、朝4時はありえねぇ5時30分。夜も22時には寝たい」
やけになって言うと貴也はニヤリと笑って頷いた。
「わかった。毎日勉強の成果を塾で見せてね。それがなければこの話はなかったことになるから」
「うー」
唸り声が上げた時、満面の笑みの憲貞に礼を言われた。その顔を見ると今の話を撤回しづらかった。
「一緒に勉強しような」
「……うん」
塾ビルを出ると見覚えのある車があった。
“バァバァ”と言ってしまい、その後学校を休んだため気まずかったが避ける訳にいかずゆっくりと近づいた。そして助手席に乗り込むと母が笑顔で迎えてくれた。
「おかえり、今日は仕事が早く終わったら迎えに来たよ」
母の言葉に「うん」と頷いた。
「今日は早く塾行ったんだね。えらいね」
褒められたが素直に喜べなかった。母の言葉に答えられずに下を向いていると車が動き始めた。
「あのさ、受験やめる? これからもっと大変になるよ」
やめたくはない。
勉強が嫌いな訳でもない。
ただ、勉強することが出来ない。
何も言えずただ首を振ると、母は前を見たまま言葉を続けた。
「勉強しないと私も怒鳴ってしまうし、和也も言葉が汚くなってしまうよね? 受験やめれば落ち着くじゃないかな?」
「……やめたくない」小さな声でつぶやいた。
暴言については反省している。でもイライラが止められなくて、感情が上手くコントロールできない。
「……ごめんね」
母が小さな声でつぶやいた。更に何か言おうとしたが、考えこんだ。
そして覚悟を決めたような顔がした。それが印象的であった。
母が誤ってくれたなら自分も暴言の謝罪しなくてはならないと思ったが、できずに自宅に着いてしまった。
いつかは謝ろうと先送りしてしまった。
玄関で受付カードをかざすと、間の前にあった前回受けたテストの順位が目に入った。相変わらずトップには江本貴也の名前があった。そのまま視線を下げていくと天王寺憲貞の名前も見つけたがその場所に驚いた。
「のりちゃん、クラスアップしている」
和也は下位クラスのままであったが、真ん中あたりの位置にいた。それを見て自分より勉強してないバカがいると安心した。
自習室で貴也を見たが、切羽詰まったような顔を見ると声を掛けづらかった。隣にいた憲貞と目があったため軽く会釈した。
自習室で勉強して授業時間の少し前にクラスに入ると憲貞が座っていた席には違う子どもが座っていた。それは当たり前な事であるが違和感があった。それだけで、随分とメンバーが変わってしまったように感じた。
一通り授業を受けて帰ろうとすると、クラスの入り口に憲貞がいた。メールを返していない事を思い出して気まずさを感じ避けようとすると憲貞から声を掛けてきた。
「ちょっと」
余裕のない憲貞の顔に思わず「うん」と頷くと少し強引に手を引かれて自動販売機まで連れて行かれた。
その前にある椅子に隣同士で座った。
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、メールしても返事がないし今日は学校を休んだのだろう。それなのに塾は来て勤勉だな」
心配そうな顔をする憲貞に、嬉しく思った。休んだこと純粋に自分の事を気遣ってくれたのは憲貞だけであった。
こんな優しい友人にメールの返事をしなかったことを後悔しながら携帯電話を取り出した。それを見ると、メールの数に戸惑った。
「ちょ……これ」
「すまない。心配でたくさん送ってしまった」
「いや、うん。まぁ」
気にしてくれるのは嬉しいが憲貞の名前でびっしり埋まったが画面を見ると不安になった。
「あのさ、なるべく返すようにするけど俺も毎日携帯電話見てるわけじゃないから1回送ったら数日は待ってくれねぇか?」
「でも、心配だ」
「そんなに心配しなくても大丈夫、別に一人で暮らしてるわけじゃねーし。親もいるから」
「……そうだな」
納得してくれたようで安心した。その時、目の前に不穏な気配を感じて頭を上げると不愉快そうな顔をした貴也がいた。
「江本、顔怖い」
「……そうか」
「マジ、顔色悪いぞ。寝てねぇって話じゃねぇか」
「関係ないだろ」
「関係なくねぇよ。俺の発言がお前を追い詰めてんるじゃねぇのか?」
「ちがっ」貴也が否定しようとすると、それに被せて憲貞が「違くない」ときっぱりと言った。
いつも遠慮がちに話す憲貞の言葉に2人は言葉を失った。
「あ、いや、カズの提案が悪いわけではない。素晴らしい案であるが貴也が無理しているのは事実だ」
「でも、のりちゃん……、これはのりちゃんのためなんだ。そんなに悲しい顔しないでよ」
泣きそうになる憲貞に、貴也が戸惑っているようであった。
「じゃー、のりちゃんも同じ生活をすればいいじゃんねぇ」
「なるほど」
その場の空気を和ませようと思って言った台詞に憲貞が食いついてきて、驚いた。
「なるほどじゃないよ。ちゃんと寝ないと知識は定着しないだよ」と貴也が慌てた。
「それなら貴也も同じではないか」
必死に反論する憲貞の横で「ブーメラン」と馬鹿にしたような口調で和也が言うと貴也は黙りニヤリと笑って頷いた。その笑顔から恐怖を感じで口を閉じた。
「じゃ、俺ら全員で同じ生活をしよう」
「はぁ?」
貴也の言っている意味が全く分からなかった。憲貞も同じようでキョトンとした顔をしている。
「勉強、睡眠時間を同じにしよう。その条件ならのんでもいいよ」
「何、言ってんだ」
抗議したが、貴也に無視された。憲貞は大人しく彼の話を聞いていたが、和也は不満であった。
「朝4時から学校行くまで勉強、学校から帰ったらすぐに塾へ行く。夜は23時まで勉強」
「ふざけんな。そんなに聞けるか」即座に否定すると、貴也は頷いた。
「そう、なら今まで通りでいいね」
貴也のその言葉に、和也はイラついた。こんな無茶苦茶な提案は蹴りたいと思ったが憲貞の青い顔を見たら、“やだ”とは言えなかった。
「カズ」と憲貞の小さな声が聞こえに心が揺れた。
「分かったよ。でも、朝4時はありえねぇ5時30分。夜も22時には寝たい」
やけになって言うと貴也はニヤリと笑って頷いた。
「わかった。毎日勉強の成果を塾で見せてね。それがなければこの話はなかったことになるから」
「うー」
唸り声が上げた時、満面の笑みの憲貞に礼を言われた。その顔を見ると今の話を撤回しづらかった。
「一緒に勉強しような」
「……うん」
塾ビルを出ると見覚えのある車があった。
“バァバァ”と言ってしまい、その後学校を休んだため気まずかったが避ける訳にいかずゆっくりと近づいた。そして助手席に乗り込むと母が笑顔で迎えてくれた。
「おかえり、今日は仕事が早く終わったら迎えに来たよ」
母の言葉に「うん」と頷いた。
「今日は早く塾行ったんだね。えらいね」
褒められたが素直に喜べなかった。母の言葉に答えられずに下を向いていると車が動き始めた。
「あのさ、受験やめる? これからもっと大変になるよ」
やめたくはない。
勉強が嫌いな訳でもない。
ただ、勉強することが出来ない。
何も言えずただ首を振ると、母は前を見たまま言葉を続けた。
「勉強しないと私も怒鳴ってしまうし、和也も言葉が汚くなってしまうよね? 受験やめれば落ち着くじゃないかな?」
「……やめたくない」小さな声でつぶやいた。
暴言については反省している。でもイライラが止められなくて、感情が上手くコントロールできない。
「……ごめんね」
母が小さな声でつぶやいた。更に何か言おうとしたが、考えこんだ。
そして覚悟を決めたような顔がした。それが印象的であった。
母が誤ってくれたなら自分も暴言の謝罪しなくてはならないと思ったが、できずに自宅に着いてしまった。
いつかは謝ろうと先送りしてしまった。
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