394 / 421
閑話(第六部)
閑話1 メサリア
しおりを挟む
「シュウ様。ようこそおいでくださいました」
いつものように仕事をしていると、ふと気配を感じたので迎えに行けば案の定でした。我が情報ギルドのグランドマスターであるシュウ様が、テレポートの魔法で本部へとやってきました。
「ああ、ちょっと実験をしたくてね」
「実験……、ですか?」
いつものようにギルドの運営資金を受け取りつつ、シュウ様の言葉を繰り返す。たまにとんでもないことをなさるので、油断がならないのです。
「そうそう。えーっと……」
ここはフェアリィバレイにある妖精の宿の一室。シュウ様がテレポートで訪れるための部屋です。独り言をつぶやきながら壁際へと歩いていくと、シュウ様が何かを始めました。
「ん? おお? なんかできそう?」
いったい何ができそうなんでしょうか。期待と不安が半分ずつ入り混じって膨れ上がってきます。
「えっ?」
と思っていたら、目の前の壁にいきなり扉ができてしまいました。
「思ったより簡単にできたなぁ」
しかしシュウ様はそう一言だけ呟くと扉の向こう側に消えてしまいます。ちゃんと説明はしてくれると思いますが、少しだけ不安です。さすがにこのまま放置はないと思いたいです。
それにしても壁の向こう側は廊下だったはずなんですが、薄暗い石造りの通路のようなものが見えてしまいました。変なところと繋がってなければいいのですが……。
とりあえず受け取った資金を確認しようと、袋の口を開けて中身を確認してみました。今回も十億フロンの価値があるミスリル貨が一枚混じっています。両替にも苦労するのですが仕方がありません。
組織を運営しているわたしなどより、一個人の冒険者として動いているシュウ様のほうが、ミスリル貨を使う機会などないでしょう。
気が付けばシュウ様が扉から戻ってきています。何やら枝がいっぱいついている箱のようなものを手に持っていらっしゃいますが、あれは何でしょうか。扉から二本ほど紐のようなものが伸びていて箱に繋がっています。
「……お、繋がった」
手元ですまほを操作して満足そうにしていらっしゃいます。あれはわたしたちに配られたものと違うすまほでしょうか。確かその場の景色を一瞬で切り取れる機能があったはず。それがあれば我らが情報ギルドの仕事も飛躍的に捗りそうです。
「実験はうまくいきましたか?」
あまりにも気になりすぎたので、シュウ様の作業がひと段落付いたと思うところで声を掛けてしまいました。
「ん? ああ、すまん、問題なしだ」
「もしかして、シュウ様のそのすまほが使えるようになったので……?」
恐る恐る尋ねてみると、ニヤリとした笑みが返ってきたのでわたしの予感は正しかったのでしょう。
「そうだな。これでここにいても撮った写真をすぐに送れるようになったぞ。といっても無線の範囲はそんなに広くないから、ここから五十メートルも離れたら繋がらないかもしれないけど」
なんということでしょう。まさに思った通り仕事が捗りそうではありませんか。
「ああそれと、今俺たちが拠点にしてる街とここも繋がったから行き来が楽になったぞ」
「……は?」
「ほら、この扉の通路のすぐ向こう側だ」
そうでした。扉ができたんでした。すまほのせいで意識の外にいってしまっていました。
「……その扉はなんなんでしょうか。いきなりできたように見えましたが」
シュウ様が作り出した扉ということはわかりますが、今シュウ様が拠点にしている場所と繋がった? 確かフェアデヘルデ王国にいらっしゃったはずですよね。
え? それが扉一つで繋がった?
もうわけがわかりません。
「あー、そうだな。最初から説明しないとだな」
ええ、もちろんですとも。すぐさま連絡が取れるようになるすまほが配付されてから、わたしたちの組織が飛躍的に大きくなってきています。それが、扉をくぐるだけで遠く離れた地にも行けるようになるのですか?
「これはダンジョンなんだ」
「……え?」
ダンジョン?
「…………………………ええ?」
一瞬頭が真っ白になってしまいました。ダンジョンとは、お宝と魔物があふれるあのダンジョンでしょうか。そんな恐ろしいものがこの妖精の宿に……、と思いましたが、シュウ様がそんなことをするはずもありません。
「今すぐ他の拠点にもダンジョンの入り口を作ってください」
ダンジョンを操れるようになったというシュウ様の話を理解した瞬間、無意識にそう言葉にしていました。すまほで情報だけでなく、人員や物資まですぐに送れるではありませんか!
「さあ行きましょう。すぐに行きましょう!」
「あ、はい」
確かすまほを配った地域であればシュウ様はテレポートで飛べるはずです。戸惑うシュウ様の腕を取ると即行動です。
「各地から人員を集めてフェアデヘルデ王国の王都に送り込みましょう。シュウ様が今求めている情報を最速で手に入れます」
「あ、ああ、よろしく頼んだ」
シュウ様へそう告げると、戸惑いつつも今すぐ動くことに納得してくれたご様子です。大陸各地の拠点に配布したすまほへと向けて一緒に転移し、ダンジョンの入り口を作成して繋げて回っていただきました。
さらに後日配付されたニホン製の「すまほ」と「のーとぱそこん」のおかげで情報収集がさらに捗ったのは言うまでもありません。
わたしもニホン語を早急に覚える必要がありそうです。
いつものように仕事をしていると、ふと気配を感じたので迎えに行けば案の定でした。我が情報ギルドのグランドマスターであるシュウ様が、テレポートの魔法で本部へとやってきました。
「ああ、ちょっと実験をしたくてね」
「実験……、ですか?」
いつものようにギルドの運営資金を受け取りつつ、シュウ様の言葉を繰り返す。たまにとんでもないことをなさるので、油断がならないのです。
「そうそう。えーっと……」
ここはフェアリィバレイにある妖精の宿の一室。シュウ様がテレポートで訪れるための部屋です。独り言をつぶやきながら壁際へと歩いていくと、シュウ様が何かを始めました。
「ん? おお? なんかできそう?」
いったい何ができそうなんでしょうか。期待と不安が半分ずつ入り混じって膨れ上がってきます。
「えっ?」
と思っていたら、目の前の壁にいきなり扉ができてしまいました。
「思ったより簡単にできたなぁ」
しかしシュウ様はそう一言だけ呟くと扉の向こう側に消えてしまいます。ちゃんと説明はしてくれると思いますが、少しだけ不安です。さすがにこのまま放置はないと思いたいです。
それにしても壁の向こう側は廊下だったはずなんですが、薄暗い石造りの通路のようなものが見えてしまいました。変なところと繋がってなければいいのですが……。
とりあえず受け取った資金を確認しようと、袋の口を開けて中身を確認してみました。今回も十億フロンの価値があるミスリル貨が一枚混じっています。両替にも苦労するのですが仕方がありません。
組織を運営しているわたしなどより、一個人の冒険者として動いているシュウ様のほうが、ミスリル貨を使う機会などないでしょう。
気が付けばシュウ様が扉から戻ってきています。何やら枝がいっぱいついている箱のようなものを手に持っていらっしゃいますが、あれは何でしょうか。扉から二本ほど紐のようなものが伸びていて箱に繋がっています。
「……お、繋がった」
手元ですまほを操作して満足そうにしていらっしゃいます。あれはわたしたちに配られたものと違うすまほでしょうか。確かその場の景色を一瞬で切り取れる機能があったはず。それがあれば我らが情報ギルドの仕事も飛躍的に捗りそうです。
「実験はうまくいきましたか?」
あまりにも気になりすぎたので、シュウ様の作業がひと段落付いたと思うところで声を掛けてしまいました。
「ん? ああ、すまん、問題なしだ」
「もしかして、シュウ様のそのすまほが使えるようになったので……?」
恐る恐る尋ねてみると、ニヤリとした笑みが返ってきたのでわたしの予感は正しかったのでしょう。
「そうだな。これでここにいても撮った写真をすぐに送れるようになったぞ。といっても無線の範囲はそんなに広くないから、ここから五十メートルも離れたら繋がらないかもしれないけど」
なんということでしょう。まさに思った通り仕事が捗りそうではありませんか。
「ああそれと、今俺たちが拠点にしてる街とここも繋がったから行き来が楽になったぞ」
「……は?」
「ほら、この扉の通路のすぐ向こう側だ」
そうでした。扉ができたんでした。すまほのせいで意識の外にいってしまっていました。
「……その扉はなんなんでしょうか。いきなりできたように見えましたが」
シュウ様が作り出した扉ということはわかりますが、今シュウ様が拠点にしている場所と繋がった? 確かフェアデヘルデ王国にいらっしゃったはずですよね。
え? それが扉一つで繋がった?
もうわけがわかりません。
「あー、そうだな。最初から説明しないとだな」
ええ、もちろんですとも。すぐさま連絡が取れるようになるすまほが配付されてから、わたしたちの組織が飛躍的に大きくなってきています。それが、扉をくぐるだけで遠く離れた地にも行けるようになるのですか?
「これはダンジョンなんだ」
「……え?」
ダンジョン?
「…………………………ええ?」
一瞬頭が真っ白になってしまいました。ダンジョンとは、お宝と魔物があふれるあのダンジョンでしょうか。そんな恐ろしいものがこの妖精の宿に……、と思いましたが、シュウ様がそんなことをするはずもありません。
「今すぐ他の拠点にもダンジョンの入り口を作ってください」
ダンジョンを操れるようになったというシュウ様の話を理解した瞬間、無意識にそう言葉にしていました。すまほで情報だけでなく、人員や物資まですぐに送れるではありませんか!
「さあ行きましょう。すぐに行きましょう!」
「あ、はい」
確かすまほを配った地域であればシュウ様はテレポートで飛べるはずです。戸惑うシュウ様の腕を取ると即行動です。
「各地から人員を集めてフェアデヘルデ王国の王都に送り込みましょう。シュウ様が今求めている情報を最速で手に入れます」
「あ、ああ、よろしく頼んだ」
シュウ様へそう告げると、戸惑いつつも今すぐ動くことに納得してくれたご様子です。大陸各地の拠点に配布したすまほへと向けて一緒に転移し、ダンジョンの入り口を作成して繋げて回っていただきました。
さらに後日配付されたニホン製の「すまほ」と「のーとぱそこん」のおかげで情報収集がさらに捗ったのは言うまでもありません。
わたしもニホン語を早急に覚える必要がありそうです。
17
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる