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第18話 自分でも分からない気持ち
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玄関を開けると貴也の寝間着を着て「江本君」と言いながら不安そうな憲貞が立っていた。
「良かった」
「う?」
「お風呂から出てきたら誰もいなくて……」
寝間着が大きいようで、手足をめくっていた。そこから、痛々しい傷が見えた。
(傷は手だけじゃないのか)
憲貞は貴也の視線に気づき慌てて、捲っていた袖を戻した。すると手が全て隠れ足は長袴のようであった。
貴也は靴を脱ぎ、憲貞に近づくと荷物を置いて彼の裾を捲った。
「この方が歩きやすいでしょ。何も気にしなくていいよ」
「……うん」
「それと、声かけずに出かけてごめんね。買い物していたんだよ」
そう言いながら、ビニール袋を渡した。憲貞はそれを受けると中身を確認した。
「すまない。気を遣ってもらって」
「いいよ。天王寺君のところからお金貰ってるから」
その瞬間、憲貞は目を細めた。
「そうか。なら、遠慮はいらないその金は全て使ってくれ」
投げやな言い方に憲貞は疑問を感じた。
「俺の親が君の親御さんから預かったんだよ。結構な金額あるんだけど……」
鞄から封筒を出して渡そうとすると憲貞は手のひらを見せて拒否した。
「好きに使って構わない」
「そんな事いうと、遊びに使うかもよ」
わざと意地悪な口調で話したが、憲貞は「構わない」と真顔で繰り返した。
「私をあの家から出してくれたことに感謝する」
弱々しく笑う憲貞になんて答えていいか分からず眉を下げた。あの時は、憲貞を助けなくてはと思って必死だったが、今考えればそれが正しかったのか疑問に思っている。
「買い物、すまないな。食事にするか? それとも先に風呂にはいるなら待っている」
そう言ってビニール袋を上げて見せる憲貞に、貴也は困った。
自分はシャワーを浴びてくるからその間に食べているように伝えるつもりだったが一緒に食べようと笑う彼の顔を見ると言葉がでなかった。
「どうした?」
「いや、食べようか」
リビングに行くと、貴也は皿を出して総菜をそこに並べ食事にした。チラリと時間を見ると胸がざわついた。
いつもはこの時間勉強をしている。
「すまない。食べるのが遅くて……」
憲貞が慌てて食事を進めると貴也はそれを止めた。
「焦ることはないよ。ゆっくりと食べていいよ」
にこりと笑いながら、勉強しなかった時間をどこで取り戻すか考えていた。
「なんで私を家に招くと提案をした?」
「君が家に帰ろうとしたから。そんなに傷ついてるに……。塾長が警察に連絡するなら黙っていたよ。それを君が止めるから。なんで自分でひっかいたと言ったの? 俺が母に頼まなければ今頃また君は……」
「当たり前だ。今の生活を壊したくない。大けがや命を奪われるわけでない。この程度のことで母を犯罪者にして天王寺家の名を汚すわけにはいかない。母だけではなく私も一族に恨まれる可能性がある」
「それ、誰が言ったの?」
「父だ」
当たり前のように答える彼に言葉が出なかった。
憲貞の父がいう意味はよく分かるが、それで子どもに我慢させるのは違う。
頭痛と吐き気がした。
自分の都合で大人を巻き込む大人に反吐がでた。そして、それに対して何できない子どもの自分に苛立った。
今回の件だって、母の力を借りなければ憲貞を助けられなかった。
「俺は、そんな家名より目の前の君が傷ついているのが見ていて辛いよ」
泣きそうなる貴也に憲貞は首を傾げた。
「なぜだ? 江本君は私と仲良くないだろう。ここまでしてくれるのはなぜだ?」
「……」
(なぜ……?)
彼のいう事はもっともであった。
貴也は数日前まで憲貞の存在すらしらなかった。
きっかけはあの傷だ。そこから気になる存在になったことは確かだ。
同情?
好奇心?
