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第30話 シスコン

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貴也は気合を入れていると扉の外の遠くの方で“とっと”という足跡が聞こえた。

その音が次第に大きくなり扉の前で止まるとドンと今度は大きな音がして扉が振動した。



「大丈夫か?」



扉の向こうで心配そうな和也の声が聞こえると幼い子ども泣き声がした。それを優しくなめる和也の声はいつも聞いてるよりもオクターブ以上高かった。



しばらくして泣き声がやむと、扉が開いた。そこには幼子を抱く和也がおり、その顔はしまりがなかった。



「にぃたん?」

「ん? あぁ、これ江本貴也でこっちが天王寺憲貞だ」

「えーも? てんおー?」



和也が指を刺した方を幼子はコテンと首を傾げて見た。



「別に、覚える必要はねぇよ」

「にぃたん。おりゆ」



ジタバタと手を動かすと「え、おりなくていいのに……」と不満そうにしながら抱っこしていた幼子をそっと床に下ろした。

幼子はゆっくりと貴也と憲貞に近づいた。



「さわちゃんは佐和子なのよ」

「こんにちは。私は天王寺憲貞っていう名だ。お兄ちゃんには“のりちゃん”って呼ばれている」



憲貞が優しく微笑むと佐和子は嬉しそうに「のりちゃん」と呼んだ。ニコニコと笑う佐和子は勿論可愛かったが彼女に微笑む憲貞も劣らず愛らしかった。



だが、「天使だ」とニヤニヤしながら笑う和也は気持ち悪かった。兄だと知らなかったら不審者として通報していた。



「えー? あれ? もー?」



佐和子は貴也の顔を見て首を傾げていると、憲貞が「江本貴也だよ。私は貴也と呼んでる」と説明した。



「たぁか……?」佐和子は少し考えてから「あ、たかちゃん」と目を輝かせて頷いた。



「たかちゃん?」

「いや?」



“ちゃん”と言う敬称をつけられくすぐったく感じて眉を寄せると、佐和子は泣きそうな顔したので許可した。

遠目で見ている子どもはいいが、近くで泣かれるとどうしていいかわからない。



可愛いとは思うが、自分の想定外の言動をする生き物が貴也は得意ではなかった。だから、余計に上手に話をしている憲貞がすごいと思った。



「たかちゃん」



ニコニコと近づいてくる佐和子にどうしていいか分からず、身体をひきながら笑顔を作ったが引きつってしまった。



「さわちゃん可愛い」とテーブルを挟んで向かいにいる憲貞は楽しそうであった。



「さわちゃん、かわぁいい? かぁいい?」



憲貞に褒められては佐和子は嬉しそうな顔をした。そして、「たかちゃんは、さわちゃんかわぁいい?」と迫ってきた。



「え……? あ、か、可愛い」



オウム返しのような返事だったが彼女は凄く喜んだ。それで離れてくれると思ったが一向に動かないので不安になった。

困惑すればするほど、扉の前に立つ和也がニヤニヤと意地悪な顔をしていた。

その顔に腹が立った。



小さな子どもだから、頭なぜればいいと思い手を伸ばした瞬間、手に衝撃がはしった。手がじんじんとして赤くなった。



「触んな」



気づけば佐和子を抱き上げてた和也に睨みつけられた。



「へ?」



意味が分からず、貴也は赤くなった自分の手をじっと見た。憲貞も驚いたようで和也を見ていた。



「にぃたん?」

「佐和子、兄さん以外の男に触れちゃいけない。佐和子には兄さんだけ」



涙を流す和也に引いた。本気で気持ち悪いと思った。

佐和子は「えっ」と目を大きくした。



「さわちゃん。ほーくえんで、おとこのこ と あそぶのよ? 手もつなぐのよ?」

「なんだって? 俺の佐和子が汚れる」



キョトンとする佐和子を和也はギュッと抱きしめた。それを貴也は引きつった顔で見ていたが、憲貞は「カズは佐和子ちゃんが大好きなんだな」と微笑ましく見ていたのでそれにも眉間に皺をよせた。



「束縛しすぎじゃないの? 佐和子ちゃん、まだ幼いでしょ。そもそも、その子妹じゃないの?」と言うと、涙目の和也にキッと睨まれた。

「血の繋がりはあるけど、そんなのかんけーねぇ。佐和子は兄ちゃんと永遠に一緒だ」



そう言って、和也は佐和子の頬に口づけをした。そんな兄を佐和子はじっと見た。



「えいえん?」

「うん、ずっと一緒」



ニヤニヤする和也が本気で気持ち悪かった。
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