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第39話 中村幸弘について
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香織はため息をついて覚悟を決めたような顔で憲貞を見た。その真剣な表情に気持ちが引き締まり喉を鳴らした。
「中等部の桜花会は初等部とは全く違うことは知っている?」
「聞いてはいる。参加義務はなくたまに教師の雑用をしてるような初等部と違い中等部は高等部と協力して行事の企画を行うのだろう」
前桜花会会長から聞いた事と資料に載っていた事を思い出しながら言葉にすると、香織は「そう、行事の全てを決めらえる」と言った。ゆっくりとした言い方をする彼女の言葉が意味深に聞こえた。
「更に、初等部と違い桜花会だけ白い制服になるよね」
「あぁ、他の生徒は初等部と同じように黒い制服なんだったな」
それがどうした と言うようような顔をすると香織にため息をつかれた。
「見た目で桜花会であると言うのが分かるというには周囲の影響が今と全然違うよ」
香織は一呼吸おいてから口を開いた。
「私も実際に見たわけではなく聞いただけなんだけど、あの方は自分の“思い通りになる人間”には優しい。面倒みが良いんだ。家の権力はそこまで強いわけではないが根回しが上手な家だ」
「うむ」
「そして、中村幸弘はあの大道寺家の長女と婚約している」
それには言葉を失った。大道寺と言えば、父の口から何度も聞いた名前である。父曰く“絶対に敵にはしたくない”相手だそうだ。
「長女は今年桜華に入学したな。長男は今年から桜花会に入ったな」
「あぁ、しかし名前だけだ。彼は、学業と妹に構うのに忙しいらしく一度挨拶しに来たがそれ以降顔を出していない」
「確かにね。強制参加のモノではないが皆一日一回は顔出すよな」
「大道寺だからね。他の桜花会メンバーも問題視していないようだし、会長の憲貞も注意しないじゃないか」
「私は誰も注意はしない」
きっぱりと言うと、香織は両手を叩きわざとらしく驚きながら「そうだった」と言った。
「大体わかった」大げさなリアクションをとる香織に頷いた「要は権力を振りかざしやりたい放題なのだな。桜花会は首にはできないしな」
「そう、で、彼は来年会長らしいよ」
なんの努力もなく強い権力を持ち、我儘を言っている人間は過去にも桜花会にいた。それは全て香織がなんとかしてくれた。しかし、それは全て下級生だったからの話だ。
会長となると厄介だ。
「ありがとう」と憲貞は中村幸弘の対策を考えながら香織に礼を言った。
「いえいえ、多分、亜理紗(ありさ)より手強いと思うよ」
それを聞いて、ため息しか出てこなかった。4年にいる豊川(とよかわ)亜理紗は漫画のような我儘お嬢様であった。自分が全て正しいと思い下級生を奴隷のように扱っていた。それを止めたのは香織と5年の平岡圭吾(ひらおかけいご)だ。
「肝に免じておく」
そう言って部屋から出ると聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。後から部屋を出てきた香織は「噂をすれば だね」と眉をひそめた。
「圭吾様。今日もとても素敵ですわ」
亜理紗が甘えた声を出して、圭吾に話しかけていた。彼はいつも通り「ありがとう」と笑顔を見せて亜理紗と上手に関わっていた。
彼のそう言った能力にはいつも感心している。
部屋にいたメンバーに挨拶をすると、憲貞は桜花室を後にした。
学校を出ると向かえの車に乗り、貴也の家へと向かった。
玄関を開けると、丁度貴也がいた。玄関で会うことは初めてであったが彼は特に驚く様子もなく「おかえり」と笑顔を向けた。憲貞も挨拶を返してから「すぐに塾にいくのか? 中村幸弘の話を聞いてきたのだが」と言うと
「聞く」と貴也は即答した。
塾の鞄を持とうとしていた貴也はそれを置くと、靴を脱いだ。憲貞も靴にを脱ぎ部屋に上がった。
「わかった。着替えながらでいいか」
「構わないよ」
