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第六部
噂の拡散
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城の正門前へとやってきた。さすが大国の城だけあり、門だけでも圧倒される大きさを誇っている。門の前には深い堀が横たわっており、巨大な跳ね橋がかけられている。あの橋が上がったら、普通の人間はそう簡単に城の中には入れなさそうだ。
ちょうど一台の馬車がきており、門衛の人たちと何かやり取りを行っていた。特に問題はなかったようで城の中へと馬車が入っていくと、門の前には誰もいなくなる。
「よし、行くか」
城門は開かれているが、鎧を着た門衛が左右に直立不動の姿勢で前方を睨みつけている。その跳ね橋の真ん中を堂々と歩いていく。が、用があるのは門衛だ。側にある詰め所のある方向へ進路を変えると、そこで直立不動にしていた門衛の視線がこちらに向いた。
「何用だ」
「手紙を持ってきたので届けに来ました」
「そうか。では中で手続きを」
「わかりました」
門衛に促されて詰め所の中へと入っていく。どうも犯罪認定されたSランク冒険者だとは気づかれていないのか、思ったよりまともな対応で拍子抜けだ。
「要件は手紙かな?」
外の声が聞こえていたんだろう。部屋の奥の椅子に座っていた男が振り返りながら確認してきた。
「はい」
「ではこちらで預かろう」
男はそう言葉にすると、手前にあったテーブルの上に木箱を乗せ、ここに入れるように促してくる。城にいる相手への手紙はそれなりに来るのだろう。いつもの対応といった感じで流される。
「ではよろしくお願いします」
持ってきた手紙の束を木箱の中へと入れると、目の前にいる男にそう告げる。あて先は国王陛下をはじめ、ヒノマルで調べ上げた国の各種重要人物となっている。中にはメイドや執事と言った、下働きをする者も含まれる。とにかく手当たり次第ではあるが、我ながらヒノマルの情報網は恐ろしい。
そして一枚だけ残っていた手紙も目の前の男に差し出す。
「うん? 俺宛てか?」
「いえ、正確にはここの門衛宛てです」
いつでも誰にでも渡せるようにと用意していた、宛名を書いていない手紙を手渡す。
「あ、ああ。とりあえず受け取っておこう」
戸惑いながらも受け取ってくれたのでよしとしよう。
「ではこれで」
「ちょっと待て」
用は済んだとばかりに踵を返そうとしたところで呼び止められてしまう。犯罪者認定されたSランク冒険者だとバレたのだろうか。
「何か?」
疑問に思いながら首だけ振り返ると、男はペンを構えて困惑する表情となっていた。
「……依頼で来たんじゃないのか? 完了のサインはいらないのか?」
ああ、なるほど。冒険者ギルドにあるお手紙配達依頼かと思ったわけか。確かに依頼なら完了のサインが必要だ。
「いえ、ギルド経由ではないので不要です」
「そうなのか」
「ええ。では俺はこれで」
それだけ告げると早々に退散することにした。
「思ったよりあっさり手紙を渡せたな……」
異空間ボックスに残っている、あて先のない手紙たちの処遇を考える。どうせなら有効活用したい。城の中だけじゃなくて、俺たちが宰相の不正を暴こうとしているのを一般市民にも伝えるのもありかもしれない。
「こういう時こそ冒険者ギルドだよな」
やってきたのは言葉にした通り、王都にある冒険者ギルドだ。王都だけあり、平民街の大通りにあるここは、魔の森と隣接している城塞都市サタニスガーデンの冒険者ギルドと遜色ないほどの規模となっている。
中に入れば思ったより閑散としている。隣の街でスタンピードが発生しているので、そちらの対処に向かった冒険者が多いのだろう。
人のいないカウンターへと向かうと、余っていた手紙の残りを全てカウンターの上に乗せる。
「ギルドへ依頼を出したい」
「あ、はい、依頼ですね。……その手紙の配達でしょうか?」
カウンターに乗せられた手紙をちらりと見やると、受付の女性職員が確認してくる。
「いや、配達じゃない」
即座に否定すると手紙を一つ開き、中身を職員に見せる。
「えっ? ……は? ええええええ!?」
手紙の文章はそこまで長いものではない。宰相の不正の証拠を国王へ直接付きつけに行くという内容だ。読み終わった職員の声が盛大に響き渡ると、何事かとギルドにいた冒険者たちの視線も集まった。
「この内容を王都民に広げて欲しい。――宰相の屋敷が何者かに襲撃を受けた、という噂と一緒にね」
「なんだなんだ」
興味本位で寄ってきた冒険者にも、職員へ見せた手紙を手渡してやる。
「その手紙の中身は全部同じだ。冒険者は何人使ってもいいから広めてもらえると助かる。報酬はここから適当にばら撒いてくれればいい」
手紙の横に金貨を五枚ほど置くと、職員へとニヤリと笑いかける。話を広げるだけなら新人冒険者でも可能だろう。新人のFランクが受けられる依頼となれば、依頼料は千フロンの銀貨一枚に満たないことも多い。五十万フロン程度を渡しておけば、ギルドの取り分も含めてギルド側でいい感じにやってくれるだろう。面倒なことは全部丸投げだ。
「え、えええ? この内容を広めるんですか?」
「なんじゃこりゃ!」
「不正の証拠?」
「え、Sランク冒険者!?」
「は、はは、これであのクソ宰相も終わりか!」
渡した手紙が冒険者たちの間を駆け巡り騒がしくなってくる。何やら個人的に宰相に恨みを持つ冒険者もいるようだ。
「ああ、その手紙は自由に使ってもらって構わない」
ハッと手元に視線を落とすと、手紙を一つ手に取って開封する。
「わ、わかりました。……期間などはありますか?」
「あー、それじゃ、明日から十日間で」
手紙にもスタンピードの警戒が解かれてから十日後とあるし、そんなもんでいいだろう。十分にうわさが広まってくれることを祈る。
「十日間ですね。その依頼承りました」
「それじゃよろしく」
「はい」
こうして王都民にも噂を広げにかかった俺は、王都を後にした。
ちょうど一台の馬車がきており、門衛の人たちと何かやり取りを行っていた。特に問題はなかったようで城の中へと馬車が入っていくと、門の前には誰もいなくなる。
「よし、行くか」
城門は開かれているが、鎧を着た門衛が左右に直立不動の姿勢で前方を睨みつけている。その跳ね橋の真ん中を堂々と歩いていく。が、用があるのは門衛だ。側にある詰め所のある方向へ進路を変えると、そこで直立不動にしていた門衛の視線がこちらに向いた。
「何用だ」
「手紙を持ってきたので届けに来ました」
「そうか。では中で手続きを」
「わかりました」
門衛に促されて詰め所の中へと入っていく。どうも犯罪認定されたSランク冒険者だとは気づかれていないのか、思ったよりまともな対応で拍子抜けだ。
「要件は手紙かな?」
外の声が聞こえていたんだろう。部屋の奥の椅子に座っていた男が振り返りながら確認してきた。
「はい」
「ではこちらで預かろう」
男はそう言葉にすると、手前にあったテーブルの上に木箱を乗せ、ここに入れるように促してくる。城にいる相手への手紙はそれなりに来るのだろう。いつもの対応といった感じで流される。
「ではよろしくお願いします」
持ってきた手紙の束を木箱の中へと入れると、目の前にいる男にそう告げる。あて先は国王陛下をはじめ、ヒノマルで調べ上げた国の各種重要人物となっている。中にはメイドや執事と言った、下働きをする者も含まれる。とにかく手当たり次第ではあるが、我ながらヒノマルの情報網は恐ろしい。
そして一枚だけ残っていた手紙も目の前の男に差し出す。
「うん? 俺宛てか?」
「いえ、正確にはここの門衛宛てです」
