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第38話 桜華初等部

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貴也が冷たくなったという話ではない。
話しかければ、優しく返してくれるし笑顔もみせてくれる。しかし、余裕がないのは明らかであった。
自分のために勉強してくれている以上、やめろとは言えない。

もどかしい思いを持ちながら、制服に着替えて車に乗った。貴也の家に住んでいるが、学校への送迎は以前と同じように車を手配されていた。運転も変わらない。彼も不信に思っただろうが何かを聞いてくることはなかった。出会った時から運転人形であったから気を遣ってくれているわけではない。

関わりたくないのだろう。

小さなため息をつきながら、運転手が扉を支えてくれている間に車を降りると学校へ向かった。

勉強しなくてはならないのに、貴也の様子が気になり全く頭に入らなかった。
あっという間に全ての授業が終わり、桜花会室に来た。
「失礼」と言っていつものソファに座ると、先に座っていた桜花会副会長の北大路香織(きたおうじかおり)が「だるそうだね。会長」と声を掛けてきた。

「そうみるかい」

ため息をつきながら、否定しなかった。

「クマが出来きているし、顔色良くないよ。まぁ外部受験するから大変なのは分かるけどさ」
「そういう、君は受験しないのかい? 優秀じゃないか」
「受験?」香織はハエでも追い払うように手を振って否定した「ないない、受験するなら大学だよ。私は、桜花会の待遇を受けたいからね」

桜花会というだけで、一般生徒から神のように崇められる。何か特殊な能力が桜花会メンバーにあるわけではなく、入学すると一般生徒の方が教育されるのだ。
いつも宗教みたいだと思っていた。

「そうか。そうだ、中村幸弘のことを何か知っているかい?」

そう言った習慣、香織は鬼のような顔してので一瞬ひるんだ。

「あの方の事知りたいの? なんで?」
「……いや」香織に睨み付けられて次の言葉がでなかった。

「会長はなんで、知りたいんだ? 外部受験するなら桜華中等部も人間なんて関係ないでしょ?」
「いや、その……、桜華に進学する可能性があるし知っておきたかったんだ」

取り繕うように話すと、香織に細い目で見られた。その目は自分を見透かすようで心臓の動きが早くなった。

「まぁ、いい。ちょっときて」そう言って、香織は立ち上がると憲貞を見ることなく足を進めた。

香織の後を追い、入ったのは桜花会室の奥にある部屋だ。
3年から桜花会にいるがこの部屋を使用するのは初めてだった。会長になった時に、前会長から“防音対策をした部屋であるから必要な時に使用するように”と鍵を貰った。副会長である香織も鍵を持っている。

部屋には会議で使われる長机が中央に置かれ、奥には一人用の机があった。清潔感がありキレイな部屋であるが、よく刑事ドラマでみる尋問部屋と似た雰囲気があった。

長机に向かわせに、座ると香織は思いつめた顔をした。

「はぁ、憲貞が進学するつもりがないなら話す予定はなかったんだよ。本当に進学する可能があるの?」
「8割方進学予定だ」
「……そうか」

香織は唇を噛み、考え込んだ。
しばらく、沈黙が続いた。それは居心地によいものではなかったが、彼女を焦らせてもしかないと思い黙って待っていた。
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