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第28話 朝の計算

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翌日。

スタンドの光で目を覚ました。
まだ、外は暗い。

眠い目をこすりながら、スタンドの方を見ると貴也と憲貞が勉強をしていた。2人の勤勉さにただすごいと思いながらゆっくり起きあがると、電気をつけた。

「電気つけて構わぇーよ」
「カズおはよう。電気すまない」

憲貞が丁寧に挨拶をしたが、貴也は短く「おはよう」と顔も見ずに言った。

ここ数日で江本貴也と言う人間がよく分かった。彼は性格が良くない。憲貞の事は気に入ってるらしく優しさが和也の扱いは、雑だ。

「あのさ。前から思ってだんだけど、のりちゃんはなんでそんな話し方なんだ?」

背中を向け着替えながら、聞いた。するとしばし沈黙があり悩んでいるようで唸り声が聞こえた。

「……へんか?」
「変つうか、偉そうって感じ?」

着替えが終わると、憲貞の横に座った。彼は勉強の手を止めて悩んでいる。そんなことを気にしないのが貴也だ。ひたすら計算問題を解いているようであったがその速さに舌を巻いた。

「うむ。話し方は父だな」
「へ~」憲貞の父の職業を考えると納得できるような気がした「上からだな」

「のりちゃん。いつまで話してるの?」

貴也が計算する手を止めずに言った。すると、憲貞は「すまない」と言って慌てて手を動かし始めた。

「なんなん?」
「うむ。貴也と計算競争してる」今度もは手を止めずに答えた。

良くやるなと思いながら、その場を離れようとすると「まて」と突然、裾を掴まれ「カズもやる」と憲貞に言われた。
嫌だったが珍しく貴也も誘いの言葉が出たから仕方なく座ってみた。

「あんだよー。2人で仲良くやってたんじゃねぇの?」
「そうだね。俺、叶には感謝しているんだ」
「はぁ?」

学校で見る愛想笑いではなく、心の底から嬉しそうに笑う貴也に何かを企んでいそうで恐怖を感じた。

「だから、叶の勉強も見てあげるよ」
「いや、ちょっと待て。なんの話だ?」

にこにこと話しながらも計算の手の止めない貴也に異常を感じ、和也の裾から手を離し必死に計算する憲貞に親近感を覚えた。

「のりちゃんが、俺と“生涯”一緒に住むって言ってくれたんだよね」

その瞬間、憲貞の止まったが彼は何も言わずにまた手を動かし始めた。

「なんだそれ?」
「のりちゃんの家さ、色々あるじゃん。春休みがだけ俺の家に避難しているだけど、戻ったらまた同じ目にあうかもしれないよね」
「まぁーな」

痛々しい憲貞の傷を見ると心が痛んだ。もう彼が傷付かずにすむなら願ってもいないことであった。

「だから、俺の家にずっといられればいいと思ったんだよね」
「そうだな」

貴也の言いたいことがよく分かった。確かに、彼の家にいる方が憲貞は安全に生活することができるが、問題点がいくつか浮かんだ。

「俺らは子どもじゃん?」
「そうなんだよね」

貴也は鉛筆を置くと横にあったスマートフォンを触り始めた。さっきまでやっていた計算は終わったようで全部埋まっていた。憲貞の方を見るとまだ半分もいっていなかったのを見て、自分がやったら憲貞より時間が掛かる気がした。

「これ、見てよ」

画面を突きつけられて、首を傾げなら見た。

「桜華の特待制度? あ、なんだこの金額、やべーな……ってこれってSNSじゃねぇか。信じられんのか?」
「それはのりちゃんから聞いたら大丈夫」
「そーか。でも、金だけで解決しねぇだろ」
「そうなんだよね。のりちゃんの家の人は御三家に行って欲しいみたいなんだよね」
「はぁ? 内部進学すんじゃねぇーのかよ。あ、でも……、そうか。なるほど、だから塾に行くのか。内部進学のやつが塾なんておかしいと思ったんだよなって。あ? じゃななんで私立小? うん? もしかして桜華の小学校はそういう学校なのか? でも、中学も上位だよな」

ぶつぶつとつぶやいた。その間に、憲貞は計算を終わらせた。

「なに、一人で話してるの?」

貴也が眉を寄せたが、それに気付かずにつぶやき続け「あっ」という声をあげた。

「江本、お前さ。御三家つうか快晴中に合格しろよ」
「え? 話し聞いてなかったの? 俺が行くは……」
「行くんじゃねぇーよ。必要なのは合格」
「合格……?」
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