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第六部
警戒レベルの解除
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魔物のスタンピードが発生した魔の森がある城塞都市サタニスガーデンは、王都から馬車でだいたい四日ほどのところにある。徒歩でいけば十日くらいだろうか。スタンピードの警戒レベルが解除されたら、王都に向けてゆっくりと出発する予定なのだ。
次元の扉を出せば王都まで一瞬でたどり着けるが、それだと道中で出迎えてくれるかもしれない相手をスルーしてしまう。そのすべてと全力でOHANASHIして真正面から城へと向かうのが今回の目的でもある。
妨害するものは完膚なきまでに叩き潰す。これを今回の命題にしていこうと思う。
そしてとうとうスタンピードの警戒レベルが2に引き下げられた。それに伴って、最前線に常駐していた人員が最低限の人数を残して引き上げていく。といっても引き上げた大半は軍人だ。
「うるさいのがいなくなってせいせいしたネ」
と誰かが言っていたが、引き下げられた理由はもしかすると警戒が不要になったからというより、ギルドが厄介払いをしたかったからかもしれない。
そこからさらに数日が経ったある日、スタンピードの終息宣言が出されたと、冒険者ギルドから帰ってきたイヴァンに教えてもらった。
「ようやく終わった……」
帰宅したイヴァンがしみじみと呟きながらソファへと座る。
「お疲れー」
「これでやっと強制依頼から解放される……」
そういえば警戒レベル2が出されて、Dランク以上の冒険者全員に強制依頼が出たんだっけ。魔物の数が減りだしてから俺たちには特に指示らしいものはなかったけど、イヴァンはいろいろとやることがあったようだ。
「イヴァン兄もがんばってえらい」
ソファの上ででろんと溶けているイヴァンを、フォニアがよしよしと撫でている。
「ありがとう、フォニア」
ひとしきり撫でられたあとは、ソファから起き上がってフォニアを撫で返している。癒されたようで何よりだ。
「終息したら王都に行くんだったか?」
「うん。ちょっとこの国には言いたいことが山ほどあるからな」
「アポもとってあるし」
莉緒と二人で頷き合っていると、イヴァンが「あぁ」と言いながら顔を引きつらせている。マジでやったのかと言いたげだが、重要なことなのでそこかしこで宣伝もしてきた。この街じゃ俺たちが王都でやったことの話は聞かないが、スタンピード発生中の街に来る人間がほぼいなかったせいもあるだろう。
「それじゃいつこの街を出るんだ?」
「んー、いつでもいいけど、イヴァンは今日まで仕事してただろうし、明日一日休んで明後日出ようか」
「別に明日でもよかったけど、悪いな」
「ふふ、じゃあ明後日ね」
「わかったー!」
「わふぅ!」
街を出る日が決まると、フォニアとニルからも元気な声が上がった。
特に何事もなく街を出る日になった。
「お待たせしました」
借りていた土地をもう使わなくなるので、エルが朝から商会へ行って手続きをしてくれていたが、終わったようでちょうど帰ってきた。
「よし、じゃあ出発するかー」
「おー!」
拠点にしていた土地を振り返るともう何もなくなっている。野営用ハウスは異空間ボックスに収納してあり、整えた庭はそのままだが人感センサーのLEDライトなどは回収済みだ。
王都がある南門へと向かっていると途中で冒険者ギルドがあるので顔だけ出していく。 と、カウンターで通常業務をしていた職員に見つかり、なぜか俺だけギルドマスターの執務室へと連れられてしまった。
「もう街を出るのかネ」
「まぁね。ダンジョンでも収穫あったし、ちょっと王都で用事を済ませたらこの国を出るつもりだよ」
「ハハ……、王都で用事ネ」
最後だしのんびり駄弁るのもいいかと思っていると、王都の話になった途端に乾いた笑いがギルドマスターから漏れてくる。もうすでに何かの情報を掴んでいるのかもしれない。
「ほどほどにしておいてもらえると助かるんだがネ」
「相手次第だからなぁ」
こればっかりはしょうがない。エルに聞けば今の王都の状態もわかるだろうが、敢えて聞いていないのだ。ちょっとどうなっているのか楽しみでもある。たとえ何が来ようともすべてを排除して王城に乗り込むのだ。
「いいかネ。ほどほどに頼むネ」
「はいはい」
やけに念を押してくるギルドマスターだが、そんなにやらかしそうに見えるんだろうか。首をひねりながらも街を出ることをギルドに報告できたので、建物を出て南門へと向かった。
今回はのんびりと歩いて王都へと向かうことにしている。もちろん道中では自重はせずに、改造に改造を重ねた野営用ハウスで過ごす予定だ。特に呼び止められることもなく南門から出ると、一路まっすぐに王都へと向かってしばらくすると。
「いるわねぇ」
「え? 何が?」
ポツリとつぶやいた莉緒の言葉にイヴァンが反応し、フォニアもキョロキョロと周囲を窺っている。
「様子見てるだけならいいんじゃねぇか?」
「そうだけど」
「なんだなんだ、俺たち監視でもされてんのか?」
イヴァンの言う通り、付かず離れずで後ろからついてくる気配が三つあった。いや、そのさらに遠くに二つか。さっそくOHANASHIする機会かとも思ったが、接触してこないのでちょっと残念ではある。被害があるわけでもないし、街を出てまだ初日だからと控えている。
「まぁそのうち接触してくるでしょ」
