上 下
379 / 414
第六部

噂の拡散

しおりを挟む
 城の正門前へとやってきた。さすが大国の城だけあり、門だけでも圧倒される大きさを誇っている。門の前には深い堀が横たわっており、巨大な跳ね橋がかけられている。あの橋が上がったら、普通の人間はそう簡単に城の中には入れなさそうだ。

 ちょうど一台の馬車がきており、門衛の人たちと何かやり取りを行っていた。特に問題はなかったようで城の中へと馬車が入っていくと、門の前には誰もいなくなる。

「よし、行くか」

 城門は開かれているが、鎧を着た門衛が左右に直立不動の姿勢で前方を睨みつけている。その跳ね橋の真ん中を堂々と歩いていく。が、用があるのは門衛だ。側にある詰め所のある方向へ進路を変えると、そこで直立不動にしていた門衛の視線がこちらに向いた。

「何用だ」

「手紙を持ってきたので届けに来ました」

「そうか。では中で手続きを」

「わかりました」

 門衛に促されて詰め所の中へと入っていく。どうも犯罪認定されたSランク冒険者だとは気づかれていないのか、思ったよりまともな対応で拍子抜けだ。

「要件は手紙かな?」

 外の声が聞こえていたんだろう。部屋の奥の椅子に座っていた男が振り返りながら確認してきた。

「はい」

「ではこちらで預かろう」

 男はそう言葉にすると、手前にあったテーブルの上に木箱を乗せ、ここに入れるように促してくる。城にいる相手への手紙はそれなりに来るのだろう。いつもの対応といった感じで流される。

「ではよろしくお願いします」

 持ってきた手紙の束を木箱の中へと入れると、目の前にいる男にそう告げる。あて先は国王陛下をはじめ、ヒノマルで調べ上げた国の各種重要人物となっている。中にはメイドや執事と言った、下働きをする者も含まれる。とにかく手当たり次第ではあるが、我ながらヒノマルの情報網は恐ろしい。
 そして一枚だけ残っていた手紙も目の前の男に差し出す。

「うん? 俺宛てか?」

「いえ、正確にはここの門衛宛てです」

 いつでも誰にでも渡せるようにと用意していた、宛名を書いていない手紙を手渡す。

「あ、ああ。とりあえず受け取っておこう」

 戸惑いながらも受け取ってくれたのでよしとしよう。

「ではこれで」

「ちょっと待て」

 用は済んだとばかりに踵を返そうとしたところで呼び止められてしまう。犯罪者認定されたSランク冒険者だとバレたのだろうか。

「何か?」

 疑問に思いながら首だけ振り返ると、男はペンを構えて困惑する表情となっていた。

「……依頼で来たんじゃないのか? 完了のサインはいらないのか?」

 ああ、なるほど。冒険者ギルドにあるお手紙配達依頼かと思ったわけか。確かに依頼なら完了のサインが必要だ。

「いえ、ギルド経由ではないので不要です」

「そうなのか」

「ええ。では俺はこれで」

 それだけ告げると早々に退散することにした。



「思ったよりあっさり手紙を渡せたな……」

 異空間ボックスに残っている、あて先のない手紙たちの処遇を考える。どうせなら有効活用したい。城の中だけじゃなくて、俺たちが宰相の不正を暴こうとしているのを一般市民にも伝えるのもありかもしれない。

「こういう時こそ冒険者ギルドだよな」

 やってきたのは言葉にした通り、王都にある冒険者ギルドだ。王都だけあり、平民街の大通りにあるここは、魔の森と隣接している城塞都市サタニスガーデンの冒険者ギルドと遜色ないほどの規模となっている。

 中に入れば思ったより閑散としている。隣の街でスタンピードが発生しているので、そちらの対処に向かった冒険者が多いのだろう。
 人のいないカウンターへと向かうと、余っていた手紙の残りを全てカウンターの上に乗せる。

「ギルドへ依頼を出したい」

「あ、はい、依頼ですね。……その手紙の配達でしょうか?」

 カウンターに乗せられた手紙をちらりと見やると、受付の女性職員が確認してくる。

「いや、配達じゃない」

 即座に否定すると手紙を一つ開き、中身を職員に見せる。

「えっ? ……は? ええええええ!?」

 手紙の文章はそこまで長いものではない。宰相の不正の証拠を国王へ直接付きつけに行くという内容だ。読み終わった職員の声が盛大に響き渡ると、何事かとギルドにいた冒険者たちの視線も集まった。

「この内容を王都民に広げて欲しい。――宰相の屋敷が何者かに襲撃を受けた、という噂と一緒にね」

「なんだなんだ」

 興味本位で寄ってきた冒険者にも、職員へ見せた手紙を手渡してやる。

「その手紙の中身は全部同じだ。冒険者は何人使ってもいいから広めてもらえると助かる。報酬はここから適当にばら撒いてくれればいい」

 手紙の横に金貨を五枚ほど置くと、職員へとニヤリと笑いかける。話を広げるだけなら新人冒険者でも可能だろう。新人のFランクが受けられる依頼となれば、依頼料は千フロンの銀貨一枚に満たないことも多い。五十万フロン程度を渡しておけば、ギルドの取り分も含めてギルド側でいい感じにやってくれるだろう。面倒なことは全部丸投げだ。

「え、えええ? この内容を広めるんですか?」

「なんじゃこりゃ!」
「不正の証拠?」
「え、Sランク冒険者!?」
「は、はは、これであのクソ宰相も終わりか!」

 渡した手紙が冒険者たちの間を駆け巡り騒がしくなってくる。何やら個人的に宰相に恨みを持つ冒険者もいるようだ。

「ああ、その手紙は自由に使ってもらって構わない」

 ハッと手元に視線を落とすと、手紙を一つ手に取って開封する。

「わ、わかりました。……期間などはありますか?」

「あー、それじゃ、明日から十日間で」

 手紙にもスタンピードの警戒が解かれてから十日後とあるし、そんなもんでいいだろう。十分にうわさが広まってくれることを祈る。

「十日間ですね。その依頼承りました」

「それじゃよろしく」

「はい」

 こうして王都民にも噂を広げにかかった俺は、王都を後にした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...