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第14話 何が正しい?
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15時、午後の授業が終了。
大抵の生徒は自習室に向かう中、和也は前の席にいる憲貞を見た。
これから、憲貞と話ができると思うとワクワクしたが同時に緊張もした。帰宅準備をして立ち上がる彼のそばに行った。
「のりちゃん」
なるべく優しい笑顔を作り、和也が話しかけると、憲貞は頭をあげた。
「あぁ、君か。では、課題が終わった後、自販機の前で」
そう言って、彼は部屋をでた。
(え? 課題? 宿題のこと?)
本日出された課題を思い出してため息をついた。さっきまであった楽しい気持ちがどこかへ出かけてしまった。
(宿題なんて、やったことねぇーよ)
和也は携帯電話を見ると、母から19時に迎えにくるというメールが来ていた。
「仕方ない、やるか」
誰もいなくなった教室を後にして、自習室に入った。辺りを見回すと憲貞が一番前の窓側で勉強していた。入り口側には貴也がいた。
貴也は時々、憲貞をチラリと見ていた。
和也はそんな二人は気にしながら、一度後ろの席に座り算数のテキストを出した。
ペラペラと捲りながら、憲貞の方を気にした。彼は必死に頑張っているようであるが鉛筆が止まっていることが多い。
和也は訳の分からない算数をやめて国語を出した。その中の一つの物語が気になり読み始めた。
(本授業テキストもおもしれーが、春期講習のもおもしれーな)
読み始めると止まらず、それに集中した。その物語を最後まで読み終わると満足感に浸りながらテキストから顔上げた。
「うぁ」
目の前に憲貞がいた。
予想外の出来事に和也は思いっきり声を上げてしまい慌てて両手で口を抑えた。
周囲の痛い視線が刺さった。
手を口から離しながら「ごめん」そう言うと、憲貞はため息をついた。その時、彼の後ろ、一番前の席にいる貴也と目があった気がした。
一瞬であるが、ものすごい顔で睨まれた。瞬きをして彼の方を見ると彼は前を向き勉強をしていた。しかし、和也は寒気を感じた。
(気のせいだよな……?)
「私こそ、すまない。余りに集中していたから声をかけづくて」
憲貞が眉を下げながら、謝罪すると和也は軽く「かまわねぇー」と小さな声で言って立ち上がった。
「そうか」
憲貞が笑ったので、安堵しチラリと貴也の方を見たが、彼と視線が合う事はなかった。
和也は憲貞自販機前のテーブルに対面に座った。そこで和也は小声で憲貞に話しかけた。
「のりちゃんは江本と仲良いのか?」
「う~ん。それはどうなんだろうか?」
憲貞が首を傾げると、和也も同じ様に首を傾げた。
「いや、君ともまともに話したのは今日が初めてだ。だが、仲良しなんだろう。江本君とは数回階段で話しているから仲良しか?」
「そりゃ、江本とのりちゃんがなんて思ってるじゃねーの? それと、俺の事“君”とか呼ばないでくれる?」
和也が眉を潜めると、「すまない」と小さく言った。
「出会ったきっかけと、付き合った年月とかどーでもいいんだよ。大事なのは気持ちだ。俺はのりちゃんのこと友だちだと思うし仲良しだと思っているがのりちゃんは違うのか?」
「いや、そんなことは……」
和也の真っ直ぐな瞳が憲貞の胸に突き刺さった。“天王寺”と知った上で、“憲貞”として関わってくれる彼に心が暖かくなった。
「そっか。じゃ、友だちだな」
改めて言われると憲貞は嬉しくなった。
「うんじゃ、その上で江本とはどーよ?」
「うむ。数回言葉を交わしたが深い話はしてない。一番長く話のは、今日だ」
「そっか。さっき、自習室でのりちゃんと話していると睨まれたんだ」
「睨まれた? 江本君にか?」
憲貞は考え込むような顔をして首を捻った。
「うん。アイツなあんな顔初めて見た。学校ではいつもにこにこしてんだけどな」
「あぁ、江本君と同じ学校であったんだっけ」
「そー、でも学校じゃ全然話さねぇーよ」
不満そうにする和也を見て憲貞は「ふむ」と言いながら頷いた。
「アイツ、寝てるのに勉強できて、足まで速いんだ。まぁ、足は俺のが速いけどな」