一緒に貴也の部屋に入ると、憲貞は着替えながら香織から聞いた中村幸弘の事を話した。すると、「ふーん」と言いながら目を光らせていた。
「中等部の桜花会は初等部とは全く違うことは知っている?」
「聞いてはいる。参加義務はなくたまに教師の雑用をしてるような初等部と違い中等部は高等部と協力して行事の企画を行うのだろう」
前桜花会会長から聞いた事と資料に載っていた事を思い出しながら言葉にすると、香織は「そう、行事の全てを決めらえる」と言った。ゆっくりとした言い方をする彼女の言葉が意味深に聞こえた。
「更に、初等部と違い桜花会だけ白い制服になるよね」
「あぁ、他の生徒は初等部と同じように黒い制服なんだったな」
それがどうした と言うようような顔をすると香織にため息をつかれた。
「見た目で桜花会であると言うのが分かるというには周囲の影響が今と全然違うよ」
香織は一呼吸おいてから口を開いた。
「私も実際に見たわけではなく聞いただけなんだけど、あの方は自分の“思い通りになる人間”には優しい。面倒みが良いんだ。家の権力はそこまで強いわけではないが根回しが上手な家だ」
「うむ」
「そして、中村幸弘はあの大道寺家の長女と婚約している」
それには言葉を失った。大道寺と言えば、父の口から何度も聞いた名前である。父曰く“絶対に敵にはしたくない”相手だそうだ。
「長女は今年桜華に入学したな。長男は今年から桜花会に入ったな」
「あぁ、しかし名前だけだ。彼は、学業と妹に構うのに忙しいらしく一度挨拶しに来たがそれ以降顔を出していない」
「確かにね。強制参加のモノではないが皆一日一回は顔出すよな」
「大道寺だからね。他の桜花会メンバーも問題視していないようだし、会長の憲貞も注意しないじゃないか」
「私は誰も注意はしない」
きっぱりと言うと、香織は両手を叩きわざとらしく驚きながら「そうだった」と言った。
「大体わかった」大げさなリアクションをとる香織に頷いた「要は権力を振りかざしやりたい放題なのだな。桜花会は首にはできないしな」
「そう、で、彼は来年会長らしいよ」
なんの努力もなく強い権力を持ち、我儘を言っている人間は過去にも桜花会にいた。それは全て香織がなんとかしてくれた。しかし、それは全て下級生だったからの話だ。
会長となると厄介だ。
「ありがとう」と憲貞は中村幸弘の対策を考えながら香織に礼を言った。
「いえいえ、多分、亜理紗(ありさ)より手強いと思うよ」
それを聞いて、ため息しか出てこなかった。4年にいる豊川(とよかわ)亜理紗は漫画のような我儘お嬢様であった。自分が全て正しいと思い下級生を奴隷のように扱っていた。それを止めたのは香織と5年の平岡圭吾(ひらおかけいご)だ。
「肝に免じておく」
そう言って部屋から出ると聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。後から部屋を出てきた香織は「噂をすれば だね」と眉をひそめた。
「圭吾様。今日もとても素敵ですわ」
亜理紗が甘えた声を出して、圭吾に話しかけていた。彼はいつも通り「ありがとう」と笑顔を見せて亜理紗と上手に関わっていた。
彼のそう言った能力にはいつも感心している。
部屋にいたメンバーに挨拶をすると、憲貞は桜花室を後にした。
学校を出ると向かえの車に乗り、貴也の家へと向かった。
玄関を開けると、丁度貴也がいた。玄関で会うことは初めてであったが彼は特に驚く様子もなく「おかえり」と笑顔を向けた。憲貞も挨拶を返してから「すぐに塾にいくのか? 中村幸弘の話を聞いてきたのだが」と言うと
「聞く」と貴也は即答した。
塾の鞄を持とうとしていた貴也はそれを置くと、靴を脱いだ。憲貞も靴にを脱ぎ部屋に上がった。
「わかった。着替えながらでいいか」
「構わないよ」
一緒に貴也の部屋に入ると、憲貞は着替えながら香織から聞いた中村幸弘の事を話した。すると、「ふーん」と言いながら目を光らせていた。
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