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第六部
俺たちの戦い
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メタルドラゴンサーペントを冒険者ギルド本陣前へ運んだ翌日。久しぶりにエル以外のメンバーで本陣前へとやってきた。大物が現れた直後だからか、森からの魔物の出現がさらに散発的になっている。
「蛇って美味しいのかなぁ。楽しみー」
フォニアが尻尾をぶんぶんと振っているが、果たしてどういう結果になるのか。
「食えたもんじゃないって話じゃなかったっけ?」
俺から聞いた話をイヴァンがもう一度繰り返すが、フォニアにはまったく効果がないようだ。というのも、莉緒から圧力鍋の話を聞いたからかもしれない。食えない理由は硬いかららしいが、それなら柔らかくなるまで火を通せばいいというのが俺たちがまず考えた対処法だ。
それがダメでもミンチ肉にするなり、なんとかやりようはあるはずだ。
「お姉ちゃんがぜったい美味しくしてくれるもん」
「はは、まぁそうだな」
肩をすくめるイヴァンだが、莉緒も苦笑いを浮かべている。
「なんだか責任重大よね」
大丈夫だと思ってるだけで確証があるわけじゃないのだ。
「おー、やってるやってる」
本陣の裏手までやってくると、そこかしこで魔物の解体が行われていた。大量に出る魔物素材をわざわざギルドの解体場に持って行くのは手間なので、最前線に参加できないDランク冒険者たちの仕事にもなっている。
そこでひときわ目立っているのが、昨日討伐したメタルドラゴンサーペントだ。よく見れば金属質の皮膚があちこち傷つき凹んでいて、昨日の戦闘が激しかったことが想像できる。
そのメタルドラゴンサーペントの前にたたずむ冒険者が一人、抜き身の刀を両手で構えて精神統一をしている。よく見れば昨日の蛇討伐にいたAランク冒険者パーティの一人だ。
静かに集中していて、刀へと魔力が集まっているのが感じ取れる。カッと目を見開いたと思うと、刀を上段に振りかぶって一気に振り下ろす。と、目の前の蛇が綺麗に切断されていた。
「はぁ……」
大きくため息を吐くと納刀してこちらを振り向く。
「アンタか……」
「へぇ、あなたも刀を使うのね」
メタルドラゴンサーペントと戦っていた冒険者と初めて会った莉緒が何気なく呟く。と、それを聞いた刀使いの表情が少しだけ険しくなる。
「ああ、こいつには歯が立たなかったけどな」
「そうなの?」
きれいに切断された蛇を見て莉緒が首をかしげる。
「死ねば強度は若干下がるからな。精神を集中させて攻撃できれば通じたかもしれないが、邪魔が入って試せてない」
確かに。こいつは耐性スキルも持ってたし、死ねばそれらは無効化されるのかもしれない。
「すっごく硬いね」
フォニアが蛇の表面をバシバシと叩いていると、ニルも一緒になって足蹴にしている。少し離れたところではDランク冒険者らしき人が蛇の解体に勤しんでいるが、皮の切断に苦戦しているようだ。
すでに切り出されている肉があったのでさっそくいただくことにした。確かに弾力があって硬そうだ。まずは薄切りにして焼いて食ってみるか?
「なぁ、アンタの刀の一撃、もう一回見せてくれないか?」
「ん? 俺?」
どんな食い方してやろうかと妄想していると、刀使いが真剣な表情でこちらを見ていた。
「ああ。アンタの得物も刀なんだろ? あの時はちゃんと見れてなくて、Sランク冒険者ってやつのすごさを目に焼き付けておきたい」
「へぇ、まあいいけど」
刀を使ったのはたまたまだ。目の前に刀使いがいたからそういえばそんな武器も持ってたよな、って思っただけなのだ。それにしても自分の得物ねぇ……。一番使うのはガントレットでの格闘だけど、そういえば俺の得意武器ってなんだろうな?
そんなことを考えながら異空間ボックスから刀を取り出すと、左手に鞘を持って蛇へと近づいていく。昨日使ったけどそういえば刀を使うのは久しぶりだ。改めて刀術スキルを意識しながら柄に右手を添えると、魔力は込めずに刀術スキルの力だけを借りて蛇に一太刀浴びせて納刀する。
「こんなもんかな」
やっぱりオリハルコン製の刀は攻撃力が高い。魔力を込めなくても特に抵抗を感じなかった。
「え?」
ポカンと口を開ける刀使いだったが、そんなことはどうでもいい。今は蛇の肉だ。斬った結果を確認することもなく振り返れば、莉緒たちがさっそく火を熾して蛇肉を焼いているのが見えた。
「匂いは普通だな?」
「うん。普通に美味しそうよね」
近くまで来ると、蛇肉の薄切りが網の上に乗せられているのが見えた。莉緒がパラパラと塩を振るとお皿に入れて手渡してくれる。
「いただきまーす」
フォニアが嬉しそうに塩を振った蛇肉を口に入れるともぐもぐと咀嚼を始める。が、ずっともぐもぐが続いていて飲み込む様子がない。
「かたい……」
最後には顔を顰めて吐き出してしまった。その横で同じくニルも食べているが、こっちは普通に飲み込んでいる。さすがに顎の力は強いみたいだ。
とりあえず俺もと思い、蛇肉を口に入れると咀嚼する。何とも言えない臭みが広がっていくが、肉はまったく噛み切れる気がしない。すごく硬い。なんだこれ。旨味も感じられるけど弱い。
「なるほど」
「へぇ……」
結局噛み切れずに莉緒と二人で吐き出すと、お互いに顔を見合わせてニヤリと笑う。
「俺は超薄切りとミンチを試してみる」
「じゃあ私は茹でるのと蒸し焼きを試してみようかな」
蛇討伐後、こうして俺たちの戦いが始まるのだった。
「蛇って美味しいのかなぁ。楽しみー」
フォニアが尻尾をぶんぶんと振っているが、果たしてどういう結果になるのか。
「食えたもんじゃないって話じゃなかったっけ?」
俺から聞いた話をイヴァンがもう一度繰り返すが、フォニアにはまったく効果がないようだ。というのも、莉緒から圧力鍋の話を聞いたからかもしれない。食えない理由は硬いかららしいが、それなら柔らかくなるまで火を通せばいいというのが俺たちがまず考えた対処法だ。
それがダメでもミンチ肉にするなり、なんとかやりようはあるはずだ。
「お姉ちゃんがぜったい美味しくしてくれるもん」
「はは、まぁそうだな」
肩をすくめるイヴァンだが、莉緒も苦笑いを浮かべている。
「なんだか責任重大よね」
大丈夫だと思ってるだけで確証があるわけじゃないのだ。
「おー、やってるやってる」
本陣の裏手までやってくると、そこかしこで魔物の解体が行われていた。大量に出る魔物素材をわざわざギルドの解体場に持って行くのは手間なので、最前線に参加できないDランク冒険者たちの仕事にもなっている。
そこでひときわ目立っているのが、昨日討伐したメタルドラゴンサーペントだ。よく見れば金属質の皮膚があちこち傷つき凹んでいて、昨日の戦闘が激しかったことが想像できる。
そのメタルドラゴンサーペントの前にたたずむ冒険者が一人、抜き身の刀を両手で構えて精神統一をしている。よく見れば昨日の蛇討伐にいたAランク冒険者パーティの一人だ。
静かに集中していて、刀へと魔力が集まっているのが感じ取れる。カッと目を見開いたと思うと、刀を上段に振りかぶって一気に振り下ろす。と、目の前の蛇が綺麗に切断されていた。
「はぁ……」
大きくため息を吐くと納刀してこちらを振り向く。
「アンタか……」
「へぇ、あなたも刀を使うのね」
メタルドラゴンサーペントと戦っていた冒険者と初めて会った莉緒が何気なく呟く。と、それを聞いた刀使いの表情が少しだけ険しくなる。
「ああ、こいつには歯が立たなかったけどな」
「そうなの?」
きれいに切断された蛇を見て莉緒が首をかしげる。
「死ねば強度は若干下がるからな。精神を集中させて攻撃できれば通じたかもしれないが、邪魔が入って試せてない」
確かに。こいつは耐性スキルも持ってたし、死ねばそれらは無効化されるのかもしれない。
「すっごく硬いね」
フォニアが蛇の表面をバシバシと叩いていると、ニルも一緒になって足蹴にしている。少し離れたところではDランク冒険者らしき人が蛇の解体に勤しんでいるが、皮の切断に苦戦しているようだ。
すでに切り出されている肉があったのでさっそくいただくことにした。確かに弾力があって硬そうだ。まずは薄切りにして焼いて食ってみるか?
「なぁ、アンタの刀の一撃、もう一回見せてくれないか?」
「ん? 俺?」
どんな食い方してやろうかと妄想していると、刀使いが真剣な表情でこちらを見ていた。
「ああ。アンタの得物も刀なんだろ? あの時はちゃんと見れてなくて、Sランク冒険者ってやつのすごさを目に焼き付けておきたい」
「へぇ、まあいいけど」
刀を使ったのはたまたまだ。目の前に刀使いがいたからそういえばそんな武器も持ってたよな、って思っただけなのだ。それにしても自分の得物ねぇ……。一番使うのはガントレットでの格闘だけど、そういえば俺の得意武器ってなんだろうな?
そんなことを考えながら異空間ボックスから刀を取り出すと、左手に鞘を持って蛇へと近づいていく。昨日使ったけどそういえば刀を使うのは久しぶりだ。改めて刀術スキルを意識しながら柄に右手を添えると、魔力は込めずに刀術スキルの力だけを借りて蛇に一太刀浴びせて納刀する。
「こんなもんかな」
やっぱりオリハルコン製の刀は攻撃力が高い。魔力を込めなくても特に抵抗を感じなかった。
「え?」
ポカンと口を開ける刀使いだったが、そんなことはどうでもいい。今は蛇の肉だ。斬った結果を確認することもなく振り返れば、莉緒たちがさっそく火を熾して蛇肉を焼いているのが見えた。
「匂いは普通だな?」
「うん。普通に美味しそうよね」
近くまで来ると、蛇肉の薄切りが網の上に乗せられているのが見えた。莉緒がパラパラと塩を振るとお皿に入れて手渡してくれる。
「いただきまーす」
フォニアが嬉しそうに塩を振った蛇肉を口に入れるともぐもぐと咀嚼を始める。が、ずっともぐもぐが続いていて飲み込む様子がない。
「かたい……」
最後には顔を顰めて吐き出してしまった。その横で同じくニルも食べているが、こっちは普通に飲み込んでいる。さすがに顎の力は強いみたいだ。
とりあえず俺もと思い、蛇肉を口に入れると咀嚼する。何とも言えない臭みが広がっていくが、肉はまったく噛み切れる気がしない。すごく硬い。なんだこれ。旨味も感じられるけど弱い。
「なるほど」
「へぇ……」
結局噛み切れずに莉緒と二人で吐き出すと、お互いに顔を見合わせてニヤリと笑う。
「俺は超薄切りとミンチを試してみる」
「じゃあ私は茹でるのと蒸し焼きを試してみようかな」
蛇討伐後、こうして俺たちの戦いが始まるのだった。
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