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第六部
先制攻撃の効果
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その光景は十分ほど続いただろうか。一方的に蹂躙されていく魔物たちは為すすべもなく、ただただその命を散らしていく。たまに爆撃地帯を抜けてくる魔物もいるが、幸運なのかどうかはわからないが爆撃は追撃してこない。撃ち漏らしは出るが、数を減らすことが目的なので問題ないのである。
「こんなもんか」
魔の森にまで届いた範囲攻撃は、ある程度起伏のあった森へと至る斜面をさらにデコボコにしていた。威力は抑え気味にしていたのでそこまで地形は変わっていないが、魔の森へと続くいくつかの道は使えなくなっているかもしれない。
おびただしい数の魔物の死体がそこかしこに残り、わずかに生き残った魔物たちは混乱しているのか、四方八方へと散っていく。
「終わりましたよ」
振り返ってみるも誰もが無言で言葉を発しようとしない。ぽかんと口を開けて、壁の上から向こう側を凝視している。とはいえこのまま放置していると四方八方に散った魔物の一部が第二外壁に到達しそうだ。
「打ち漏らした魔物はそっちでお願いしますよ」
「――え? あ、ああ、そうだったな」
上官へと近づいて肩を叩くと、ようやく正気に戻ったのかこちらに顔を向け、だけど魔の森と何度か視線を往復させている。
「よし、Sランク冒険者による先制攻撃が終わったぞ! 残った魔物は一匹も通すな!」
「うおおおおぉぉぉ!」
「すげぇぞ!」
「これがSランク……なのか……」
「おお、魔物がゴミのように……」
上官の叫びに周囲もようやく我に返っていくようで、そこかしこから叫び声が上がる。派手にやったからか、驚きや畏怖、恐怖といった声が大半を占めており、役目は果たせたのではないだろうか。
「非常に助かった。これならこちらの被害も少なく抑えられそうだ。後はワシらが受け持つとしよう」
「じゃああとはよろしくお願いしますね」
「ああ、任された」
終わってみればあっさりしたものだ。魔力残量は三割ほどだろうか。尽きる前に森から出てきた魔物を一通り掃除できてよかった。あとはTYPEシリーズを一気に追加投入して、このスタンピードを終わらせよう。
『こっちは特に問題なく終わったぞー』
『こっちも同じよ』
『りょーかい。んじゃ今からそっちに戻る』
『はーい』
莉緒に確認を取るとあっちも終わっているようで、特にトラブルもなさそうだ。第二外壁の上から飛び降りると、そのまま冒険者たちが守る西側へと歩いていく。
外壁の切れ目へ差し掛かると二メートルある隙間の前に軍隊が整列しているのが見える。おそらく撃ち漏らしを狩る部隊だろう。
「やべぇよやべぇよ」
「ああ、ありゃやばかったな。Sランクってのはあれほどなのか」
整列組から外れたところにいた人から声が聞こえてくる。街に向かっているところを見ると、今日の様子を見に来た野次馬だろうか。このあたりは一般人立ち入り禁止のはずだったけど、非番の軍人とかかもしれない。
「たった二人のために全軍引かせるなんて馬鹿じゃねぇかって思ってたけど……」
「あの中のどこにいても流れ弾であの世に行きそうだったな」
「ああ……、ありゃやべぇ以外の何物でもねぇ。全軍引かせて正解だ」
「Sランクはやばい」
「なんなんだよあの攻撃は。魔法ってあんなに射程あったか?」
「いやいや威力もだろ。何の魔法かさっぱりわからんが、着弾した時の破壊力は半端なかったぞ」
「ああ、それを何千、何万って同時発動させてたよな」
「Sランクはバケモンだぜ」
「……そういや数年前にもこの国にSランク冒険者がいたよな」
はっと思い出したように軍人その1が呟くと、隣にいた軍人その2の顔がだんだんと青ざめていく。
「ああ……、そういえばいたな……」
「あの冒険者も今日見たやつくらいすげぇやつだったのかな」
「……どうだろう。そこまで詳しくないが」
「……報復されずに済んでよかったな」
「まったくだ……」
そのまましばらく無言で歩いていた二人だったが、一人の足がふと止まる。
「ん? どうした?」
気づいたもう一人が振り返るが、足を止めた男の様子を見て首をかしげている。
「そういえば今日のSランク冒険者って、国から犯罪者認定されてたんだっけ?」
「あ」
「……」
足を止めた男の言葉に、もう一人も短く声を上げる。二人は動かないまましばらく沈黙が続く。
「前の時は冒険者が愛想つかして出ていったが……」
「今回もそうなるとは限らんよな」
確信を持った顔でお互いが頷き合うと、何か恐ろしいものでも見たかのように顔が引きつっていく。
「おれ……、スタンピードが終わったら軍を辞める」
男が震えながら発した言葉に、もう一人は顔を上げて目を見開いている。
「そ、そうか! 辞めれば、いいのか?」
絶望の中に光明を見たのだろうか。少しだけ生気を取り戻した表情だが、それですべてが解決するのかどうかわからないようで困惑も混じっている。
「あんなの、命がいくつあっても足りない」
「そうだな。捕縛命令なんぞ出された日にゃ人生が終わる」
それからは二人とも無言になって歩き去っていく。はやる気持ちを抑えきれなかったのか、早足になってきたと思ったら二人とも走りだしている。
「急げ! できるだけ早く辞表を叩きつけるんだ!」
「ああ! のんびりしてたら辞める時期が延びちまう」
なんとなく漫才を見ているような気分になった俺は、二人が見えなくなるまで後姿を見送っていた。
「面白かったなあの二人」
「こんなもんか」
魔の森にまで届いた範囲攻撃は、ある程度起伏のあった森へと至る斜面をさらにデコボコにしていた。威力は抑え気味にしていたのでそこまで地形は変わっていないが、魔の森へと続くいくつかの道は使えなくなっているかもしれない。
おびただしい数の魔物の死体がそこかしこに残り、わずかに生き残った魔物たちは混乱しているのか、四方八方へと散っていく。
「終わりましたよ」
振り返ってみるも誰もが無言で言葉を発しようとしない。ぽかんと口を開けて、壁の上から向こう側を凝視している。とはいえこのまま放置していると四方八方に散った魔物の一部が第二外壁に到達しそうだ。
「打ち漏らした魔物はそっちでお願いしますよ」
「――え? あ、ああ、そうだったな」
上官へと近づいて肩を叩くと、ようやく正気に戻ったのかこちらに顔を向け、だけど魔の森と何度か視線を往復させている。
「よし、Sランク冒険者による先制攻撃が終わったぞ! 残った魔物は一匹も通すな!」
「うおおおおぉぉぉ!」
「すげぇぞ!」
「これがSランク……なのか……」
「おお、魔物がゴミのように……」
上官の叫びに周囲もようやく我に返っていくようで、そこかしこから叫び声が上がる。派手にやったからか、驚きや畏怖、恐怖といった声が大半を占めており、役目は果たせたのではないだろうか。
「非常に助かった。これならこちらの被害も少なく抑えられそうだ。後はワシらが受け持つとしよう」
「じゃああとはよろしくお願いしますね」
「ああ、任された」
終わってみればあっさりしたものだ。魔力残量は三割ほどだろうか。尽きる前に森から出てきた魔物を一通り掃除できてよかった。あとはTYPEシリーズを一気に追加投入して、このスタンピードを終わらせよう。
『こっちは特に問題なく終わったぞー』
『こっちも同じよ』
『りょーかい。んじゃ今からそっちに戻る』
『はーい』
莉緒に確認を取るとあっちも終わっているようで、特にトラブルもなさそうだ。第二外壁の上から飛び降りると、そのまま冒険者たちが守る西側へと歩いていく。
外壁の切れ目へ差し掛かると二メートルある隙間の前に軍隊が整列しているのが見える。おそらく撃ち漏らしを狩る部隊だろう。
「やべぇよやべぇよ」
「ああ、ありゃやばかったな。Sランクってのはあれほどなのか」
整列組から外れたところにいた人から声が聞こえてくる。街に向かっているところを見ると、今日の様子を見に来た野次馬だろうか。このあたりは一般人立ち入り禁止のはずだったけど、非番の軍人とかかもしれない。
「たった二人のために全軍引かせるなんて馬鹿じゃねぇかって思ってたけど……」
「あの中のどこにいても流れ弾であの世に行きそうだったな」
「ああ……、ありゃやべぇ以外の何物でもねぇ。全軍引かせて正解だ」
「Sランクはやばい」
「なんなんだよあの攻撃は。魔法ってあんなに射程あったか?」
「いやいや威力もだろ。何の魔法かさっぱりわからんが、着弾した時の破壊力は半端なかったぞ」
「ああ、それを何千、何万って同時発動させてたよな」
「Sランクはバケモンだぜ」
「……そういや数年前にもこの国にSランク冒険者がいたよな」
はっと思い出したように軍人その1が呟くと、隣にいた軍人その2の顔がだんだんと青ざめていく。
「ああ……、そういえばいたな……」
「あの冒険者も今日見たやつくらいすげぇやつだったのかな」
「……どうだろう。そこまで詳しくないが」
「……報復されずに済んでよかったな」
「まったくだ……」
そのまましばらく無言で歩いていた二人だったが、一人の足がふと止まる。
「ん? どうした?」
気づいたもう一人が振り返るが、足を止めた男の様子を見て首をかしげている。
「そういえば今日のSランク冒険者って、国から犯罪者認定されてたんだっけ?」
「あ」
「……」
足を止めた男の言葉に、もう一人も短く声を上げる。二人は動かないまましばらく沈黙が続く。
「前の時は冒険者が愛想つかして出ていったが……」
「今回もそうなるとは限らんよな」
確信を持った顔でお互いが頷き合うと、何か恐ろしいものでも見たかのように顔が引きつっていく。
「おれ……、スタンピードが終わったら軍を辞める」
男が震えながら発した言葉に、もう一人は顔を上げて目を見開いている。
「そ、そうか! 辞めれば、いいのか?」
絶望の中に光明を見たのだろうか。少しだけ生気を取り戻した表情だが、それですべてが解決するのかどうかわからないようで困惑も混じっている。
「あんなの、命がいくつあっても足りない」
「そうだな。捕縛命令なんぞ出された日にゃ人生が終わる」
それからは二人とも無言になって歩き去っていく。はやる気持ちを抑えきれなかったのか、早足になってきたと思ったら二人とも走りだしている。
「急げ! できるだけ早く辞表を叩きつけるんだ!」
「ああ! のんびりしてたら辞める時期が延びちまう」
なんとなく漫才を見ているような気分になった俺は、二人が見えなくなるまで後姿を見送っていた。
「面白かったなあの二人」
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