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第32話 家庭

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朝食は栄養バランスを考えれているよう種類も多く豪華であったが、和也が何も言わない所をみるとこれが普通なのだと思った。

「にぃたん、やくそく」

佐和子に言われて和也は野菜を引きつった笑顔で食べていた。それをやっぱり微笑ましく見ている憲貞が気になった。

「江本くんは、お茶でいいかしら?」
「はい。ありがとうございます」

叶の母は、甲斐甲斐しく動き回っていた。過保護な印象があった叶の母だが落ち着いて話すと悪い人ではなかった。
母が料理を作りそれをテーブルまで運んでくれる。自分の家と比較して、和也の家が羨ましく感じた。

「カズ、野菜食べて偉いわね」
「うるせー」

褒めた母に対して嫌そうな顔を浮かべる和也に貴也は驚いた。

「え? 子どもであること利用するんじゃないの? めちゃくちゃ反抗してるじゃないの?」
「利用している。自分の思いをストレートに出して甘えてるんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。どんな俺でも好きでいてくれるからな」

その自信に目をパチクリさせた。貴也も自分の母に嫌われているとは思っていない。しかし、ここまでの自信はなかった。

「全部の親が“そー”とは言わねぇよ? 俺んちが“そう”だって話。ただ、私立の中学に行っていいと言ったり塾に通わせて貰ってる時点で形はどーあれ、“愛”はあるだろ」

その言葉に「そうだろうか」と不安そうな顔をしたのは憲貞だ。

「“愛”はあるんじゃねぇ。ゼロなら顔も見ないだろ。ただ、プライドとか世間の目とか気にしたらなぁ。大人って大変だな」

和也の言葉に意外性を感じた。

「あんだよ? あー、意外そうな顔して」
「別に……」

学校での和也はもっとも“バカ”で他の小学生と同じようであったが目の前にいる彼は随分と大人びた考え方をしていた。

「あぁ? 別に計算とかしてねぇよ。全部、俺の素だ」
「……」

相手の心を読むような発言も気になった。彼は“バカ”ではなく“バカ”なフリをしているわけでもなく……。

「俺は俺だぜ? 変な顔すんなよ」

ニヤニヤする和也の顔を見たら、真剣に考えるのが馬鹿らしくなった。
時間の無駄に感じた。

食事が終わると、憲貞と共に和也の家を出た。憲貞が名残惜しそうな顔で佐和子を見ている事が気になって仕方なかった。
その感情を言葉に出来なかったが楽しいモノではない。

自宅に着くと母の靴があった。
貴也は覚悟を決め、憲貞に自室で勉強するように伝えると、母の部屋と向かった。
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