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第六部
強制召喚
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「陛下!?」
まずは騎士をTYPEシリーズから解放させていると、まだ床に押さえつけられている宰相からくぐもった声が上がる。
「そ、そんな奴の偽造書類を信用すると言うのですか!?」
自由に動かせる両腕を振り回しながら訴えている。
「ここに審議官長官と宰相の印が押されているであろうが」
が、国王は全く取り合う気はないようである。宰相の手が届かない位置まで来ると、書類をよく見えるように見せて印が押されている箇所を叩く。
「私の屋敷に賊が入ったのですから、その時に押印したのでしょう! 私はそんなものに印を押した覚えはない!」
シラを切り通す宰相だが、国王の表情はますます渋くなってくるだけだ。
それにしても指紋や筆跡鑑定がないと結構ガバガバになるもんだな。盗んできた書類を誰が作ったのかなんて証明できるもんじゃない。
「ふん。疑惑のある物証が出てきた以上、闇魔法をかけて聞き出す他なかろう」
「ッ!?」
国王の言葉が予想外だったんだろうか。口をパクパクさせている間に、自由になった騎士が困惑の表情をしながらやってきた。騎士が拘束しやすいように宰相をTYPEシリーズから開放する。
闇魔法には精神を操る系統のものもあるので、口を割らせることにも使用されることがあるのだ。
「この際じゃから言うが……、ザイニーン」
ビシッと宰相に指を突き付けて、国王が言葉を続ける。
「前々からお主は怪しいとワシも思っていた。ここまできたら容赦はしない。余罪も含めてすべて吐き出させてやるわ!」
大声で一括した国王に、ざわついていた謁見の間が一瞬で静かになる。
「この罪人を牢屋にぶち込んでおくのじゃ!」
「「はっ!」」
地面に転がったままの宰相を騎士が無理やり立たせ、そのまま謁見の間から出ていく。しばらく宰相の喚き声がするが、それも聞こえなくなった。
「さて、ひと悶着はあったが、そちらの目的は果たされたかな?」
国王の言葉に、そういえばと本来の目的を思い出す。腕を組んで謁見の間をゆっくりと見回すとだいたい三十人ほどいるだろうか。TYPEシリーズに拘束されているのはそのうち五人ほどだ。一人ひとり鑑定していくが、審議官長官であるダレーディモ・トーガビート伯爵はここにはいない。
「そうだな。他にも文句を言いたい奴はいるが、ここにはいないみたいだ」
「ふむ。他に標的がいるということか」
「報復をしたいのでね」
顎鬚を撫でながら問いかけてきた国王に、肩をすくめて返す。
「ほう、よければ名前を聞かせてもらえんじゃろうか」
ピクリと眉を動かした国王に残りの名前を告げる。男爵、審議官、審議官長官の三人だ。
「ならば王城に召喚しようではないか」
「うん?」
国王の言葉に思わず考え込む。召喚魔法かと思ったが即切り捨てる。んなもんが気軽にできたらびっくりだ。普通に召喚状を書いて呼び出すんだろう。
でもなぁ。
「不要です。標的の居場所は把握しているので、直接行ったほうが早いです」
思っていたことをエルが言葉にしてくれた。来るのを待っていたら時間がかかる。これ以上余計なことはするなと釘を指したらさっさとこの国とはおさらばしたい。
標的にはTYPEシリーズが付いているし、手段を問わなければ会うだけなら今すぐにでも可能なのだ。
「そうだな。わざわざ待ってる時間は惜しい」
「そう簡単にはいかぬか……」
何やらブツブツ考え込んでいた国王だったが、すぐに何かを思いついたように顔を上げる。
「では召喚状を届けてはもらえぬじゃろうか」
言葉と同時に周囲にいた大臣へ、召喚状をすぐに作成するように指示を出している。城に呼び出して国王も話を聞きたいということか。了承はしてないんだが、断ったら別の誰かが届けるだけか。
「何が起こったのか本人から聞き出すのは重要じゃろう。沙汰を下すには事実を知る必要がある。……話し合いとやらにはワシも興味があったが、致し方ない」
残念そうに肩を落としているが、話し合いに国王も同席したいということか?
臣下を守るためかとも思ったが沙汰を下すとも言ったな。宰相も捕らえたようだし、この国王はまともに判断を下すほうかもしれない。
となれば案外武力と権力の両方から攻めると心が折れるのは早いか?
国王まで敵に回るというのならそのときだ。試してみるのもいいかもしれない。
「そういうことなら届けてもいいですよ」
『よろしいのですか?』
ニヤリと笑みを浮かべたところですぐ近くにいたエルから念話が届く。
「そうか。すぐに用意させるので少し待っていてくれ」
ホッとした様子の国王に頷き返しつつ、さっき考えたことをエルにも念話で伝える。半分納得したような微妙な反応だったが、最後まで聞けば得心がいったようだ。
『強制的に受け取りに来てもらえば待つ必要もない。監視してるTYPEシリーズを使ってここまで強制連行だ』
『なるほど。承知いたしました』
というわけでさっそく監視している鳥TYPEに指令を出す。視界を共有すればそれぞれの様子が映し出される。
街中を馬車で移動中の男爵は、いきなり馬車を破壊して現れた鳥TYPEに顔を青ざめさせて固まっている。
南門近くで冒険者らしき人物相手に審議結果をつらつらと告げていた審議官は、そのまま空から襲い掛かった鳥TYPEにあっけなく攫われ。
審議官邸の執務室で仕事中の審議官長官も、窓をぶち破って現れた鳥TYPEになすすべもなく捕まった。
「ええ、できるだけ早くしてくださいね」
笑顔で国王に告げると、謁見の間の入り口へと下がった。ちょうどこのあたりに鳥TYPEが突っ込んでくるので仲間たちには場所を空けておいてもらわねばならないのだ。
まずは騎士をTYPEシリーズから解放させていると、まだ床に押さえつけられている宰相からくぐもった声が上がる。
「そ、そんな奴の偽造書類を信用すると言うのですか!?」
自由に動かせる両腕を振り回しながら訴えている。
「ここに審議官長官と宰相の印が押されているであろうが」
が、国王は全く取り合う気はないようである。宰相の手が届かない位置まで来ると、書類をよく見えるように見せて印が押されている箇所を叩く。
「私の屋敷に賊が入ったのですから、その時に押印したのでしょう! 私はそんなものに印を押した覚えはない!」
シラを切り通す宰相だが、国王の表情はますます渋くなってくるだけだ。
それにしても指紋や筆跡鑑定がないと結構ガバガバになるもんだな。盗んできた書類を誰が作ったのかなんて証明できるもんじゃない。
「ふん。疑惑のある物証が出てきた以上、闇魔法をかけて聞き出す他なかろう」
「ッ!?」
国王の言葉が予想外だったんだろうか。口をパクパクさせている間に、自由になった騎士が困惑の表情をしながらやってきた。騎士が拘束しやすいように宰相をTYPEシリーズから開放する。
闇魔法には精神を操る系統のものもあるので、口を割らせることにも使用されることがあるのだ。
「この際じゃから言うが……、ザイニーン」
ビシッと宰相に指を突き付けて、国王が言葉を続ける。
「前々からお主は怪しいとワシも思っていた。ここまできたら容赦はしない。余罪も含めてすべて吐き出させてやるわ!」
大声で一括した国王に、ざわついていた謁見の間が一瞬で静かになる。
「この罪人を牢屋にぶち込んでおくのじゃ!」
「「はっ!」」
地面に転がったままの宰相を騎士が無理やり立たせ、そのまま謁見の間から出ていく。しばらく宰相の喚き声がするが、それも聞こえなくなった。
「さて、ひと悶着はあったが、そちらの目的は果たされたかな?」
国王の言葉に、そういえばと本来の目的を思い出す。腕を組んで謁見の間をゆっくりと見回すとだいたい三十人ほどいるだろうか。TYPEシリーズに拘束されているのはそのうち五人ほどだ。一人ひとり鑑定していくが、審議官長官であるダレーディモ・トーガビート伯爵はここにはいない。
「そうだな。他にも文句を言いたい奴はいるが、ここにはいないみたいだ」
「ふむ。他に標的がいるということか」
「報復をしたいのでね」
顎鬚を撫でながら問いかけてきた国王に、肩をすくめて返す。
「ほう、よければ名前を聞かせてもらえんじゃろうか」
ピクリと眉を動かした国王に残りの名前を告げる。男爵、審議官、審議官長官の三人だ。
「ならば王城に召喚しようではないか」
「うん?」
国王の言葉に思わず考え込む。召喚魔法かと思ったが即切り捨てる。んなもんが気軽にできたらびっくりだ。普通に召喚状を書いて呼び出すんだろう。
でもなぁ。
「不要です。標的の居場所は把握しているので、直接行ったほうが早いです」
思っていたことをエルが言葉にしてくれた。来るのを待っていたら時間がかかる。これ以上余計なことはするなと釘を指したらさっさとこの国とはおさらばしたい。
標的にはTYPEシリーズが付いているし、手段を問わなければ会うだけなら今すぐにでも可能なのだ。
「そうだな。わざわざ待ってる時間は惜しい」
「そう簡単にはいかぬか……」
何やらブツブツ考え込んでいた国王だったが、すぐに何かを思いついたように顔を上げる。
「では召喚状を届けてはもらえぬじゃろうか」
言葉と同時に周囲にいた大臣へ、召喚状をすぐに作成するように指示を出している。城に呼び出して国王も話を聞きたいということか。了承はしてないんだが、断ったら別の誰かが届けるだけか。
「何が起こったのか本人から聞き出すのは重要じゃろう。沙汰を下すには事実を知る必要がある。……話し合いとやらにはワシも興味があったが、致し方ない」
残念そうに肩を落としているが、話し合いに国王も同席したいということか?
臣下を守るためかとも思ったが沙汰を下すとも言ったな。宰相も捕らえたようだし、この国王はまともに判断を下すほうかもしれない。
となれば案外武力と権力の両方から攻めると心が折れるのは早いか?
国王まで敵に回るというのならそのときだ。試してみるのもいいかもしれない。
「そういうことなら届けてもいいですよ」
『よろしいのですか?』
ニヤリと笑みを浮かべたところですぐ近くにいたエルから念話が届く。
「そうか。すぐに用意させるので少し待っていてくれ」
ホッとした様子の国王に頷き返しつつ、さっき考えたことをエルにも念話で伝える。半分納得したような微妙な反応だったが、最後まで聞けば得心がいったようだ。
『強制的に受け取りに来てもらえば待つ必要もない。監視してるTYPEシリーズを使ってここまで強制連行だ』
『なるほど。承知いたしました』
というわけでさっそく監視している鳥TYPEに指令を出す。視界を共有すればそれぞれの様子が映し出される。
街中を馬車で移動中の男爵は、いきなり馬車を破壊して現れた鳥TYPEに顔を青ざめさせて固まっている。
南門近くで冒険者らしき人物相手に審議結果をつらつらと告げていた審議官は、そのまま空から襲い掛かった鳥TYPEにあっけなく攫われ。
審議官邸の執務室で仕事中の審議官長官も、窓をぶち破って現れた鳥TYPEになすすべもなく捕まった。
「ええ、できるだけ早くしてくださいね」
笑顔で国王に告げると、謁見の間の入り口へと下がった。ちょうどこのあたりに鳥TYPEが突っ込んでくるので仲間たちには場所を空けておいてもらわねばならないのだ。
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