「それまで我慢ね」
「さいですか……」
などとのんびり会話をして街道を進んでいた俺たちであったが、さっそくその夜に動きがあった。
次元の扉を出せば王都まで一瞬でたどり着けるが、それだと道中で出迎えてくれるかもしれない相手をスルーしてしまう。そのすべてと全力でOHANASHIして真正面から城へと向かうのが今回の目的でもある。
妨害するものは完膚なきまでに叩き潰す。これを今回の命題にしていこうと思う。
そしてとうとうスタンピードの警戒レベルが2に引き下げられた。それに伴って、最前線に常駐していた人員が最低限の人数を残して引き上げていく。といっても引き上げた大半は軍人だ。
「うるさいのがいなくなってせいせいしたネ」
と誰かが言っていたが、引き下げられた理由はもしかすると警戒が不要になったからというより、ギルドが厄介払いをしたかったからかもしれない。
そこからさらに数日が経ったある日、スタンピードの終息宣言が出されたと、冒険者ギルドから帰ってきたイヴァンに教えてもらった。
「ようやく終わった……」
帰宅したイヴァンがしみじみと呟きながらソファへと座る。
「お疲れー」
「これでやっと強制依頼から解放される……」
そういえば警戒レベル2が出されて、Dランク以上の冒険者全員に強制依頼が出たんだっけ。魔物の数が減りだしてから俺たちには特に指示らしいものはなかったけど、イヴァンはいろいろとやることがあったようだ。
「イヴァン兄もがんばってえらい」
ソファの上ででろんと溶けているイヴァンを、フォニアがよしよしと撫でている。
「ありがとう、フォニア」
ひとしきり撫でられたあとは、ソファから起き上がってフォニアを撫で返している。癒されたようで何よりだ。
「終息したら王都に行くんだったか?」
「うん。ちょっとこの国には言いたいことが山ほどあるからな」
「アポもとってあるし」
莉緒と二人で頷き合っていると、イヴァンが「あぁ」と言いながら顔を引きつらせている。マジでやったのかと言いたげだが、重要なことなのでそこかしこで宣伝もしてきた。この街じゃ俺たちが王都でやったことの話は聞かないが、スタンピード発生中の街に来る人間がほぼいなかったせいもあるだろう。
「それじゃいつこの街を出るんだ?」
「んー、いつでもいいけど、イヴァンは今日まで仕事してただろうし、明日一日休んで明後日出ようか」
「別に明日でもよかったけど、悪いな」
「ふふ、じゃあ明後日ね」
「わかったー!」
「わふぅ!」
街を出る日が決まると、フォニアとニルからも元気な声が上がった。
特に何事もなく街を出る日になった。
「お待たせしました」
借りていた土地をもう使わなくなるので、エルが朝から商会へ行って手続きをしてくれていたが、終わったようでちょうど帰ってきた。
「よし、じゃあ出発するかー」
「おー!」
拠点にしていた土地を振り返るともう何もなくなっている。野営用ハウスは異空間ボックスに収納してあり、整えた庭はそのままだが人感センサーのLEDライトなどは回収済みだ。
王都がある南門へと向かっていると途中で冒険者ギルドがあるので顔だけ出していく。 と、カウンターで通常業務をしていた職員に見つかり、なぜか俺だけギルドマスターの執務室へと連れられてしまった。
「もう街を出るのかネ」
「まぁね。ダンジョンでも収穫あったし、ちょっと王都で用事を済ませたらこの国を出るつもりだよ」
「ハハ……、王都で用事ネ」
最後だしのんびり駄弁るのもいいかと思っていると、王都の話になった途端に乾いた笑いがギルドマスターから漏れてくる。もうすでに何かの情報を掴んでいるのかもしれない。
「ほどほどにしておいてもらえると助かるんだがネ」
「相手次第だからなぁ」
こればっかりはしょうがない。エルに聞けば今の王都の状態もわかるだろうが、敢えて聞いていないのだ。ちょっとどうなっているのか楽しみでもある。たとえ何が来ようともすべてを排除して王城に乗り込むのだ。
「いいかネ。ほどほどに頼むネ」
「はいはい」
やけに念を押してくるギルドマスターだが、そんなにやらかしそうに見えるんだろうか。首をひねりながらも街を出ることをギルドに報告できたので、建物を出て南門へと向かった。
今回はのんびりと歩いて王都へと向かうことにしている。もちろん道中では自重はせずに、改造に改造を重ねた野営用ハウスで過ごす予定だ。特に呼び止められることもなく南門から出ると、一路まっすぐに王都へと向かってしばらくすると。
「いるわねぇ」
「え? 何が?」
ポツリとつぶやいた莉緒の言葉にイヴァンが反応し、フォニアもキョロキョロと周囲を窺っている。
「様子見てるだけならいいんじゃねぇか?」
「そうだけど」
「なんだなんだ、俺たち監視でもされてんのか?」
イヴァンの言う通り、付かず離れずで後ろからついてくる気配が三つあった。いや、そのさらに遠くに二つか。さっそくOHANASHIする機会かとも思ったが、接触してこないのでちょっと残念ではある。被害があるわけでもないし、街を出てまだ初日だからと控えている。
「まぁそのうち接触してくるでしょ」
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「さいですか……」
などとのんびり会話をして街道を進んでいた俺たちであったが、さっそくその夜に動きがあった。
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