406 / 421
第七部
屋敷をご案内
しおりを挟む
今現在俺たちが拠点としている場所には建物が四つできている。
俺たちの家と、ヒノマルの本拠地に、使用人たちが住む寮の他にあるのはダンジョンの出入り口用の建物だ。
最初は俺たちの家の地下にダンジョン出入り口があったけど、それだと他の街からヒノマル本拠地へ行きたいだけの人も、俺たちの家を通る必要があって煩わしかったからだ。
ダンジョンの入り口に入れば、ヒノマルの各拠点へとつながる扉が並ぶ階層へと行くことができる。この大陸を縮小したような形のドーム型をしており、およそ百メートル四方のフロアに各地へと繋がる扉が存在している。
大陸の中央から南東部にかけては各拠点に繋がる扉がそこそこあるが、それ以外の地域はまばらになっている。もともと本拠地があったフェアリィバレイは大陸の南東部にあるため、そこから離れるほど下部組織は浸透していないのだ。
拠点以外に臨時で作った扉もあるが、この中に本来のダンジョンへつながる扉は存在していない。なので、今回雇い入れた奴隷たちは全員、他の拠点にも移動ができるように権限を付けた鍵を渡している。
鍵を奪われて利用されても困るので、鍵に本人の魔力を登録して他者が使えないようにしてある。
「ここがシュウ様たちの屋敷になります」
奴隷たちを連れて本拠地を出ると、メサリアさんに代わって俺たちの家を案内するエルが目の前にある家を指し示す。
「あれがあなたたちが寝泊まりする寮になります」
そして屋敷と渡り廊下で繋がっている隣の建物を指さす。
「え? あれが寮なのですか?」
執事のセバスチャンが驚くのも無理はないかもしれない。大きさだけなら俺たちの家と遜色はないからだ。三階建ての立派なアパートになっていて、各階には十二の部屋がある。地下には食堂と共用風呂も用意されていて、寮専用の管理人も置かれる予定だ。
「ええ。あちらは後で案内するとして、まずはシュウ様の屋敷です」
「わ、わかりました」
戸惑う執事に目を丸くするメイド。料理人は表情を変えていないが、庭師は何も手入れされていないどころか、どこまでが庭かわからない家の周囲を見て困惑の表情だ。
庭師のためにも早急に家の敷地がどこまでなのか分かるように、壁を作ったほうがいいのかもしれない。近くに危険な魔物がいないからって後回しにしすぎたか。
エルに先導されて付いていくと、その後ろを執事たちが付いてくる。
「ここが玄関になります」
大きめの外開きの扉を開くと、なんということでしょう。
三階まで吹き抜けの大きな玄関ホールが現れたではありませんか。
天井には大きなガラスがはめ込まれていて、陽光に照らされた玄関ホールが照明も付けていないのに輝いて見えます。
「うわぁ……」
「すごい……!」
「素敵!」
誰かが漏らした感嘆の言葉に、なんだか嬉しい気持ちが湧いてくる。今まで野営用ハウスを見た人間からは、文句を言われることが多かったせいだろうか。
広い玄関ホールの左手に、手前から奥に向かって登りの階段が設置されている。上がった二階の、玄関ホールを見下ろせる廊下を右手へ進むと、三階へと続く階段が奥から手前に伸びている。
「まずは一階から行きましょう」
玄関ホールの奥には左右へと続く廊下があり、エルはその廊下を左へと進んでいく。
「左手にあるのが厨房と食堂で、右手に大浴場があります」
料理人として働くことになるフランクとレイチェルが興味深そうに目を輝かせている。エルが扉を開けて中に入ると、壁にある照明のスイッチを入れる。
そこに現れたのは自重を一切投げ捨てた厨房だった。IHコンロが設置されているのはもちろん、電子レンジや大型オーブンに冷蔵庫などありとあらゆる電化製品が設置されている。
「す、すごい魔道具の数ですね……」
家電製品は魔道具ではないが説明してもわからないだろうし、実際に魔道具も置いてあるので訂正しなくてもいいかな。
「そしてこれが食糧庫替わりの収納カバンです」
厨房の一番後ろにずらっと並ぶ蓋つきのケースを指し示すエル。どんな種類の食材が入っているのかが蓋に書かれていてわかりやすい。十数個も置いてあると壮観という気もするけど。保存するなら収納カバン、冷やしたいなら冷蔵庫といった使い分けだ。
エルが使いやすいように仕分けしていたものがここに設置されているようだ。
「使い方はまた教えるので次に行きましょう」
目を白黒させる使用人たちをスルーして次々に家の設備を案内していくエル。大浴場や掃除洗濯周りの設備にはメイドたちが興奮していたが、それに反して庭を整備する道具が少なかったことに、庭師のサムエルが耳を垂れて残念そうにしていた。
うん、今度ホームセンターに行って一式揃えてこようか。一時期街を拠点にしてたけど庭は適当だったし、そっち系の設備はほとんど揃っていないのだ。
ニルも含めて仲間たちの一人部屋を作ってあり、使うかどうかわからない執務室なども案内していく。地下には工房などもあったが、ほぼ魔法でなんとかしてしまうので工房らしい設備は皆無だ。
「ひとつお伺いしたいことがあるのですが……」
三階までの屋敷内部を一通り案内し終わったところで、執事のセバスチャンから声がかかる。
「なんでしょう?」
「客間らしいものが見当たらなかったのですが、来客の際にはどうやってお客様をおもてなしすればよろしいでしょうか?」
「……来客?」
当たり前と言えば当たり前だったが、思わず首をひねってしまった。
そもそもここまで客が来るんだろうかと。
俺たちの家と、ヒノマルの本拠地に、使用人たちが住む寮の他にあるのはダンジョンの出入り口用の建物だ。
最初は俺たちの家の地下にダンジョン出入り口があったけど、それだと他の街からヒノマル本拠地へ行きたいだけの人も、俺たちの家を通る必要があって煩わしかったからだ。
ダンジョンの入り口に入れば、ヒノマルの各拠点へとつながる扉が並ぶ階層へと行くことができる。この大陸を縮小したような形のドーム型をしており、およそ百メートル四方のフロアに各地へと繋がる扉が存在している。
大陸の中央から南東部にかけては各拠点に繋がる扉がそこそこあるが、それ以外の地域はまばらになっている。もともと本拠地があったフェアリィバレイは大陸の南東部にあるため、そこから離れるほど下部組織は浸透していないのだ。
拠点以外に臨時で作った扉もあるが、この中に本来のダンジョンへつながる扉は存在していない。なので、今回雇い入れた奴隷たちは全員、他の拠点にも移動ができるように権限を付けた鍵を渡している。
鍵を奪われて利用されても困るので、鍵に本人の魔力を登録して他者が使えないようにしてある。
「ここがシュウ様たちの屋敷になります」
奴隷たちを連れて本拠地を出ると、メサリアさんに代わって俺たちの家を案内するエルが目の前にある家を指し示す。
「あれがあなたたちが寝泊まりする寮になります」
そして屋敷と渡り廊下で繋がっている隣の建物を指さす。
「え? あれが寮なのですか?」
執事のセバスチャンが驚くのも無理はないかもしれない。大きさだけなら俺たちの家と遜色はないからだ。三階建ての立派なアパートになっていて、各階には十二の部屋がある。地下には食堂と共用風呂も用意されていて、寮専用の管理人も置かれる予定だ。
「ええ。あちらは後で案内するとして、まずはシュウ様の屋敷です」
「わ、わかりました」
戸惑う執事に目を丸くするメイド。料理人は表情を変えていないが、庭師は何も手入れされていないどころか、どこまでが庭かわからない家の周囲を見て困惑の表情だ。
庭師のためにも早急に家の敷地がどこまでなのか分かるように、壁を作ったほうがいいのかもしれない。近くに危険な魔物がいないからって後回しにしすぎたか。
エルに先導されて付いていくと、その後ろを執事たちが付いてくる。
「ここが玄関になります」
大きめの外開きの扉を開くと、なんということでしょう。
三階まで吹き抜けの大きな玄関ホールが現れたではありませんか。
天井には大きなガラスがはめ込まれていて、陽光に照らされた玄関ホールが照明も付けていないのに輝いて見えます。
「うわぁ……」
「すごい……!」
「素敵!」
誰かが漏らした感嘆の言葉に、なんだか嬉しい気持ちが湧いてくる。今まで野営用ハウスを見た人間からは、文句を言われることが多かったせいだろうか。
広い玄関ホールの左手に、手前から奥に向かって登りの階段が設置されている。上がった二階の、玄関ホールを見下ろせる廊下を右手へ進むと、三階へと続く階段が奥から手前に伸びている。
「まずは一階から行きましょう」
玄関ホールの奥には左右へと続く廊下があり、エルはその廊下を左へと進んでいく。
「左手にあるのが厨房と食堂で、右手に大浴場があります」
料理人として働くことになるフランクとレイチェルが興味深そうに目を輝かせている。エルが扉を開けて中に入ると、壁にある照明のスイッチを入れる。
そこに現れたのは自重を一切投げ捨てた厨房だった。IHコンロが設置されているのはもちろん、電子レンジや大型オーブンに冷蔵庫などありとあらゆる電化製品が設置されている。
「す、すごい魔道具の数ですね……」
家電製品は魔道具ではないが説明してもわからないだろうし、実際に魔道具も置いてあるので訂正しなくてもいいかな。
「そしてこれが食糧庫替わりの収納カバンです」
厨房の一番後ろにずらっと並ぶ蓋つきのケースを指し示すエル。どんな種類の食材が入っているのかが蓋に書かれていてわかりやすい。十数個も置いてあると壮観という気もするけど。保存するなら収納カバン、冷やしたいなら冷蔵庫といった使い分けだ。
エルが使いやすいように仕分けしていたものがここに設置されているようだ。
「使い方はまた教えるので次に行きましょう」
目を白黒させる使用人たちをスルーして次々に家の設備を案内していくエル。大浴場や掃除洗濯周りの設備にはメイドたちが興奮していたが、それに反して庭を整備する道具が少なかったことに、庭師のサムエルが耳を垂れて残念そうにしていた。
うん、今度ホームセンターに行って一式揃えてこようか。一時期街を拠点にしてたけど庭は適当だったし、そっち系の設備はほとんど揃っていないのだ。
ニルも含めて仲間たちの一人部屋を作ってあり、使うかどうかわからない執務室なども案内していく。地下には工房などもあったが、ほぼ魔法でなんとかしてしまうので工房らしい設備は皆無だ。
「ひとつお伺いしたいことがあるのですが……」
三階までの屋敷内部を一通り案内し終わったところで、執事のセバスチャンから声がかかる。
「なんでしょう?」
「客間らしいものが見当たらなかったのですが、来客の際にはどうやってお客様をおもてなしすればよろしいでしょうか?」
「……来客?」
当たり前と言えば当たり前だったが、思わず首をひねってしまった。
そもそもここまで客が来るんだろうかと。
29
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる