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31.自己嫌悪
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月曜日。
重い気持ちで大学に向かう。
講義室の入り口のドアの前に立ち、オレは小さくタメ息をついた。
・・・・マコトに、どんなカオして会えばいいかな。
「よ、レイキ」
明るい声と共に、肩を軽く叩かれる。
振り返ると、ユージだった。
「ユージ、おはよ」
「どーしたんだよ、入んねーの?」
「は、いるよ」
ユージに促されて、講義室のドアを開ける。
いつもこの時間は、もうマコトは来てるよな・・・・
中に入ると、やっぱりマコトはもう来ていた。
「マコちゃん、おはよー」
ユージはすたすたとそっちに近づいていく。
オレも、ユージの後ろについて行った。
エリナちゃん達ももう来ていた。
「レイキ、おはよう」
「・・・・・おはよ」
マコトはいつもの様にあいさつしてくるけど、オレは返せなくて。
マコトのカオが見れない。
ダメだ。 フツーにしたいのに。
「なあ、この間あの後、レイキ大丈夫だったのか? 結構飲んでたみたいだったけど」
ユージに聞かれて内心焦る。
「あ、ああ。 マコトに送ってもらったから、大丈夫だった。
ユージは? 木島くんと飲んだんだろ?」
オレのことはあまり聞いて欲しくないから、ユージのことを聞いてみた。
「ああ。 あの後2人でまた結構飲んだなー。 タカト、すげーイイ奴だった」
「『タカト』って呼んでるんだな。 ホント、気が合ってたみたいだもんなー」
オレたちが話してると、咲良ちゃんが話に入ってきた。
「ユージくんたち、飲みに行ったの?」
「そうなんだよー」
ユージが男4人で飲んでいたこと、あきらの同級生たちと一緒になったことを話すと、女のコたちはブーイングだった。
「医学部生と飲んだなんて、ズルい! 誘ってよー!!」
「ゴメンゴメン。 今度また、誘うからさ」
ユージが手を合わせて謝ってる。
「レイキくんの同居人さんは? やっぱりカッコよかったの?」
「ああ! すげーカッコよかった! な、マコちゃん?」
ユージに聞かれて、マコトも頷く。
「ああ。 やっぱりすごいカッコよかったな。 しかも、同級生のすごい美人のコにめちゃくちゃアプローチされてたし」
「そうそう! 彼女いるのに、すげーよな! うらやましい」
「えー。 レイキくんの同居人さん、彼女いるんだ?」
「しかも、医学部にそんな美人なコがいるの?」
女のコの質問に、ユージは深く頷いた。
「いるんだって! すげー美人なの!」
桜庭さんを高評価するユージに、女のコたちは驚いているようだ。
・・・・やっぱり、医学部にそんな美人がいるって、ちょっと驚くよな・・・・
「あんな美人にアプローチされちゃ、彼女も気が気じゃないよな。 ・・・・な、レイキ?」
急にマコトがオレに同意を求めてきた。
「そ、そうだな」
オレは慌てて返事をする。
「彼女は、桜庭さんのこと、知ってるのか?」
「さ、さあ・・・・・ 知らねーんじゃねーの」
・・・なんでマコト、こんなこと聞いてくるんだ・・・・
「そうか。 ・・・まあ、知らない方がいいだろうな」
マコトの言葉が、重くのしかかる。
・・・・・・確かに。 知らない方が、良かったな・・・・・・
今までは、あきらはモテるからっていう漠然とした不安だったのが、桜庭さんを知ったことで、明確な不安になってる。
思わず、小さくタメ息をついた。
「・・・・レイキ・・・・ 大丈夫か・・・・・?」
マコトがオレにカオを寄せて、至近距離で聞いてきた。
その距離に、びくってカラダが震えてしまう。
「な、なにが? 大丈夫だよ」
なるべく平静を装って、へらって笑った。
マコトも口角を持ち上げる。
・・・・・どうしよう。 なかなか、フツーに出来ない。
「あ」
マコトの右手の親指。 絆創膏が貼ってあるのに気づいた。
その傷って・・・・・
オレがじっと見てるのに気づいたマコトは、左手でその傷を隠した。
あれって・・・・ オレが噛みついた傷、だよ、な・・・・・・
あの時の記憶が鮮明に蘇ってしまう。
マコトにキスされて、
舌や指で肌を撫でられて、すごく反応してしまった。
快感に、流されそうに、なってしまってた。
『レイキ・・・・・! お前、やばい・・・・!』
そう言って、熱に浮かされた表情をしていたマコト。
思い出して、腰に、甘いしびれが走ってしまう。
「ねえねえレイキくん! もう1回、飲み会企画してよー」
咲良ちゃんに言われて、オレは慌てて頷いた。
現実に、引き戻される。
「ん、わかった。 木島くんとはユージが連絡取りやすいだろうし・・・・ 木島くんたちに、声かけてみて?」
「おっけー」
ユージもにこにこ頷いてくれる。
ちゃんとフツーにしてないと、みんなに変に思われてしまう。
気を付けなきゃな・・・・
昼休み。 みんなで学食に連れだって行く。
食券を買うのに並んでいると、ポンって肩を叩かれた。
振り返ると、
「え・・・・ 駿、さん・・・・!?」
「やっぱり、レイキくん」
立ってたのは、笑顔の駿さんだった。
「なんで、ここに?」
駿さんは大学病院の勤務だから、こっちのキャンパスに用はないはず・・・・・
「今日昼から、大学の方の健診に駆り出されててさ。 それなら久しぶりに、こっちの学食で食おうかって寄ったんだ」
駿さんの隣には、駿さんと同年代の男性。
オレがぺこりと頭を下げると、その男性も会釈をしてくれた。
きっと、駿さんと一緒に健診の手伝いに来た先生なんだろう。
「ねえレイキくん、誰? 誰?」
オレの腕に抱き着いてきて、小声で聞いてくる咲良ちゃん。
瞳は、駿さんを見てキラキラしている。
「あきら・・・・ えっと、オレの同居人のお兄さん。 大学病院のドクターなんだ」
「そうなんだあ。 ステキー♡」
咲良ちゃんの熱い視線に、駿さんは笑顔を返す。
「駿さん、みんなはオレの同級生です」
駿さんにみんなのことを紹介する。
「そっか。 みんな、晃のことは知ってるのかな?」
「あ、男子は知ってます」
「みんな、晃のことよろしくね。 イイ奴だから、仲良くしてやって」
「はい!」
駿さんの言葉に、ユージが明るく返事をする。
「あれ、駿兄?」
ふいに響く、あきらの声。
びっくりして振り返ると、間違いなくあきらがそこにいた。
この間一緒に飲んだメンバーと、一緒にいる。
「ああ、晃」
「なんで駿兄がこっちにいるんだ?」
あきらと駿さんは、女子たちのキラキラした視線を気にも留めず、2人で話してる。
・・・・この間も思ったけど、やっぱ2人揃うと、すごい。
だって、一人ずつでもすげーカッコいいんだもんな。
それにしても・・・・ 今まであきらと大学内であったことなんてほとんどないのに、このタイミングで会うなんて・・・・・
あきらは駿さんに、桜庭さんたちみんなを紹介してる。
みんな、心なしか少し緊張した面持ちだ。
そっか。 みんなにとっては、先輩だもんな。
「ねえねえレイキくん」
咲良ちゃんに軽く腕を引かれる。
「あれがレイキくんの同居人さんだよね?」
「ああ、そうだよ」
「ホント、すごいカッコいいね!」
・・・・・やっぱ、カッコいいもんな。
見てるだけでときめく、よな。
あきらと駿さんはしばらく話した後、別れた。
駿さんは学食に向かいながら、オレの近くで足を止めた。
オレの腕を掴んで、軽く引き寄せる。
「じゃあレイキくん、またね」
耳元で囁かれて、一気に体温が上昇するのが分かった。
だって、駿さんに会うのって、キスされたあの時以来だ。
あの時のキスが、記憶に蘇る。
「は、はい。 また」
内心すごく動揺しながらも、みんなの前でそんな態度を取るわけにもいかず、なるべく普通に返した。
