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序章
西、来訪
しおりを挟む――約13時間。
たかが6時間程度の隣国までの旅路に、これほど時間がかかると誰が予想できただろうか。
国境を超えた途端に山賊に足止めされ、盗賊に襲われ、道中に仕掛けられた対人用の罠に従者が嵌まり……迂回に迂回を重ねた結果、宴開始30分前というギリギリの到着になってしまった。
流石、『盗賊の国』と呼ばれる東の国だ。
我が国 西国の東に位置する東国は、大陸内最小にして最弱と詠われる国だ。
そう揶揄されるようになった所以は、世界から迫害を受けていた桂の一族の亡命を、先代東国皇帝が受け入れたことにある。
世界最強の戦闘民族である桂は、大陸のすぐ近くにある玉兎という小さな島の先住民族だった。島民全員が『月華』と言う特別な力を宿し、闘争や殺戮を好むことから、彼らは戦や犯罪を生業とした。
戦をすれば右に出る者はなく、なす術がなかった他国民は、長年海を渡って津波のように全てを襲い来る桂の存在に怯える生活を強いられてきた。
無敵だった桂の歴史に終止符が打たれたのは約30年前。
我が西国が、彼らの月華に対抗しうる石の研究に成功し、流通させ、人類の悲願であった桂の弾圧に成功した。
略奪し続けた世界各国からの総攻撃は、最強の戦闘民族でさえも太刀打ちはできなかった。絶滅寸前にまで追い込まれ、種の存続危機の事態にまで陥り、桂の族長は民族の他国への亡命を試みた。
しかし、これまで散々脅威を示してきた民族の命乞いなど、当然ながらどの国にも受け入れられることはなかった。進退両難、四面楚歌……打つ手なしの状況に見切りをつけた桂人の中には、密航などで他国に不法入国した者も少なくなかったそうだ。
だが、そんな窮地にあった桂に、ある日、一筋の蜘蛛の糸が降り立った。
生存する桂の亡命を受け入れてくれる者が、たった一人だけ見つかった。それが、先代の東国皇帝だった。
しかし、当時から国の発展は愚か、自衛さえもままならない状態にあった東国に桂が流入したその末路は……もう言わずとも分かるだろう。
島に戻ることを許されなくなった桂の一族は、再び自国を立て直すべく、東国政権の崩壊を目論んだ。まさに恩を仇で返す畜生同然の所業であり、今日まで東国のゴロツキに紛れて、内乱を起こし続けている。
そして現在――
すでに制御不能となり、なんとか一日を持ち堪え続ける東国に、半年前、私は見返りと引き換えに、とある話を持ちかけた。
それは、東国を我が西国の保護化に置く提案だった。
元々戦弱小国であった東国にとって、この提案は願ってもいないことだったろう。断る理由などない。自国の民も一刻も早く保護国になることを望んだ。
だから今日、私は、危険を犯してまで、わざわざこの東国に足を踏み入れた。
約半年間、保護国化への準備を進めるためにこの国に滞在する。弱体化したこの国の実情を調査し、梃入れを行い、東国の立て直しを試みる。
「西国皇帝が、ご到着されました」
――ただし、半年間の命の保証はない。
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