どの言葉もしっくりとこなかった。
じっと、憲貞を顔を見つめた。真っ黒の髪に整っている顔立ちは万人に好かれそうであった。
「そんなに考えこまないでくれ。うむ。話題を変えよう。そうだカズの事だが」
「カズ?」
突然、知らない名前が出てきて貴也は首を傾げその名前の該当者を探した。そして、思い当たる人物が一人いて嫌な気持ちになった。
「あぁ、叶和也だ。仲良しだからそう呼べと言われてな。私の事は“のりちゃん”と呼んでくれる」
照れ笑いする憲貞が面白くなかった。
モヤモヤとするその思いが自分でコントロールできずに苛立った。
「そんな暗い顔してどうした? あ……すまぬ。もしかして、考え込んだのは私が“仲良しではない”と言ったからか? そうだよな。家に招いてくれるのだから仲良しでないわけないよな」
困った顔して憲貞はワタワタとして、深呼吸をするとじっと貴也の顔を見た。
「すまぬ。私たちは仲の良い友人だな」
(……友人)
聞きなれない言葉であった。
学校や塾の同級生と話をするが、そこまで親密ではなく“友人”と思ったことはなかった。そもそも、勉強が忙しくて同級生と遊ぶと言う経験がなかった。
「そんなに眉を寄せなくとも……。あれか? 呼び方か? 仲良しだと特殊な呼び方をするだろう? よし私のことは“のりちゃん”と呼ぶが良い。私は……貴也? たかちゃん? たか君?」
口元に手をやると、ブツブツと貴也のあだ名を真剣な顔で考え始めた。
その様子がおかしくて貴也は「ぶっ」と噴き出した。それから声を出して笑った。
「なんだ? どうした? 私は何か変なことを言ったか?」
「ははは……。いや、俺のことは貴也でいいよ」
「貴也君?」
「呼び捨てで構わないよ」
笑い過ぎて涙が出てきてそれを手の甲で押さえた。呼吸を整え顔を上げると憲貞と目があった。
「貴也」嬉しそうに名前を呼ぶと話を戻した「それでな。カズ君の話だが」
「あぁ」
憲貞が先ほどの話題を続けたので気持ちを落ち着かせた。もう“カズ”という名前を聞いても嫌に気持ちになったりはしなかった。
「昨日、私と自習室を出るとき貴也に睨まれてと言っていた。まぁ、彼も貴也にやったことは反省していたので話くらいは聞いてやってほしい」
(睨んだ……)
全く身に覚えがなく、昨日のことを思い出した。確かに自習室を彼らが出て行くのを見ていい感情を持っていないことは確かだった。しかし、その感情の理由も定かではない。
話をしていたが大声と言うわけではなく、他の生徒も変わらない。
長時間、話し続けたわけではない。
睨んだ覚えはないがなぜかひどくイラついたのは覚えていた。
「あぁ、そんなに怖い顔をしないでほしい。確かに学校で貴也に絡んだのは問題だと思うが君の優秀さに嫉妬していだんだ。コーヒーの件は絡んだがアレは彼なりに貴也を心配していただけだ」
また、イライラとしてきたがこれ以上自分の訳の分からない感情に振り回させるのが嫌で笑顔を作った。感情を抑えるのは得意だ。
学校でも笑えば女の子たちは嬉しそうにしていた。
しかし、憲貞は喜ぶどころか更に不安そうな顔をした。
「すまない。作り笑いまでさせて……」
「―ッ」
自分の感情を見抜かれて笑顔が固まった。
「一緒に住むのだから、不満があったら言ってほしい」
「いや……不満なんて」
「我慢する必要はない。私は客でないのだから」
「……なんと、いうか。自分でも分からないだよね」
小さく息を吐いた貴也はコップの水を飲んだ。自分でも分からない感情を説明することはできないが見透かされいるため素直に今の気持ちを話した。すると、憲貞は少し悩んで何かを閃いた様に顔を上げた。
「嫉妬か?」
「へ?」
「そうだろう。貴也が不満そうな顔をしたのは全て私がカズの話をした時だ」
「……」
「安心したまえ。私はカズとも仲がいいが貴也とも友人だ」
にこにことする憲貞の言葉に意味が理解できなかった。“嫉妬”という言葉は知っているが自分がしていることに驚いた。
自分より成績がいい人間を羨ましく思う気持ちはあった。彼らに勝てるように勉強を頑張ってきた。
しかし、和也は自分より優れているとは思えない。
ありえないと貴也は首をふり、食べ終わった食器を片付け始めた。すると、それを見て憲貞も同じようにしていた。
食器をキッチンの持っていくと、憲貞は貴也が洗うのをじっと見ていた。
「なに? 座っていてもいいよ」
「学んでおる」
「ただ、皿洗っているだけだよ」
「そうだ。皿洗いのやり方を見ている。私はキッチンに入ったことがなくてな」
余りに真剣に見てくるとの貴也は洗い物がやりずらかった。
「良かった」
「う?」
「お風呂から出てきたら誰もいなくて……」
寝間着が大きいようで、手足をめくっていた。そこから、痛々しい傷が見えた。
(傷は手だけじゃないのか)
憲貞は貴也の視線に気づき慌てて、捲っていた袖を戻した。すると手が全て隠れ足は長袴のようであった。
貴也は靴を脱ぎ、憲貞に近づくと荷物を置いて彼の裾を捲った。
「この方が歩きやすいでしょ。何も気にしなくていいよ」
「……うん」
「それと、声かけずに出かけてごめんね。買い物していたんだよ」
そう言いながら、ビニール袋を渡した。憲貞はそれを受けると中身を確認した。
「すまない。気を遣ってもらって」
「いいよ。天王寺君のところからお金貰ってるから」
その瞬間、憲貞は目を細めた。
「そうか。なら、遠慮はいらないその金は全て使ってくれ」
投げやな言い方に憲貞は疑問を感じた。
「俺の親が君の親御さんから預かったんだよ。結構な金額あるんだけど……」
鞄から封筒を出して渡そうとすると憲貞は手のひらを見せて拒否した。
「好きに使って構わない」
「そんな事いうと、遊びに使うかもよ」
わざと意地悪な口調で話したが、憲貞は「構わない」と真顔で繰り返した。
「私をあの家から出してくれたことに感謝する」
弱々しく笑う憲貞になんて答えていいか分からず眉を下げた。あの時は、憲貞を助けなくてはと思って必死だったが、今考えればそれが正しかったのか疑問に思っている。
「買い物、すまないな。食事にするか? それとも先に風呂にはいるなら待っている」
そう言ってビニール袋を上げて見せる憲貞に、貴也は困った。
自分はシャワーを浴びてくるからその間に食べているように伝えるつもりだったが一緒に食べようと笑う彼の顔を見ると言葉がでなかった。
「どうした?」
「いや、食べようか」
リビングに行くと、貴也は皿を出して総菜をそこに並べ食事にした。チラリと時間を見ると胸がざわついた。
いつもはこの時間勉強をしている。
「すまない。食べるのが遅くて……」
憲貞が慌てて食事を進めると貴也はそれを止めた。
「焦ることはないよ。ゆっくりと食べていいよ」
にこりと笑いながら、勉強しなかった時間をどこで取り戻すか考えていた。
「なんで私を家に招くと提案をした?」
「君が家に帰ろうとしたから。そんなに傷ついてるに……。塾長が警察に連絡するなら黙っていたよ。それを君が止めるから。なんで自分でひっかいたと言ったの? 俺が母に頼まなければ今頃また君は……」
「当たり前だ。今の生活を壊したくない。大けがや命を奪われるわけでない。この程度のことで母を犯罪者にして天王寺家の名を汚すわけにはいかない。母だけではなく私も一族に恨まれる可能性がある」
「それ、誰が言ったの?」
「父だ」
当たり前のように答える彼に言葉が出なかった。
憲貞の父がいう意味はよく分かるが、それで子どもに我慢させるのは違う。
頭痛と吐き気がした。
自分の都合で大人を巻き込む大人に反吐がでた。そして、それに対して何できない子どもの自分に苛立った。
今回の件だって、母の力を借りなければ憲貞を助けられなかった。
「俺は、そんな家名より目の前の君が傷ついているのが見ていて辛いよ」
泣きそうなる貴也に憲貞は首を傾げた。
「なぜだ? 江本君は私と仲良くないだろう。ここまでしてくれるのはなぜだ?」
「……」
(なぜ……?)
彼のいう事はもっともであった。
貴也は数日前まで憲貞の存在すらしらなかった。
きっかけはあの傷だ。そこから気になる存在になったことは確かだ。
同情?
好奇心?