駿さんたちが学食に入ると、ユージが木島くんに声をかける。
「よ、タカト」
「ユージ。 この間、楽しかったな」
「ああ。 なあ、昼飯、一緒に食おうぜ」
「おっけー」
意気投合してるユージと木島くんに合わせて、オレたちも一緒にすることにする。
・・・大学であきらと一緒に食うなんて初めてだ。
「レイキ、何食う?」
「んー。 オレ、今日はうどんかな・・・・」
せっかくあきらと一緒だけど、あまり食欲が、ない。
「あきらは?」
「オレ、カレーが食いたい気分」
「カレーも、いいな」
あきらが、オレの耳元に口を寄せてきた。
「・・・・オレ、またレイキのカレー食いたいなー」
「オ、オレの?」
「うん、ダメ?」
至近距離なのと、耳元でのあきらの声に、ぞくぞくする。
・・・あきらが食いたいなら、今日夜はそうしよっかな。
オレ、当番だし。
「じゃあ、今日夜、する?」
オレの言葉に、あきらは嬉しそうに笑った。
「やった。 じゃあオレ、昼は違うのにするな」
あきらが喜んでくれたら、オレもうれしい。
あきらは食券を買うと、もう一度、耳元に口を寄せてきた。
「ありがと、レイキ」
どきんっ。
甘い声で囁かれて、また、体温が上昇する。
やばい! カオに出るよ・・・・!
慌ててうつむくオレに、あきらは追い打ちをかけるように、
「レイキ、かわいい」
また、甘い声で囁いた。
昼飯は、わいわい大人数で食べた。
咲良ちゃんたちは、あきらたちと話せて嬉しそう。
桜庭さんは、やっぱりあきらにべったりだった。
「あれ、坂本くん。 今日うどんだけ? 足りる?」
同じくうどんを食べてる周防くん。
でも、わかめうどんのオレと違って、周防くんは肉うどんに天ぷらもつけてて、がっつりだ。
「うん・・・ 少し、食欲なくて、さ」
元々マコトのことが気になって、あまり食欲がなかった上に、桜庭さんに会って、更になくなった。
・・・・あきらに会えたのは、うれしいんだけど。
「まじで? 大丈夫?」
心配してくれる周防くん。
「うん、大丈夫だよ。 体調悪いとかじゃないし」
へらって笑う。
「なああきら。 今日の講義のノート、みせてくんない?」
木島くんがあきらに話しかける。
「いいぜ。 今日のはちょっと、難しかったよな・・・・」
「ああ。 夏休み前に試験あるしなー。 ユウウツー・・・・・」
タメ息をつく木島くん。
「医学部って、試験は前後期じゃないの?」
咲良ちゃんは興味津々だ。
「ほとんどの試験は前期・・・だから、9月だけど、何個か夏休み前にあるんだ」
周防くんが説明する。
「それに受からないと、平穏無事に夏休みは迎えられませんって、やな感じだよなー」
きゅって眉根を寄せて、イヤそうなカオの木島くん。
「あきらは夏の試合に向けてテニスも忙しくなるだろうし・・・ 大変だな」
「まーな。 でも、何とかなるだろ」
まるで他人事みたいなあきら。
・・・・そっか・・・・
夏休み前に、試験、あるんだ・・・・・
知らなかったな・・・・
「なあ、夏休み、みんなでどっか行かねー?」
「いいな! 大人数で行ったら、楽しそう!」
盛り上がるユージと木島くん。
あの2人が、企画してくれそうだな。
「遊ぶことになると、とたんに元気になるよなー」
呆れ顔で言う周防くんに、木島くんはニッて笑った。
「そりゃーね。 楽しい予定がないと、試験乗り越えらんねーよ」
昼飯が終わって、みんなで学食を後にする。
すると、後ろを歩いていたあきらと桜庭さんの話し声が聞こえてきた。
「ねえ、あきらくん。 今日、私の家でゴハン食べない?」
「え、柚葉の家で?」
あきらの言葉に、ぎゅって、胸が締め付けられる。
『柚葉』
あきらが桜庭さんのことをそう呼んだのを、初めて聞いた。
木島くんも周防くんも、二宮さんと桜庭さんのことを名前で呼んでた。
だから、あきらだってそうだろうって、分かってたはずなのに。
それに、桜庭さんの、家に、行く・・・・・・・?
「うん。 実は週末、ゴハン作り過ぎちゃって。 みんなにも声かけてるの。 だから、あきらくんもどうかなーって思って」
「んー・・・・・」
あきらが、返事に迷ってる。
・・・・さっきオレに、『カレー作って』って、言ってきたもんな・・・・・
「それに、今日の講義のとこ、私も教えて欲しいな。 難しかったし、みんなで勉強しようよ」
勉強・・・・
さっき木島くんも、あきらに教えて欲しいって言ってたし・・・・・
返事をしないあきらを、オレは振り返った。
「あきら、行って来いよ」
「レイキ?」
「ゴメン。 ちょっと聞こえてた。
・・・・・オレ、今日ゴハン作るけど、明日食えばいーじゃん。 勉強、するんだろ?」
行くことを勧めるオレに、桜庭さんは嬉しそうな表情を見せた。
・・・・・別に、桜庭さんのために勧めてるわけじゃない。
だって、みんなで勉強しようって話だし、やっぱ医学部って勉強大変だろうから。
「・・・・うん。 わかった。 じゃあ今日は、柚葉んとこで御馳走になる」
あきらはちらってオレを見た。
・・・・申し訳なさそうな表情。
オレは、『気にすんな』っていうつもりで、笑ってみせた。
・・・・ホントはもちろん、イヤだけど。 桜庭さんの家に行くなんて。
でもほかのみんなも一緒だし、勉強も兼ねて、だし。
しかたがないと思う。
あきら達と別れた後、桜庭さんからLINEが来た。
『ありがとう♡』
別に桜庭さんのために言ったわけじゃねーのに。
そう思いながらも、
『どういたしまして』
そう返信してしまう自分にも、嫌気がさしてきた。
重い気持ちで大学に向かう。
講義室の入り口のドアの前に立ち、オレは小さくタメ息をついた。
・・・・マコトに、どんなカオして会えばいいかな。
「よ、レイキ」
明るい声と共に、肩を軽く叩かれる。
振り返ると、ユージだった。
「ユージ、おはよ」
「どーしたんだよ、入んねーの?」
「は、いるよ」
ユージに促されて、講義室のドアを開ける。
いつもこの時間は、もうマコトは来てるよな・・・・
中に入ると、やっぱりマコトはもう来ていた。
「マコちゃん、おはよー」
ユージはすたすたとそっちに近づいていく。
オレも、ユージの後ろについて行った。
エリナちゃん達ももう来ていた。
「レイキ、おはよう」
「・・・・・おはよ」
マコトはいつもの様にあいさつしてくるけど、オレは返せなくて。
マコトのカオが見れない。
ダメだ。 フツーにしたいのに。
「なあ、この間あの後、レイキ大丈夫だったのか? 結構飲んでたみたいだったけど」
ユージに聞かれて内心焦る。
「あ、ああ。 マコトに送ってもらったから、大丈夫だった。
ユージは? 木島くんと飲んだんだろ?」
オレのことはあまり聞いて欲しくないから、ユージのことを聞いてみた。
「ああ。 あの後2人でまた結構飲んだなー。 タカト、すげーイイ奴だった」
「『タカト』って呼んでるんだな。 ホント、気が合ってたみたいだもんなー」
オレたちが話してると、咲良ちゃんが話に入ってきた。
「ユージくんたち、飲みに行ったの?」
「そうなんだよー」
ユージが男4人で飲んでいたこと、あきらの同級生たちと一緒になったことを話すと、女のコたちはブーイングだった。
「医学部生と飲んだなんて、ズルい! 誘ってよー!!」
「ゴメンゴメン。 今度また、誘うからさ」
ユージが手を合わせて謝ってる。
「レイキくんの同居人さんは? やっぱりカッコよかったの?」
