成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

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第六部

審議官

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 WiFi環境を導入して数日が経った。
 今日は森の様子を確認しがてら、ダンジョンの入り口にも監視カメラを仕掛けに一人で来ていた。次元をまたぐと消費魔力が跳ね上がるので、仕掛ける場所はダンジョンの外だ。入り口は地下のため、全体が見えるように目立たないようにして部屋の隅に仕掛ける。
 空間魔法で野営用ハウスへとつながる穴を空けると、手を突っ込んでルータから伸びているLANケーブルと電源ケーブルを引っ張り出してくる。穴を最小限にして隙間ができないように土魔法で埋める。カメラをセットして周囲を覆えば完成だ。

『おーい、見えるか?』

 カメラの電源を入れると、念話で家にいるエルに声をかける。
 何かがカメラの前を横切ったりして映像に変化があると知らせてくれる機能があるらしく、それを有効にしておく。

『いや、まだ見えない――、あ……、映った』

 試しにカメラの前に出て手を振ってみる。

『映像は荒いけど、シュウが手を振ってるのは見えるわね』

『へぇ、見えるんだ』

 スキルに夜目があるから俺は見えるけど、試しにスマホのカメラで撮ってみた画面は真っ暗で何が映ってるかわからない。どんな風に見えるのか気になったけど、まだ確認していないエリアの森の様子を見てから家にテレポートで帰った。

「……何やってんの?」

 リビングに顔を出すと、テーブルにエルとフォニアが並んで座っている。この二人の組み合わせはあんまり見ないと思いながらも声をかける。

「ふっふーん。エルお姉ちゃんにね、にほんごを教えてるの!」

 声をかけるとフォニアが顔を上げて、得意そうに胸を張っている。尻尾と耳がピンと立っていて、時折ぴくぴくと動く様子がとても可愛い。一番小さい自分が誰かにモノを教えられることがあるのがすごく嬉しいみたいだ。

「はは、そうかそうか」

 テーブルの上を覗き込むと、二人そろって日本語の書き取りをやってるみたいだ。ひらがなはマスターしたのか、カタカナに取り掛かっている。
 それにしてもフォニアは、書く機会の少ない日本語よりもこっちの言葉であるブリンクス語を勉強したほうがいい気がするんだけどね。

「莉緒とイヴァンは裏庭かな?」

「うん。二人で訓練してたよ」

「そっか」

 フォニアに聞いた通り裏庭に出れば、イヴァンが大の字になって転がっていた。疲労困憊といった様子がとても伝わってくる光景だ。
 莉緒は難しい顔をしながら刀の様子を確認をしていて、よく見ればあたりにいろんな刀が散らばっている。

「あ、おかえり」

「ただいま。何やってたの?」

 ふと顔を上げた莉緒の視線を受けて、周囲に顔を巡らせる。折れた刀はなさそうだけど、ひびが入っているものもあってちょっと危ないかもしれない。

「あはは」

 苦笑いと共に立ち上がると、異空間ボックスに回収して回っている。

「土魔法で作った刀でイヴァンの槍と打ち合ったら負けちゃってね……」

「負けた?」

 魔法特化の莉緒と言えど、物理系のイヴァンとのステータス差は十倍近くある。負けるとは到底思えないんだが。

「ああ、そういう意味じゃないの。作った刀が負けたのよ」

「なるほど?」

「最初は一撃受け止めただけでひびが入ってね、悔しくなっちゃったのよ」

 話を聞けばそういうことらしい。最終的にはイヴァンの攻撃を捌きながら刀を作っては打ち合っていたみたいだ。

「おかげで生成速度は上がったけどね」

 そう言葉にしながら莉緒が右手に刀を作り出す。武骨ながらも頑丈そうな武器が一秒ほどで出来上がっていたが、刃はついておらず殺傷能力はなさそうだ。

「くっそ、次は絶対に、武器作る、隙はやらねぇからな」

 多少呼吸の整ってきたイヴァンが起き上がりながら悪態をついている。確かに打ち合い中に一秒近くも武器作成に意識を割けるとなれば、余裕であしらわれている実感がするだろう。
 真面目に相手をしてもらえていないと感じても……、いやでもイヴァンだしなぁ。本人がやる気出してるみたいだし、別にこのままでもいいかもしれない。

「おう、がんばれ。んじゃ俺はちょっとギルドに行ってくるから」

「行ってらっしゃい」

 莉緒に見送られながら表の庭へと出る。裏庭と違って表の庭はある程度整備したのでそこそこ見られる綺麗な庭になっている。門まで続く道の両脇には等間隔で人感センサーのLEDライトを設置してあり、いつの間にか花まで植えられている。花はたぶんエルがやったんだろうけど、気づけば庭回りとかが綺麗になっていて嬉しい限りだ。

 冒険者ギルドに着くと、執務室でギルドマスターにいつもの報告を行う。少しずつ魔物の群れが街に近づいているので、ここ最近のギルドマスターの眉間には皺が寄ったままだ。

「このままだと警戒レベル2に移行しそうネ……」

 帰り際にそんな呟きが漏れ聞こえてきたから、タイムリミットは近いのかもしれない。レベル2に移行する前に莉緒と二人でもう一度ダンジョンの調査でもするかな。
 そんなことを考えながらギルドのロビーに出て外へと向かっていると、行く手を遮る男が現れた。

「ふむ。アナタがSランク冒険者のシュウ殿ですかな」

 こんな場所には似合わない、きっちりとした黒系統の燕尾服っぽい装いをした男だ。丁寧に揃えられた顎鬚が、何でもそつなくこなすできる中年といった雰囲気を感じさせる。だがそのねっとりとした視線だけはいただけない。

「誰だアンタ?」

 相手が冒険者っぽくない風貌だからか、ある程度の注目を集める中誰何する。

「これは申し遅れました。私|《わたくし》、審議官を務めるウェズリー・グラブスという者です」

 慇懃無礼な態度を隠しもせずに軽く会釈をすると言葉を続ける。

「以前にも召喚状が届いたかと思いますが、なかなか王都に顔を出していただけないようなので私|《わたくし》が派遣された次第でございます」
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