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第七部
巨大魚を釣りあげろ
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宿に選んだのはダンジョンの最深部にあるダンジョンコアの部屋だ。と言ってもリビングの中央テーブルにあったダンジョンコアは、奥に部屋を作って移動させてある。高級感あふれる現代的和風住宅だが、日本の住宅にも慣れ親しんだイヴァンたちなら違和感なく過ごせるはずだ。
もちろんこの場所にも日本からインフラを引き込んでおり、いくつかの家電も配置済みだ。普段生活することの多い野営用ハウスと同じくらいの快適さがあった。
「んで、明日はどうするんだ?」
風呂上がりに缶ビールを開けて、おっさん化したイヴァンが予定を聞いてくる。
「もちろん魚獲りに行くけど」
「それはわかってるんだけど、船でも出してもらうのか?」
「自力で飛んで行くわよ」
「だよなぁ」
どこか考えるようにしてビールを一口飲むと、イヴァンからげっぷが出てくる。
マジでおっさん化してやがる。
「んじゃ俺は冒険者ギルドでも行って依頼を探すかな」
自力で飛べるのは俺と莉緒にニルだけなので、他のメンバーは付いてくることができない。
「わふぅぅぅ」
魚と聞いてニルが耳と尻尾を垂れて悲しそうにしている。
「はは、ニルも来るか? 魔物でも討伐に行こうぜ」
「わふっ!」
イヴァンの言葉に目を輝かせるニル。やっぱり肉のほうが好きらしい。
「えー、ボクもでっかい魚見てみたかったなぁ」
それに不満を述べるフォニアだったけど、さすがにフォニアを抱えたままだと機動力が落ちる。海底にも潜るつもりなので、せめて連れて行くならどんな魔物がいるかわかってからだな。
「獲れたら港で解体するからフォニアも見に来るといい」
「うん。わかった!」
ちゃんと説明すると理解してくれるフォニアは賢くて可愛い。
「あたしはヒノマルのアイソレージュ支部を強化しておきます。将来できる拠点から一番近い街なので」
エルはエルで仕事をするようだ。
こうしてダンジョン最奥で釣りの準備をしつつ、次の日の予定が決まった。
「どこから行く?」
「そうだなぁ……」
翌朝、港を目の前にしてどこから攻めるのか莉緒と相談する。湾内の海産物も気になるけど。
「やっぱり一番気になる巨大魚から行くか」
「だよねぇ。私もおっきい魚が一番気になる」
夜明け過ぎくらいの時間帯なので、港に停泊していた船は漁でほぼ出払っている状態だ。人も閑散としており、そこまで目立つことはないだろう。
二人してふわりと浮き上がると、湾外に向かって一直線に飛んで行くことにした。
途中で漁をする船を追い越しながら海上を進んでいく。左手の遠くに崖が見えるので、その切れ目が湾外の目印になるはずだ。といっても、海中に向けて気配察知をすればすぐにわかるかもしれない。
湾から出るか出ないかギリギリのところに大型船が見えたが、巨大魚が侵入してこないか監視でもしているんだろうか。
「いた」
左手の崖の切れ目が見えてからしばらく前進して海中を探ると、予想通り発見することができた。
「うわ、すごいわね」
莉緒もある程度気配察知が使えるので発見は簡単だ。さすがに浅い場所にはいないが、数キロも潜れば十メートルを超える魚影の気配がちらほらとある。
「ここらへんでいいかな」
「うん」
あらかじめ用意しておいた撒き餌となる肉を異空間ボックスから取り出すと、周辺の海面へばら撒く。一緒に取り出した釣り竿の先にもでかい肉の塊を付けて海面へ垂らすと、どんどんと底へと沈めていく。
海面に無数の小魚が集まってきて、撒き餌をバシャバシャと音を立てながら食らっていくが放置だ。小さいと言っても三十センチ以上はあるので十分なサイズだが、百メートル以上がいると聞けばそっちを釣りあげたい。
「うおお、ちょっとずつ大物が集まってきてる」
「結構海底なのかしら。あんまり変わらないように思うけど」
莉緒の言う通り思ったより深い場所だ。集まってきてはいるけど、浮上はしてきていないので莉緒の気配察知では届かないのかもしれない。
しばらく釣り糸を垂らして何匹か釣りあげるが、大物はまだ来ない。
「うーん」
「来ないわねぇ」
釣り糸を垂らしてさらに一時間ほどたっただろうか。警戒しているのか大物はなかなか食らいついてこない。
「釣り餌が小さすぎるのかな?」
「動いてる餌じゃないと食いついてこないとか?」
「うーん。さっき釣った魚を餌にしてみようか」
相談の結果、五メートルほどの魚を巨大な釣り針に引っ掛けて海へと放流する。
「おー、まだまだ元気だな」
時間停止する異空間ボックスに入れていたけどまだ死んではいなかったようだ。空気も存在しない空間だけど、時間が止まっていれば問題ないということか。
逃げるように海底へと向かう魚だが、伸びきった釣り糸以上先には行くことはできない。一定の距離をしばらく逃げ回っていたが、それも目的の巨大魚に食いつかれて終わることになる。
「おっしゃきたー!」
食いつかれた瞬間に勢いをつけて引き上げる。適度にしなるオリハルコン製の竿に、メタルスパイダー製の糸は切れることなく巨大魚を引っ張り上げる。
そしてとうとう海上へと姿を現したそれは、マグロにそっくりな巨大な魚だった。
もちろんこの場所にも日本からインフラを引き込んでおり、いくつかの家電も配置済みだ。普段生活することの多い野営用ハウスと同じくらいの快適さがあった。
「んで、明日はどうするんだ?」
風呂上がりに缶ビールを開けて、おっさん化したイヴァンが予定を聞いてくる。
「もちろん魚獲りに行くけど」
「それはわかってるんだけど、船でも出してもらうのか?」
「自力で飛んで行くわよ」
「だよなぁ」
どこか考えるようにしてビールを一口飲むと、イヴァンからげっぷが出てくる。
マジでおっさん化してやがる。
「んじゃ俺は冒険者ギルドでも行って依頼を探すかな」
自力で飛べるのは俺と莉緒にニルだけなので、他のメンバーは付いてくることができない。
「わふぅぅぅ」
魚と聞いてニルが耳と尻尾を垂れて悲しそうにしている。
「はは、ニルも来るか? 魔物でも討伐に行こうぜ」
「わふっ!」
イヴァンの言葉に目を輝かせるニル。やっぱり肉のほうが好きらしい。
「えー、ボクもでっかい魚見てみたかったなぁ」
それに不満を述べるフォニアだったけど、さすがにフォニアを抱えたままだと機動力が落ちる。海底にも潜るつもりなので、せめて連れて行くならどんな魔物がいるかわかってからだな。
「獲れたら港で解体するからフォニアも見に来るといい」
「うん。わかった!」
ちゃんと説明すると理解してくれるフォニアは賢くて可愛い。
「あたしはヒノマルのアイソレージュ支部を強化しておきます。将来できる拠点から一番近い街なので」
エルはエルで仕事をするようだ。
こうしてダンジョン最奥で釣りの準備をしつつ、次の日の予定が決まった。
「どこから行く?」
「そうだなぁ……」
翌朝、港を目の前にしてどこから攻めるのか莉緒と相談する。湾内の海産物も気になるけど。
「やっぱり一番気になる巨大魚から行くか」
「だよねぇ。私もおっきい魚が一番気になる」
夜明け過ぎくらいの時間帯なので、港に停泊していた船は漁でほぼ出払っている状態だ。人も閑散としており、そこまで目立つことはないだろう。
二人してふわりと浮き上がると、湾外に向かって一直線に飛んで行くことにした。
途中で漁をする船を追い越しながら海上を進んでいく。左手の遠くに崖が見えるので、その切れ目が湾外の目印になるはずだ。といっても、海中に向けて気配察知をすればすぐにわかるかもしれない。
湾から出るか出ないかギリギリのところに大型船が見えたが、巨大魚が侵入してこないか監視でもしているんだろうか。
「いた」
左手の崖の切れ目が見えてからしばらく前進して海中を探ると、予想通り発見することができた。
「うわ、すごいわね」
莉緒もある程度気配察知が使えるので発見は簡単だ。さすがに浅い場所にはいないが、数キロも潜れば十メートルを超える魚影の気配がちらほらとある。
「ここらへんでいいかな」
「うん」
あらかじめ用意しておいた撒き餌となる肉を異空間ボックスから取り出すと、周辺の海面へばら撒く。一緒に取り出した釣り竿の先にもでかい肉の塊を付けて海面へ垂らすと、どんどんと底へと沈めていく。
海面に無数の小魚が集まってきて、撒き餌をバシャバシャと音を立てながら食らっていくが放置だ。小さいと言っても三十センチ以上はあるので十分なサイズだが、百メートル以上がいると聞けばそっちを釣りあげたい。
「うおお、ちょっとずつ大物が集まってきてる」
「結構海底なのかしら。あんまり変わらないように思うけど」
莉緒の言う通り思ったより深い場所だ。集まってきてはいるけど、浮上はしてきていないので莉緒の気配察知では届かないのかもしれない。
しばらく釣り糸を垂らして何匹か釣りあげるが、大物はまだ来ない。
「うーん」
「来ないわねぇ」
釣り糸を垂らしてさらに一時間ほどたっただろうか。警戒しているのか大物はなかなか食らいついてこない。
「釣り餌が小さすぎるのかな?」
「動いてる餌じゃないと食いついてこないとか?」
「うーん。さっき釣った魚を餌にしてみようか」
相談の結果、五メートルほどの魚を巨大な釣り針に引っ掛けて海へと放流する。
「おー、まだまだ元気だな」
時間停止する異空間ボックスに入れていたけどまだ死んではいなかったようだ。空気も存在しない空間だけど、時間が止まっていれば問題ないということか。
逃げるように海底へと向かう魚だが、伸びきった釣り糸以上先には行くことはできない。一定の距離をしばらく逃げ回っていたが、それも目的の巨大魚に食いつかれて終わることになる。
「おっしゃきたー!」
食いつかれた瞬間に勢いをつけて引き上げる。適度にしなるオリハルコン製の竿に、メタルスパイダー製の糸は切れることなく巨大魚を引っ張り上げる。
そしてとうとう海上へと姿を現したそれは、マグロにそっくりな巨大な魚だった。
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