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悪役令嬢と薄幸の美少女
2話 行儀の悪い元伯爵令嬢
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この館は元々はクルック元伯爵が休暇を取るための別荘だ。
豪華なシャンデリアや派手な内装などはない。
しかし、優に百人は入れる大きな間取り。
巨大な暖炉。
壁に飾られた鹿の頭や装飾された斧。
やはり別の意味で豪華絢爛といったところか。
「……」
館の使用人たちに目を移した。
全員身なりを整えている。
野暮ったい大柄なチャーリーも、シュッとした細身の筋肉質な肉体の馬番の青年アレンも、この館の制服を来ている。
そして女性陣はみんなメイド服だ。
それは紺色を基調とした飾りエプロンを随所に付けた代物。
クルック元伯爵は色欲爺ではなかったので、この館のメイド服は露出は低め。
その使用人全員が整列して待っている。
もちろん、この館の主人ヘザー男爵の娘……ベアトリクス・バレリー・ヘザーの起床を迎えるためだ。
本来は私を含めた数人でやる業務だが、何しろ今日はこの館の主が正式に変わってから初日。
特別な日だ。
「……」
しかし来ない。
かれこれ一時間は待ってるが、男爵令嬢ベアトリクス様は自室から出てこない。
「……おい」
隣に起立しているチャーリーを肘で小突き、小声で尋ねる。
「なんでベアトリクス様は起きて来ないんだ?」
「イーモン、お前な……俺が知るわけないだろ」
それはそうだ。
しかし、いい加減この姿勢でいるのも疲れてきた。
視線を変えないでそのまま小声で会話を始める。
他の男の使用人やメイドたちも同じようにボソボソとおしゃべりを始めた。
「髪をとかしたり着替えを手伝ってるのは誰だ?」
「マリンのはずだが」
「あの子か。なら手間取るわけはないんだよな」
私が付き合ってたとされる、マリンの仕事ぶりを思い出す。
彼女はテキパキと仕事は早く正確で、人当たりも申し分ない。
貴族のお嬢様の身支度を手こずるとは思えないが……。
「私、もう疲れちゃった。座るね」
「え!?」
全員がイライラし始めたころ、可愛いらしい声でとんでもない台詞を吐く者が現れた。
ケイト様だ。
「このスカートって奴、慣れないんだよね」
「ケ、ケイト様! いけません。ベアトリクス様に見つかったら」
「大丈夫大丈夫。ベアトリクスが来たらちゃんと立つから。あの子良い子だし、こんな事じゃ怒らないよ」
そう言って本当に座ってしまった。
もう天真爛漫というよりは、お転婆といった具合だ。
呆れ顔のチャーリーと目が合った。
「ケイト様。この先とてもメイドの仕事をやっていけるとは思えないな」
目を閉じてうなずく。
まったくもって同感だ。
「でもベアトリクス様はつい最近までケイト様とご学友だった」
「王都の上流階級の通う学院だっけ?」
「ああ、いくら落ちぶれたからって急に厳しくしないだろ? 初日くらい大目に見てくれるさ」
「それもそうだな」
使用人すべてがそう思ったようだ。
誰もケイト様の行動を注意しなかった。
……しかし。
「あらあら、一人行儀の悪い平民がいますわね」
「……!」
良く通る、冷たさを感じる声が聞こえてきた。
ベアトリクス様の声だ。
†††††
全員が凍りつく。
メイドたちの何人かが座っているケイト様にすぐ起立するように促す。
「ん? ベアトリクス、起きたんだ」
膝とお尻をパンパンとはたきながら、ようやくケイト様は立ち上がった。
「……」
私も少なからず動揺している。
先ほどのベアトリクス様の台詞。
平民が行儀が悪いと言っていた。
もちろん床に座っていたケイト様の事だろう。
ケイト様と気づかずに言ったのだろうか?
それとも友人同士のジョークだろうか?