どの言葉もしっくりとこなかった。
じっと、憲貞を顔を見つめた。真っ黒の髪に整っている顔立ちは万人に好かれそうであった。
「そんなに考えこまないでくれ。うむ。話題を変えよう。そうだカズの事だが」
「カズ?」
突然、知らない名前が出てきて貴也は首を傾げその名前の該当者を探した。そして、思い当たる人物が一人いて嫌な気持ちになった。
「あぁ、叶和也だ。仲良しだからそう呼べと言われてな。私の事は“のりちゃん”と呼んでくれる」
照れ笑いする憲貞が面白くなかった。
モヤモヤとするその思いが自分でコントロールできずに苛立った。
「そんな暗い顔してどうした? あ……すまぬ。もしかして、考え込んだのは私が“仲良しではない”と言ったからか? そうだよな。家に招いてくれるのだから仲良しでないわけないよな」
困った顔して憲貞はワタワタとして、深呼吸をするとじっと貴也の顔を見た。
「すまぬ。私たちは仲の良い友人だな」
(……友人)
聞きなれない言葉であった。
学校や塾の同級生と話をするが、そこまで親密ではなく“友人”と思ったことはなかった。そもそも、勉強が忙しくて同級生と遊ぶと言う経験がなかった。
「そんなに眉を寄せなくとも……。あれか? 呼び方か? 仲良しだと特殊な呼び方をするだろう? よし私のことは“のりちゃん”と呼ぶが良い。私は……貴也? たかちゃん? たか君?」
口元に手をやると、ブツブツと貴也のあだ名を真剣な顔で考え始めた。
その様子がおかしくて貴也は「ぶっ」と噴き出した。それから声を出して笑った。
「なんだ? どうした? 私は何か変なことを言ったか?」
「ははは……。いや、俺のことは貴也でいいよ」
「貴也君?」
「呼び捨てで構わないよ」
笑い過ぎて涙が出てきてそれを手の甲で押さえた。呼吸を整え顔を上げると憲貞と目があった。
「貴也」嬉しそうに名前を呼ぶと話を戻した「それでな。カズ君の話だが」
「あぁ」
憲貞が先ほどの話題を続けたので気持ちを落ち着かせた。もう“カズ”という名前を聞いても嫌に気持ちになったりはしなかった。
「昨日、私と自習室を出るとき貴也に睨まれてと言っていた。まぁ、彼も貴也にやったことは反省していたので話くらいは聞いてやってほしい」
(睨んだ……)
全く身に覚えがなく、昨日のことを思い出した。確かに自習室を彼らが出て行くのを見ていい感情を持っていないことは確かだった。しかし、その感情の理由も定かではない。
話をしていたが大声と言うわけではなく、他の生徒も変わらない。
長時間、話し続けたわけではない。
睨んだ覚えはないがなぜかひどくイラついたのは覚えていた。
「あぁ、そんなに怖い顔をしないでほしい。確かに学校で貴也に絡んだのは問題だと思うが君の優秀さに嫉妬していだんだ。コーヒーの件は絡んだがアレは彼なりに貴也を心配していただけだ」
また、イライラとしてきたがこれ以上自分の訳の分からない感情に振り回させるのが嫌で笑顔を作った。感情を抑えるのは得意だ。
学校でも笑えば女の子たちは嬉しそうにしていた。
しかし、憲貞は喜ぶどころか更に不安そうな顔をした。
「すまない。作り笑いまでさせて……」
「―ッ」
自分の感情を見抜かれて笑顔が固まった。
「一緒に住むのだから、不満があったら言ってほしい」
「いや……不満なんて」
「我慢する必要はない。私は客でないのだから」
「……なんと、いうか。自分でも分からないだよね」
小さく息を吐いた貴也はコップの水を飲んだ。自分でも分からない感情を説明することはできないが見透かされいるため素直に今の気持ちを話した。すると、憲貞は少し悩んで何かを閃いた様に顔を上げた。
「嫉妬か?」
「へ?」
「そうだろう。貴也が不満そうな顔をしたのは全て私がカズの話をした時だ」
「……」
「安心したまえ。私はカズとも仲がいいが貴也とも友人だ」
にこにことする憲貞の言葉に意味が理解できなかった。“嫉妬”という言葉は知っているが自分がしていることに驚いた。
自分より成績がいい人間を羨ましく思う気持ちはあった。彼らに勝てるように勉強を頑張ってきた。
しかし、和也は自分より優れているとは思えない。
ありえないと貴也は首をふり、食べ終わった食器を片付け始めた。すると、それを見て憲貞も同じようにしていた。
食器をキッチンの持っていくと、憲貞は貴也が洗うのをじっと見ていた。
「なに? 座っていてもいいよ」
「学んでおる」
「ただ、皿洗っているだけだよ」
「そうだ。皿洗いのやり方を見ている。私はキッチンに入ったことがなくてな」
余りに真剣に見てくるとの貴也は洗い物がやりずらかった。
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