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第25話 制御できない感情

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太陽が沈み全ての部屋に電気がついた頃、貴也は講師のところにいた。他塾では質問する時間が決まっているという話を聞いたことがあるが貴也の通う塾は講師の手が空いていればいつでも聞けた。

講師に質問をして自習室に戻るといい時間になっていた。
自習室では和也がいつも通り、国語のテキストを読んでいた。自習室で、彼はそれをしているか絵を描いている姿がしか見たことない。たまに寝て、見回りの講師に怒られていることもある。

荷物をまとめて、憲貞のところへ行くと彼はいつも通り真面目にやっていた。塾の宿題を終えた後、彼は昨日貴也が出した課題をこなしていた。正解率は昨日と変わらないやろうとする気持ちは評価できた。
近づくと憲貞が顔を上げた。

「昨日、俺が言ったことやってたんだ。えらいね」
「あぁ。解法はわかったのだが貴也が言っていた時間では出来ないし、間違うことも多い」

彼のノートをじっと見ると頷いた。

「なるほどね。331-24は?」
「え……、あ……。304」
「え?」
「あ、307」
「それが、理由じゃないかな? 素早く正確にできるように毎朝計算練習しようね」
「……うん」
「とりあえず、今日は帰ろうか。アイツも準備できた見たい出し」

そう言うと憲貞は一番後ろに座っている和也は見た。彼はすでに鞄を背負ってこちらを見ておりワクワクしているのがこの距離からでも伝わってきた。
貴也はため息が出そうになったが、憲貞が楽しみにしてるためグッと堪えた。

3人は塾を出るとそのまま貴也に家に向かった。

「カズは迎えとか来ないのか」
「あぁ、今日はいらないって言った」
「そうか」

たいしたことのない会話であるはずなのに、和也にいつも迎えがあることを憲貞が知っていると思いイラついた。
それは言葉の受け取り方だ言うことも頭では理解していた。授業終了時間が遅いため迎えに来る家庭が多い。だから、ただの確認をしただけの可能性もある。

聞けばいい話だと言うのもわかるが、臆病風に吹かれた。

「なぁーに、また不機嫌になってんだよ」自分の感情に敏感に気づく和也に更に苛立った。

帰宅したら、そのまま家の中に入ってしまおうかと思い、チラリと憲貞の顔を見ると楽しみらしく満面の笑顔であった。

「そんなことはないよ。母になって言おうか考えていただけだから」
「そっか。親御さん心配するよな」

玄関を開けると母にバッタリとあい、疲れを感じた。ため息をついて口を開こうとしたその瞬間、貴也の前に和也が出てきた。

「こんばんわ。僕、江本君と同じクラスで同じ塾の叶和也と言います。江本君のお母様は綺麗ですね。江本君がかっこいいわけですね」

“だれ?”っと思うほど和也の人格が変わった。驚いたのは貴也だけではない。憲貞も目を大きくして固まっている。

「あら、丁寧にありがとう。私は貴也の母で冴子です。話は聞いてます。貴也にこんな素敵な友だちがいて嬉しいです」

母も今までにない極上の笑顔を作っていた。その状況に貴也の空いた口が塞がらなかった。

「これ、たいした物ではないですが皆さんで食べて下さいね」

そう言って、ケーキの箱を和也に渡した。

「わざわざありがとうございます。あれ、このケーキ有名ですよね。いつも行列になっているのですよね。すごく嬉しいです」
「喜んでもらえて光栄です」

母は和也と話ながら、ふと貴也の方を見ると玄関に荷物が準備してあること伝え“仕事に行く”と挨拶をして出て行った。

「なんだ。母さんに伝えてあんじゃねーか。何が“なんて言おうか考えてる”だよ」

母がいなくなった瞬間にいつもの和也になった。

「変わりすぎではないか?」

貴也が聞こうと思ったことを憲貞が先に聞いてくれたので口を閉じて彼らの話に耳を傾けた。

「え? 大人の女性には普通だろ」
「じゃ、カズのお母さんにも?」
「まさか。なんでババァなんかに。好みの人だけに決まってるだろ」

貴也は自分の母が好みと言われていい気はしなかったが、誉めれ得たのは悪い気はしなかった。

「随分年上が好みなんだな」
「歳は関係ないよ。美しい女性が好きなんだ。のりちゃんにだってタイプあんだろ?」
「私は……」

その瞬間、貴也の耳は大きくなった。全身で憲貞の言葉に集中してる自分がいた。和也の好みなんて微塵も興味なかったのに、憲貞のことは聞きたくて仕方なかった。

「分からない」
「えー、だって、なんかあるだろ。おっぱいでかいとかさ。顔が整ってるとかさ」
「うむ。胸はともかく顔が綺麗な人は好きだ」
「まぁ、見てくれは大事だよな。そうすると貴也のお母さんはいいじゃんね? 胸ねぇーけどめちゃ美人じゃん。俺、会った瞬間心臓撃ち抜かれた」
「……まぁな。確かに素敵な方だと思う」

自分の母をこんなにも妬ましく思ったのは初めてで会った。彼女は貴也よりも勉強ができ経済力もあり何一つ勝てない。
羨ましいと思ったことは何度もあるが、所詮は違うに人間だと思ったが今は彼女になりかわりたい。

自分の胸に手を当てゆっくりと息を吐いた。

「なんだ? 江本もおっぱい派か?」
「え?」
「自分の胸揉んで想像しただろ」
「はぁ?」
「自分の母さんにないものを求めるか」

ニヤニヤ笑う和也に殺意が湧いた。
もう和也を殺しても犯罪にはならない気がした。

拳をにぎり、力をこめて殴ろうとした時「わ、待て。落ち着くんだ」という声がして身体が動かなくなった。

慌てた憲貞に抱きつかれた。それに驚いて、バランスを崩し床に背中から倒れた。

「ーツ」
「す、すまない。あ、あまりにもカズを殺しそうな顔して拳を握っていたから」
「いや……」

背中を終えながら、体を起こすと至近距離に憲貞の顔があり慌てて身体を引いた。すると、彼は視線を下げて悲しそうな顔をした。

「すまない」力強く手を掴まれ、動けなかった「本当に、すまない。別に貴也の母を性対象として見たわけではないのだ。ねぇ、カズもだよな」

憲貞が同意を求めると彼は大きく頷いた。

「え、あぁ。勿論だ。お前の母親をどうこうしようとなんて思ってねぇから」

頭をかきながら罰が悪そうな顔をして和也は謝罪した。
憲貞は更に貴也の手を引き身体を近づけると「すまない」何度も誤ったが、貴也にとって謝罪などどうでもよかった。
彼が自分に近づくたびに、妙な気分になりそれが嫌で彼から離れたくて仕方なかった。

「分かったよ。うん、大丈夫だから……離してくれないか?」
「すまない」

憲貞は近づきすぎたことに気づくと慌てて、立ち上がった。貴也は呼吸を落ち着けて起き上がった。

「わりぃな。身内がそういう風に見られるのはイヤだよな」
「別にいいよ。俺こそ取り乱してごめん」

眉を下げる和也に貴也は首を振った。

「いやーでも、江本も人間なんだな。お母さんのこと言われて鬼のような顔した時は殺されるかと思った」
「別にいいよ。アレ本気でほしいなら上げるよ」

優しく微笑む貴也に、憲貞は「いや……でも」と戸惑っていた。

「本当に母の恋愛とかどうでもいいんだよ。いや、なんていうか……君にイライラしてごめんね」
「そうだよな」

一気に和也が近づいてきて、驚いて一歩下がった。

「俺、学校でひどいことしたもんだ。ごめんな。反省している」

更に、和也が自分に近づいた。憲貞の時と違いだだ暑苦しいと感じるだけに自分に驚いた。自分の反応の違いに戸惑い、和也の言葉がまったく頭に入ってこなかった。

「あ、そうだよな。そんな簡単にはゆるせないよな」

黙っている貴也を怒ってると思ったらしく和也が分かりやすく落ち込んだ。それを心配して後ろにいた憲貞が貴也の耳元で「せめて、返事をしてあげてくれないか」と言うと身体が熱くなり声が出そうになるのを必死で抑えた。

色々とヤバくてこの状況から逃げ出したかった。

「分かったよ。うん、もう色々……本当に大丈夫。えっと、家いこうね。なぁ」

頭が回らず、うまく言葉にできなかったが二人は同意して離れてくれた。しかし、まだ背中に憲貞がいたぬくもりが残り、落ち着かなかった。
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