391 / 421
第六部
罪科の決定
しおりを挟む
「さて、そなたらには、今このような状況になっているきっかけを作った張本人であるという容疑がかかっている」
「「「は?」」」
国王の声に再び揃ってバカ面を晒す三人。
城に乗り込んだのは俺たちだけど、確かにきっかけを作ったのはこいつらで間違いない。
「よ、容疑ですと!?」
「今の……、状況?」
「は? え、どういう……」
長官が国王に驚きの声を上げ、審議官は周囲を見回している。男爵に至ってはいまだによくわかっていないのか、青い顔をしたままうろたえている。
「まったく身に覚えがありませんが、どのような罪なのでしょう。この場に魔物がいることのほうがよほど重大事件のように思いますが……」
「なるほど」
困惑気味に長官が告げると、国王が感心したかのように声を上げる。
「この状況がすでに重大事件という共通認識はあるようでなにより」
国王の同意する言葉に少しだけ安心したのか、長官の表情が和らぐ。
「じゃが最初に言った言葉を翻すつもりはない。ワシはきっかけを作ったと言ったはずじゃ」
「きっかけ……?」
本気でわかっていないようで長官は首を傾げている。男爵は俺に気が付いたようで、最初は訝しんでいたが今では目を見開いて口をパクパクさせていた。審議官に至っては俺のことに気が付いていないようで、キョロキョロと挙動不審な動きを見せている。
「ベイファン・ローイング男爵」
「は、はひっ!」
国王がおもむろに名前を告げると、男爵が慌てて国王へと顔を向ける。
「そなたはSランク冒険者を不敬罪と強盗の罪で訴え出たそうじゃな」
「は、はい! あ、あやつらは貴族のわたしを敬うどころか、わたしの鏡を横から奪って持ち去っていきました!」
挙動不審ではあったが、国王の言葉にわが意を得たりとばかりに俺を指さして胸を張っている。第一印象で頭は悪そうだなと思っていたが、どうやら空気も読めないらしい。
「ふむ。自ら罪を認めるとは潔い」
「え?」
予想外な言葉だったようで、一言発したっきり男爵の動きが停止する。
「不敬罪が適用されるのは国民だけじゃ。そもそも不敬罪という物は濫用してはならん。現場も王都でも有数の商店じゃし、本当かどうかはすぐに目撃証言が取れるじゃろう」
国王が次に目を向けたのは隣にいる審議官だ。
「ウェズリー・グラブス子爵」
「はっ」
男爵と比べれば落ち着いているようだが、額にびっしりと汗を浮かべていて内心では焦っているように見える。
「罪を犯しているかどうか慎重に審議する審議官とあろう者が、相手とロクに顔を合わせていないとはどういうことかね」
「詳しく話を聞こうと思いましたが、拒否されたので……」
そういえば付いて来いと言われてスルーした記憶があるな。しかしそれで黒と判断されちゃたまらんな。接触もせずに拒否された態で有罪判定とかしてそうだ。
「そんなことで有罪が決まるなら審議官という存在など不要じゃ」
だが国王は審議官の言い訳をバッサリと切り捨てる。
「スタンピードの警戒レベルが上がったので、あの後に接触する機会がなかったのです」
「そんなものは言い訳にもならん。どちらにしろそなたが王都に引き返してくる前には城に犯罪確定通知書が届いていた。会って話をする前からすでに確定事項だったのじゃろう?」
珍しくて覚えていたっていう、俺の書類のことかな? 冒険者の動向も割と情報収集してるんだなと思ったが、それはそれでもうちょっと隠蔽工作しろよと言いたい。ガバガバじゃねぇか。
「しかも不敬罪と強盗だけでなく、殺人未遂の罪も付けていたとか」
「!?」
国王の言葉に驚いたのは男爵だ。
目を見開いて審議官と長官に目を向けた後、国王に向かってフルフルと首を振って否定している。
「最後に、ダレーディモ・トーガビート伯爵」
「ハッ」
さっきまで比較的冷静だと思っていたが、国王に名前を呼ばれたあたりでプルプルと震えだしている。
「殺人未遂も追加して審議官であるウェズリーを送り出したのはそなたか」
「……そ、それは」
言葉を濁す長官だが、それ以上出てこないらしい。認めたようなものではあるが、こんな場所に呼び出されてしまえば悪あがきもできないのかもしれない。
「そして犯罪確定通知書を宰相に通すのもそなたの役目だ。話を聞く前に出したウェズリーもだが、それを知って通すとは審議官の風上にも置けん。ましてや罪を勝手に追加するなど言語道断じゃ!」
「ぐっ」
「その結果、今のような状況になっておることは理解できておるな?」
「はっ。……ひとりの冒険者に、いわれのない罪を着せたことを――」
「そうではない」
「え?」
「うん?」
おっと、思わず声が出てしまった。
俺以外にも無実の罪を着せた人間がいるだろうって言いたいのかな?
