22 / 44
22.※ キスが好きなのかな、それとも・・・
しおりを挟む
陽人・・・・急にどうしたんだ?
なんか、怒ってるよな・・・・・
オレ、なんかしたっけ・・・・
でも、今日は陽人と全然話してないし、思い当たることはなにもなかった。
結局、校舎裏手の人気のないところまで来て、陽人はやっとオレの腕を放した。
「陽人・・・・ もー、なんなんだよ・・・・お前、強く掴み過ぎだろ 」
オレは掴まれていた左腕の部分を、右手でさすった。
「なんだよ。 こんなとこ連れてきてさ」
陽人はオレに背を向けて立ってる。
陽人・・・・どうしたんだろう。
「・・・・瑞樹」
オレに背を向けたまま、陽人が話しだす。
「ん?」
「お前と桐谷って・・・・・ なんなの?」
急に聞かれて、どきって、した。
なんで、こんなこと、陽人は訊いてくるんだろう。
「なにって・・・なんだよ。 意味わかんねーんだけど」
オレは笑い混じりに返答する。
陽人はオレを振り返った。 オレと違って全然笑ってなんかなくて、やっぱり鋭い瞳でオレを見てる。
「前に訊いたよな。 なんで最近仲良くなったんだって。 きっかけが、あったんじゃないかって」
「ああ・・・・」
そういえば、前に陽人に訊かれたな。
でも、理由なんて話せないし。
「別にそんなのないって言っただろ。 なんとなくだって。
・・・・・って言うかさ、そんなこと訊くためにこんなとこまで連れてきたのかよ」
・・・・なんか、変な感じがする。
陽人の様子、いつもと違うし。
オレはこの場から、早く立ち去りたかった。
「もういいだろ。 戻るぞ」
オレは陽人に背を向けて、校舎の方に足を向ける。
「待てよ」
陽人が後ろから、オレの腕を掴んだ。
「ちゃんと答えろ。 お前たち・・・・なんなんだ?」
オレはちょっとイラッとしてしまった。
陽人がなにを訊きたいのかが分からない。
「友達だよ! オレが桐谷と仲良くしちゃいけねーのかよ!」
オレは振り向きながら、陽人に怒鳴った。
陽人はオレを見て、その瞳を細めた。
「お前は・・・・ 友達と、あんなキス、すんのかよ」
「は・・・・・?」
陽人の口から出た言葉を、理解することが出来ない。
キス・・・・・?
オレと、桐谷、の・・・・?
なんで陽人が知ってるんだ・・・・・・?
「・・・・先週、見たんだ。 お前と桐谷」
え・・・・・? せん、しゅう・・・・・・・?
先週、キスしたのって、放課後、教室での・・・・・・ あれ、か・・・・・・?
陽人は、小さくため息をついて話し出した。
「・・・先週・・・金曜日、オレあずみ先輩と話してて、帰るの遅くなったんだよな。 教室にカバン取りに戻ったらさ・・・・・
お前と桐谷が、 キス、 してて 」
うそ、だろ。
「しかも、すっげー濃厚なやつで。 びっくりしてたら、奥村さんが教室に向かってくるのが見えた」
陽人に、見られた。
「お前たち、全然気付く様子ないし、さすがに奥村さんに見られたたまずいだろうって思ってさ、ドア、蹴っ飛ばしたんだ」
あの、すごい音。
あれ、陽人だったんだ・・・・・
「お前たちさ・・・・ つき合ってんのか・・・?」
たとえ陽人にでも、言っていいのかどうか、迷ってしまう。
もう現場は見られちゃってるわけだし・・・・・
でも、オレが一方的に桐谷を襲ったって言った方が、良かったりするのかな・・・・
「つ、きあって、ない」
結局、オレは嘘をついた。
「つき合ってなくて、男とあんなキス、するのかよ?」
陽人はオレに近づくと、顎に指をかけてきた。
くいって引っ張られて、上向かされる。
「・・・・・お前、すげーカオ、蕩けてたぞ?」
そっ・・・んなところまで、見られてたのか・・・・・!?
「とっ、蕩けてなんか、ねーよっ」
「いや。 すげー気持ちよさそうだった」
たっ、確かに、桐谷とのキスは、気持ちイイけど。
「オっ、オレが、無理矢理、桐谷にキスしただけだから」
陽人を睨みながら言うと、陽人は首を振った。
「・・・・・無理矢理って感じじゃなかった。
なあ、つき合ってんだろ?」
オレはふるふると首を振る。
「ちがう」
陽人はぐって、オレの両肩を掴んできた。
「なんでっ・・・・ 嘘、つくんだよ! オレ、そんなに信用ねーか?」
陽人は泣きそうな表情で。
陽人のこんなカオ、見たことない。
そっか・・・・・
嘘ついたり、隠したりしたら、陽人のこと、傷つけちゃうことになるんだな・・・・・・
オレは小さく息を吐いた。
「・・・・ ごめん、陽人。 信用してないわけじゃなくて・・・・・・ 言うのが、ちょっと、怖かった」
オレは陽人の胸元を掴んで、自分より背の高い陽人をすがるように見上げた。
「陽人・・・・! 誰にも、言うなよ?」
陽人はフッて笑って、ぽんぽんってオレの頭を撫でた。
「言わねーよ。 大丈夫だ」
はっきりとそう言ってくれる陽人の言葉に、ほっとする。
「オレはいいけど、桐谷がオレとつき合ってるなんて、バレたらダメだろ・・・・・」
「・・・・・ 桐谷を守ろうと思って、嘘ついたのか?」
守ろうと・・・・
そういうことなのかな・・・・・
自分の気持ちがよく分からなくて、なにも答えられないでいると、陽人は少し笑った。
「瑞樹・・・・ 桐谷のこと、好きなんだな」
はっ・・・・!?
好き・・・・・?
オレが、桐谷のことを・・・・・・・?
「いや、そんなことねーし」
否定すると、陽人は不思議そうなカオをした。
「え。 好きだから、つき合ってんだろ?」
「いや・・・・ 桐谷に告白されて」
「告白されたからつき合うって、まあ瑞樹らしいけど。 でも、男相手だし、そこ躊躇しなかったのかよ」
「・・・・ 告白されて、・・・・・キス、されて」
・・・・やばい。
話すの、恥ずかしいな・・・・・
そう思って、少しうつむき気味になってしまう。
「キス・・・・ 気持ちよくてさ・・・・・ いいかなーって、思っちゃった、から」
オレの言葉に、陽人は笑いだした。
「気持ちよくて、流されたわけか。 ますます瑞樹らしいな」
くっそ。 なんか、すげー恥ずかしい。
でも、陽人が笑って良かった。
「最初は流されてつき合ったのかもだけどさ、今も変わんねーの?」
訊かれて、思わず考え込む。
・・・・どうなん、だろ。
桐谷のこと好きかどうかなんて、考えたことなかった。
桐谷に告白されて、キスが気持ちよくて、だったらつき合ってもいいかなー、なんて、軽く考えてただけだから。
それで・・・・・・
セックスまでして、それもすげー気持ちよかった。
だいたい、桐谷のキスって、なんであんなに気持ちいいんだろ。
上手い、の、かな・・・・
でもそれだったら、キスが上手い相手だったら、誰でも気持ちイイってことになるよな・・・・・
ふと、オレの目の前にいる陽人を見る。
オレの答えを待ってる陽人は、少し首を傾げた。
・・・・・陽人も、キス、上手いよなあ。 たぶん。
いろんな女のコとつき合ってるし、遊んでるし。
「なあ陽人」
「ん?」
「オレに、キス、してみてくんねー?」
「はあっ!?」
陽人は声を上げて、後ずさった。
「瑞樹っ、なに言ってんだよ!」
うん、確かにいきなりこんなこと言われたら、びっくりするよな。
「オレさ、桐谷のキス、好きなんだよな・・・。 でもそれって、キスが上手いから好きなだけなのかなーって思って」
「・・・・つまり、キスが好きなのか、桐谷自身が好きなのか、わかんねーってことか」
「・・・・・そう」
陽人はオレを見てため息をついた。
「まあ・・・・ 相手が男だしな・・・・ 自分の気持ちがはっきりわからなくなるのかもな・・・・」
「・・・うん」
陽人には頷いたけど。 オレ、今までちゃんと人を好きになったことって、ない気も・・・する。
ずっと、相手に告白されてつき合って、でもてきとーに扱って、相手がイヤだって言ったら、じゃあ別れようってあっさり別れて。
そんなんだから、 ・・・・桐谷は男だから、 ますます、自分の気持ちなんて、わからない・・・・
陽人はオレに近づいて、顎に指をかけた。
「・・・友達とキスなんてするのかよって、言ったオレがこんなこと言うのもなんだけど。
先週お前見て、オレ、ちょっと興味持っちゃったんだよな」
「興味?」
陽人が、今までオレが見たことないような、色気のある表情をした。
「瑞樹がすげー蕩けたカオしてたのが、かわいくて。 けっこー、キたからさ。
お前からキスしてって言うんだったら、断る理由、ないし」
陽人、すげーカッコいい。
女のコを落とす時、こんな表情なんだろうな。
「・・・・いいのか?」
オレはこくんって、頷いた。
「瑞樹。 口、開けて」
陽人に言われるまま口を開けると、
「ふっ・・・・・んんっ」
噛みつくように、深いキスを、された。
舌が、オレの口内を這う。
「んんっ・・・・」
オレは陽人の首に手を回した。
ちゅっ・・・・ぴちゃ・・・・
舌が絡まり、濡れた音が響く。
「はっ、ん、・・・・は、ると、・・・ぁっ」
気持ちイイ。 やっぱり、陽人はキスが上手い。
舌を絡めたり、オレの舌を甘噛みしたり、吸ったり、唇を舐めたり、
本当に、気持ちイイ。
「瑞樹っ・・・・ お前、イイな・・・・・」
キスの合間に呟いて、オレを抱きしめる。
また深く、唇を重ねる。
気持ちイイ、ん、だけど。
桐谷の時に感じるような、ぞくぞくって腰から全身に快感が走る、
あの感覚は、ない。
しばらく唇を重ねた後、ちゅっと音を立てて離れた。
2人の唇の間を、銀糸が伝う。
「・・・・・瑞樹、どう? オレのキスは」
陽人はオレを抱きしめたまま訊いてくる。
抱きしめられてるから、陽人とカオがすごく近い。
「・・・・・気持ち、よかった」
「桐谷と、違った?」
オレは少しうつむいて、
「桐谷としたときの方が・・・・・ ぞくぞくして、 全身が、気持ちよかった・・・・・」
陽人はオレの耳にキスをした。
「なんか、妬けるな。 ・・・・・でも、そうだろうなって思う」
「え?」
「この間みたいに、蕩けたカオ、してないから」
なっ・・・・
「桐谷相手だから、あんなカオになるんだろうな」
オレっ・・・ どんなカオしてたんだろう。
今更ながら、恥ずかしくなってくる。
陽人は腕を解いて、オレを離した。
「例えばさ、桐谷が・・・・奥山さんとつき合ったりしたら、どう思う?」
え
「そんなの、いやだ」
即答するオレに、陽人は笑った。
「なんで嫌なんだよ」
「なんでって・・・・ 」
なんでだろ。
でも、桐谷はオレのこと好きでいてくれなきゃ、嫌だと思った。
これってなんだろう・・・・・・ 独占欲?
陽人はまた、ぽんぽんってオレの頭を撫でる。
「まあ、まだおこちゃまの瑞樹くんには、むずかしいでちゅかねー」
「おまえっ・・・ バカにしてんだろ」
「だって、バカじゃん。 オレにキス頼むとか」
ははって笑って、でも優しい瞳でオレを見た。
「ちょっとゆっくり考えてみろよ。 お前が自分の気持ちに気付いたら、桐谷も喜ぶだろ」
オレの・・・・・ 気持ち・・・・・・
「瑞樹とのキスは、結構良かったからさ。 またしてやってもいいぜー」
そう言って、陽人はちゅって、オレの唇にキスをした。
「ちょっ・・・陽人!」
「相談料な」
陽人は校舎の外階段に腰を下ろし、オレを見上げた。
「もうすぐ授業始まるな。 瑞樹は、戻るか?」
オレはため息をつきながら、陽人の隣に腰を下ろした。
授業を受ける気には・・・・・ならない、な。
「陽人・・・・ ありがとな」
「どーいたしまして。 またさ、キスしたくなったらしていいか?」
「もうだめだ」
「けちだなー、瑞樹」
「なんとでも言え」
オレ・・・・・桐谷のこと、好き・・・・なのかな・・・・・・
物思いにふけるオレの隣で、陽人はスマホをいじりだす。
敢えて話しかけず、オレが考える時間を作ってくれてるのが分かった。
今まで、こんなに誰かのことを考えたことって、ない気がする。
よく分からない自分の気持ちを探るのって、なんだか面倒で。
でも、逃げちゃダメなんだろうってことは、わかる。
オレは桐谷のいろんな表情を思い出してみた。
元々、すごくクールな奴だと思ってた。 それは間違ってないんだけど・・・
つき合いだしてからは、意外といろんな表情をみせるなぁって、思った。
照れたカオや、ちょっと不機嫌なカオ、すまなさそうなカオや、笑ったカオ・・・
それから、欲情したカオ。
いろんな表情を見つける度に、なんか嬉しかった。
『例えばさ、桐谷が・・・・奥山さんとつき合ったりしたら、どう思う?』
さっき陽人に訊かれて、嫌だって、思った。
そういえば・・・
美香が桐谷のこと気に入ってるみたいで、一緒に遊ぼうとしてたり、腕組んでたり、それをみてなんか気分がもやもやしてたのって・・・・
これも・・・・ 独占欲、 なのかな・・・・・
なんで・・・・・?
なんで、独占欲とか、出てくるんだろ・・・・・
桐谷には、オレのこと好きでいて欲しい・・・
そう思うのは・・・・・
オレも、桐谷のこと・・・・・・
好き、だから・・・・・・?
なんか急に恥ずかしくなってきて、オレは抱えた膝にカオを埋めた。
オレっ・・・・・ 桐谷のこと・・・・・
好きなんだ・・・・・・・・!
いたたまれなくなって、オレは膝を抱えたまま、足をバタバタとさせてしまう。
やばい・・・ なんか、すげー、恥ずかしい・・・・・・
「瑞樹ー。 お前、すげー挙動不審なんだけど」
陽人の冷めた声がする。
「陽人っ・・・・・」
オレはすがるように陽人を見た。
「っ・・・・・」
陽人はオレを見ると、驚いたカオをした。
「オレ・・・そんなカオの瑞樹、初めて見た」
言われて、オレは慌てて手で自分のカオを抑える。
「ヘンなカオしてんだろ・・・・ 見るなよ・・・!」
陽人はカオを覆っていたオレの手を掴むと、オレのカオから離させた。 そして、覗き込んでくる。
「いや・・・瑞樹、すげーかわいい。
瑞樹のそんなカオ見たら、桐谷も喜ぶと思うぜ」
「うそだろ・・・・ こんなカオ、見せれるわけ、ねーじゃん」
手を掴まれてるから、カオを隠すことも出来ない。
オレはうつむいた。
「大丈夫だって。 かわいーから、自信持て、瑞樹」
陽人はそう言ってくれるけど、オレは桐谷の前で普通のカオでいる自信がなくなってしまった。
うつむいてるオレの髪を、陽人がそっと撫でるのが分かった。
「・・・・瑞樹もさ、分かるだろ? 告白してくる女のコたちのカオ。 ちょっとほっぺたとか赤くしてさ、瑞樹のこと、好きですって、一生懸命見つめてくる感じ」
陽人の言葉に、オレは小さく頷く。
「今の瑞樹のカオ、そのコたちと同じだぜ?」
「・・・・まじかよ」
「まじで。 ・・・・桐谷のこと、ほんとに好きなんだな・・・・・・」
うつむいたままのオレの髪を、陽人は黙って撫でてくれた。
初めて気づいた自分の気持ちに、オレはどうしていいかわからなくなってしまっていた。
なんか、怒ってるよな・・・・・
オレ、なんかしたっけ・・・・
でも、今日は陽人と全然話してないし、思い当たることはなにもなかった。
結局、校舎裏手の人気のないところまで来て、陽人はやっとオレの腕を放した。
「陽人・・・・ もー、なんなんだよ・・・・お前、強く掴み過ぎだろ 」
オレは掴まれていた左腕の部分を、右手でさすった。
「なんだよ。 こんなとこ連れてきてさ」
陽人はオレに背を向けて立ってる。
陽人・・・・どうしたんだろう。
「・・・・瑞樹」
オレに背を向けたまま、陽人が話しだす。
「ん?」
「お前と桐谷って・・・・・ なんなの?」
急に聞かれて、どきって、した。
なんで、こんなこと、陽人は訊いてくるんだろう。
「なにって・・・なんだよ。 意味わかんねーんだけど」
オレは笑い混じりに返答する。
陽人はオレを振り返った。 オレと違って全然笑ってなんかなくて、やっぱり鋭い瞳でオレを見てる。
「前に訊いたよな。 なんで最近仲良くなったんだって。 きっかけが、あったんじゃないかって」
「ああ・・・・」
そういえば、前に陽人に訊かれたな。
でも、理由なんて話せないし。
「別にそんなのないって言っただろ。 なんとなくだって。
・・・・・って言うかさ、そんなこと訊くためにこんなとこまで連れてきたのかよ」
・・・・なんか、変な感じがする。
陽人の様子、いつもと違うし。
オレはこの場から、早く立ち去りたかった。
「もういいだろ。 戻るぞ」
オレは陽人に背を向けて、校舎の方に足を向ける。
「待てよ」
陽人が後ろから、オレの腕を掴んだ。
「ちゃんと答えろ。 お前たち・・・・なんなんだ?」
オレはちょっとイラッとしてしまった。
陽人がなにを訊きたいのかが分からない。
「友達だよ! オレが桐谷と仲良くしちゃいけねーのかよ!」
オレは振り向きながら、陽人に怒鳴った。
陽人はオレを見て、その瞳を細めた。
「お前は・・・・ 友達と、あんなキス、すんのかよ」
「は・・・・・?」
陽人の口から出た言葉を、理解することが出来ない。
キス・・・・・?
オレと、桐谷、の・・・・?
なんで陽人が知ってるんだ・・・・・・?
「・・・・先週、見たんだ。 お前と桐谷」
え・・・・・? せん、しゅう・・・・・・・?
先週、キスしたのって、放課後、教室での・・・・・・ あれ、か・・・・・・?
陽人は、小さくため息をついて話し出した。
「・・・先週・・・金曜日、オレあずみ先輩と話してて、帰るの遅くなったんだよな。 教室にカバン取りに戻ったらさ・・・・・
お前と桐谷が、 キス、 してて 」
うそ、だろ。
「しかも、すっげー濃厚なやつで。 びっくりしてたら、奥村さんが教室に向かってくるのが見えた」
陽人に、見られた。
「お前たち、全然気付く様子ないし、さすがに奥村さんに見られたたまずいだろうって思ってさ、ドア、蹴っ飛ばしたんだ」
あの、すごい音。
あれ、陽人だったんだ・・・・・
「お前たちさ・・・・ つき合ってんのか・・・?」
たとえ陽人にでも、言っていいのかどうか、迷ってしまう。
もう現場は見られちゃってるわけだし・・・・・
でも、オレが一方的に桐谷を襲ったって言った方が、良かったりするのかな・・・・
「つ、きあって、ない」
結局、オレは嘘をついた。
「つき合ってなくて、男とあんなキス、するのかよ?」
陽人はオレに近づくと、顎に指をかけてきた。
くいって引っ張られて、上向かされる。
「・・・・・お前、すげーカオ、蕩けてたぞ?」
そっ・・・んなところまで、見られてたのか・・・・・!?
「とっ、蕩けてなんか、ねーよっ」
「いや。 すげー気持ちよさそうだった」
たっ、確かに、桐谷とのキスは、気持ちイイけど。
「オっ、オレが、無理矢理、桐谷にキスしただけだから」
陽人を睨みながら言うと、陽人は首を振った。
「・・・・・無理矢理って感じじゃなかった。
なあ、つき合ってんだろ?」
オレはふるふると首を振る。
「ちがう」
陽人はぐって、オレの両肩を掴んできた。
「なんでっ・・・・ 嘘、つくんだよ! オレ、そんなに信用ねーか?」
陽人は泣きそうな表情で。
陽人のこんなカオ、見たことない。
そっか・・・・・
嘘ついたり、隠したりしたら、陽人のこと、傷つけちゃうことになるんだな・・・・・・
オレは小さく息を吐いた。
「・・・・ ごめん、陽人。 信用してないわけじゃなくて・・・・・・ 言うのが、ちょっと、怖かった」
オレは陽人の胸元を掴んで、自分より背の高い陽人をすがるように見上げた。
「陽人・・・・! 誰にも、言うなよ?」
陽人はフッて笑って、ぽんぽんってオレの頭を撫でた。
「言わねーよ。 大丈夫だ」
はっきりとそう言ってくれる陽人の言葉に、ほっとする。
「オレはいいけど、桐谷がオレとつき合ってるなんて、バレたらダメだろ・・・・・」
「・・・・・ 桐谷を守ろうと思って、嘘ついたのか?」
守ろうと・・・・
そういうことなのかな・・・・・
自分の気持ちがよく分からなくて、なにも答えられないでいると、陽人は少し笑った。
「瑞樹・・・・ 桐谷のこと、好きなんだな」
はっ・・・・!?
好き・・・・・?
オレが、桐谷のことを・・・・・・・?
「いや、そんなことねーし」
否定すると、陽人は不思議そうなカオをした。
「え。 好きだから、つき合ってんだろ?」
「いや・・・・ 桐谷に告白されて」
「告白されたからつき合うって、まあ瑞樹らしいけど。 でも、男相手だし、そこ躊躇しなかったのかよ」
「・・・・ 告白されて、・・・・・キス、されて」
・・・・やばい。
話すの、恥ずかしいな・・・・・
そう思って、少しうつむき気味になってしまう。
「キス・・・・ 気持ちよくてさ・・・・・ いいかなーって、思っちゃった、から」
オレの言葉に、陽人は笑いだした。
「気持ちよくて、流されたわけか。 ますます瑞樹らしいな」
くっそ。 なんか、すげー恥ずかしい。
でも、陽人が笑って良かった。
「最初は流されてつき合ったのかもだけどさ、今も変わんねーの?」
訊かれて、思わず考え込む。
・・・・どうなん、だろ。
桐谷のこと好きかどうかなんて、考えたことなかった。
桐谷に告白されて、キスが気持ちよくて、だったらつき合ってもいいかなー、なんて、軽く考えてただけだから。
それで・・・・・・
セックスまでして、それもすげー気持ちよかった。
だいたい、桐谷のキスって、なんであんなに気持ちいいんだろ。
上手い、の、かな・・・・
でもそれだったら、キスが上手い相手だったら、誰でも気持ちイイってことになるよな・・・・・
ふと、オレの目の前にいる陽人を見る。
オレの答えを待ってる陽人は、少し首を傾げた。
・・・・・陽人も、キス、上手いよなあ。 たぶん。
いろんな女のコとつき合ってるし、遊んでるし。
「なあ陽人」
「ん?」
「オレに、キス、してみてくんねー?」
「はあっ!?」
陽人は声を上げて、後ずさった。
「瑞樹っ、なに言ってんだよ!」
うん、確かにいきなりこんなこと言われたら、びっくりするよな。
「オレさ、桐谷のキス、好きなんだよな・・・。 でもそれって、キスが上手いから好きなだけなのかなーって思って」
「・・・・つまり、キスが好きなのか、桐谷自身が好きなのか、わかんねーってことか」
「・・・・・そう」
陽人はオレを見てため息をついた。
「まあ・・・・ 相手が男だしな・・・・ 自分の気持ちがはっきりわからなくなるのかもな・・・・」
「・・・うん」
陽人には頷いたけど。 オレ、今までちゃんと人を好きになったことって、ない気も・・・する。
ずっと、相手に告白されてつき合って、でもてきとーに扱って、相手がイヤだって言ったら、じゃあ別れようってあっさり別れて。
そんなんだから、 ・・・・桐谷は男だから、 ますます、自分の気持ちなんて、わからない・・・・
陽人はオレに近づいて、顎に指をかけた。
「・・・友達とキスなんてするのかよって、言ったオレがこんなこと言うのもなんだけど。
先週お前見て、オレ、ちょっと興味持っちゃったんだよな」
「興味?」
陽人が、今までオレが見たことないような、色気のある表情をした。
「瑞樹がすげー蕩けたカオしてたのが、かわいくて。 けっこー、キたからさ。
お前からキスしてって言うんだったら、断る理由、ないし」
陽人、すげーカッコいい。
女のコを落とす時、こんな表情なんだろうな。
「・・・・いいのか?」
オレはこくんって、頷いた。
「瑞樹。 口、開けて」
陽人に言われるまま口を開けると、
「ふっ・・・・・んんっ」
噛みつくように、深いキスを、された。
舌が、オレの口内を這う。
「んんっ・・・・」
オレは陽人の首に手を回した。
ちゅっ・・・・ぴちゃ・・・・
舌が絡まり、濡れた音が響く。
「はっ、ん、・・・・は、ると、・・・ぁっ」
気持ちイイ。 やっぱり、陽人はキスが上手い。
舌を絡めたり、オレの舌を甘噛みしたり、吸ったり、唇を舐めたり、
本当に、気持ちイイ。
「瑞樹っ・・・・ お前、イイな・・・・・」
キスの合間に呟いて、オレを抱きしめる。
また深く、唇を重ねる。
気持ちイイ、ん、だけど。
桐谷の時に感じるような、ぞくぞくって腰から全身に快感が走る、
あの感覚は、ない。
しばらく唇を重ねた後、ちゅっと音を立てて離れた。
2人の唇の間を、銀糸が伝う。
「・・・・・瑞樹、どう? オレのキスは」
陽人はオレを抱きしめたまま訊いてくる。
抱きしめられてるから、陽人とカオがすごく近い。
「・・・・・気持ち、よかった」
「桐谷と、違った?」
オレは少しうつむいて、
「桐谷としたときの方が・・・・・ ぞくぞくして、 全身が、気持ちよかった・・・・・」
陽人はオレの耳にキスをした。
「なんか、妬けるな。 ・・・・・でも、そうだろうなって思う」
「え?」
「この間みたいに、蕩けたカオ、してないから」
なっ・・・・
「桐谷相手だから、あんなカオになるんだろうな」
オレっ・・・ どんなカオしてたんだろう。
今更ながら、恥ずかしくなってくる。
陽人は腕を解いて、オレを離した。
「例えばさ、桐谷が・・・・奥山さんとつき合ったりしたら、どう思う?」
え
「そんなの、いやだ」
即答するオレに、陽人は笑った。
「なんで嫌なんだよ」
「なんでって・・・・ 」
なんでだろ。
でも、桐谷はオレのこと好きでいてくれなきゃ、嫌だと思った。
これってなんだろう・・・・・・ 独占欲?
陽人はまた、ぽんぽんってオレの頭を撫でる。
「まあ、まだおこちゃまの瑞樹くんには、むずかしいでちゅかねー」
「おまえっ・・・ バカにしてんだろ」
「だって、バカじゃん。 オレにキス頼むとか」
ははって笑って、でも優しい瞳でオレを見た。
「ちょっとゆっくり考えてみろよ。 お前が自分の気持ちに気付いたら、桐谷も喜ぶだろ」
オレの・・・・・ 気持ち・・・・・・
「瑞樹とのキスは、結構良かったからさ。 またしてやってもいいぜー」
そう言って、陽人はちゅって、オレの唇にキスをした。
「ちょっ・・・陽人!」
「相談料な」
陽人は校舎の外階段に腰を下ろし、オレを見上げた。
「もうすぐ授業始まるな。 瑞樹は、戻るか?」
オレはため息をつきながら、陽人の隣に腰を下ろした。
授業を受ける気には・・・・・ならない、な。
「陽人・・・・ ありがとな」
「どーいたしまして。 またさ、キスしたくなったらしていいか?」
「もうだめだ」
「けちだなー、瑞樹」
「なんとでも言え」
オレ・・・・・桐谷のこと、好き・・・・なのかな・・・・・・
物思いにふけるオレの隣で、陽人はスマホをいじりだす。
敢えて話しかけず、オレが考える時間を作ってくれてるのが分かった。
今まで、こんなに誰かのことを考えたことって、ない気がする。
よく分からない自分の気持ちを探るのって、なんだか面倒で。
でも、逃げちゃダメなんだろうってことは、わかる。
オレは桐谷のいろんな表情を思い出してみた。
元々、すごくクールな奴だと思ってた。 それは間違ってないんだけど・・・
つき合いだしてからは、意外といろんな表情をみせるなぁって、思った。
照れたカオや、ちょっと不機嫌なカオ、すまなさそうなカオや、笑ったカオ・・・
それから、欲情したカオ。
いろんな表情を見つける度に、なんか嬉しかった。
『例えばさ、桐谷が・・・・奥山さんとつき合ったりしたら、どう思う?』
さっき陽人に訊かれて、嫌だって、思った。
そういえば・・・
美香が桐谷のこと気に入ってるみたいで、一緒に遊ぼうとしてたり、腕組んでたり、それをみてなんか気分がもやもやしてたのって・・・・
これも・・・・ 独占欲、 なのかな・・・・・
なんで・・・・・?