いつでも誰にでも渡せるようにと用意していた、宛名を書いていない手紙を手渡す。
「あ、ああ。とりあえず受け取っておこう」
戸惑いながらも受け取ってくれたのでよしとしよう。
「ではこれで」
「ちょっと待て」
用は済んだとばかりに踵を返そうとしたところで呼び止められてしまう。犯罪者認定されたSランク冒険者だとバレたのだろうか。
「何か?」
疑問に思いながら首だけ振り返ると、男はペンを構えて困惑する表情となっていた。
「……依頼で来たんじゃないのか? 完了のサインはいらないのか?」
ああ、なるほど。冒険者ギルドにあるお手紙配達依頼かと思ったわけか。確かに依頼なら完了のサインが必要だ。
「いえ、ギルド経由ではないので不要です」
「そうなのか」
「ええ。では俺はこれで」
それだけ告げると早々に退散することにした。
「思ったよりあっさり手紙を渡せたな……」
異空間ボックスに残っている、あて先のない手紙たちの処遇を考える。どうせなら有効活用したい。城の中だけじゃなくて、俺たちが宰相の不正を暴こうとしているのを一般市民にも伝えるのもありかもしれない。
「こういう時こそ冒険者ギルドだよな」
やってきたのは言葉にした通り、王都にある冒険者ギルドだ。王都だけあり、平民街の大通りにあるここは、魔の森と隣接している城塞都市サタニスガーデンの冒険者ギルドと遜色ないほどの規模となっている。
中に入れば思ったより閑散としている。隣の街でスタンピードが発生しているので、そちらの対処に向かった冒険者が多いのだろう。
人のいないカウンターへと向かうと、余っていた手紙の残りを全てカウンターの上に乗せる。
「ギルドへ依頼を出したい」
「あ、はい、依頼ですね。……その手紙の配達でしょうか?」
カウンターに乗せられた手紙をちらりと見やると、受付の女性職員が確認してくる。
「いや、配達じゃない」
即座に否定すると手紙を一つ開き、中身を職員に見せる。
「えっ? ……は? ええええええ!?」
手紙の文章はそこまで長いものではない。宰相の不正の証拠を国王へ直接付きつけに行くという内容だ。読み終わった職員の声が盛大に響き渡ると、何事かとギルドにいた冒険者たちの視線も集まった。
「この内容を王都民に広げて欲しい。――宰相の屋敷が何者かに襲撃を受けた、という噂と一緒にね」
「なんだなんだ」
興味本位で寄ってきた冒険者にも、職員へ見せた手紙を手渡してやる。
「その手紙の中身は全部同じだ。冒険者は何人使ってもいいから広めてもらえると助かる。報酬はここから適当にばら撒いてくれればいい」
手紙の横に金貨を五枚ほど置くと、職員へとニヤリと笑いかける。話を広げるだけなら新人冒険者でも可能だろう。新人のFランクが受けられる依頼となれば、依頼料は千フロンの銀貨一枚に満たないことも多い。五十万フロン程度を渡しておけば、ギルドの取り分も含めてギルド側でいい感じにやってくれるだろう。面倒なことは全部丸投げだ。
「え、えええ? この内容を広めるんですか?」
「なんじゃこりゃ!」
「不正の証拠?」
「え、Sランク冒険者!?」
「は、はは、これであのクソ宰相も終わりか!」
渡した手紙が冒険者たちの間を駆け巡り騒がしくなってくる。何やら個人的に宰相に恨みを持つ冒険者もいるようだ。
「ああ、その手紙は自由に使ってもらって構わない」
ハッと手元に視線を落とすと、手紙を一つ手に取って開封する。
「わ、わかりました。……期間などはありますか?」
「あー、それじゃ、明日から十日間で」
手紙にもスタンピードの警戒が解かれてから十日後とあるし、そんなもんでいいだろう。十分にうわさが広まってくれることを祈る。
「十日間ですね。その依頼承りました」
「それじゃよろしく」
「はい」
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