「そうか」
力を入れて話す和也に憲貞は困った顔して頷いた。それに気づくと「わりぃ」とすぐに謝った。
「アイツの悪口を言いたかった訳じゃねぇんだ。奴がめちゃくちゃ勉強していることも学校で寝る理由も今日分かったし、よく考えれば俺は奴に何もされてねぇんだ……」
そこまで、話すと和也は言葉を止めた。
「あ、まさか。俺が学校で普段、奴をバカにしているから、睨まれたのか?」
「そんなことをしているか?」
憲貞が言葉を強めたので、和也は動きを止めた。そして罰の悪そうな顔をして頭をかいた。
「いや、その……」
「それは、謝罪するべきだ」
「そうだよな」
憲貞の目を見ることができずに、天井や自動販売機を意味なく見た。
キョロキョロと瞳を動かしていると、見覚えのある顔が視界に入ってきた。
「江本君」
その人物の名前を真っ先に呼んだのは憲貞であった。
「やぁ」
彼は2人挨拶をしながら、自動販売機で無糖のコーヒーを買った。
「げ、そんな飲むのかよ。カッコつけてるのか?」
「カッコつける?」
貴也は首を傾げながら、コーヒーの缶を開けて口をつけた。
「それだよ。それ。無糖のコーヒーなんて苦いだろ」
「苦いよ。でも、それがいい」
「なんでだよ」
大人ぶっている貴也に和也はイライラとして声を大きくした。それを心配した憲貞は彼の袖を引っ張った。
「なんだよ」
「多分……眠気覚ましではないか? 好きで飲んでない」
憲貞の言葉に、貴也は「当たりだよ。コーヒー嫌い」と笑顔で言いながら、飲み干した。
「はぁ? なんで嫌いなもん飲むだよ」
「天王寺君が言った通り、眠気覚ましだよ」
「だから、だから、なんでなんだよ。眠ければ寝ればいいじゃねぇか。なんでそんな自分を追い詰めるだ」
感情的なる和也に貴也は笑顔を向けると、クルリと後ろ向いて行ってしまった。
なんとも、もどかしい感情がフツフツと和也の中に沸いてきた。
「……かの、いや、カズ君?」
憲貞の心配そうな声が耳に届き、「わりぃ」と言いながら椅子に座り直した。
「江本君の事、心配なんだな」
「へ?」
「だから、無理する彼が心配なんだろ」
「ちげー。カッコつけた物を飲んでるから馬鹿にしたんだ」
「最初はそうだろうが、最後の言葉の意味は違うだろ」
自分でも気づいていない気持ちを見透かされたようで、次の言葉が出てこなかった。
「うむ。カズ君は優しいな」
言われなれない言葉を掛けられ、戸惑った。
「私の手も心配してくれたもんな」
そう言って、憲貞は傷だらけの腕を和也の方に向けた。
痛々しいその手に和也は触れた。
「心配なんかしてねぇ。異常だって言ってるんだ。たかが中学受験だろ。落ちたら地元の公立いけばいいし、自分を傷つけてまでする事じゃねぇ」
「……」
興奮して、テーブルに手を打ちつける和也に憲貞は困った顔をした。
「だいたい、勉強って受験で終わんねーだろ。受かってから更にしなきゃなんねぇ」
「そうだな」
和也の言っている意味はよくわかる。しかし、コレにかけている人間もいることは事実だ。
上位クラスは御三家を目指している。それは子どもだけではなく親や塾講師もだ。
子ども以上に熱が入る親もいる。憲貞は手の傷をじっとみた。
「痛いのか?」
和也が心配そうな顔したので、ゆっくりと首を振った。
「余りに、言いたくないが傷つけてまで勉強させるのは……」
「それは私が悪いのだ」
和也の言葉にかぶせるて、否定した。憲貞の真剣な眼差しに和也は怯んだ。
「私は天王寺として恥じない行動しなくてはならない」
「そうか」
「だから、頑張らないと……」
暗い顔して言葉をとめた。その時、「あの……」と和也が何を言いかけたが、憲貞は腕時計を見て立ち上がった。
「それじゃ、また」
それだけ和也に伝えると、自習室に戻り鞄を持つと塾を出た。
大抵の生徒は自習室に向かう中、和也は前の席にいる憲貞を見た。
これから、憲貞と話ができると思うとワクワクしたが同時に緊張もした。帰宅準備をして立ち上がる彼のそばに行った。
「のりちゃん」
なるべく優しい笑顔を作り、和也が話しかけると、憲貞は頭をあげた。
「あぁ、君か。では、課題が終わった後、自販機の前で」
そう言って、彼は部屋をでた。
(え? 課題? 宿題のこと?)