まだベアトリクス様の性格が掴めないので、言葉の詳細がまったく掴めない。
「おはようごさいます! ベアトリクス様!」
誤魔化すように、私室から出てきた主の娘に全員がかしこまって挨拶する。
横目で確認をすると、ケイト様も一応は周りの真似をしてなんとか様になっている。
さて、ここからは執事である私の仕事が始まる。
「ベアトリクス様。朝食を用意しています。こちらへ」
今までクルック伯爵夫妻やケイト様にしていたのと同じように接する。
貴族への対応はこれで間違いないはずだ。
「……?」
しかしベアトリクス様は動かない。
私をジッと観察している。
……しかし美しい方だ。
大きな瞳、高めで細い鼻、柔らかそうな唇、栗色の長い整えられた髪、腰回りは細いのに大きな胸。
そしてドレスの隙間から見える、ケイト様に勝るとも劣らない美しいきめ細やかな肌。
とても十六才とは思えない。
完璧さを思わせる美貌だ。
「……」
まずい。見とれてしまっていたかもしれない。
慌てて執事モードで話しかける。
「ベアトリクス様。いかがなされました?」
尋ねてみた。
「いえ、あなたが口が堅いかどうか見定めて起きたくて……」
「……?」
「何でもありませんわ。イーモンでしたね、食卓に案内してください」
「かしこまりました」
言われたとおり、食事の準備が整った食卓に案内しようとした。
「……?」
その過程で付き人のマリンの顔が視界に入る。
なんだろう。
見たこともない険しい表情だ。
豪華なシャンデリアや派手な内装などはない。
しかし、優に百人は入れる大きな間取り。
巨大な暖炉。
壁に飾られた鹿の頭や装飾された斧。
やはり別の意味で豪華絢爛といったところか。
「……」
館の使用人たちに目を移した。
全員身なりを整えている。
野暮ったい大柄なチャーリーも、シュッとした細身の筋肉質な肉体の馬番の青年アレンも、この館の制服を来ている。
そして女性陣はみんなメイド服だ。
それは紺色を基調とした飾りエプロンを随所に付けた代物。
クルック元伯爵は色欲爺ではなかったので、この館のメイド服は露出は低め。
その使用人全員が整列して待っている。
もちろん、この館の主人ヘザー男爵の娘……ベアトリクス・バレリー・ヘザーの起床を迎えるためだ。
本来は私を含めた数人でやる業務だが、何しろ今日はこの館の主が正式に変わってから初日。
特別な日だ。
「……」
しかし来ない。
かれこれ一時間は待ってるが、男爵令嬢ベアトリクス様は自室から出てこない。
「……おい」
隣に起立しているチャーリーを肘で小突き、小声で尋ねる。
「なんでベアトリクス様は起きて来ないんだ?」
「イーモン、お前な……俺が知るわけないだろ」
それはそうだ。
しかし、いい加減この姿勢でいるのも疲れてきた。
視線を変えないでそのまま小声で会話を始める。
他の男の使用人やメイドたちも同じようにボソボソとおしゃべりを始めた。
「髪をとかしたり着替えを手伝ってるのは誰だ?」
「マリンのはずだが」
「あの子か。なら手間取るわけはないんだよな」
私が付き合ってたとされる、マリンの仕事ぶりを思い出す。
彼女はテキパキと仕事は早く正確で、人当たりも申し分ない。
貴族のお嬢様の身支度を手こずるとは思えないが……。
「私、もう疲れちゃった。座るね」
「え!?」
全員がイライラし始めたころ、可愛いらしい声でとんでもない台詞を吐く者が現れた。
ケイト様だ。
「このスカートって奴、慣れないんだよね」
「ケ、ケイト様! いけません。ベアトリクス様に見つかったら」
「大丈夫大丈夫。ベアトリクスが来たらちゃんと立つから。あの子良い子だし、こんな事じゃ怒らないよ」
そう言って本当に座ってしまった。
もう天真爛漫というよりは、お転婆といった具合だ。
呆れ顔のチャーリーと目が合った。
「ケイト様。この先とてもメイドの仕事をやっていけるとは思えないな」
目を閉じてうなずく。
まったくもって同感だ。
「でもベアトリクス様はつい最近までケイト様とご学友だった」
「王都の上流階級の通う学院だっけ?」
「ああ、いくら落ちぶれたからって急に厳しくしないだろ? 初日くらい大目に見てくれるさ」
「それもそうだな」
使用人すべてがそう思ったようだ。
誰もケイト様の行動を注意しなかった。
……しかし。
「あらあら、一人行儀の悪い平民がいますわね」
「……!」
良く通る、冷たさを感じる声が聞こえてきた。
ベアトリクス様の声だ。
†††††
全員が凍りつく。
メイドたちの何人かが座っているケイト様にすぐ起立するように促す。
「ん? ベアトリクス、起きたんだ」
膝とお尻をパンパンとはたきながら、ようやくケイト様は立ち上がった。
「……」
私も少なからず動揺している。
先ほどのベアトリクス様の台詞。
平民が行儀が悪いと言っていた。
もちろん床に座っていたケイト様の事だろう。
ケイト様と気づかずに言ったのだろうか?
それとも友人同士のジョークだろうか?
まだベアトリクス様の性格が掴めないので、言葉の詳細がまったく掴めない。
「おはようごさいます! ベアトリクス様!」
誤魔化すように、私室から出てきた主の娘に全員がかしこまって挨拶する。
横目で確認をすると、ケイト様も一応は周りの真似をしてなんとか様になっている。
さて、ここからは執事である私の仕事が始まる。
「ベアトリクス様。朝食を用意しています。こちらへ」
今までクルック伯爵夫妻やケイト様にしていたのと同じように接する。
貴族への対応はこれで間違いないはずだ。
「……?」
しかしベアトリクス様は動かない。
私をジッと観察している。
……しかし美しい方だ。
大きな瞳、高めで細い鼻、柔らかそうな唇、栗色の長い整えられた髪、腰回りは細いのに大きな胸。
そしてドレスの隙間から見える、ケイト様に勝るとも劣らない美しいきめ細やかな肌。
とても十六才とは思えない。
完璧さを思わせる美貌だ。
「……」
まずい。見とれてしまっていたかもしれない。
慌てて執事モードで話しかける。
「ベアトリクス様。いかがなされました?」
尋ねてみた。
「いえ、あなたが口が堅いかどうか見定めて起きたくて……」
「……?」
「何でもありませんわ。イーモンでしたね、食卓に案内してください」
「かしこまりました」
言われたとおり、食事の準備が整った食卓に案内しようとした。
「……?」
その過程で付き人のマリンの顔が視界に入る。
なんだろう。
見たこともない険しい表情だ。
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