なんで、独占欲とか、出てくるんだろ・・・・・
桐谷には、オレのこと好きでいて欲しい・・・
そう思うのは・・・・・
オレも、桐谷のこと・・・・・・
好き、だから・・・・・・?
なんか急に恥ずかしくなってきて、オレは抱えた膝にカオを埋めた。
オレっ・・・・・ 桐谷のこと・・・・・
好きなんだ・・・・・・・・!
いたたまれなくなって、オレは膝を抱えたまま、足をバタバタとさせてしまう。
やばい・・・ なんか、すげー、恥ずかしい・・・・・・
「瑞樹ー。 お前、すげー挙動不審なんだけど」
陽人の冷めた声がする。
「陽人っ・・・・・」
オレはすがるように陽人を見た。
「っ・・・・・」
陽人はオレを見ると、驚いたカオをした。
「オレ・・・そんなカオの瑞樹、初めて見た」
言われて、オレは慌てて手で自分のカオを抑える。
「ヘンなカオしてんだろ・・・・ 見るなよ・・・!」
陽人はカオを覆っていたオレの手を掴むと、オレのカオから離させた。 そして、覗き込んでくる。
「いや・・・瑞樹、すげーかわいい。
瑞樹のそんなカオ見たら、桐谷も喜ぶと思うぜ」
「うそだろ・・・・ こんなカオ、見せれるわけ、ねーじゃん」
手を掴まれてるから、カオを隠すことも出来ない。
オレはうつむいた。
「大丈夫だって。 かわいーから、自信持て、瑞樹」
陽人はそう言ってくれるけど、オレは桐谷の前で普通のカオでいる自信がなくなってしまった。
うつむいてるオレの髪を、陽人がそっと撫でるのが分かった。
「・・・・瑞樹もさ、分かるだろ? 告白してくる女のコたちのカオ。 ちょっとほっぺたとか赤くしてさ、瑞樹のこと、好きですって、一生懸命見つめてくる感じ」
陽人の言葉に、オレは小さく頷く。
「今の瑞樹のカオ、そのコたちと同じだぜ?」
「・・・・まじかよ」
「まじで。 ・・・・桐谷のこと、ほんとに好きなんだな・・・・・・」
うつむいたままのオレの髪を、陽人は黙って撫でてくれた。
初めて気づいた自分の気持ちに、オレはどうしていいかわからなくなってしまっていた。
2
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
春ですね~夜道で出会った露出狂をホテルに連れ込んでみたら~
夏芽玉
BL
4月、第3週目の金曜日。職場の歓迎会のせいで不本意にも帰りが遅くなってしまた。今日は行きつけのハプバーのイベント日だったのに。色んなネコとハプれるのを楽しみにしていたのに!! 年に1度のイベントには結局間に合わず、不貞腐れながら帰路についたら、住宅街で出会ったのは露出狂だった。普段なら、そんな変質者はスルーの一択だったのだけど、イライラとムラムラしていたオレは、露出狂の身体をじっくりと検分してやった。どう見ても好みのど真ん中の身体だ。それならホテルに連れ込んで、しっぽりいこう。据え膳なんて、食ってなんぼだろう。だけど、実はその相手は……。変態とSMのお話です。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる