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悪役令嬢との出会い
2話 火葬
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深呼吸した。
改めて状況を整理してみる。
ここら一体はおそらく狩人たちの憩いの場だ。
炊事に使う釜や、薪を割るに使う大きな切り株や、丸太で作った質素なテーブルと椅子が視界に入る。
「……」
改めて、四つの死体にも目を移した。
三つは汚い格好のは、おそらく野盗のものだろう。
身なりの良い方は……先ほど聞こえてきた言葉から察するに、おそらく今対峙している女性の従者。
そして問題のその女性。
背が高く、目の覚めるような美しい顔立ちの緑色の髪、高価そうなドレス。
しかし目立つのはそういった所ではない。
手が血だらけなのだ。
つまり、野盗は彼女が殺した。
「あらあら随分美形の盗賊さんかと思ったら……あなたこの前お会いしたばかりですね」
「……?」
女性は無機質な声で語りかけてきた。
この前会ってる?
まったく記憶にないが。
「マーク・アシュベリーさんだったかしら? この国で朱のメイジって呼ばれてる魔導士」
「どこかで会ったか?」
「三日前にお会いしたばかりです。ほら、この国の貴族の晩餐会で」
「……あっ」
「あなたは貴族の護衛の仕事をしていたしたよね」
やっと思い出した。
目の前の女性は盗賊たちが言っていた通り、大陸中の有名人だった。
彼女はメリンダ・ルイザ・キプリング。
とある小国で贅の限りをつくした大臣の娘。
少し前のメリンダの迂闊な一言が、その小国の民の感情を刺激して革命の引き金になった。
そのことは喜劇的に大陸中に知れ渡っている。
†††††
さてどうしたものか。
メリンダ・ルイザ・キプリングは私を盗賊の一味だと思っているかもしれない。
誤解は解かねば。
とりあえず魔法剣を消し、両手を上げる。
「落ち着いて聞いて欲しい、私はその盗賊共とは無関係だ。たまたまここに居合わせただけだ」
言葉と仕草で精一杯危害を加えるつもが無いことを示す。
伝わっただろうか。
「そんなの言われなくてもわかります」
メリンダのほうも血だらけの手を下げる。
誤解はされてない、良かった。
「……」
ひとまず落ち着くと、再びこの異常な状況が気になり始める。
「この野盗共、まさか君が殺したのか?」
半信半疑な質問だった。
この場に他に誰もいないから、消極法でのもの。
心のどこかで、そんなはずはないと思っていた。
「ええ、そうですよ。私が殺しました」
「……!?」
「暗殺は得意なので」
メリンダは質問に人形のように無表情で答えてきた。
暗殺が得意?
目の前の女性はそんな存在のはずはないのだが。
「……」
とりあえず余計な詮索は後だ。
彼女の近くに倒れている男性の素性も気になる。
「その人は?」
あまり刺激しないように、慎重になりながら質問した。
「私の従者です。目を離した隙に盗賊たちに殺されてしまって」
「ここで弔うか?」
「そうですね、彼は天涯孤独の身。ここにお墓を作っても問題はないでしょう」
無機質な声で、無表情のまま淡々と言葉を連ねてくる。
この女性、少なくとも従者が死んで悲しいといった感情はないようだ。
†††††
仲間二人と合流するまでには時間がある。
メリンダの従者の埋葬を手伝う事にした。
「あなたの故郷はソレイド王国だな。火葬で良いのか?」
「ええ、構いませんよ。穴は私が掘るので」
「お、おい」
彼女は噂通りの冷酷非情な者かと思っていた。
しかし血まみれの従者の遺体を抱きかかえて手を組ませ、事もあろうに自分で森の中に穴を掘り始める。
……素手で。
「……」
唖然としてその様子を眺めてしまっていた。
これまでの過程でメリンダのドレスは血に土に汚れ、美しい緑色の髪も同様だ。
いや、そんなことより。
なぜ素手で硬い地面を掘れている?
「この方には長年お世話になりました。育ての親と言っていい」
独り言のようにつぶやく。
しかし、その言葉に違和感を得た。
「あなたはソレイド王国の亡き大臣の娘だろう? その男は教育係か何かだったのか?」
「……!」
私の言葉に、メリンダは初めて感情の変化を見せる。
目を見開いて少し動揺している。
「ああ、気が動転していました。この従者は帝国民の方でしてね、最近私が雇っただけの関係でした」
「そ、そうか」
「それよりも、朱のメイジさん。噂の炎で遺体を火葬して欲しいのですが」
私の魔法の事を知っているのか。
「それと、そこの盗賊さんたちもお願いします。ちゃんと弔ってあげましょう」
「……?」
なんだろう。
メリンダの発言にゾッとした。
彼女は自分を襲おうとて返り討ちにした者たちを……自分を守ろうとした従者と同じように考えている気がした。
それはまるで、善悪の概念がないような。
改めて状況を整理してみる。
ここら一体はおそらく狩人たちの憩いの場だ。
炊事に使う釜や、薪を割るに使う大きな切り株や、丸太で作った質素なテーブルと椅子が視界に入る。
「……」
改めて、四つの死体にも目を移した。
三つは汚い格好のは、おそらく野盗のものだろう。
身なりの良い方は……先ほど聞こえてきた言葉から察するに、おそらく今対峙している女性の従者。
そして問題のその女性。
背が高く、目の覚めるような美しい顔立ちの緑色の髪、高価そうなドレス。
しかし目立つのはそういった所ではない。
手が血だらけなのだ。
つまり、野盗は彼女が殺した。
「あらあら随分美形の盗賊さんかと思ったら……あなたこの前お会いしたばかりですね」
「……?」
女性は無機質な声で語りかけてきた。
この前会ってる?
まったく記憶にないが。
「マーク・アシュベリーさんだったかしら? この国で朱のメイジって呼ばれてる魔導士」
「どこかで会ったか?」
「三日前にお会いしたばかりです。ほら、この国の貴族の晩餐会で」
「……あっ」
「あなたは貴族の護衛の仕事をしていたしたよね」
やっと思い出した。
目の前の女性は盗賊たちが言っていた通り、大陸中の有名人だった。
彼女はメリンダ・ルイザ・キプリング。
とある小国で贅の限りをつくした大臣の娘。
少し前のメリンダの迂闊な一言が、その小国の民の感情を刺激して革命の引き金になった。
そのことは喜劇的に大陸中に知れ渡っている。
†††††
さてどうしたものか。
メリンダ・ルイザ・キプリングは私を盗賊の一味だと思っているかもしれない。
誤解は解かねば。
とりあえず魔法剣を消し、両手を上げる。
「落ち着いて聞いて欲しい、私はその盗賊共とは無関係だ。たまたまここに居合わせただけだ」
言葉と仕草で精一杯危害を加えるつもが無いことを示す。
伝わっただろうか。
「そんなの言われなくてもわかります」
メリンダのほうも血だらけの手を下げる。
誤解はされてない、良かった。
「……」
ひとまず落ち着くと、再びこの異常な状況が気になり始める。
「この野盗共、まさか君が殺したのか?」
半信半疑な質問だった。
この場に他に誰もいないから、消極法でのもの。
心のどこかで、そんなはずはないと思っていた。
「ええ、そうですよ。私が殺しました」
「……!?」
「暗殺は得意なので」
メリンダは質問に人形のように無表情で答えてきた。
暗殺が得意?
目の前の女性はそんな存在のはずはないのだが。
「……」
とりあえず余計な詮索は後だ。
彼女の近くに倒れている男性の素性も気になる。
「その人は?」
あまり刺激しないように、慎重になりながら質問した。
「私の従者です。目を離した隙に盗賊たちに殺されてしまって」
「ここで弔うか?」
「そうですね、彼は天涯孤独の身。ここにお墓を作っても問題はないでしょう」
無機質な声で、無表情のまま淡々と言葉を連ねてくる。
この女性、少なくとも従者が死んで悲しいといった感情はないようだ。
†††††
仲間二人と合流するまでには時間がある。
メリンダの従者の埋葬を手伝う事にした。
「あなたの故郷はソレイド王国だな。火葬で良いのか?」
「ええ、構いませんよ。穴は私が掘るので」
「お、おい」
彼女は噂通りの冷酷非情な者かと思っていた。
しかし血まみれの従者の遺体を抱きかかえて手を組ませ、事もあろうに自分で森の中に穴を掘り始める。
……素手で。
「……」
唖然としてその様子を眺めてしまっていた。
これまでの過程でメリンダのドレスは血に土に汚れ、美しい緑色の髪も同様だ。
いや、そんなことより。
なぜ素手で硬い地面を掘れている?
「この方には長年お世話になりました。育ての親と言っていい」
独り言のようにつぶやく。
しかし、その言葉に違和感を得た。
「あなたはソレイド王国の亡き大臣の娘だろう? その男は教育係か何かだったのか?」
「……!」
私の言葉に、メリンダは初めて感情の変化を見せる。
目を見開いて少し動揺している。
「ああ、気が動転していました。この従者は帝国民の方でしてね、最近私が雇っただけの関係でした」
「そ、そうか」
「それよりも、朱のメイジさん。噂の炎で遺体を火葬して欲しいのですが」
私の魔法の事を知っているのか。
「それと、そこの盗賊さんたちもお願いします。ちゃんと弔ってあげましょう」
「……?」
なんだろう。
メリンダの発言にゾッとした。
彼女は自分を襲おうとて返り討ちにした者たちを……自分を守ろうとした従者と同じように考えている気がした。
それはまるで、善悪の概念がないような。
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