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第六部
ダンジョンマスター
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俺たちは自分を空間遮断結界で囲っているので問題ない。完全に遮断すると光も音も通さなくなるし、空気も遮断すると窒息してしまうので結界には工夫をしているのだ。
『隙間のない部屋を作れるとか、さすがダンジョンだな』
少しでも隙間があれば空気が入ってくるので、密閉空間を作るのはとても難しいはずだ。ラシアーユ商会に魔法瓶を伝えたときも、魔法で真空状態を作るのはなかなかできる人がいなかった。
『魔法で隙間をふさぐように補強してるわね。やっぱり物理的には難しかったんじゃないかしら?』
『あっはっは、なるほどねー』
ダンジョンと言えど限界はあるらしい。
しばらくすると前の扉が開く。どうやら向こう側も真空だったみたいだ。そのまま奥まで通路が続いていて、しばらくすると次元を超えるのを感じた。ようやく五階層らしい。
また進めば扉があり、後ろの通路が閉じたかと思うと今度は空気が注入され始めた。
『こんなところ通り抜けられる人普通いないでしょ』
おっと、莉緒さんは自分が普通じゃないと認めているようだ。しばらく罠に対してツッコミは鳴りを潜めていたけど、さすがにこれはツッコまずにはいられなかったらしい。
空気の注入が完了すると扉が開いたので外へ出る。ちょうどそこは、大きな扉があるすぐ手前の通路だった。振り返れば真空部屋の扉は閉じており、普通の壁と見分けがつかないようになっていて開けるためのボタンなども見当たらない。
「ようやく着いたわね」
「だな。いっちょ行きますか」
莉緒と頷き合うと扉に手を触れる。さほど力を入れることなく扉は内側に開いていった。むしろ勝手に開いたような気もする。
中を覗き込むと、そこは玄関だった。広々とした土間と、靴を脱いで上がった先には複雑な彫刻を施された木の置物があり、右を見ればシューズボックスが設置されている。なんというか高級感あふれる現代的和風住宅といった雰囲気だ。
「えっ?」
「なにこれ?」
思ってたのと違う最奥の部屋に、思わず声が漏れる。ダンジョンって五階層ごとにフロアボスがいるんじゃなかったっけ。それにラスボスもいるってエルに聞いたような気がするけど、気合を入れたのに肩透かしを食らった気分だ。
タブレットの地図を改めて確認するが、この大きな扉の向こう側は一つの部屋という表示になっているだけで他には何もない。
「いや待て、侵入者を油断させる新手の罠かもしれないぞ」
気配察知と空間把握を広げて五階層を把握していく。
「……魔物はいなさそうだし、物理的な罠もなさそうだな」
おかしい。
「見える範囲に魔法系の罠もないわよ」
そんな馬鹿な。
「ありえない」
「……疑ってもしょうがないわよ。早くいきましょ」
あんまり否定していると莉緒から宥められる。確かに罠はないんだから行くしかないだろう。土足のまま上がり込むのも気が引けるが、浮かび上がって空中を行くので許して欲しい。
剣は邪魔なので収納して家に上がり込むと、木の置物を避けて廊下を進んでいく。左側にあった扉を開けるとリビングらしき部屋が視界に入る。こちらは西洋風なのか、立派な暖炉にソファが設置されていて、ふかふかな絨毯が敷かれている。
最も注目するのは、中央のテーブルの上に置かれた物体だろうか。一抱えもありそうな漆黒の石が鎮座していた。異様に光沢があって丸みを帯びているが、テーブルが少しくぼんでいるのか転がり落ちたりはしなさそうだ。
「もしかして、これがダンジョンコア?」
「そうみたいだけど……、すげー綺麗だな」
鑑定結果でもダンジョンコアと出てはいるので間違いないだろう。
「この部屋にも魔法系の罠はないみたい」
見たところ住居でもありそうな最奥の部屋だ。仮にダンジョンマスターがいたとして、最奥に住んでいるとすれば家の中に罠は設置しないだろう。
……実はラスボスがダンジョンマスターのことだったりしないだろうか。いやそれはそれでラスボス不在のダンジョン? ありえるのか? うん、考えてもわからん。
「ダンジョンコアってありえないくらい高く売れるんだっけか」
「エルはそう言ってたわね」
正直お金はもういらないんだけど、生きたダンジョンを魔の森の中に放置しておくのも危険だ。このダンジョンの魔物がスタンピードなんてしたら、魔の森のスタンピード以上に悲惨なことになりそうだ。
回収すべく注意深く部屋の中央まで進んでいくと、中央のダンジョンコアに触れてみる。ひんやりとした感触と共に何かが俺の中に入り込み、この五階層の部屋にあるものが把握できるようになった気がした。
「んん?」
「どうしたの?」
ふと自分の中に生まれた違和感に首をかしげるがよくわからない。
「いや、なんだろ、これ……」
靴を脱いで異空間ボックスに仕舞うと、絨毯がふかふかの地面へと足を付ける。
「……大丈夫なの?」
「ああ、問題ない」
莉緒から心配されるが、今は何も危険なことはないという確信がある。
だんだんとこのダンジョンの状況が飲み込めてきた。ここのダンジョンマスターはずっと不在だったということがなぜか理解できた。
「そういうことか……」
改めてダンジョンコアへと視線を向けるともう一度鑑定を行う。
=====
種類 :道具
名前 :ダンジョンコア
説明 :マシーナレイズダンジョンのダンジョンコア
品質 :-
付与 :なし
製作者:-
所有者:水本 柊
=====
鑑定結果には所有者の欄が増えていて、そこには自分の名前が記載されていた。
『隙間のない部屋を作れるとか、さすがダンジョンだな』
少しでも隙間があれば空気が入ってくるので、密閉空間を作るのはとても難しいはずだ。ラシアーユ商会に魔法瓶を伝えたときも、魔法で真空状態を作るのはなかなかできる人がいなかった。
『魔法で隙間をふさぐように補強してるわね。やっぱり物理的には難しかったんじゃないかしら?』
『あっはっは、なるほどねー』
ダンジョンと言えど限界はあるらしい。
しばらくすると前の扉が開く。どうやら向こう側も真空だったみたいだ。そのまま奥まで通路が続いていて、しばらくすると次元を超えるのを感じた。ようやく五階層らしい。
また進めば扉があり、後ろの通路が閉じたかと思うと今度は空気が注入され始めた。
『こんなところ通り抜けられる人普通いないでしょ』
おっと、莉緒さんは自分が普通じゃないと認めているようだ。しばらく罠に対してツッコミは鳴りを潜めていたけど、さすがにこれはツッコまずにはいられなかったらしい。
空気の注入が完了すると扉が開いたので外へ出る。ちょうどそこは、大きな扉があるすぐ手前の通路だった。振り返れば真空部屋の扉は閉じており、普通の壁と見分けがつかないようになっていて開けるためのボタンなども見当たらない。
「ようやく着いたわね」
「だな。いっちょ行きますか」
莉緒と頷き合うと扉に手を触れる。さほど力を入れることなく扉は内側に開いていった。むしろ勝手に開いたような気もする。
中を覗き込むと、そこは玄関だった。広々とした土間と、靴を脱いで上がった先には複雑な彫刻を施された木の置物があり、右を見ればシューズボックスが設置されている。なんというか高級感あふれる現代的和風住宅といった雰囲気だ。
「えっ?」
「なにこれ?」
思ってたのと違う最奥の部屋に、思わず声が漏れる。ダンジョンって五階層ごとにフロアボスがいるんじゃなかったっけ。それにラスボスもいるってエルに聞いたような気がするけど、気合を入れたのに肩透かしを食らった気分だ。
タブレットの地図を改めて確認するが、この大きな扉の向こう側は一つの部屋という表示になっているだけで他には何もない。
「いや待て、侵入者を油断させる新手の罠かもしれないぞ」
気配察知と空間把握を広げて五階層を把握していく。
「……魔物はいなさそうだし、物理的な罠もなさそうだな」
おかしい。
「見える範囲に魔法系の罠もないわよ」
そんな馬鹿な。
「ありえない」
「……疑ってもしょうがないわよ。早くいきましょ」
あんまり否定していると莉緒から宥められる。確かに罠はないんだから行くしかないだろう。土足のまま上がり込むのも気が引けるが、浮かび上がって空中を行くので許して欲しい。
剣は邪魔なので収納して家に上がり込むと、木の置物を避けて廊下を進んでいく。左側にあった扉を開けるとリビングらしき部屋が視界に入る。こちらは西洋風なのか、立派な暖炉にソファが設置されていて、ふかふかな絨毯が敷かれている。
最も注目するのは、中央のテーブルの上に置かれた物体だろうか。一抱えもありそうな漆黒の石が鎮座していた。異様に光沢があって丸みを帯びているが、テーブルが少しくぼんでいるのか転がり落ちたりはしなさそうだ。
「もしかして、これがダンジョンコア?」
「そうみたいだけど……、すげー綺麗だな」
鑑定結果でもダンジョンコアと出てはいるので間違いないだろう。
「この部屋にも魔法系の罠はないみたい」
見たところ住居でもありそうな最奥の部屋だ。仮にダンジョンマスターがいたとして、最奥に住んでいるとすれば家の中に罠は設置しないだろう。
……実はラスボスがダンジョンマスターのことだったりしないだろうか。いやそれはそれでラスボス不在のダンジョン? ありえるのか? うん、考えてもわからん。
「ダンジョンコアってありえないくらい高く売れるんだっけか」
「エルはそう言ってたわね」
正直お金はもういらないんだけど、生きたダンジョンを魔の森の中に放置しておくのも危険だ。このダンジョンの魔物がスタンピードなんてしたら、魔の森のスタンピード以上に悲惨なことになりそうだ。
回収すべく注意深く部屋の中央まで進んでいくと、中央のダンジョンコアに触れてみる。ひんやりとした感触と共に何かが俺の中に入り込み、この五階層の部屋にあるものが把握できるようになった気がした。
「んん?」
「どうしたの?」
ふと自分の中に生まれた違和感に首をかしげるがよくわからない。
「いや、なんだろ、これ……」
靴を脱いで異空間ボックスに仕舞うと、絨毯がふかふかの地面へと足を付ける。
「……大丈夫なの?」
「ああ、問題ない」
莉緒から心配されるが、今は何も危険なことはないという確信がある。
だんだんとこのダンジョンの状況が飲み込めてきた。ここのダンジョンマスターはずっと不在だったということがなぜか理解できた。
「そういうことか……」
改めてダンジョンコアへと視線を向けるともう一度鑑定を行う。
=====
種類 :道具
名前 :ダンジョンコア
説明 :マシーナレイズダンジョンのダンジョンコア
品質 :-
付与 :なし
製作者:-
所有者:水本 柊
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鑑定結果には所有者の欄が増えていて、そこには自分の名前が記載されていた。
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