356 / 421
第六部
警戒レベル2
しおりを挟む
「ダンジョンの情報が見れるってなんだろね」
空間をつなげた穴を閉じた莉緒が、興味津々で俺の手の中にあるタブレットを覗き込んできた。
ここはダンジョンの入り口から落とし穴を超えたすぐの場所だ。ダンジョンの情報が見られるってことなので、たぶんダンジョンの外よりは中で使ったほうがいいんじゃないかと思ったのだ。
「えーっと、どれどれ」
タブレットをじっくりと眺めてみる。裏も表も真っ黒の板状の薄い物体だ。サイズは十インチくらいだけど、思ったより薄くて軽い。よく見ればサイドにボタンらしきものがあったので押してみる。
「お、映った」
画面に黒以外の色が付いて文字が浮かび上がってくる。バックライトはなく薄暗くて見えづらいが文字ははっきりと読める。
「マシーナレイズ?」
「なんだろね? このダンジョンの名前なのかな?」
そしてしばらくするとまた画面が切り替わる。どうやら見たい情報がいろいろと選べるメニュー画面のようだ。
「マップと魔物に、クリエイトとステータス?」
とりあえず試してみるかとマップをタップすると、ダンジョンの地図が画面上に表示される。
「うわ、すごいね」
地図の見た目は3Dの立体的なものになっており、左側には閲覧できる階層が選べるのか1から5までの階層がリストアップされて並んでいる。
「ダンジョンって思ったよりハイテクだ――」
他の階層を選択しようとタブレットに指を伸ばしたところで、外から入ってきたのか入り口に魔物がいきなり現れる。全身の毛穴が一気に開いたような感覚に襲われ、振り返ると同時に結界を張って飛び退り距離を取る。魔の森で師匠にしごかれた記憶と共に、「戦闘モード」に一瞬で切り替わるのを感じていると、目の前の魔物は入ってきた勢いのまま落とし穴へと落ちていく。
「うおおお! びっくりしたー」
莉緒も同じように結界を張っており、胸を片手で押さえて魔物が落ちていった穴を凝視している。
「ちょっと、これは、焦ったわね……」
莉緒と二人で穴を覗き込むと、床から生えてきた何本もの槍に串刺しにされている魔物が見えた。角が立派な四本足の魔物で、どうやらこの遺跡周辺にいる鹿の魔物のようだ。すでに絶命しているようでピクリとも動かない。
「そういや気配はわからないんだったなぁ」
後頭部をかきながら反省する。普段から気配察知は欠かしていないけど、次元を隔てた向こう側の気配は察知することができないのだ。ダンジョンは階層ごとに次元が異なるので、入るときや階層をまたぐときは気を付けなければならない。
「それにしても、このダンジョンって外の魔物が入ってくるのね」
「そうみたいだな。ダンジョンじゃロボットの魔物しか見かけなかったし、外には出てなさそうだけど、まさか外からは入ってくるとは……」
ダンジョンは成長するという話は聞いたことがある。ここは今まで誰にも見つからなかったダンジョンだと思うけど、かなりの規模を持っていると思う。ここまで大きくなるには長い年月をかけて、魔の森の魔物をこうして捕食していたんだろうか。
「ちょっと落ち着いた場所でそのタブレット調べてみましょ」
「おう、そうするか」
こうして俺たちはひとまずダンジョンの外に出る。どうやら中に入ってきた魔物は一体だけのようで、他に魔物はいないようだ。
「外でもちゃんと動くみたいだな」
「これなら一度家に帰ってもいいんじゃないかしら」
「そうするか」
タブレットがダンジョンの外でも正常に動作することを確認すると、いったん家に帰ることにした。
「よし、じゃあ俺はちょっと森の魔物の様子を見てくる」
「わかった。じゃあ私は帰り道にあの騎士たちがいるかどうか調べてくる」
「任せた」
一応魔の森に出たら魔物の様子は確認するようにしている。スタンピードも近いだろうし、こまめに確認は必要だろう。
魔の森に等間隔に設定した各ポイントに転移しつつ、周囲の魔物を気配から探っていく。最近は探索範囲もさらに広くなっているので調査もすぐに終わる。
街の北門近くの森へと転移で戻ってくると、同じように周囲の気配を探る。イヴァンたちはまだ戻っていないけど、莉緒は門の前で待ってくれていた。騎士は見当たらないと莉緒から念話が入っていたし一安心だ。
森から出ると門の前で待つ莉緒のもとへと向かう。
「お待たせ」
「早かったわね。どうだった?」
「だんだん近づいてきてるけど、今日はちょっとペースが上がってる気がする」
話をしながら北門をくぐって街の中へと入っていく。直接家に転移してもよかったけど、せっかく審議官やそのお付きの騎士たちにはバレないようにしているので念のためだ。門から出たらちゃんと門から入るようにしている。
そのまま大通りをまっすぐに進んで家まで来るが、莉緒と一緒に冒険者ギルドへと顔を出すことにした。魔の森の魔物が迫っていることはすぐにでも知らせる必要があるのだ。
いつものようにギルドマスターの執務室へ顔を出すと、今日の調査報告を行っていく。険しかった眉間の皺がさらに深く刻まれていき、話を終えたあとはふと諦めたように表情を緩めて大きく息を吐いていた。
「今日一日でもうそこまで近づいてきてるのネ?」
「はい。間違いありません」
「そうネ……」
大きく広げた地図を睨みつけながら思案すると、意を決した表情で顔を上げる。
「今からスタンピード警戒レベルを……、2に引き上げるネ」
そして低く重い声でそう宣言が下された。
空間をつなげた穴を閉じた莉緒が、興味津々で俺の手の中にあるタブレットを覗き込んできた。
ここはダンジョンの入り口から落とし穴を超えたすぐの場所だ。ダンジョンの情報が見られるってことなので、たぶんダンジョンの外よりは中で使ったほうがいいんじゃないかと思ったのだ。
「えーっと、どれどれ」
タブレットをじっくりと眺めてみる。裏も表も真っ黒の板状の薄い物体だ。サイズは十インチくらいだけど、思ったより薄くて軽い。よく見ればサイドにボタンらしきものがあったので押してみる。
「お、映った」
画面に黒以外の色が付いて文字が浮かび上がってくる。バックライトはなく薄暗くて見えづらいが文字ははっきりと読める。
「マシーナレイズ?」
「なんだろね? このダンジョンの名前なのかな?」
そしてしばらくするとまた画面が切り替わる。どうやら見たい情報がいろいろと選べるメニュー画面のようだ。
「マップと魔物に、クリエイトとステータス?」
とりあえず試してみるかとマップをタップすると、ダンジョンの地図が画面上に表示される。
「うわ、すごいね」
地図の見た目は3Dの立体的なものになっており、左側には閲覧できる階層が選べるのか1から5までの階層がリストアップされて並んでいる。
「ダンジョンって思ったよりハイテクだ――」
他の階層を選択しようとタブレットに指を伸ばしたところで、外から入ってきたのか入り口に魔物がいきなり現れる。全身の毛穴が一気に開いたような感覚に襲われ、振り返ると同時に結界を張って飛び退り距離を取る。魔の森で師匠にしごかれた記憶と共に、「戦闘モード」に一瞬で切り替わるのを感じていると、目の前の魔物は入ってきた勢いのまま落とし穴へと落ちていく。
「うおおお! びっくりしたー」
莉緒も同じように結界を張っており、胸を片手で押さえて魔物が落ちていった穴を凝視している。
「ちょっと、これは、焦ったわね……」
莉緒と二人で穴を覗き込むと、床から生えてきた何本もの槍に串刺しにされている魔物が見えた。角が立派な四本足の魔物で、どうやらこの遺跡周辺にいる鹿の魔物のようだ。すでに絶命しているようでピクリとも動かない。
「そういや気配はわからないんだったなぁ」
後頭部をかきながら反省する。普段から気配察知は欠かしていないけど、次元を隔てた向こう側の気配は察知することができないのだ。ダンジョンは階層ごとに次元が異なるので、入るときや階層をまたぐときは気を付けなければならない。
「それにしても、このダンジョンって外の魔物が入ってくるのね」
「そうみたいだな。ダンジョンじゃロボットの魔物しか見かけなかったし、外には出てなさそうだけど、まさか外からは入ってくるとは……」
ダンジョンは成長するという話は聞いたことがある。ここは今まで誰にも見つからなかったダンジョンだと思うけど、かなりの規模を持っていると思う。ここまで大きくなるには長い年月をかけて、魔の森の魔物をこうして捕食していたんだろうか。
「ちょっと落ち着いた場所でそのタブレット調べてみましょ」
「おう、そうするか」
こうして俺たちはひとまずダンジョンの外に出る。どうやら中に入ってきた魔物は一体だけのようで、他に魔物はいないようだ。
「外でもちゃんと動くみたいだな」
「これなら一度家に帰ってもいいんじゃないかしら」
「そうするか」
タブレットがダンジョンの外でも正常に動作することを確認すると、いったん家に帰ることにした。
「よし、じゃあ俺はちょっと森の魔物の様子を見てくる」
「わかった。じゃあ私は帰り道にあの騎士たちがいるかどうか調べてくる」
「任せた」
一応魔の森に出たら魔物の様子は確認するようにしている。スタンピードも近いだろうし、こまめに確認は必要だろう。
魔の森に等間隔に設定した各ポイントに転移しつつ、周囲の魔物を気配から探っていく。最近は探索範囲もさらに広くなっているので調査もすぐに終わる。
街の北門近くの森へと転移で戻ってくると、同じように周囲の気配を探る。イヴァンたちはまだ戻っていないけど、莉緒は門の前で待ってくれていた。騎士は見当たらないと莉緒から念話が入っていたし一安心だ。
森から出ると門の前で待つ莉緒のもとへと向かう。
「お待たせ」
「早かったわね。どうだった?」
「だんだん近づいてきてるけど、今日はちょっとペースが上がってる気がする」
話をしながら北門をくぐって街の中へと入っていく。直接家に転移してもよかったけど、せっかく審議官やそのお付きの騎士たちにはバレないようにしているので念のためだ。門から出たらちゃんと門から入るようにしている。
そのまま大通りをまっすぐに進んで家まで来るが、莉緒と一緒に冒険者ギルドへと顔を出すことにした。魔の森の魔物が迫っていることはすぐにでも知らせる必要があるのだ。
いつものようにギルドマスターの執務室へ顔を出すと、今日の調査報告を行っていく。険しかった眉間の皺がさらに深く刻まれていき、話を終えたあとはふと諦めたように表情を緩めて大きく息を吐いていた。
「今日一日でもうそこまで近づいてきてるのネ?」
「はい。間違いありません」
「そうネ……」
大きく広げた地図を睨みつけながら思案すると、意を決した表情で顔を上げる。
「今からスタンピード警戒レベルを……、2に引き上げるネ」
そして低く重い声でそう宣言が下された。
19
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる