ツギハギだらけの翼~中学受験という名の戦いに自分の全てか掛けている。ふざけていない、常に本気だ~

黒夜須(くろやす)

文字の大きさ
上 下
41 / 73

第39話 中村幸弘について

しおりを挟む
香織はため息をついて覚悟を決めたような顔で憲貞を見た。その真剣な表情に気持ちが引き締まり喉を鳴らした。

「中等部の桜花会は初等部とは全く違うことは知っている?」
「聞いてはいる。参加義務はなくたまに教師の雑用をしてるような初等部と違い中等部は高等部と協力して行事の企画を行うのだろう」

前桜花会会長から聞いた事と資料に載っていた事を思い出しながら言葉にすると、香織は「そう、行事の全てを決めらえる」と言った。ゆっくりとした言い方をする彼女の言葉が意味深に聞こえた。

「更に、初等部と違い桜花会だけ白い制服になるよね」
「あぁ、他の生徒は初等部と同じように黒い制服なんだったな」

それがどうした と言うようような顔をすると香織にため息をつかれた。

「見た目で桜花会であると言うのが分かるというには周囲の影響が今と全然違うよ」

香織は一呼吸おいてから口を開いた。

「私も実際に見たわけではなく聞いただけなんだけど、あの方は自分の“思い通りになる人間”には優しい。面倒みが良いんだ。家の権力はそこまで強いわけではないが根回しが上手な家だ」
「うむ」
「そして、中村幸弘はあの大道寺家の長女と婚約している」

それには言葉を失った。大道寺と言えば、父の口から何度も聞いた名前である。父曰く“絶対に敵にはしたくない”相手だそうだ。

「長女は今年桜華に入学したな。長男は今年から桜花会に入ったな」
「あぁ、しかし名前だけだ。彼は、学業と妹に構うのに忙しいらしく一度挨拶しに来たがそれ以降顔を出していない」
「確かにね。強制参加のモノではないが皆一日一回は顔出すよな」
「大道寺だからね。他の桜花会メンバーも問題視していないようだし、会長の憲貞も注意しないじゃないか」
「私は誰も注意はしない」

きっぱりと言うと、香織は両手を叩きわざとらしく驚きながら「そうだった」と言った。

「大体わかった」大げさなリアクションをとる香織に頷いた「要は権力を振りかざしやりたい放題なのだな。桜花会は首にはできないしな」
「そう、で、彼は来年会長らしいよ」

なんの努力もなく強い権力を持ち、我儘を言っている人間は過去にも桜花会にいた。それは全て香織がなんとかしてくれた。しかし、それは全て下級生だったからの話だ。

会長となると厄介だ。

「ありがとう」と憲貞は中村幸弘の対策を考えながら香織に礼を言った。
「いえいえ、多分、亜理紗(ありさ)より手強いと思うよ」

それを聞いて、ため息しか出てこなかった。4年にいる豊川(とよかわ)亜理紗は漫画のような我儘お嬢様であった。自分が全て正しいと思い下級生を奴隷のように扱っていた。それを止めたのは香織と5年の平岡圭吾(ひらおかけいご)だ。

「肝に免じておく」

そう言って部屋から出ると聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。後から部屋を出てきた香織は「噂をすれば だね」と眉をひそめた。

「圭吾様。今日もとても素敵ですわ」

亜理紗が甘えた声を出して、圭吾に話しかけていた。彼はいつも通り「ありがとう」と笑顔を見せて亜理紗と上手に関わっていた。
彼のそう言った能力にはいつも感心している。

部屋にいたメンバーに挨拶をすると、憲貞は桜花室を後にした。
学校を出ると向かえの車に乗り、貴也の家へと向かった。

玄関を開けると、丁度貴也がいた。玄関で会うことは初めてであったが彼は特に驚く様子もなく「おかえり」と笑顔を向けた。憲貞も挨拶を返してから「すぐに塾にいくのか? 中村幸弘の話を聞いてきたのだが」と言うと
「聞く」と貴也は即答した。

塾の鞄を持とうとしていた貴也はそれを置くと、靴を脱いだ。憲貞も靴にを脱ぎ部屋に上がった。

「わかった。着替えながらでいいか」
「構わないよ」

一緒に貴也の部屋に入ると、憲貞は着替えながら香織から聞いた中村幸弘の事を話した。すると、「ふーん」と言いながら目を光らせていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

モンキー書房
ファンタジー
 小学六年生の五瀬稲穂《いつせいなほ》は運動会の日、不審者がグラウンドへ侵入したことをきっかけに、自分に秘められた力を覚醒してしまった。そして、自分が天照大神《あまてらすおおみかみ》の子孫であることを宣告される。  保食神《うけもちのかみ》の化身(?)である、親友の受持彩《うけもちあや》や、素戔嗚尊《すさのおのみこと》の子孫(?)である御饌津神龍《みけつかみりゅう》とともに、妖怪・怪物たちが巻き起こす事件に関わっていく。  修学旅行当日、突如として現れる座敷童子たちに神隠しされ、宮城県ではとんでもない事件に巻き込まれる……  今後、全国各地を巡っていく予定です。  ☆感想、指摘、批評、批判、大歓迎です。(※誹謗、中傷の類いはご勘弁ください)。  ☆作中に登場した文章は、間違っていることも多々あるかと思います。古文に限らず現代文も。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

処理中です...