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18.別れるって簡単なんだな

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♪~


夕食の後片付けをしていると、オレのスマホが鳴った。

今あきらは風呂に入っている。

手を拭いてスマホを見ると、母さんからだった。


「なに?」

『あ、玲紀? 美紀はもう来た?』

「ねーちゃん?」


・・・・またオレんとこ行くって言ったんだな。


オレが家を出てから、彼氏の家に泊まるのをごまかすために、オレのとこに泊まるってちょくちょく親に言ってるらしい。

・・・・・実際、オレのとこに泊まりに来たことなんてないんだけど。


『また玲紀たちのところにお世話になるって、電話があったのよ。 大丈夫なの?』

「ああ、大丈夫だよ」

『そう・・・・晃くんにも申し訳ないわね』

「あきらもいいって言ってるし。 気にすんなよ」

『じゃあ玲紀、よろしくね』

「おっけー」


・・・彼氏のとこ泊まるって言いにくいのは分かるけど、オレのとこだって、あきらいんのになー・・・

母さんたち的には、それでOKなんだろうか。

まあ、あきらは中学の頃から知ってるから、安心なのかもな。



ピンポーン。



インターホンの音。

こんな時間に、誰だ?



モニターをのぞくと、





「ねーちゃん!?」



映ってるのは、ねーちゃんだった。

ねーちゃんは少しうつむいてて。 



ちょっと、カオが強張ってるような・・・・



「とりあえず、上がって来いよ」



不思議に思いながらも、オレはエントランスのロックを解除した。

母さんからさっき連絡があったとはいえ、今までほんとに来たことなんてなかったし。

なにより、来るってオレに直接連絡もしてきてないし・・・



ピンポーン



玄関のインターホンが鳴り、オレはドアを開けた。


・・・そこには、やっぱりうつむいたままのねーちゃんが立ってて。


「ねーちゃん、急にどうしたんだよ?
さっき母さんから電話あってさ、またオレんとこ泊まるって言ったんだって?」


オレが話しかけても、ねーちゃんはうつむいたまま。


「ねーちゃん、どうした・・・・・」

オレがカオを覗き込もうとすると、


「玲紀ーー!!!」


がばって、ねーちゃんが抱き着いてきた。


「うわっ・・・!」


いきなり体重をかけられて、オレはよろめく。


「ちょっ・・・ あぶねっ・・・・!」


ねーちゃんに抱き着かれたまま、オレはふらふらと後ずさりし、仰向けに床に倒れ込んだ。

結構強く、背中や腰を床に打ち付ける。


「いって・・・・・!」


ねーちゃんはオレに覆いかぶさったままだ。


うわー! 酒くせえ!


「玲紀ぃー・・・・」

ねーちゃんは涙声でオレの名前を呼ぶ。



「うわ! レイキどうしたんだ!?」


風呂から上がったあきらが、驚いたカオでオレを見下ろしてる。


オレは仰向けでねーちゃんに乗っかられたまま、あきらを見上げた。


「ゴメン、急にねーちゃんが来てさ。 相当酔ってるみてーなんだ」



あきらは開きっぱなしだった玄関のドアを閉めた。

「とりあえず、中に運ぼうぜ」


あきらの手を借りて、ねーちゃんをリビングに連れて行き、ソファに座らせた。


「玲紀ぃー・・・晃くん・・・・・ゴメンねぇー・・・」

「いーから。 取り合えず、水飲めよ」

水を渡して、オレは隣に座る。

ねーちゃんは水を一気に飲み干した。


「で? どーしたんだよ?今日は彼氏んとこ、お泊りだったんじゃねーの? 
オレんとこ泊まるって、母さんに連絡入れてたんだろ」

「うん・・・・・」

うなずいて、瞳を潤ませる。


「玲紀ぃー・・・・ 私、フラれちゃったよー・・・」


「え・・・・」


ねーちゃんの瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。


「今日、デートだったんだけど・・・ 『別れよう』って・・・・す、好きな人が、出来たって・・・・・!」


そう言ってまたオレに抱き着くと、肩を震わせて泣く。


「ねーちゃん・・・・」

オレはねーちゃんの背中に手を回して、さすった。



・・・・ねーちゃんの彼氏は、2つ年上の大学の時の先輩。

今大学4年生のねーちゃんよりも早く社会に出て忙しくしてるみたいだったし、ねーちゃんも最近は就活とかで忙しかっただろうから、それですれ違いになったのかな・・・

でも、ねーちゃんこの間内定もらったって言ってたし・・・・・

ちょっと落ち着いて会えるようになったんじゃねーのかな・・・



「・・・・今日は、私の就職が決まったお祝いをしてくれるって言ってたのに・・・本当は、私の就職が決まるの・・・・待ってたって・・・ 
決まる前に言うと、ショックで落ち込むだろうからって・・・・・!」


「そ・・・・・か・・・・・」


「ヒドイと思わない!? なんでよぉー・・・・・」


オレはねーちゃんを抱きしめて、頭をぽんぽんって叩いた。



「とにかくさ、疲れたろ? だいぶ酔ってるみてーだし。オレの部屋、使っていいからさ、寝ようぜ?」


ねーちゃんは子供みたいにぐずぐず泣きながら、オレに手を引かれてオレの部屋に入る。



「玲紀ぃ・・・・・ ここにいてよ・・・・・」


「ああ。 ここにいるから」


ねーちゃんはベッドに入り、オレの手を握って目を閉じた。

オレはベッドの横の床に座る。


「ふえぇ・・・・」

「よしよし」

泣くねーちゃんの頭を撫でてると、落ち着いてきたのか、呼吸が規則的になってくる。


ねーちゃん・・・・・つらいだろうな・・・・・・

せっかく就職決まったって、喜んでたのに・・・・・



すう・・・・すう・・・・・・


ねーちゃんは眠ったけど、オレの手はぎゅってねーちゃんに握られたまま。

そっと離したけど、ねーちゃんは起きなかった。



静かに部屋を出ると、あきらはソファに座って、タブレットを見ていた。

オレが部屋から出てきたのに気づくと、タブレットをテーブルに置く。


「・・・・眠ったよ」

「・・・そっか」

オレはあきらの隣に座った。


「あきら・・・・ゴメンな」

「いいよ全然。 気にすんな」

あきらはうつむくオレのこめかみにキスをする。



「ねーちゃん、こないだ就職決まったんだ」

「ああ、言ってたな」

「すっげー喜んでたし・・・・ 社会人になって落ち着いたら・・・・・ たぶん、結婚とかだって、考えてただろうし・・・・・」

「・・・・・そうだな」



「なんか・・・・・ 別れるって、簡単なんだな・・・・」



ねーちゃんはあんなに落ち込むほど、彼氏の事好きだったわけで。

でも、彼氏の気持ちはもう他の人に移ってた。


どんなに好きでも、つき合うっていうのは、1人だけの気持ちだけじゃどうしようもなくて。

片方の気持ちが冷めてしまったら、そこで、終わり・・・・



男と女っていう自然な関係だって、こうやって人の気持ちは簡単に変わってくんだな・・・・

そして、別れるって、本当に簡単なんだな・・・・・


今までだって、友達がつき合っただの別れただのって、近くでいろいろ見てきたけど。

ねーちゃんだから、身内のことだから、なんかすごく胸が痛い。



「・・・・レイキ? 大丈夫か?」

あきらがオレの頭に手を回して、ぐいって自分の方に引き寄せた。 

オレはあきらの肩に頭を乗せる格好になる。


「・・・・大丈夫だよ」

「ホントに?」

あきらが心配そうな瞳でオレのことを覗き込む。


「だって、その手」


手?


あきらが視線をオレの胸元に落とす。


つられてオレも視線を落とすと・・・・



「あ」



オレは、右手で自分の服の胸元をぎゅって握りしめていた。



ふわって、あきらがオレを抱きしめる。


風呂上がりの、シャンプーの香り。



「・・・・レイキ。 なんかいろいろ考えてんだろ?」


「や。 別に・・・・」


「オレは、レイキのことずっと好きだよ。 気持ちは変わらない」



・・・・あきら。 なんで分かるんだろ。

オレが、ねーちゃんがフラれたのを見て、不安に感じてしまったこと。


オレはあきらの背中に手を回して抱き着いた。



「・・・・オレも。 あきらのこと、ずっと、好き」



こうやってあきらの体温を感じてると、不安が薄らいでいく。



・・・自分でもうっすら気づいてはいるけど


不安は薄らいでも、完全に消えることはなくて。




それでも、ずっとこうしていられたらいいのになって、思った。
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