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第七部
はじめての訪問者
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「え? 来ないんですか?」
セバスチャンだけでなく、他の使用人までありえないといった表情だ。
「そうそう来ないはず」
屋敷に働く使用人たるもの、業務の一環に来客の対応がもちろんあるのだろう。だがしかし、ここの立地を考えてみて欲しい。
使用人たちがやってきたのは、各街にあるヒノマル支部にあるダンジョン扉からだ。当たり前だが従業員専用の出入り口なので、その他一般人に使わせる気はない。そうすると一般的に言う客というのは……、ああ、最近知り合った商人のマイルズさんが訪ねてくると仮定しよう。
港街アイソレージュから馬車で四日かけて、俺たちの敷地入り口へと到着。そこから自力でたどり着こうと思えば、険しい山を三つか四つほど越えなければならない。直線距離は三百キロメートルくらいだが、道なき山道は高ランク冒険者でなければ無理だろう。
「やっぱり来ないな」
「ええ、だと思います」
改めてそう告げるとエルも同意してくれる。来るとしてもほぼゼロに等しい確率だと思われる。それに俺たちは貴族ではないし、突然の訪問者に見栄を張る必要もないので、やっぱり優先度は落ちる。
「そ、そんな……」
なぜかショックを受ける使用人たち。中でも庭師のサムエルの落ち込みようが激しい。
「わ、わしの庭はお客さんに楽しんでもらえないんじゃろうか……」
まだ庭いじりに手も付けていないが、サムエルには整えた庭を見に来てくれるお客さんを望んでいるらしい。
「ご主人さまに仕える以上、ご主人さまを周囲の人間によく見せたいという思いが使用人にはあるようです」
「そういうもんなの?」
「はい」
「エルも?」
「もちろんです」
躊躇なく答えるエルだが、本当かどうかは怪しい気がする。日本の技術に対する学習意欲はエルの個人的な趣味なような気がするし、エルのそう言った態度を見た覚えはない。ってか、エルのご主人さまって莉緒だったか。
しかし優秀な使用人が持つ思いとしては理解できなくはない。ただ与えられた仕事をこなすだけの人間よりは好感が持てる。
とは言えだ。拠点を持つからにはやっぱり訪ねてくる人は出てきそうな気がする。敷地の入り口に来客用の迎賓館みたいなものでも作るべきだろうか。
「あ、でも他のヒノマルギルド職員ならここに来ることがあるかも」
「ほ、本当ですか!?」
「あ、うん。だからがんばって」
「わかりました! 立派な庭にしてみせます!」
立ち直りが早いようでよかった。
しかしよく考えれば使用人たちにここの立地を説明してないので、安易に来られないことがわからなかったのかも。
「それでは次は寮に行きましょう」
「「畏まりました」」
「「「はい!」」」
一階へ降りると渡り廊下を通って寮へ向かう。
ここにも俺たちの家ほどではないが、厨房に食堂と大浴場を完備してあるのだ。ポカンとした表情をしたままの使用人たちを引き連れて、各個人の部屋も案内していく。
「え? 個室なんですか!?」
「使用人の皆さんは個室です。下働きの人もこの後も入ってくる予定で、その人たちは四人で使ってもらうことになっています」
あ、そうなんだ。
驚くメイド見習いのハンナに答えるエルの言葉を聞いて、出そうになった言葉を飲み込む。思ったよりも大人数になりそうだ。
「それじゃ皆さんよろしくお願いします」
「「「「「「お願いします!!」」」」」」
こうして俺たちの拠点で使用人たちが働くようになった。
そして数日たったころ。拠点に人が訪ねてきた。
正確に言えば、ここから先は私有地と言うことがわかるように作った、壁と玄関門だけの場所に人が訪ねてきたのだ。
「この人です」
エルに見せられたタブレットに映っていたのは、玄関の前で途方に暮れているラシアーユ商会のマイルズさんだった。TYPEシリーズに監視させていたが、エルが気づいてくれたらしい。
冒険者ギルドで雇った護衛らしき人物も、マイルズさんと同じように外から門の中を覗き込んでポカンとしている。
「……何しに来たんだろう?」
「さぁ?」
「本人に聞いてみるしかねぇだろ」
エルに聞いてももちろん答えが返ってくるはずもなく、イヴァンからは順当な言葉が出る。
「呼び鈴とかつけておいたほうがいいかな」
TYPEシリーズに監視はさせていたが、ダンジョンの中じゃないので誰か来てもさっぱりわからない。タブレットに映る映像をこっちで監視するしか今のところ方法がない。
「放置でいいの?」
向こうからこっちを呼び出す方法を考えていたところで、莉緒の言葉で我に返る。タブレットに視線を戻せばマイルズさんが肩を落として帰ろうとしているところだった。
「おっと、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
莉緒に見送られながら、テレポートで壁で向こうから見えないところへと転移する。せっかく来てもらったのに何か申し訳ない気持ちになってきたので、用件だけでも聞いておこう。
壁の影から鉄格子門の前に出ると、名残惜しそうに振り返ったマイルズさんとちょうど目が合った。
「……シュウ殿!」
しばらく固まっていたマイルズさんだったが、名前を叫ぶと門の前まで駆け寄ってくる。護衛の冒険者が馬車の左右に一人ずついるが、どっちも似たような反応で驚いている。
「こんなところまでどうしたんですか?」
「こんなところって……、シュウ殿に会いに来たんじゃよ!」
「はぁ」
なんとも気の抜けた返事になってしまったが、こんな辺鄙なところまでわざわざ俺に会いに来る理由がピンとこない。今後も取引をすると約束はしたけど、今すぐにでも欲しいんだろうか。魚は生ものだし、前に売ったやつはもうなくなってそうだ。
「巨大魚を一匹丸ごと売ってくれんじゃろうか!」
と思っていたら案の定であった。
セバスチャンだけでなく、他の使用人までありえないといった表情だ。
「そうそう来ないはず」
屋敷に働く使用人たるもの、業務の一環に来客の対応がもちろんあるのだろう。だがしかし、ここの立地を考えてみて欲しい。
使用人たちがやってきたのは、各街にあるヒノマル支部にあるダンジョン扉からだ。当たり前だが従業員専用の出入り口なので、その他一般人に使わせる気はない。そうすると一般的に言う客というのは……、ああ、最近知り合った商人のマイルズさんが訪ねてくると仮定しよう。
港街アイソレージュから馬車で四日かけて、俺たちの敷地入り口へと到着。そこから自力でたどり着こうと思えば、険しい山を三つか四つほど越えなければならない。直線距離は三百キロメートルくらいだが、道なき山道は高ランク冒険者でなければ無理だろう。
「やっぱり来ないな」
「ええ、だと思います」
改めてそう告げるとエルも同意してくれる。来るとしてもほぼゼロに等しい確率だと思われる。それに俺たちは貴族ではないし、突然の訪問者に見栄を張る必要もないので、やっぱり優先度は落ちる。
「そ、そんな……」
なぜかショックを受ける使用人たち。中でも庭師のサムエルの落ち込みようが激しい。
「わ、わしの庭はお客さんに楽しんでもらえないんじゃろうか……」
まだ庭いじりに手も付けていないが、サムエルには整えた庭を見に来てくれるお客さんを望んでいるらしい。
「ご主人さまに仕える以上、ご主人さまを周囲の人間によく見せたいという思いが使用人にはあるようです」
「そういうもんなの?」
「はい」
「エルも?」
「もちろんです」
躊躇なく答えるエルだが、本当かどうかは怪しい気がする。日本の技術に対する学習意欲はエルの個人的な趣味なような気がするし、エルのそう言った態度を見た覚えはない。ってか、エルのご主人さまって莉緒だったか。
しかし優秀な使用人が持つ思いとしては理解できなくはない。ただ与えられた仕事をこなすだけの人間よりは好感が持てる。
とは言えだ。拠点を持つからにはやっぱり訪ねてくる人は出てきそうな気がする。敷地の入り口に来客用の迎賓館みたいなものでも作るべきだろうか。
「あ、でも他のヒノマルギルド職員ならここに来ることがあるかも」
「ほ、本当ですか!?」
「あ、うん。だからがんばって」
「わかりました! 立派な庭にしてみせます!」
立ち直りが早いようでよかった。
しかしよく考えれば使用人たちにここの立地を説明してないので、安易に来られないことがわからなかったのかも。
「それでは次は寮に行きましょう」
「「畏まりました」」
「「「はい!」」」
一階へ降りると渡り廊下を通って寮へ向かう。
ここにも俺たちの家ほどではないが、厨房に食堂と大浴場を完備してあるのだ。ポカンとした表情をしたままの使用人たちを引き連れて、各個人の部屋も案内していく。
「え? 個室なんですか!?」
「使用人の皆さんは個室です。下働きの人もこの後も入ってくる予定で、その人たちは四人で使ってもらうことになっています」
あ、そうなんだ。
驚くメイド見習いのハンナに答えるエルの言葉を聞いて、出そうになった言葉を飲み込む。思ったよりも大人数になりそうだ。
「それじゃ皆さんよろしくお願いします」
「「「「「「お願いします!!」」」」」」
こうして俺たちの拠点で使用人たちが働くようになった。
そして数日たったころ。拠点に人が訪ねてきた。
正確に言えば、ここから先は私有地と言うことがわかるように作った、壁と玄関門だけの場所に人が訪ねてきたのだ。
「この人です」
エルに見せられたタブレットに映っていたのは、玄関の前で途方に暮れているラシアーユ商会のマイルズさんだった。TYPEシリーズに監視させていたが、エルが気づいてくれたらしい。
冒険者ギルドで雇った護衛らしき人物も、マイルズさんと同じように外から門の中を覗き込んでポカンとしている。
「……何しに来たんだろう?」
「さぁ?」
「本人に聞いてみるしかねぇだろ」
エルに聞いてももちろん答えが返ってくるはずもなく、イヴァンからは順当な言葉が出る。
「呼び鈴とかつけておいたほうがいいかな」
TYPEシリーズに監視はさせていたが、ダンジョンの中じゃないので誰か来てもさっぱりわからない。タブレットに映る映像をこっちで監視するしか今のところ方法がない。
「放置でいいの?」
向こうからこっちを呼び出す方法を考えていたところで、莉緒の言葉で我に返る。タブレットに視線を戻せばマイルズさんが肩を落として帰ろうとしているところだった。
「おっと、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
莉緒に見送られながら、テレポートで壁で向こうから見えないところへと転移する。せっかく来てもらったのに何か申し訳ない気持ちになってきたので、用件だけでも聞いておこう。
壁の影から鉄格子門の前に出ると、名残惜しそうに振り返ったマイルズさんとちょうど目が合った。
「……シュウ殿!」
しばらく固まっていたマイルズさんだったが、名前を叫ぶと門の前まで駆け寄ってくる。護衛の冒険者が馬車の左右に一人ずついるが、どっちも似たような反応で驚いている。
「こんなところまでどうしたんですか?」
「こんなところって……、シュウ殿に会いに来たんじゃよ!」
「はぁ」
なんとも気の抜けた返事になってしまったが、こんな辺鄙なところまでわざわざ俺に会いに来る理由がピンとこない。今後も取引をすると約束はしたけど、今すぐにでも欲しいんだろうか。魚は生ものだし、前に売ったやつはもうなくなってそうだ。
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