成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
361 / 421
第六部

ダンジョンマスター

しおりを挟む
 俺たちは自分を空間遮断結界で囲っているので問題ない。完全に遮断すると光も音も通さなくなるし、空気も遮断すると窒息してしまうので結界には工夫をしているのだ。

『隙間のない部屋を作れるとか、さすがダンジョンだな』

 少しでも隙間があれば空気が入ってくるので、密閉空間を作るのはとても難しいはずだ。ラシアーユ商会に魔法瓶を伝えたときも、魔法で真空状態を作るのはなかなかできる人がいなかった。

『魔法で隙間をふさぐように補強してるわね。やっぱり物理的には難しかったんじゃないかしら?』

『あっはっは、なるほどねー』

 ダンジョンと言えど限界はあるらしい。
 しばらくすると前の扉が開く。どうやら向こう側も真空だったみたいだ。そのまま奥まで通路が続いていて、しばらくすると次元を超えるのを感じた。ようやく五階層らしい。
 また進めば扉があり、後ろの通路が閉じたかと思うと今度は空気が注入され始めた。

『こんなところ通り抜けられる人普通いないでしょ』

 おっと、莉緒さんは自分が普通じゃないと認めているようだ。しばらく罠に対してツッコミは鳴りを潜めていたけど、さすがにこれはツッコまずにはいられなかったらしい。
 空気の注入が完了すると扉が開いたので外へ出る。ちょうどそこは、大きな扉があるすぐ手前の通路だった。振り返れば真空部屋の扉は閉じており、普通の壁と見分けがつかないようになっていて開けるためのボタンなども見当たらない。

「ようやく着いたわね」

「だな。いっちょ行きますか」

 莉緒と頷き合うと扉に手を触れる。さほど力を入れることなく扉は内側に開いていった。むしろ勝手に開いたような気もする。
 中を覗き込むと、そこは玄関だった。広々とした土間と、靴を脱いで上がった先には複雑な彫刻を施された木の置物があり、右を見ればシューズボックスが設置されている。なんというか高級感あふれる現代的和風住宅といった雰囲気だ。

「えっ?」

「なにこれ?」

 思ってたのと違う最奥の部屋に、思わず声が漏れる。ダンジョンって五階層ごとにフロアボスがいるんじゃなかったっけ。それにラスボスもいるってエルに聞いたような気がするけど、気合を入れたのに肩透かしを食らった気分だ。
 タブレットの地図を改めて確認するが、この大きな扉の向こう側は一つの部屋という表示になっているだけで他には何もない。

「いや待て、侵入者を油断させる新手の罠かもしれないぞ」

 気配察知と空間把握を広げて五階層を把握していく。

「……魔物はいなさそうだし、物理的な罠もなさそうだな」

 おかしい。

「見える範囲に魔法系の罠もないわよ」

 そんな馬鹿な。

「ありえない」

「……疑ってもしょうがないわよ。早くいきましょ」

 あんまり否定していると莉緒から宥められる。確かに罠はないんだから行くしかないだろう。土足のまま上がり込むのも気が引けるが、浮かび上がって空中を行くので許して欲しい。
 剣は邪魔なので収納して家に上がり込むと、木の置物を避けて廊下を進んでいく。左側にあった扉を開けるとリビングらしき部屋が視界に入る。こちらは西洋風なのか、立派な暖炉にソファが設置されていて、ふかふかな絨毯が敷かれている。
 最も注目するのは、中央のテーブルの上に置かれた物体だろうか。一抱えもありそうな漆黒の石が鎮座していた。異様に光沢があって丸みを帯びているが、テーブルが少しくぼんでいるのか転がり落ちたりはしなさそうだ。

「もしかして、これがダンジョンコア?」

「そうみたいだけど……、すげー綺麗だな」

 鑑定結果でもダンジョンコアと出てはいるので間違いないだろう。

「この部屋にも魔法系の罠はないみたい」

 見たところ住居でもありそうな最奥の部屋だ。仮にダンジョンマスターがいたとして、最奥に住んでいるとすれば家の中に罠は設置しないだろう。
 ……実はラスボスがダンジョンマスターのことだったりしないだろうか。いやそれはそれでラスボス不在のダンジョン? ありえるのか? うん、考えてもわからん。

「ダンジョンコアってありえないくらい高く売れるんだっけか」

「エルはそう言ってたわね」

 正直お金はもういらないんだけど、生きたダンジョンを魔の森の中に放置しておくのも危険だ。このダンジョンの魔物がスタンピードなんてしたら、魔の森のスタンピード以上に悲惨なことになりそうだ。
 回収すべく注意深く部屋の中央まで進んでいくと、中央のダンジョンコアに触れてみる。ひんやりとした感触と共に何かが俺の中に入り込み、この五階層の部屋にあるものが把握できるようになった気がした。

「んん?」

「どうしたの?」

 ふと自分の中に生まれた違和感に首をかしげるがよくわからない。

「いや、なんだろ、これ……」

 靴を脱いで異空間ボックスに仕舞うと、絨毯がふかふかの地面へと足を付ける。

「……大丈夫なの?」

「ああ、問題ない」

 莉緒から心配されるが、今は何も危険なことはないという確信がある。
 だんだんとこのダンジョンの状況が飲み込めてきた。ここのダンジョンマスターはずっと不在だったということがなぜか理解できた。

「そういうことか……」

 改めてダンジョンコアへと視線を向けるともう一度鑑定を行う。

 =====
 種類 :道具
 名前 :ダンジョンコア
 説明 :マシーナレイズダンジョンのダンジョンコア
 品質 :-
 付与 :なし
 製作者:-
 所有者:水本 柊
 =====

 鑑定結果には所有者の欄が増えていて、そこには自分の名前が記載されていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...