「ああ! すげーカッコよかった! な、マコちゃん?」
ユージに聞かれて、マコトも頷く。
「ああ。 やっぱりすごいカッコよかったな。 しかも、同級生のすごい美人のコにめちゃくちゃアプローチされてたし」
「そうそう! 彼女いるのに、すげーよな! うらやましい」
「えー。 レイキくんの同居人さん、彼女いるんだ?」
「しかも、医学部にそんな美人なコがいるの?」
女のコの質問に、ユージは深く頷いた。
「いるんだって! すげー美人なの!」
桜庭さんを高評価するユージに、女のコたちは驚いているようだ。
・・・・やっぱり、医学部にそんな美人がいるって、ちょっと驚くよな・・・・
「あんな美人にアプローチされちゃ、彼女も気が気じゃないよな。 ・・・・な、レイキ?」
急にマコトがオレに同意を求めてきた。
「そ、そうだな」
オレは慌てて返事をする。
「彼女は、桜庭さんのこと、知ってるのか?」
「さ、さあ・・・・・ 知らねーんじゃねーの」
・・・なんでマコト、こんなこと聞いてくるんだ・・・・
「そうか。 ・・・まあ、知らない方がいいだろうな」
マコトの言葉が、重くのしかかる。
・・・・・・確かに。 知らない方が、良かったな・・・・・・
今までは、あきらはモテるからっていう漠然とした不安だったのが、桜庭さんを知ったことで、明確な不安になってる。
思わず、小さくタメ息をついた。
「・・・・レイキ・・・・ 大丈夫か・・・・・?」
マコトがオレにカオを寄せて、至近距離で聞いてきた。
その距離に、びくってカラダが震えてしまう。
「な、なにが? 大丈夫だよ」
なるべく平静を装って、へらって笑った。
マコトも口角を持ち上げる。
・・・・・どうしよう。 なかなか、フツーに出来ない。
「あ」
マコトの右手の親指。 絆創膏が貼ってあるのに気づいた。
その傷って・・・・・
オレがじっと見てるのに気づいたマコトは、左手でその傷を隠した。
あれって・・・・ オレが噛みついた傷、だよ、な・・・・・・
あの時の記憶が鮮明に蘇ってしまう。
マコトにキスされて、
舌や指で肌を撫でられて、すごく反応してしまった。
快感に、流されそうに、なってしまってた。
『レイキ・・・・・! お前、やばい・・・・!』
そう言って、熱に浮かされた表情をしていたマコト。
思い出して、腰に、甘いしびれが走ってしまう。
「ねえねえレイキくん! もう1回、飲み会企画してよー」
咲良ちゃんに言われて、オレは慌てて頷いた。
現実に、引き戻される。
「ん、わかった。 木島くんとはユージが連絡取りやすいだろうし・・・・ 木島くんたちに、声かけてみて?」
「おっけー」
ユージもにこにこ頷いてくれる。
ちゃんとフツーにしてないと、みんなに変に思われてしまう。
気を付けなきゃな・・・・
昼休み。 みんなで学食に連れだって行く。
食券を買うのに並んでいると、ポンって肩を叩かれた。
振り返ると、
「え・・・・ 駿、さん・・・・!?」
「やっぱり、レイキくん」
立ってたのは、笑顔の駿さんだった。
「なんで、ここに?」
駿さんは大学病院の勤務だから、こっちのキャンパスに用はないはず・・・・・
「今日昼から、大学の方の健診に駆り出されててさ。 それなら久しぶりに、こっちの学食で食おうかって寄ったんだ」
駿さんの隣には、駿さんと同年代の男性。
オレがぺこりと頭を下げると、その男性も会釈をしてくれた。
きっと、駿さんと一緒に健診の手伝いに来た先生なんだろう。
「ねえレイキくん、誰? 誰?」
オレの腕に抱き着いてきて、小声で聞いてくる咲良ちゃん。
瞳は、駿さんを見てキラキラしている。
「あきら・・・・ えっと、オレの同居人のお兄さん。 大学病院のドクターなんだ」
「そうなんだあ。 ステキー♡」
咲良ちゃんの熱い視線に、駿さんは笑顔を返す。
「駿さん、みんなはオレの同級生です」
駿さんにみんなのことを紹介する。
「そっか。 みんな、晃のことは知ってるのかな?」
「あ、男子は知ってます」
「みんな、晃のことよろしくね。 イイ奴だから、仲良くしてやって」
「はい!」
駿さんの言葉に、ユージが明るく返事をする。
「あれ、駿兄?」
ふいに響く、あきらの声。
びっくりして振り返ると、間違いなくあきらがそこにいた。
この間一緒に飲んだメンバーと、一緒にいる。
「ああ、晃」
「なんで駿兄がこっちにいるんだ?」
あきらと駿さんは、女子たちのキラキラした視線を気にも留めず、2人で話してる。
・・・・この間も思ったけど、やっぱ2人揃うと、すごい。
だって、一人ずつでもすげーカッコいいんだもんな。
それにしても・・・・ 今まであきらと大学内であったことなんてほとんどないのに、このタイミングで会うなんて・・・・・
あきらは駿さんに、桜庭さんたちみんなを紹介してる。
みんな、心なしか少し緊張した面持ちだ。
そっか。 みんなにとっては、先輩だもんな。
「ねえねえレイキくん」
咲良ちゃんに軽く腕を引かれる。
「あれがレイキくんの同居人さんだよね?」
「ああ、そうだよ」
「ホント、すごいカッコいいね!」
・・・・・やっぱ、カッコいいもんな。
見てるだけでときめく、よな。
あきらと駿さんはしばらく話した後、別れた。
駿さんは学食に向かいながら、オレの近くで足を止めた。
オレの腕を掴んで、軽く引き寄せる。
「じゃあレイキくん、またね」
耳元で囁かれて、一気に体温が上昇するのが分かった。
だって、駿さんに会うのって、キスされたあの時以来だ。
あの時のキスが、記憶に蘇る。
「は、はい。 また」
内心すごく動揺しながらも、みんなの前でそんな態度を取るわけにもいかず、なるべく普通に返した。
駿さんたちが学食に入ると、ユージが木島くんに声をかける。
「よ、タカト」
「ユージ。 この間、楽しかったな」
「ああ。 なあ、昼飯、一緒に食おうぜ」
「おっけー」
意気投合してるユージと木島くんに合わせて、オレたちも一緒にすることにする。
・・・大学であきらと一緒に食うなんて初めてだ。
「レイキ、何食う?」
「んー。 オレ、今日はうどんかな・・・・」
せっかくあきらと一緒だけど、あまり食欲が、ない。
「あきらは?」
「オレ、カレーが食いたい気分」
「カレーも、いいな」
あきらが、オレの耳元に口を寄せてきた。
「・・・・オレ、またレイキのカレー食いたいなー」
「オ、オレの?」
「うん、ダメ?」
至近距離なのと、耳元でのあきらの声に、ぞくぞくする。
・・・あきらが食いたいなら、今日夜はそうしよっかな。
オレ、当番だし。
「じゃあ、今日夜、する?」
オレの言葉に、あきらは嬉しそうに笑った。
「やった。 じゃあオレ、昼は違うのにするな」
あきらが喜んでくれたら、オレもうれしい。
あきらは食券を買うと、もう一度、耳元に口を寄せてきた。
「ありがと、レイキ」
どきんっ。
甘い声で囁かれて、また、体温が上昇する。
やばい! カオに出るよ・・・・!
慌ててうつむくオレに、あきらは追い打ちをかけるように、
「レイキ、かわいい」
また、甘い声で囁いた。
昼飯は、わいわい大人数で食べた。
咲良ちゃんたちは、あきらたちと話せて嬉しそう。
桜庭さんは、やっぱりあきらにべったりだった。
「あれ、坂本くん。 今日うどんだけ? 足りる?」
同じくうどんを食べてる周防くん。
でも、わかめうどんのオレと違って、周防くんは肉うどんに天ぷらもつけてて、がっつりだ。
「うん・・・ 少し、食欲なくて、さ」
元々マコトのことが気になって、あまり食欲がなかった上に、桜庭さんに会って、更になくなった。
・・・・あきらに会えたのは、うれしいんだけど。
「まじで? 大丈夫?」
心配してくれる周防くん。
「うん、大丈夫だよ。 体調悪いとかじゃないし」
へらって笑う。
「なああきら。 今日の講義のノート、みせてくんない?」
木島くんがあきらに話しかける。
「いいぜ。 今日のはちょっと、難しかったよな・・・・」
「ああ。 夏休み前に試験あるしなー。 ユウウツー・・・・・」
タメ息をつく木島くん。
「医学部って、試験は前後期じゃないの?」
咲良ちゃんは興味津々だ。
「ほとんどの試験は前期・・・だから、9月だけど、何個か夏休み前にあるんだ」
周防くんが説明する。
「それに受からないと、平穏無事に夏休みは迎えられませんって、やな感じだよなー」
きゅって眉根を寄せて、イヤそうなカオの木島くん。
「あきらは夏の試合に向けてテニスも忙しくなるだろうし・・・ 大変だな」
「まーな。 でも、何とかなるだろ」
まるで他人事みたいなあきら。
・・・・そっか・・・・
夏休み前に、試験、あるんだ・・・・・
知らなかったな・・・・
「なあ、夏休み、みんなでどっか行かねー?」
「いいな! 大人数で行ったら、楽しそう!」
盛り上がるユージと木島くん。
あの2人が、企画してくれそうだな。
「遊ぶことになると、とたんに元気になるよなー」
呆れ顔で言う周防くんに、木島くんはニッて笑った。
「そりゃーね。 楽しい予定がないと、試験乗り越えらんねーよ」
昼飯が終わって、みんなで学食を後にする。
すると、後ろを歩いていたあきらと桜庭さんの話し声が聞こえてきた。
「ねえ、あきらくん。 今日、私の家でゴハン食べない?」
「え、柚葉の家で?」
あきらの言葉に、ぎゅって、胸が締め付けられる。
『柚葉』
あきらが桜庭さんのことをそう呼んだのを、初めて聞いた。
木島くんも周防くんも、二宮さんと桜庭さんのことを名前で呼んでた。
だから、あきらだってそうだろうって、分かってたはずなのに。
それに、桜庭さんの、家に、行く・・・・・・・?
「うん。 実は週末、ゴハン作り過ぎちゃって。 みんなにも声かけてるの。 だから、あきらくんもどうかなーって思って」
「んー・・・・・」
あきらが、返事に迷ってる。
・・・・さっきオレに、『カレー作って』って、言ってきたもんな・・・・・
「それに、今日の講義のとこ、私も教えて欲しいな。 難しかったし、みんなで勉強しようよ」
勉強・・・・
さっき木島くんも、あきらに教えて欲しいって言ってたし・・・・・
返事をしないあきらを、オレは振り返った。
「あきら、行って来いよ」
「レイキ?」
「ゴメン。 ちょっと聞こえてた。
・・・・・オレ、今日ゴハン作るけど、明日食えばいーじゃん。 勉強、するんだろ?」
行くことを勧めるオレに、桜庭さんは嬉しそうな表情を見せた。
・・・・・別に、桜庭さんのために勧めてるわけじゃない。
だって、みんなで勉強しようって話だし、やっぱ医学部って勉強大変だろうから。
「・・・・うん。 わかった。 じゃあ今日は、柚葉んとこで御馳走になる」
あきらはちらってオレを見た。
・・・・申し訳なさそうな表情。
オレは、『気にすんな』っていうつもりで、笑ってみせた。
・・・・ホントはもちろん、イヤだけど。 桜庭さんの家に行くなんて。
でもほかのみんなも一緒だし、勉強も兼ねて、だし。
しかたがないと思う。
あきら達と別れた後、桜庭さんからLINEが来た。
『ありがとう♡』
別に桜庭さんのために言ったわけじゃねーのに。
そう思いながらも、
『どういたしまして』
そう返信してしまう自分にも、嫌気がさしてきた。
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