本日出された課題を思い出してため息をついた。さっきまであった楽しい気持ちがどこかへ出かけてしまった。
(宿題なんて、やったことねぇーよ)
和也は携帯電話を見ると、母から19時に迎えにくるというメールが来ていた。
「仕方ない、やるか」
誰もいなくなった教室を後にして、自習室に入った。辺りを見回すと憲貞が一番前の窓側で勉強していた。入り口側には貴也がいた。
貴也は時々、憲貞をチラリと見ていた。
和也はそんな二人は気にしながら、一度後ろの席に座り算数のテキストを出した。
ペラペラと捲りながら、憲貞の方を気にした。彼は必死に頑張っているようであるが鉛筆が止まっていることが多い。
和也は訳の分からない算数をやめて国語を出した。その中の一つの物語が気になり読み始めた。
(本授業テキストもおもしれーが、春期講習のもおもしれーな)
読み始めると止まらず、それに集中した。その物語を最後まで読み終わると満足感に浸りながらテキストから顔上げた。
「うぁ」
目の前に憲貞がいた。
予想外の出来事に和也は思いっきり声を上げてしまい慌てて両手で口を抑えた。
周囲の痛い視線が刺さった。
手を口から離しながら「ごめん」そう言うと、憲貞はため息をついた。その時、彼の後ろ、一番前の席にいる貴也と目があった気がした。
一瞬であるが、ものすごい顔で睨まれた。瞬きをして彼の方を見ると彼は前を向き勉強をしていた。しかし、和也は寒気を感じた。
(気のせいだよな……?)
「私こそ、すまない。余りに集中していたから声をかけづくて」
憲貞が眉を下げながら、謝罪すると和也は軽く「かまわねぇー」と小さな声で言って立ち上がった。
「そうか」
憲貞が笑ったので、安堵しチラリと貴也の方を見たが、彼と視線が合う事はなかった。
和也は憲貞自販機前のテーブルに対面に座った。そこで和也は小声で憲貞に話しかけた。
「のりちゃんは江本と仲良いのか?」
「う~ん。それはどうなんだろうか?」
憲貞が首を傾げると、和也も同じ様に首を傾げた。
「いや、君ともまともに話したのは今日が初めてだ。だが、仲良しなんだろう。江本君とは数回階段で話しているから仲良しか?」
「そりゃ、江本とのりちゃんがなんて思ってるじゃねーの? それと、俺の事“君”とか呼ばないでくれる?」
和也が眉を潜めると、「すまない」と小さく言った。
「出会ったきっかけと、付き合った年月とかどーでもいいんだよ。大事なのは気持ちだ。俺はのりちゃんのこと友だちだと思うし仲良しだと思っているがのりちゃんは違うのか?」
「いや、そんなことは……」
和也の真っ直ぐな瞳が憲貞の胸に突き刺さった。“天王寺”と知った上で、“憲貞”として関わってくれる彼に心が暖かくなった。
「そっか。じゃ、友だちだな」
改めて言われると憲貞は嬉しくなった。
「うんじゃ、その上で江本とはどーよ?」
「うむ。数回言葉を交わしたが深い話はしてない。一番長く話のは、今日だ」
「そっか。さっき、自習室でのりちゃんと話していると睨まれたんだ」
「睨まれた? 江本君にか?」
憲貞は考え込むような顔をして首を捻った。
「うん。アイツなあんな顔初めて見た。学校ではいつもにこにこしてんだけどな」
「あぁ、江本君と同じ学校であったんだっけ」
「そー、でも学校じゃ全然話さねぇーよ」
不満そうにする和也を見て憲貞は「ふむ」と言いながら頷いた。
「アイツ、寝てるのに勉強できて、足まで速いんだ。まぁ、足は俺のが速いけどな」
「そうか」
力を入れて話す和也に憲貞は困った顔して頷いた。それに気づくと「わりぃ」とすぐに謝った。
「アイツの悪口を言いたかった訳じゃねぇんだ。奴がめちゃくちゃ勉強していることも学校で寝る理由も今日分かったし、よく考えれば俺は奴に何もされてねぇんだ……」
そこまで、話すと和也は言葉を止めた。
「あ、まさか。俺が学校で普段、奴をバカにしているから、睨まれたのか?」
「そんなことをしているか?」
憲貞が言葉を強めたので、和也は動きを止めた。そして罰の悪そうな顔をして頭をかいた。
「いや、その……」
「それは、謝罪するべきだ」
「そうだよな」
憲貞の目を見ることができずに、天井や自動販売機を意味なく見た。
キョロキョロと瞳を動かしていると、見覚えのある顔が視界に入ってきた。
「江本君」
その人物の名前を真っ先に呼んだのは憲貞であった。
「やぁ」
彼は2人挨拶をしながら、自動販売機で無糖のコーヒーを買った。
「げ、そんな飲むのかよ。カッコつけてるのか?」
「カッコつける?」
貴也は首を傾げながら、コーヒーの缶を開けて口をつけた。
「それだよ。それ。無糖のコーヒーなんて苦いだろ」
「苦いよ。でも、それがいい」
「なんでだよ」
大人ぶっている貴也に和也はイライラとして声を大きくした。それを心配した憲貞は彼の袖を引っ張った。
「なんだよ」
「多分……眠気覚ましではないか? 好きで飲んでない」
憲貞の言葉に、貴也は「当たりだよ。コーヒー嫌い」と笑顔で言いながら、飲み干した。
「はぁ? なんで嫌いなもん飲むだよ」
「天王寺君が言った通り、眠気覚ましだよ」
「だから、だから、なんでなんだよ。眠ければ寝ればいいじゃねぇか。なんでそんな自分を追い詰めるだ」
感情的なる和也に貴也は笑顔を向けると、クルリと後ろ向いて行ってしまった。
なんとも、もどかしい感情がフツフツと和也の中に沸いてきた。
「……かの、いや、カズ君?」
憲貞の心配そうな声が耳に届き、「わりぃ」と言いながら椅子に座り直した。
「江本君の事、心配なんだな」
「へ?」
「だから、無理する彼が心配なんだろ」
「ちげー。カッコつけた物を飲んでるから馬鹿にしたんだ」
「最初はそうだろうが、最後の言葉の意味は違うだろ」
自分でも気づいていない気持ちを見透かされたようで、次の言葉が出てこなかった。
「うむ。カズ君は優しいな」
言われなれない言葉を掛けられ、戸惑った。
「私の手も心配してくれたもんな」
そう言って、憲貞は傷だらけの腕を和也の方に向けた。
痛々しいその手に和也は触れた。
「心配なんかしてねぇ。異常だって言ってるんだ。たかが中学受験だろ。落ちたら地元の公立いけばいいし、自分を傷つけてまでする事じゃねぇ」
「……」
興奮して、テーブルに手を打ちつける和也に憲貞は困った顔をした。
「だいたい、勉強って受験で終わんねーだろ。受かってから更にしなきゃなんねぇ」
「そうだな」
和也の言っている意味はよくわかる。しかし、コレにかけている人間もいることは事実だ。
上位クラスは御三家を目指している。それは子どもだけではなく親や塾講師もだ。
子ども以上に熱が入る親もいる。憲貞は手の傷をじっとみた。
「痛いのか?」
和也が心配そうな顔したので、ゆっくりと首を振った。
「余りに、言いたくないが傷つけてまで勉強させるのは……」
「それは私が悪いのだ」
和也の言葉にかぶせるて、否定した。憲貞の真剣な眼差しに和也は怯んだ。
「私は天王寺として恥じない行動しなくてはならない」
「そうか」
「だから、頑張らないと……」
暗い顔して言葉をとめた。その時、「あの……」と和也が何を言いかけたが、憲貞は腕時計を見て立ち上がった。
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