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文化祭

15.恋人同士みたいに

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「・・・よし、こんなもんじゃねー?」

「ありがと、あきら」


服は何とか汚さずにすんだけど、髪が少し乱れてしまってたのを、あきらがなおしてくれた。

後はまた、教室でキレイにしてもらえば・・・って、オレまだ、この格好でいなきゃダメなのかな・・・


「・・・レイキ、まだ、カラダ、あつい?」


あきらがオレにカオを寄せて、小さい声で聞いてくる。


「え・・・っ、なん、で」


・・・確かに、まだカラダの熱は引いてない。

あきらがそばにいるから、どきどきして。


「・・・まだ、色っぽいカオ、してるから・・・さ」


オレは思わず両手でカオを抑える。


「うそ・・・・ オレ、ヘンなカオ、してんのか?」


カオを抑えたオレの両手に、あきらが触れる。


「ヘンなカオじゃなくて、色っぽいんだよ。
・・・ほら、カオ触っちゃダメだろ。 化粧が落ちる」

「あ・・・うん」

言われて素直に手を下すと、あきらは口角を持ち上げた。


「な、レイキ。 いろいろ見て回ろうぜ」

「え、でも、シフトが・・・」

「レイキはもう終わってる時間だろ。 オレはまだ休憩時間だし」

「そうなのか? でも、執事の格好で戻ってきたじゃん」


オレを助けてくれたとき、執事の格好だったから、今もそのままの姿だし。


「レイキが入ってるって聞いたから、オレも入ろうかと思って着替えただけ。 次のシフトまでまだ時間あるし・・・
いいだろ?」


思わずカオが緩んでしまう。

あきらと回るなんて、無理だと思ってたから。


「じゃあさ、1回戻って着替えようぜ」

元気よく立ち上がると、あきらは首を振った。

「このまま、行こうぜ」

「はあ!?」

何言ってんだ。

「目立ち過ぎだろ! それにオレ・・・いいかげん、恥ずかしーし」


あきらがオレの手を掴んで引き寄せる。


「・・・オレ、かわいいレイキと一緒に回りたいなー。
それに、このカッコだったら、手つないでいけるじゃん」

「手・・・って、バレるだろ」

「ばれたらばれたで、笑って流せばいい」

「でも」


嫌がるオレに、あきらは悲しそうな瞳を向けた。


「・・・レイキは、オレと手つないで、回りたくない?」


う・・・・それ、は・・・・


「・・・・・・まわり、たい」


小声で言うと、あきらはパッと笑顔になった。

「決まりだな! じゃあ、行こうぜ!」








「あ、チョコバナナだって。 レイキ、好きじゃねー?」

「すき・・・だけど」

「買う?」

「・・・・いい」

「いいのか?」

コクン、と、小さく頷いた。


オレとあきらは、今、手を繋いでいる。 ・・・・いわゆる、恋人つなぎというやつで。


チョコバナナは美味そうだけど・・・・

周りの視線が痛すぎて、食う気になれない。


「きゃー♡ あの人、カッコいいー♡」

「彼女も、かわいいねー♡」


学校外のお客さんは、オレたちを普通の恋人同士だと思ってるんだろう。

あたたかく見てくれるわけだけど。


「・・・誰? あの女」

「メイド着てるってことは、2-Bのコよね?」

「・・・・あきらくんと手つないで・・・」

「あきらくんの彼女って、あのコなの?」


学校内の女子からは、オレはすっげー敵視されてて。 

めちゃくちゃ、睨まれてる・・・・・



「すげー、あのコ、かわいいな」

「2-Bに、あんなコ、いたっけ?」

「城井の彼女なのかな・・・・」


男子からかわいいって言われんのも、微妙だしな・・・・



あきらと一緒に回りたかったけど、これじゃ全然落ち着かない。



「そこのふたりー! よかったら、ホラーハウス、来てよー!」

校舎の廊下に明るい声が響く。

振り返ると・・・・・


げっっ! 修吾!!


オレは慌ててあきらの後ろに隠れた。


「あ、なんだー。 あきらじゃん」

「修吾のクラスは、ホラーハウスやってんだったな」

「そそ。 よかったら来てよー ・・・・って、女のコ連れてんの?
・・・・めぐみちゃん?」


心なしか、修吾の声のトーンが低くなる。


「いや、高野じゃねーよ。 オレの彼女」


「彼女ぉ!?」


修吾はキッてあきらを睨みつけると、その襟元をぐって掴んだ。


オレは慌てて修吾の腕を掴む。


「修吾! ストップ!」


「なんだよっ・・・って、え???」


ばっちり、修吾と目が合ってしまった。


修吾はオレを見て、目を見開く。


「え・・・ レイ、キ?」


問われてオレは仕方なく頷く。


「うそだろー!?」

「ちょっ・・・! 大声やめろって!」


オレの制止なんて全く聞かず、修吾はオレ肩を掴んで、カオを覗き込んできた。


これっ・・・! 距離、近い・・・・・!


「うわ! まじでレイキだ!
すげー! 全然分かんなかった!」

「な? 『彼女』、だろ?」

あきらが口角を持ち上げる。


「確かにな!
それにしても・・・・・ すげーかわいい・・・・・♡」


修吾の瞳が、ハートマークになってる・・・・



修吾が騒いだせいで、どうしたんだとオレたちの周りに人が集まってくる。


あんまり人に見られたくないオレは、うつむいて、すっと人の輪から抜け出した。

追いかけてきたあきらに腕を掴まれる。


「・・・・レイキ、いこ」


あきらはオレの腕を引いて、その場から立ち去る。

その足は、屋上へ向かっていた。



「・・・・レイキ、ゴメン。
・・・レイキがすげーかわいかったから、オレのつき合ってる人だって、自慢したくなってさ・・・・
・・・・・大丈夫だったか?」


あきら・・・・

かわいくて、自慢したいって・・・・

なんか、すげー、うれしいな・・・・


「ああ・・・・ でも、女のコたちの視線は、怖かったな・・・・」

少しげんなりして言うと、あきらは微笑んだ。


でも改めて・・・・ オレ、すげーモテる人とつき合ってんだって・・・・ 自覚、したな・・・・



「屋上で、ゆっくりしよっか」

手を繋いだまま階段を登りきって、屋上にでる。



「お、あきらー」

「あきらくん!」

そこには、亮介と小山さん、河原、紺野がいた。


・・・・やべっ! 会いたくねー!!


オレはみんなに背を向けて屋上を出ようとしたけど、あきらはオレの手を離さない。


「あきらくん、誰連れてきたの?」

「クラスのコ?」

「おい、あきら・・・・ レイキは、どーしたんだよ」

修吾と同じように、亮介の声のトーンも低くなった。


「レイキ連れてきた」


「は?」

「え?」


・・・・もーあきらめるしかねーか・・・・


オレはみんなを振り返って、へらって笑って見せた。


「・・・・よぅっ」


みんなが、オレを見て、固まる。


「うそっ・・・・ レイキ、くん・・・・・!?」

「レイキかよー!」

「坂本くん、かわいいー♡」


みんなに囲まれて、まじまじと見つめられた。


「はずかしーんだけど・・・」

「似合ってるよー!」

「うん、すごいかわいい♡」


ひとしきり騒がれた後、みんなで座ってお茶にした。

紺野たちは、休憩がてらみんなで食べようと、いろいろ買って持ち寄っていたらしい。

そこに、オレたちは混ぜてもらうことにした。


「坂本くん、ほんとにかわいいねー」

「普通に、恋人同士に見えるよ」

「そ、そうかな」

「うん!」


「じゃあさ、こんなことしても、ヘンじゃない?」

あきらは、自分の食べていたたこ焼きを差し出してきた。

「はい、レイキ。 あーん、して」

「えっ」

「いいから」


みんなの視線を感じるけど、あきらは引き下がる気ないし・・・

オレは諦めて、口を開けた。

あきらに食べさせてもらう。


「・・・どう?」

あきらが聞くと、小山さんたちはにこにこして頷いた。

「うん、違和感、ないよ」

「いいと思うー」


「じゃあ、これは?」


あきらは今度は、オレの腕を掴んで引き寄せてくる。


「うわっ・・・」


あきらのカオが、至近距離だ。

そのまま、あきらがカオを寄せてくる。


ちょっ・・・・・!


キス、しようとしてる・・・・・!?



「やめろっ・・・!」

「ばーか」

ぱこって、亮介があきらの頭をはたく音。

「あきら、調子乗り過ぎだろ。 そーゆーのは、2人の時にやれ」


オレもあきらをにらみつける。

「・・・そーだよ。 さすがにダメだろ」

あきらはそんなオレの頭を撫でた。

「ゴメンゴメン。 怒んなって」

「・・・・別に、怒ってねーけど」


「もー、見せつけないでくれる!?」

河原の声が響く。

「私と美月は一人身なんだし、見てたら寂しくなるでしょー!」


・・・・っ、そう、だよ、な。


「ゴメン」

慌てて謝るけど。

「坂本くん、気にしなくていいわよ。 2人とも、彼氏出来そうだから」


『えっ、そうなのか!?』

小山さんの言葉に、オレと亮介がハモる。


「綾乃はこの後、クラスの男子と一緒にまわる約束してるんでしょ?
最近結構アプローチかけられてるし・・・コクられるんじゃない?」

「うーん、どうかなあ・・」

河原は、少し照れたように笑う。

「コクられたら、つき合うんでしょ?」

「んー・・・
本当はあきらくんの方がいいけど、無理だし。
まあ、失恋から立ち直るには、新しい恋がいいっていうしね♡」

「いいんじゃない? つきあってみなよー」

「うん♡」


へーっ。

河原、そんなイイ感じの相手いるんだ。

美人だもんな。 すぐ彼氏出来そう。

「河原よかったな。 おめでとう」

「・・・あきらくんに言われると、軽く傷つくんだけど」

笑いながら、軽くあきらをにらむ河原。


「え・・っと、紺野も、なのか?」

さっき小山さん、『2人とも』って言ってたし。


「あ・・・ 私は、別に」

「うそー。 美月、昨日コクられたって言ってたじゃない。 部活の後輩に!」


部活の後輩って・・・・ もしかして・・・・


昨日の記憶が蘇る。

オレのことにらんでた、あいつ・・・?


「坂本くん、昨日美月に差し入れ持っていったんでしょ? その後輩くん、それを見て、坂本くんのこと彼氏だと思ったんだって!」


やっぱり・・・

でも、彼氏だと思われたなんて・・・

「・・・なんか、ゴメンな、紺野」

「ううん! 気にしないで!」

紺野はふるふると首を振った。


「でも、むしろそう思われて良かったんじゃない?」

「え、なんで?」

「その後輩くん、美月に『さっきの人は、先輩の彼氏ですか』って聞いてきたんだって」

「それで美月が否定したら、『じゃあ、僕とつき合ってくれませんか』って言ってきたんだってー♡」


きゃー♡って、河原と小山さんが盛り上がる。


・・・・やっぱあの1年生、紺野のこと好きだったんだな・・・


「紺野いいじゃん! つき合うのか?」

亮介の問いに、紺野は首を振った。


「ううん。 今までそんな風に見たことなかったし・・・ びっくりして」

「告白されたら意識しちゃったりとかあるじゃない。 返事急がなくてもいいんじゃないの?」

小山さんが言うけど、紺野は難しいカオをした。

「でも・・・・・待たせるのも悪いし・・・・」


「ふーん。 紺野の中では、その後輩はナイんだな」

はっきりとあきらが言う。

「だったら、期待させるだけ、残酷だもんな」

「うん・・・そう思う・・・・」


「えーっ、あのコ、結構かわいかったよ? 美月、もったいない!」

「ちょっ・・・ 恵梨香ちゃん!?」

紺野の後輩を褒める小山さんに、亮介が慌てる。

小山さんはそんな亮介を見て、ニコって笑った。

「亮介くん、やきもち? うれしいー♡」

そう言って、亮介に抱き付く。


・・・・・もー、勝手にやってくれ。


紺野も、小山さんと亮介を見て苦笑い。


「あ、私そろそろ行かなきゃ」

「待ち合わせ?」

「うん」

河原が立ち上がる。


「綾乃、待って。 私も行く」

そう言って、紺野も立ち上がった。


「美月は、後輩くんと待ち合わせ?」

うきうきして聞く小山さんに、紺野は少し困ったように笑った。

「うん・・・ なんて言ったらいいか、迷うなあ・・・」


「私、一緒に行こうか?」

「綾乃も待ち合わせでしょ」

紺野と河原は、仲良さそうに腕を組む。


「綾乃も美月も、がんばってね♡」

「うん。 みんなばいばい♡」

2人はオレたちに手を振って、屋上を出て行った。



「オレたちも、少し見て回ろっか」

「うん、行くー♡」

小山さんと亮介も、手を繋いで立ち上がった。


「じゃあね、坂本くん、城井くん」

「じゃあなー」


みんな出て行って。 屋上には、オレとあきらだけになった。



・・・自然と見つめあって。

キスを、する。


オレたちは屋上の端の方で、フェンスの方を向き、体を寄せ合って過ごした。

他の人から見たら、オレたちの後ろ姿しか見えないから、男女が仲よさげに座ってるように見えるだろう。

屋上に出入りする人はいたけど、寄り添って座ってるオレたちに近づいて話しかける人なんていなかったし、2人でゆっくり過ごすことが出来た。



特になにか話したりはしなかったけど、学校の屋上で、恋人同士みたいに過ごせるなんて、オレはすごくうれしかったんだ。



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