「宰相の放った暗部や軍隊、騎士団を真正面から力づくで突破され、こうして謁見の間を配下と思われるゴーレムに占拠されておる」
国王が淡々と話している言葉を聞かされている三人が、さらに顔を青ざめさせていっている。
「今はこうして大人しくしてくれているが、ワシらの命などほんの少し手を動かすだけで刈り取れることじゃろう。そのきっかけを作ったのがそなたらだということじゃ」
他に被害者がいるだろうって話じゃなかった。
確かに城に突撃してきたけど、国王からすれば喉元に刃を突き付けられてる状態なのは間違いない。
恐ろしいものでも見たかのような視線を三人だけでなく、他の大臣らからもらったけど、ここは開き直って手を振り返したほうがいいだろうか。
「わかったのであれば今から沙汰を下す。ここにいない宰相も含めて、そなたらは国家転覆の罪科とする」
「「「は?」」」
国王の声に再び揃ってバカ面を晒す三人。
城に乗り込んだのは俺たちだけど、確かにきっかけを作ったのはこいつらで間違いない。
「よ、容疑ですと!?」
「今の……、状況?」
「は? え、どういう……」
長官が国王に驚きの声を上げ、審議官は周囲を見回している。男爵に至ってはいまだによくわかっていないのか、青い顔をしたままうろたえている。
「まったく身に覚えがありませんが、どのような罪なのでしょう。この場に魔物がいることのほうがよほど重大事件のように思いますが……」
「なるほど」
困惑気味に長官が告げると、国王が感心したかのように声を上げる。
「この状況がすでに重大事件という共通認識はあるようでなにより」
国王の同意する言葉に少しだけ安心したのか、長官の表情が和らぐ。
「じゃが最初に言った言葉を翻すつもりはない。ワシはきっかけを作ったと言ったはずじゃ」
「きっかけ……?」
本気でわかっていないようで長官は首を傾げている。男爵は俺に気が付いたようで、最初は訝しんでいたが今では目を見開いて口をパクパクさせていた。審議官に至っては俺のことに気が付いていないようで、キョロキョロと挙動不審な動きを見せている。
「ベイファン・ローイング男爵」
「は、はひっ!」
国王がおもむろに名前を告げると、男爵が慌てて国王へと顔を向ける。
「そなたはSランク冒険者を不敬罪と強盗の罪で訴え出たそうじゃな」
「は、はい! あ、あやつらは貴族のわたしを敬うどころか、わたしの鏡を横から奪って持ち去っていきました!」
挙動不審ではあったが、国王の言葉にわが意を得たりとばかりに俺を指さして胸を張っている。第一印象で頭は悪そうだなと思っていたが、どうやら空気も読めないらしい。
「ふむ。自ら罪を認めるとは潔い」
「え?」
予想外な言葉だったようで、一言発したっきり男爵の動きが停止する。
「不敬罪が適用されるのは国民だけじゃ。そもそも不敬罪という物は濫用してはならん。現場も王都でも有数の商店じゃし、本当かどうかはすぐに目撃証言が取れるじゃろう」
国王が次に目を向けたのは隣にいる審議官だ。
「ウェズリー・グラブス子爵」
「はっ」
男爵と比べれば落ち着いているようだが、額にびっしりと汗を浮かべていて内心では焦っているように見える。
「罪を犯しているかどうか慎重に審議する審議官とあろう者が、相手とロクに顔を合わせていないとはどういうことかね」
「詳しく話を聞こうと思いましたが、拒否されたので……」
そういえば付いて来いと言われてスルーした記憶があるな。しかしそれで黒と判断されちゃたまらんな。接触もせずに拒否された態で有罪判定とかしてそうだ。
「そんなことで有罪が決まるなら審議官という存在など不要じゃ」
だが国王は審議官の言い訳をバッサリと切り捨てる。
「スタンピードの警戒レベルが上がったので、あの後に接触する機会がなかったのです」
「そんなものは言い訳にもならん。どちらにしろそなたが王都に引き返してくる前には城に犯罪確定通知書が届いていた。会って話をする前からすでに確定事項だったのじゃろう?」
珍しくて覚えていたっていう、俺の書類のことかな? 冒険者の動向も割と情報収集してるんだなと思ったが、それはそれでもうちょっと隠蔽工作しろよと言いたい。ガバガバじゃねぇか。
「しかも不敬罪と強盗だけでなく、殺人未遂の罪も付けていたとか」
「!?」
国王の言葉に驚いたのは男爵だ。
目を見開いて審議官と長官に目を向けた後、国王に向かってフルフルと首を振って否定している。
「最後に、ダレーディモ・トーガビート伯爵」
「ハッ」
さっきまで比較的冷静だと思っていたが、国王に名前を呼ばれたあたりでプルプルと震えだしている。
「殺人未遂も追加して審議官であるウェズリーを送り出したのはそなたか」
「……そ、それは」
言葉を濁す長官だが、それ以上出てこないらしい。認めたようなものではあるが、こんな場所に呼び出されてしまえば悪あがきもできないのかもしれない。
「そして犯罪確定通知書を宰相に通すのもそなたの役目だ。話を聞く前に出したウェズリーもだが、それを知って通すとは審議官の風上にも置けん。ましてや罪を勝手に追加するなど言語道断じゃ!」
「ぐっ」
「その結果、今のような状況になっておることは理解できておるな?」
「はっ。……ひとりの冒険者に、いわれのない罪を着せたことを――」
「そうではない」
「え?」
「うん?」
おっと、思わず声が出てしまった。
俺以外にも無実の罪を着せた人間がいるだろうって言いたいのかな?
「宰相の放った暗部や軍隊、騎士団を真正面から力づくで突破され、こうして謁見の間を配下と思われるゴーレムに占拠されておる」
国王が淡々と話している言葉を聞かされている三人が、さらに顔を青ざめさせていっている。
「今はこうして大人しくしてくれているが、ワシらの命などほんの少し手を動かすだけで刈り取れることじゃろう。そのきっかけを作ったのがそなたらだということじゃ」
他に被害者がいるだろうって話じゃなかった。
確かに城に突撃してきたけど、国王からすれば喉元に刃を突き付けられてる状態なのは間違いない。
恐ろしいものでも見たかのような視線を三人だけでなく、他の大臣らからもらったけど、ここは開き直って手を振り返したほうがいいだろうか。
「わかったのであれば今から沙汰を下す。ここにいない宰相も含めて、そなたらは国家転覆の罪科とする」
20
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる