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43限目 疑惑

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 しばらくして、扉を叩く音が聞こえたので返事をすると、ユリコが「失礼致します」と言って扉をゆっくりと開けた。入室すると、レイラの側まで来て頭を下げた。

「伊藤(いとう)カナエはどうでしょうか」
「どうも何も、決まったことでしたら私には何の権利もありませんわ」
「それはそうですが……、あまり好ましい方ではないと感じましたので」
「よく見ていますわね」

 ユリコの勘の良さに感心し彼女は頷いた。レイラはごまかしても意味がないと感じ素直答えた。

「この後は、ピアノのレッスンですよね。講師が到着しましたら山崎(やまざき)がピアノ室に案内します」
「承知しました」

(そーだよ。専属家政婦がいない間は彼女らの管理にてる山崎がでてくるよな)

「それではこれで失礼致します」

 ユリコは手を前で揃えて、丁寧に頭を下げると扉を開けてた。部屋の外に出ると、彼女はすぐに、レイラの兄であるリョウの部屋へと向かった。

 リョウの部屋の扉を叩くと返事と共に扉が開いた。出迎えたのは勿論、リョウである。

「ユリコさん」

 彼はユリコの顔を見ると頷き、すぐに部屋を出た。その後をユリコがついて行った。
 彼は外に出ると、門の前に止まっている車の方へ足早に向かった。勿論ユリコもついてくる。

 リョウの運転手である港(みなと)はリョウの姿を確認すると、後部座席の扉を開けた。リョウは「ありがとうございます」と告げると車に乗り込んだ。後からきたユリコはお礼とお辞儀して車に乗り込んだ。

 港は二人が車の乗りこんだことを確認すると扉を閉めて、自分も運転席に座り二人に声を掛けると車を動かした。

 車はしばらく走ると、大きなショッピングモールの屋上駐車場に止まった。
 夏休み期間中ということもあり、多くの車が止まっていた。
 リョウたちが乗る車はエレベーターに近い場所に止まってので、多くの利用客が車の前を通り過ぎていく。

「それでは二時間ほどでよろしいでしょうか」

 運転席から顔を出した港が後部座席に座る二人の方を見て声を掛けた。
 リョウが頷くと港は「それでは失礼いたします」とお辞儀をして車から出て行った。
 リョウはそれを確認すると、ユリコの方を向いた。彼女がしわくちゃな顔に更にシワを増やして笑った。

「いつも、ありがとうございます。こんなババアを女性と扱ってくれて嬉しいですよ」
「ババアなんてとんでもありません。ユリコさんはとても魅力的な方ですから誰からも見られない部屋で二人きりなったら私は間違えを犯してしまうかもしれません」

 リョウの言葉を聞いてユリコは穏やかに笑った。

「ここなら、通行人の目と監視カメラがあります。なので、もし本当に私がユリコさんの魅力に負けてしまいましたら、遠慮なく訴えてください」

 ユリコは真剣な顔で力説するリョウがおかしくて仕方なかった。
 年齢差でいったら親というより祖母という方が近いが、リョウは常にユリコを女性として扱う。

「妹のレイラさんとは、彼女の部屋で二人きりになりますよね」
「妹ですから」
「“妹”という言葉を免罪符によく使いますよね」
「……そんな、そんなことよりも、本日の報告をお願いします」

 リョウはバツの悪そうな顔をして、話を無理やり変えた。

「承知致しました。予定通りにレイラさんは、カナエさんと打ち合わせを行いました」

 ユリコは手を顎に持っていき、考える様な態度をとっていました。リョウは何も言わず、彼女の方をじっと見て言葉を待った。

「初対面であったはずですが、カナエさんの顔を見たレイラさんはひどく驚かれていました。悟られないように笑顔を作られて話しておられましたが……、なんというのでしょうか。相手を探るような対応でした」
「そうですか」

 リョウはゆっくりと息をはいてから、フロントガラス越しに通行人を見た。だれ一人として、車の中にいる自分たちを気にする人間はいない。

 ユリコは鞄から、一枚写真を出してリョウに差し出した。リョウはそれを見ると頷き、タブレットを取り出して“レイラ”というフォルダをタップした。すると、レイラの写真が大量に出てきた。その一枚を大きく表示した。

「ユリコさん」

 リョウはユリコが持つ写真の横にタブレットを置き指さした。

 ユリコはそれを見て驚いた。

 タブレットの写真の中央には二人の人物が映っていた。一人はレイラだが、問題はその向いでニヤリと笑っている人物だ。

 カナエそっくりなのである。

 ユリコは自分の持つカナエの写真と何度も見比べた。その人物はカナエの若い頃の写真と言われたら納得できるが近くにレイラが写っているためカナエとは違う人物だとわかる。

「彼女は中村彩花です。レイラさんと同じクラスの人間です」
「中村……」

 ユリコは眉を寄せつぶやきながらリョウの顔を見た。

 彼は更にタブレットを操作し、先程の写真の隣にもう一枚の写真を並べた。その写真には正装をした若い男性が写っていた。彼もカナエ程ではないが、彩花に似ていた。

「中村幸弘です。レイラさんの元婚約者で、中村彩花の兄です」

 リョウは写真の人物を指差して説明した。ユリコは考えなが、ゆっくりと口を開いた。

「……つまり、中村幸弘さんのお父様とカナエさんの子どもが中村彩花さんと言うことでしょうか?」

 リョウは首をゆっくりと横にふり、ため息をついた。

「恐らく、カナエさんと幸弘さんの子どもが中村彩花だと思います」
「ーッ」

 リョウの言葉にユリコは言葉を失った。目をシロクロさせながら自分の手のある写真とタブレットの中にある写真を見比べた。

「中村彩花さんは、レイラさんと同い年ですよね。ってことは12,3年前ですか? 中村幸弘さんは今大学生ですよね?すると当時小学生ですか?」

 ユリコは指を折り、年齢を何度も計算した。

「早い子でしたら可能ですよ。男の子ですし周囲にはバレませんよね。伊藤カナエさんは今30代ですから出産は可能ですね」

 落ち着いて話すリョウに対してユリコは動揺を隠せず青い顔をしていた。

「……確証があるのですか?」
「いいえ、ただ幸弘さんの父の浮気の証拠が一切なく、幸弘さんは女遊びが派手であるという状況からの推測です。DNA鑑定の結果を見たわけではありませんので確証はありません」
「……」

 リョウの話を聞いてカナエは難しい顔をした。

「彼女が他人の空似であり中村家とは一切関係ないのでしたらそれはそれで構いません。ただ、可能性があると言うのが問題なのですよ」
「確かにそうですね」

 ユリコは、リョウの言い分に納得した。
 様々な可能性を考えて対策をとる事は大切だ。今回の件が取り越し苦労ならそれでもいい。しかし、事実だった場合問題だ。

「母の会社からの派遣ですよね」
「そうですね」

 リョウは少し考えるとユリコに見せていたタブレットを自分の膝の上に置いた。そして、家政婦派遣会社のホームページを出した。それをユリコに見れるように傾けた。

「これ」
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