ツギハギだらけの翼～中学受験という名の戦いに自分の全てか掛けている。ふざけていない、常に本気だ～

第31話 妹の言いなり

「えー、にぃたん、はっぱイヤするから」

佐和子にジトという見られては冷や汗がでた。そして。毎日、佐和子に野菜を進められているのを思い出した。

「た、食べるように、努力する」

引きつった笑顔で伝えると、愛する妹はご立腹のようであった。彼女の機嫌をとるような言葉を必死で探した。

「どりょくうって？」
「頑張ります」
「がんばるうって？」
「食べます」
「いいこ」

ずっと眉を寄せていた佐和子が「食べる」の一言でにっこりと笑い声、頭をなぜられた。

「佐和子」

名前を叫びながら、最愛の妹を抱きしめると「苦しく」と言われた。それでも和也はその手を緩めなかった。

何も見せられているのかと貴也はため息をついたが、穏やかな顔の憲貞を見ると自分がおかしくのかと頭を捻った。

妹がいない貴也にとってそれが存在する者の気持ちはわからないがこれが普通でない事くらいは理解していた。

「ねぇ、のりちゃんは兄弟いるの？」
「うん？」

優しげな目を和也と佐和子を見ていたその顔のまま、憲貞は貴也の方を向いた。
それに、ドキリとした。

「うぬ。兄がおる」すぐにいつもの顔に戻ると答えた「だが、随分年が離れていて留学している」
「へ～」
「私と違い、優秀の兄だ」

そう言う、憲貞は少し寂しそうな顔した。同じように優秀な兄のいる貴也にはその気持ちがいたい程わかった。
幸い、貴也は兄と比べられる事は少なかったが憲貞の家を考えるとゾッとした。

「俺も同じ、優秀な兄がいるよ」

共感できると言う意味で言ったが憲貞は困った顔して「そうか」と言った。それになんて返事をするのが正解か悩んだ。

「ゆーしゅな、あに？」

佐和子がトテトテ、興味深そうに貴也と憲貞の方に歩いてきた。佐和子に嫌がられたようで、和也は悲しそうな顔でそれを見ていた。

「凄い、色々できるお兄ちゃんだ」

憲貞が優しく答えんと佐和子は「にぃたんとちがうねぇ」とキッパリと言ったので後ろにいる和也は分かりやすく落ち込んでいた。

「佐和子ちゃんはお兄ちゃん好き？」
「ちょっとねぇ」

口元に手をやり、考えながら言う佐和子の言葉に和也は耳をピクピクと動かしていた。

「そーだ、さわちゃんごはんなのよ。えっと……」

佐和子がじっと考えて貴也と憲貞を見て、困ったような顔した。すると、憲貞が優しく微笑み「のりちゃんとたかちゃん」と言った。

すると佐和子の顔はぱぁっと明るくなり、「そーのりちゃんとたかちゃんもごはん」と嬉しそうに言った。

「ありがとう、わかった。佐和子ちゃんお腹すいた？　先どうぞ」

優しく微笑みながら、憲貞は立ち上がると扉を開けた。すると、佐和子は「バイバイ」と出ていた。

「子ども好きなの？」

やけに対応に慣れているので、聞くと「可愛いとは思う」と言う答えが返ってきた。
それが、貴也の胸に突き刺さった。問題ある言葉ではないはずなのに胸がズキリと痛んだ。