352 / 421
第六部
晩御飯にする?
しおりを挟む
「は?」
疑問の声を上げたのは俺ではない。
「なんだなんだ?」
最初に上がった声に続けて他の野次馬からも声が上がる。審議官が来たことにざわつきだしたかと思ったら、次はそのターゲットが俺だということで周囲がますます騒がしくなっていく。
「……ここは少し騒がしいようですね。場所を変えましょうか」
気が付けば野次馬に囲まれて騒がれている状況に眉をしかめた審議官が、そう言葉にしながら冒険者ギルドの奥へと歩いていく。俺の横を通り過ぎてカウンターまで行くと、こちらを振り返りもせずに職員に会議室を用意しろと要求していた。よく見れば護衛の騎士っぽいのが一人審議官の後ろに付いているようだが、そいつも含めて俺が付いてきていることを疑ってもいないのだろうか振り返りもしない。
他人ごとに思いながら周囲を見回せば、見知った顔というか髪があった。グレーに赤い房の混じってるのは確か国士無双のパーティだったか。
「え? あ、シュウさん?」
「いいところに。ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけどいいかな?」
審議官をガン無視して国士無双に声をかけると、ギルドの外へと連れ出していく。
「ちょっ、え、あの……!?」
カウンターの前にいる審議官に視線をやりながら軽く抵抗されたけど気にしない。
「いいからいいから。ここは奢るから、審議官ってのについて教えてくれよ」
ギルド近くの料理屋に国士無双パーティの四人を連れ込むと、適当な席に着く。夕方前だからかそこまで席は埋まっていないが、そこそこの賑わいがある。
そういえば魔の森の食材に目が行ってたからか、この街にどんな料理があるか巡ってないことに今更気が付いた。
「……いいんですか?」
「ああ、何でも頼んでくれていいよ」
パーティリーダーであるチャンクに答えると首を左右に振られる。
「いや、えっと、そっちもですけど審議官のことです」
言われてさっきの出来事を思い出すが、なんというかあの高圧的な態度は気に入らない。
「そう言われても、よく知らん奴に付き合う気はないし」
肩をすくめてそう口にすると、乾いた笑いが返ってくる。
「さすがSランクアルね」
「だけどせめて審議官が何なのかだけはちょっと教えてもらおうと思って」
注文を取りに来た店員にこの街の名物を頼むと、他のメンバーにも気にせず注文するように言っておく。
「そういうことならありがたく」
教えてもらうことへのお礼だと言えば、遠慮もなく注文を始めた。じゃんじゃん注文してくれないと手持ちのお金が減らないからね。
そうして料理をつつきながら聞いた話を簡単にまとめるとこういうことらしい。
審議官とは国の役職の一つであり、ある程度重要な案件の決定権を持つ役人とのことだとか。召喚状を無視した際に派遣されたのであれば、その相手の罪状を確定することができるんだとか。最悪、罪が確定されれば捕らえられ、逃げたとしても国中で指名手配されて賞金がかけられるそうな。
なんだそれ。そんな賞金どっから出るんだ? もしかして俺たちの資産を当てにしてるとか?
「へー」
「へーって……、このまま放置しておけば確実に犯罪者になりますよ」
「いったい何をやったアルね……」
「何かした覚えはないんだけどなぁ。しいて言えば、どこぞの男爵がよこせと言ったものを拒否ったくらいか?」
それよりもこれ美味いな。アサリみたいな貝に見えるけど、近くに川とか湖とかがあるんだろうか。
「うーん。それくらいならここまで大事になる気はしないんですけど」
「それに魔の森にスタンピード警戒レベル1が発令されているアルね。そんな状況でSランク冒険者に審議官が派遣されるなんてありえないアル」
「最大戦力ですしね」
チャンクとファンがお互いに思ったことを口にすると、他のメンバーもうなずいている。要求を拒否ったこと以外には本当に心当たりがない。あの男爵が話を膨らませたんだろうか。警戒レベル1になったことは王都にも早馬で知らせが届いているはずだし、もしスタンピードが発生したらどうするんだろうか。
「とりあえず審議官が何しに来たかはわかった。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
「それじゃ俺はそろそろ戻るよ」
「わかりました」
異空間ボックスから金貨を一枚取り出してテーブルに置くと、そそくさと料理屋を出る。ちょっと多かったらしく引き止める声が聞こえてくるが、大した金額じゃないのでスルーだ。
さっきの審議官が俺を探してるかもしれないし、見つかったら面倒だ。隠密系スキルをフル活用しながら家路を急ぐ。
幸いにも呼び止められることなく帰ることができてほっと息をつく。もしかするとギルドマスターが説得してくれているのかも知れないと淡い期待もあった。今この街にSランク冒険者は俺たちしかいない。国士無双パーティも言っていたように、ギルドとしても最大戦力である俺たちに抜けられると困るはずだからだ。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
玄関から入ってリビングに出ると、エプロン姿の莉緒に迎えられる。気が付けばもう夕飯前の時間帯らしい。それほどガッツリ食べたわけじゃないけど言うほどお腹は減っていない。
いやしかしそんなことはどうでもいい。
「……もうすぐ夕飯だけど、どうしたの?」
しばらく返事をしない俺に首をかしげる莉緒は、改めて見ると非常に可愛い。高圧的な態度の審議官によってささくれだった心が癒される思いだった。
疑問の声を上げたのは俺ではない。
