ツギハギだらけの翼~中学受験という名の戦いに自分の全てか掛けている。ふざけていない、常に本気だ~

黒夜須(くろやす)

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第27話 夢物語

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憲貞が部屋に入ると、そこには真っ赤な顔をして怒鳴り合っている貴也と和也がいた。

「え、声が家中に響いているぞ」

慌てて声を掛けたが、全く聞こえないようで貴也と和也は睨み合っていた。

「他人とか言うなよ。そりゃ、俺、散々学校で絡んだけど……。今はそんなつもりねぇし。友だちだと思ってる」

悲しげな声上げた和也は下を向いていたために表情が分からなかった。ただ、頬に光るものが見えたため「泣いてるの?」と聞いた。

「泣いてねぇ。雨だ」とどこかで聞いたようなセリフが返ってきた。

「カズは優しいな。貴也が心配なんだよな」なるべく優しい言葉を探して声をかけた「でも、君は口が悪すぎるよ」

和也は目から出た“雨”を袖でぬぐって、顔を上げた。憲貞は罰の悪そうな顔をしている貴也を見た。

「貴也、親からのプレッシャーは辛いよな」一呼吸おいてから「御三家に行きたいのか?」と聞いたが貴也から答えは返って来なかった。

「私の母は私がそこへ進学することを希望しているが、私は行きたいわけでないが行きたくないわけでもない。その中学の何がいいのかわからない。設備とか教育内容とか優れた部分があるのだろうが私にとって良い所なのかわからない」

小さく息を吐くと、すぐに「分かるわー」っと和也が同意してきた。さっきまで落ち込んでいたが今はその影もなかった。

「俺は中学受験する意味もわかんねぇーけど。親が私立のがいいつうから良いだろうって感じ。親父は受験辞めてもいい的なこと言ってた。けどな、辞めるのはなんとなく気が引ける。けど、勉強したくねぇだよな」

彼の気持ちは理解できた。中学受験の意味なんて分からないし、自分が中学受験するっていうは塾に入ってから気づいた。もっというなら小学校受験なんか受験会場で気づいた。今思えなば習い事と称して行っていた場所が受験のための場所だったのだろう。

22時になると、和也は「しょーとー」と言って電気を消した。すると、勉強ができないと貴也が文句を言ったが、和也は聞く耳がなかった。

しばらくすると寝息が聞こえ始めた。

ベットでは和也が寝ている。
横の布団では貴也が寝ていると思ったら、スマートフォンを見ていた。彼は不慣れなようで、何かを検索していたようだが随分時間をかけていた。

やっと表示されたのは“快晴中学”のHPだ。母によく見せられていたためすぐにわかった。
後ろから人のスマートフォンを見るなんて最低な行動だと思ったがやめられなかった。貴也はそのページを流すように見るとすぐ違うキーワードを入れ始めた。

 “桜華学園”

その画面を見て、驚いた。
貴也がまさか自分の通う学校を気にしているとは思っても見なかった。初等部は外部受験を目指してる子どもも多いためレベルが高い。しかし、中等部はそれに劣る。劣ると言っても上位校であることが間違えない。
だが、金持ちが多く在籍する学校であるためそれを鼻にかけた輩もいる。

SNSを見だしたので目を細めた。彼が何を知りたいのか気になった。
桜華学園の特待について記載。

「……貴也? まだ起きてるのか?」

我慢できずに声を掛けた。気なることがあるなら自分に聞けばいいと思った。ただ、ずっと盗み見ていた事がバレるのは良くないと思い、いかにもスマートフォンの光で起きてしまった風に目をこすりながら眠そうな声を出した。

「眠れないのか?」

いきなり声を掛けられたことで酷く驚いたようで、スマートフォンを落とした。その光に照らされた彼の顔はほのかに赤く見えた。

「これ? うちの学校か?」
「え……、うん。この中学の特待制度ってこれは? 小学校にはないよね?」
「うちの学校特殊なんだ。桜花会ってのがあって高額な寄付金をした家の生徒が所属する」
「桜花会……」
「桜華の初等部男子はほとんど御三家レベルの学校に進学するんだ」

そこでため息をついて、言いづらそうにな顔をした。

「だから、中等部に進学する者はあまり頭が良くない」
「でも、桜華中等部の偏差値は低くはないよ」
「それは外部の生徒だけだ。中等部から桜花会に1人に対して2人の頭のいい生徒つくんだ。で、勉強を教える。それが桜花の特待システムなんだ。だから学費免除以外にも結構な金額が貰える」
「でも、この金額がすごすぎしゃ」

貴也の指さす画面の金額を見て「いや」と答えた「これは特待Aの金額で特待Sはもっと貰えるはずだ」

「本当に?」

意味の分からない額に、貴也は目をシロクロさせた。

「ちょっと待って」

貴也はスマートフォンを手にして生活費を検索した。そして満足そうに何度も頷いていた。

「ねぇ、のりちゃんの進学さ。お母さんが御三家を希望って言ったけどのりちゃんは?」
「私?」

予想外の事を聞かれて、目を大きくした。貴也の顔は期待に満ちていて答えに困った。数秒考えて、考えつかず素直にそれを言葉にした。

「うむ。考えたことなかったな」
「そうなんだね。じゃ、俺さ桜華に行くよ。多分、この特待Sとれる気がする。したら、一緒に住もう」

思いもよらない貴也の言葉に、驚きすぎて言葉がでなかった。

「このままじゃ、のりちゃん辛すぎるでしょ。俺の所にくれば平和だよ」

そういう貴也はキラキラと輝いていた。彼の言うことに“そうだ”と同意したかったが現実は考えればそんなに簡単な話ではない。

「しかし、母の承諾が必要だ。このまま桜華進学を許してくれるか……」
「そんなの逃げちゃえばいいんじゃないの?」
「無理だ。私は桜花会だ。中等部に行くなら中等部の桜花会にはいる事になる。すると多額な寄付金が必要になる」
「そんなの、支援金で……」そこまで言って貴也の笑顔は暗いものへと変わった「って無理だよね。こんなに支援金貰えるなら桜花会の寄付金はこれ以上だよね」

悲し気な顔した憲貞はゆっくりと頷いた。夢物語だと思ったが貴也の瞳は輝きを失っていなかった。そして、ニコリとすると「全て解決したら俺と住んでくれるだよね」と強く念を押された。それに圧倒されて思わず頷いてしまった。

有り得ない事だ。

家から出たら施設に送られるのは見えている。けど、夢は見たかった。

目の前の貴也は何やらブツブツと言った後、真っ直ぐに憲貞を見た。その瞳に強い力を感じて引き込まれそうになった。

「のりちゃんは御三家じゃなくて桜華に進学でもいいんだよね」
「勿論だ。そもそも御三家に受かるとは思えぬ」
「そっか。それと俺と一緒に暮らしたいだよね」

「……う、うむ」その質問には迷い回答があいまいになってしまった。しかし、それを貴也は許してくれなかった。

「ちゃんと言葉にしてよ」
「貴也と暮らしたいと思ってる」
「言質取ったからね」

貴也の言葉に頷いた。
そんな事はできないと思っていたが、彼の自信にほんの少しだけ期待した。
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