【R18】僕だけの大切な弟。誰にもわたすつもりはない。〜DomSubユニバース〜

黒夜須(くろやす)

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第三十九話 星遥斗⑥

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翌日。
遥が学校に行っている間に病院へ向かった。本当は学校を休ませたかったが本人が拒否したため仕方なく認めた。
遥がいないため、電車を使った。余り得体の知れない『オトウサマ』の力を使いたくなかったが遥が不自然に思わないように程度に利用している。
病院に着くと総合受付に行った。昨日と同じ女性の事務員がいた。
「おはようございます。星です。昨日は丁寧な対応して頂きありがとうございます」
「いえ」女性は顔を赤くして頷いた。「えっと、神田医師ですね。すぐにつなぎます」
彼女は頬を赤く染めたまま内線につないだ。何度か頷くと、電話を切り診察室へ案内された。
「あー、星さんね」偉い態度で神田医師が椅子にふんぞりかえっていた。「座んなさいよ」
「はい」
神田医師は遥斗が座ったことを確認すると書類を渡した。
「弟さんねぇ。結果はSubだよ。Subなんて大変な弟を持ったねぇ」大きく腹を揺らしながら神田医師はニヤリと笑った。「もしかしてお兄さんもSub?」
「ダイナミクスに関する法をご存知でしょうか?」
遥斗は穏やかに笑うと神田医師は顔を歪め小さな声で「ガキが」と言った。
「ガキでも人権があります」
笑顔を絶やさずに遥斗は静かに言いながら、新宮医師が神田医師を推薦したことについて考えた。
新宮医師は彼を『優秀』と言った。
ダイナミクスの第一人者と言えば新宮幹久であり、神田勉なんて名は聞いたことがない。
「アハハ、そうですね」笑いながら神田医師は袋を渡した。「コレ薬ね。飲み方は中に書いてあるから。じゃ、お大事に」
そう言って神田医師は手を振った。その態度が先ほど全く違い不気味に感じたが、詮索できない雰囲気であったため遥斗は薬を持つと頭を下げ診察室を出た。
待合室には平日にも掛からず多くの患者がいた。
「病院ってこんな混んでるんだ」
あたりを見回しながら、遥斗は病院を出た。すると、桜が風に舞っており葉桜になっている木もあった。
遥斗は風にふかれながら駅へ向かった。
自宅に着くと腕時計を見てからすぐに自室に入りノートを開いた。
「迎えまで、数時間か」
高速でペンを動かしながら課題を片付けると封筒に入れた。
遥との時間を確保するために、通信制の高校を選んだ。出される課題は一瞬で終わるものばかりであった。
「よし」
遥斗は次に、パソコンを起動すると文章を打ち込んだ。遥との生活を維持するために物語を書いて編集部に送った。それが見事に当たり、今はいくつかの仕事をもらっていた。
「……もうこんな時間か」
気づけば遥を迎えに行く時間になっていた。
遥斗は上着を着ると外へ出た。遥はいつも通り新宮と一緒に帰ってきたのが、その時異様な視線を感じた。新宮も遥も気づいていないようであったためその場は追跡せずに帰宅した。
帰宅すると、遥をリビングルームのソファに座らせて検査結果と薬を見せた。
「うそだぁ」遥は大きな声を上げて否定した。「Subってアレだろ。叩かれたり蹴られたりが嬉しい変態だろ」
遥斗は宥めようとしたが、それを振り切り自室に閉じこもってしまった。
ダイナミクスについて学校で学習する。教材には差別的な要素はないが教える教員やその周囲の影響でSubに対する伝わり方が異なる。現代社会ではSubに対する差別は多くある。逆にDomに対して勝手な期待や理想を持つ者も少なくない。
「遥」
遥の部屋を軽くノックしたが返事がない。鍵がないため、入ることはできるが無理はしたくなかった。
扉に耳を当てると、すすり泣く声が聞こえた。
遥斗がDomだと知った時、特別に何かを思う事はなかった。だから、遥のこの反応は想定してなかったためどう対応していいかわからなかった。
「遥、入っていい?」
再度ノックをして聞くと「いやー、くんな」と言う声がした。
「分かった。遥が開けてくれるまで待っているね」
遥斗はそう言うと扉の前に座り携帯を出し、指を素早く動かすとメールを送った。すぐに金額が掛かれたメールが返ってきた。遥斗は承諾のメールを出した。
携帯をしまうと、遥の部屋の扉をぼーっと見た。
表札があるわけではない普通の木製の扉だ。以前はこの部屋を市川が使用していた。使用と言っても、寝ているだけで、荷物は鞄一つであり部屋に何も置いていなかった。
彼の事はいまだによく分からない部分があるが、約束を正確にこなす男であった。

窓の外が暗くなった頃。
ゆっくりと遥の部屋の扉が開いて隙間から彼の顔が見えた。
それに気づいていたが、なんて声掛けたら良いか分からなくて膝に顔をつけたまま動かないでいた。
「兄……。寝てる……?」遥が近づいてきた気配がした。「兄」
彼は寂しそうな声を出して、遥斗の髪に触れた。
「遥」
小さな声で名前を呼び、顔を上げると「兄」と言って遥が抱き着いてきた。
「ずっと、いたの?」遥の声は泣いてようで枯れていた。「ごめん。俺がSubなのは兄のせいじゃないのに……。心配して対象外なのに検査までしてくれたのに俺、俺」
「いいよ」遥斗は優しく言うと遥の頭を撫ぜた。「落ち込むのは仕方ないよね」
「うぅぅ……」
遥の涙と鼻水をタオルで拭くと、彼を抱きしめた。胸の中で遥はまた泣き出した。
「兄は……?」遥の小さな声が聞こえた。「なに?」
「僕はDomだよ」
それを聞いた瞬間、遥の身体がこわばった。彼を優しく撫ぜながら「怖いことはしないよ。守るよ」と言うと安心したように頷いた。
「兄……」
「なぁに?」
「お腹空いた」
「あはは、そうだね。だから出てきたの?」
そう言うと遥は恥ずかしそうに頷いた。
遥斗は、遥を離すと彼に手を差し出し一緒に立ち上がった。
「どうしょうかな」
遥斗は冷蔵庫の中身を思い浮かべながら、台所へ向かった。そんな遥斗を遥は嬉しそうに追った。

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