「なんだなんだ?」
最初に上がった声に続けて他の野次馬からも声が上がる。審議官が来たことにざわつきだしたかと思ったら、次はそのターゲットが俺だということで周囲がますます騒がしくなっていく。
「……ここは少し騒がしいようですね。場所を変えましょうか」
気が付けば野次馬に囲まれて騒がれている状況に眉をしかめた審議官が、そう言葉にしながら冒険者ギルドの奥へと歩いていく。俺の横を通り過ぎてカウンターまで行くと、こちらを振り返りもせずに職員に会議室を用意しろと要求していた。よく見れば護衛の騎士っぽいのが一人審議官の後ろに付いているようだが、そいつも含めて俺が付いてきていることを疑ってもいないのだろうか振り返りもしない。
他人ごとに思いながら周囲を見回せば、見知った顔というか髪があった。グレーに赤い房の混じってるのは確か国士無双のパーティだったか。
「え? あ、シュウさん?」
「いいところに。ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけどいいかな?」
審議官をガン無視して国士無双に声をかけると、ギルドの外へと連れ出していく。
「ちょっ、え、あの……!?」
カウンターの前にいる審議官に視線をやりながら軽く抵抗されたけど気にしない。
「いいからいいから。ここは奢るから、審議官ってのについて教えてくれよ」
ギルド近くの料理屋に国士無双パーティの四人を連れ込むと、適当な席に着く。夕方前だからかそこまで席は埋まっていないが、そこそこの賑わいがある。
そういえば魔の森の食材に目が行ってたからか、この街にどんな料理があるか巡ってないことに今更気が付いた。
「……いいんですか?」
「ああ、何でも頼んでくれていいよ」
パーティリーダーであるチャンクに答えると首を左右に振られる。
「いや、えっと、そっちもですけど審議官のことです」
言われてさっきの出来事を思い出すが、なんというかあの高圧的な態度は気に入らない。
「そう言われても、よく知らん奴に付き合う気はないし」
肩をすくめてそう口にすると、乾いた笑いが返ってくる。
「さすがSランクアルね」
「だけどせめて審議官が何なのかだけはちょっと教えてもらおうと思って」
注文を取りに来た店員にこの街の名物を頼むと、他のメンバーにも気にせず注文するように言っておく。
「そういうことならありがたく」
教えてもらうことへのお礼だと言えば、遠慮もなく注文を始めた。じゃんじゃん注文してくれないと手持ちのお金が減らないからね。
そうして料理をつつきながら聞いた話を簡単にまとめるとこういうことらしい。
審議官とは国の役職の一つであり、ある程度重要な案件の決定権を持つ役人とのことだとか。召喚状を無視した際に派遣されたのであれば、その相手の罪状を確定することができるんだとか。最悪、罪が確定されれば捕らえられ、逃げたとしても国中で指名手配されて賞金がかけられるそうな。
なんだそれ。そんな賞金どっから出るんだ? もしかして俺たちの資産を当てにしてるとか?
「へー」
「へーって……、このまま放置しておけば確実に犯罪者になりますよ」
「いったい何をやったアルね……」
「何かした覚えはないんだけどなぁ。しいて言えば、どこぞの男爵がよこせと言ったものを拒否ったくらいか?」
それよりもこれ美味いな。アサリみたいな貝に見えるけど、近くに川とか湖とかがあるんだろうか。
「うーん。それくらいならここまで大事になる気はしないんですけど」
「それに魔の森にスタンピード警戒レベル1が発令されているアルね。そんな状況でSランク冒険者に審議官が派遣されるなんてありえないアル」
「最大戦力ですしね」
チャンクとファンがお互いに思ったことを口にすると、他のメンバーもうなずいている。要求を拒否ったこと以外には本当に心当たりがない。あの男爵が話を膨らませたんだろうか。警戒レベル1になったことは王都にも早馬で知らせが届いているはずだし、もしスタンピードが発生したらどうするんだろうか。
「とりあえず審議官が何しに来たかはわかった。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
「それじゃ俺はそろそろ戻るよ」
「わかりました」
異空間ボックスから金貨を一枚取り出してテーブルに置くと、そそくさと料理屋を出る。ちょっと多かったらしく引き止める声が聞こえてくるが、大した金額じゃないのでスルーだ。
さっきの審議官が俺を探してるかもしれないし、見つかったら面倒だ。隠密系スキルをフル活用しながら家路を急ぐ。
幸いにも呼び止められることなく帰ることができてほっと息をつく。もしかするとギルドマスターが説得してくれているのかも知れないと淡い期待もあった。今この街にSランク冒険者は俺たちしかいない。国士無双パーティも言っていたように、ギルドとしても最大戦力である俺たちに抜けられると困るはずだからだ。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
玄関から入ってリビングに出ると、エプロン姿の莉緒に迎えられる。気が付けばもう夕飯前の時間帯らしい。それほどガッツリ食べたわけじゃないけど言うほどお腹は減っていない。
いやしかしそんなことはどうでもいい。
「……もうすぐ夕飯だけど、どうしたの?」
しばらく返事をしない俺に首をかしげる莉緒は、改めて見ると非常に可愛い。高圧的な態度の審議官によってささくれだった心が癒される思いだった。
22
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる