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第四十三話 星遥斗⑩

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着いたのは応接室。
市川がノックをして名乗ると中から声が聞こえた。
「失礼致します」と言って市川が先に入ると、扉を開けて遥斗を招きいれた。
「失礼致します」
緊張しながら、入室すると新宮医師と神田医師が立っていた。
「どうぞ」と言って遥斗と市川をソファに座るように促した。二人が座ったのを確認すると彼らもソファに座った。
「失礼します」とタイミングを見計らったようにスーツを着た男性があられると紅茶を人数分置いて去っていった。
――何もかも手際が良すぎるな。
横目で市川を見たが彼はすました顔をしていた。
今回の事がこの『条件』のために仕組まれたとしても、彼らを恨むのはお門違いな話である。手の上で転がされた自分を恥じるべき事くらい遥斗は理解していた。
「今回は大変だったね」新宮医師が笑顔で言った。
「私たちの選択した結果ですので仕方ありません。前置きは必要ありませんので条件をお願いします。どんなものでも承諾します」
「そう。まぁ、そんなに警戒しなくても悪いようにはしないよ」
穏やかに笑う新宮医師の腹の底が見えない。神田医師は何も言わないが表情がない。以前診察を受けたときとは別人のようであった。
――僕らの反応を見ていたのか。
「条件ですが」初めて神田医師が口を開いた。感情のこもらない声であった。「遥さんはDomとして非常にすぐれた能力を持っています。Domをも従わせるGlare(グレア)など今まで聞いたことがありません。是非とも我が研究にご協力頂きたいと思っております」
「分かりました」遥斗は頷いたがただ、言いなりになるつもりはなかった。「今日ですと遥が起きるまでとなりますが、後日でしたら日程と時間をお知らせください」
「ご協力感謝するよ」新宮医師は穏やかに笑って言った。「今日は少し様子を見させてほしい。以降も研究に協力してほしい。その都度、ダイナミスクに関する情報と謝礼を渡すよ」
新宮医師の言葉にうなずくと、神田医師は紙を一枚テーブルの上に置いた。
遥斗はその紙を見て目を細めた。
「謝礼ってこんなにですか……?」予想外の展開に目を白黒させた。「今回の助けてもらう条件として研究協力するではないですか?」
「あぁ、神田の言い方が悪かったね。条件は研究協力の契約書にサインだよ。そこに書いてある待遇に不都合があれば言ってくれて構わないよ。謝礼が足りなければゼロを書き足してくれたまえ」
新宮医師は笑顔であったが目の奥が鋭く光り、まるで獲物を逃がさないように睨みつける蛇のようであった。
――自主的に協力してもらうためか。
よく見ると、契約書に有効期限が書いてあった。
「一か月ですか?」
「うん。一か月手伝って見て良ければ契約を継続しよう。そこに書いてある通り、薬物投与など身体に害することはしないよ。Glare(グレア)やコマンドを使用してほしい。それ以外の協力を求められたら断ってもらってもいいよ」
「条件が良すぎます」
遥斗は裏があるのではないかと疑った。契約書を隅々までみたが、彼が言ったことがきちんと記載されている。謝礼も一回の協力で半年は生活できる金額だ。
新宮医師は小さくため息をついて、前で手を組んだ。
「君は自分の価値を理解していないね」
「価値……?」
神田医師が市川を指さした。
「あはは」指をさされた市川は乾いた笑いを浮かべた。「Domは作れないんですよ。Domを作ろとして生まれたのが僕チャン。DomとDomの遺伝子を使って作られたらしいですがNeutralでした」
市川は長袖のシャツをめくり、腕を見せた。
いくつもの青い痣があった。
「Domの遺伝子を入れた後ですねぇ」ヘラヘラと笑いながら市川はなんでもないことのように話した。「そしたら、Glare(グレア)が効果ないのと超人的能力を授かりました。けど、NeutralのままでコマンドもGlare(グレア)も使えません」
ゾッとした。
こんな実験を繰り返す彼らもそれを平然と受け入れる市川も狂っていると思った。しかし、今回助けてもらっている以上、遥の事を考えると逃げだす訳にはいかなかった。
「……Domはって言いましたがSubは作れるのですか?」
それを聞いた瞬間、新宮医師と神田医師はニヤリと悪魔の笑顔を浮かべた。
聞いた事を後悔したが遅かった。
「研究中だがもう少しだ」
「DomとSubが自由に作れたとしてどうするつもりですか?」
怖かったが一番の疑問を聞いた。
「うん?」
「え?」
その質問に新宮医師も神田医師も首を傾げた。
「どうするつもりもないよ」
「そうですね。研究して完成させるのが面白いからやっているんですよ」
神田医師の言葉に新宮医師も頷いた。
「そうだね。この研究が終わったら次を考えるよ」
二人はなんでもない顔をしていた。
Domのコマンドを自由に扱えるようになり、相手をSubにかえることができたら世界征服も現実味を帯びてくるが二人には全く興味がないようだ。
彼らの異常性に鳥肌がたった。
しかし、研究をとめるきは遥斗になかった。
なんとなく、市川を見ると彼が凄まじい目で医師たちを見ていた。
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