347 / 421
第六部
ネット環境を作ろう
しおりを挟む
次にミスリルを針金状に伸ばしたもので試してみたところ、ロープの時よりも早く次元の穴が閉じてしまった。疑問に思いながらもいろいろと試していると、どうやら魔力が飽和している物質ほど穴が閉じにくいことがわかった。
恐らくだが次元の穴をつなげて維持してる魔力がミスリルに吸収されたんじゃないかと予想している。
「よし、試作機の完成だな」
開けた次元の穴を維持するだけの魔道具の完成だ。ケーブルに見立てたロープをミスリルでコーティングしてあり、動力となる魔石をくっつけて次元魔法を付与してある。この魔道具自身で次元の穴を開けることはできないが、魔力を飽和させてあり俺たちがあけた穴の維持だけはしてくれるのだ。付与した次元魔法も相まって相当長い間維持できると考えているが、効果時間はこれから調べるところである。あんまり短いようであれば魔石じゃなくて魔晶石を使わないといけないところだ。
日本からコンセントの延長コードで実験してもよかったんだが、長さが足りなかったのともうちょっと安全に気を配ってからということになった。実験に失敗してマンションが火事になったりしたら冗談では済まない。
「とりあえず一日持ってくれればいいわよね」
「そうだな。エルにも魔力の補充はできるだろうし」
見たところ補充なしで最低一日くらい持つ計算だ。魔力も補充できれば俺たちが数日不在にしても大丈夫だろう。
「さすがご主人さまです!」
夕飯の片付けまで終えたエルのテンションが高い。ここまでテンションが高いと別人に見えるくらいだ。とりあえず日本と繋がってるということで、電波が一本立ったスマホでエルが動画を見ている。
「そういえば仁平さんからメール来てたぞ。CM一緒に撮るタレントが決まったから一度顔合わせしないかって」
「ふーん、そうなんだ」
「はは、あんまり興味なさそうだな。……まぁ俺もだけど」
「だってねぇ……」
莉緒の言いたいことはわかる。日本のマンションにあるテレビはつけることもあるけど、誰一人として知ってる人間がいないのだ。道路標識を含めてあっちの日本で生活していて感じる違和感の一つだな。ちょっとずつ慣れてはきたけど最初は気持ち悪くて仕方がなかった。
「明日の昼過ぎに本社で打ち合わせするから、時間が合うなら来てくれだって」
「へぇ」
「行きます! ぜひ行きましょう!」
莉緒がどっちでもよさそうな返事にかぶせるように、スマホで動画を見ていたエルが興奮してまくし立てる。てっきりスマホの動画に集中してるかと思ったけどそうでもなかったみたいだ。莉緒と顔を見合わせて笑うと、エルがちらりと手元のスマホに視線をやった。
つられて見れば、動画がちょくちょく止まって音声も途切れて画質が悪かった。
「あー、そういうことね」
かろうじて電波が立ってるだけじゃ通信環境が悪いらしい。
「すまほも小さいので、何をやっているのかわからないことも……」
悲しそうにエルが肩を落とす。映らないテレビを置いとく意味はないかなと思ってたけど、ネット回線を引けるなら野営用ハウスに置いてもいいかもしれない。地上波は入らなくてもネット動画なら見れるはずだ。
「じゃあ明日は向こうに買い物にでも行こうか」
「一応顔合わせもね」
「そうだな」
「よっし!」
若干侍女モードが剥がれたエルが拳を握って喜ぶさまを生暖かく見守っていると、呆れた表情でイヴァンが声を挟んできた。
「ニルはどうすんだ?」
促されて視線を向ければ、尻尾と耳をへにゃりと倒して悲しそうなニルがいた。
「はは、お前も一緒に行こうか」
首元をわしゃわしゃと撫でながら言葉を続ける。
「向こうに着いたら呼んでやるから電車には乗らなくていいぞ」
「わふっ!」
乗らなくていいと聞いたとたんに尻尾と耳を立て、嬉しそうな声を上げる。
「よかったねぇ」
フォニアも一緒になって喜んでいるが、仁平さんたちと話をしているときの遊び相手がいることに安心しているだけかもしれない。
「よし、決まりだな」
こうして翌日の予定を決めた俺たちは、仁平さんに明日伺う旨を連絡するとゆっくりと風呂に入って今日の疲れを癒した。
そして翌日。顔合わせは昼からなので、午前中に魔の森の様子をちらりと見に行って結果をギルドマスターへと伝える。多少魔物が街に近づいていたけど想定の範囲内だ。すぐに何かあるわけでもなさそうなので、そのまま予定通り日本へと向かうことにした。
ちなみに開けた次元の穴は朝起きても繋がっていたので、実験結果としては最上の結果になったと思う。続きは帰ってからにしよう。
「よく来てくれた」
「お久しぶりです」
ニルを呼び出してからいつもの会議室に顔を出すと、十四郎さんがパソコンを広げて何か作業をしていた。最近はずっと仁平さんとやりとりしていたから顔を合わせるのも久しぶりに感じる。
「最近はどうだね」
キーボードを叩く手を止めて十四郎さんが話を振ってくる。会議テーブルを挟んだ向かいに座るとこちらの近況について話をするが、エルはひたすらじっとパソコンに視線を集中させている。
「そっちは厳しい世界だね……」
山岳地域のフェアデヘルデ王国に入ってからの話をしたけど、十四郎さんの眉間に皺が寄っている。
「楓さんはどうしてますか?」
異世界に召喚されて五年間行方不明だった楓さんの様子を聞けば、今は家庭教師を付けられて勉強三昧の毎日らしい。
「親として義務教育はちゃんと受けさせてやらないといけないからね」
それでも楽しそうにしていると聞いて、連れて帰ることができてよかったと思った。
「ところで、ひとつ相談したことがあるんですけど」
話がひと段落付いたところで、俺は異世界でWiFi環境を作りたいことを切り出した。
恐らくだが次元の穴をつなげて維持してる魔力がミスリルに吸収されたんじゃないかと予想している。
「よし、試作機の完成だな」
開けた次元の穴を維持するだけの魔道具の完成だ。ケーブルに見立てたロープをミスリルでコーティングしてあり、動力となる魔石をくっつけて次元魔法を付与してある。この魔道具自身で次元の穴を開けることはできないが、魔力を飽和させてあり俺たちがあけた穴の維持だけはしてくれるのだ。付与した次元魔法も相まって相当長い間維持できると考えているが、効果時間はこれから調べるところである。あんまり短いようであれば魔石じゃなくて魔晶石を使わないといけないところだ。
日本からコンセントの延長コードで実験してもよかったんだが、長さが足りなかったのともうちょっと安全に気を配ってからということになった。実験に失敗してマンションが火事になったりしたら冗談では済まない。
「とりあえず一日持ってくれればいいわよね」
「そうだな。エルにも魔力の補充はできるだろうし」
見たところ補充なしで最低一日くらい持つ計算だ。魔力も補充できれば俺たちが数日不在にしても大丈夫だろう。
「さすがご主人さまです!」
夕飯の片付けまで終えたエルのテンションが高い。ここまでテンションが高いと別人に見えるくらいだ。とりあえず日本と繋がってるということで、電波が一本立ったスマホでエルが動画を見ている。
「そういえば仁平さんからメール来てたぞ。CM一緒に撮るタレントが決まったから一度顔合わせしないかって」
「ふーん、そうなんだ」
「はは、あんまり興味なさそうだな。……まぁ俺もだけど」
「だってねぇ……」
莉緒の言いたいことはわかる。日本のマンションにあるテレビはつけることもあるけど、誰一人として知ってる人間がいないのだ。道路標識を含めてあっちの日本で生活していて感じる違和感の一つだな。ちょっとずつ慣れてはきたけど最初は気持ち悪くて仕方がなかった。
「明日の昼過ぎに本社で打ち合わせするから、時間が合うなら来てくれだって」
「へぇ」
「行きます! ぜひ行きましょう!」
莉緒がどっちでもよさそうな返事にかぶせるように、スマホで動画を見ていたエルが興奮してまくし立てる。てっきりスマホの動画に集中してるかと思ったけどそうでもなかったみたいだ。莉緒と顔を見合わせて笑うと、エルがちらりと手元のスマホに視線をやった。
つられて見れば、動画がちょくちょく止まって音声も途切れて画質が悪かった。
「あー、そういうことね」
かろうじて電波が立ってるだけじゃ通信環境が悪いらしい。
「すまほも小さいので、何をやっているのかわからないことも……」
悲しそうにエルが肩を落とす。映らないテレビを置いとく意味はないかなと思ってたけど、ネット回線を引けるなら野営用ハウスに置いてもいいかもしれない。地上波は入らなくてもネット動画なら見れるはずだ。
「じゃあ明日は向こうに買い物にでも行こうか」
「一応顔合わせもね」
「そうだな」
「よっし!」
若干侍女モードが剥がれたエルが拳を握って喜ぶさまを生暖かく見守っていると、呆れた表情でイヴァンが声を挟んできた。
「ニルはどうすんだ?」
促されて視線を向ければ、尻尾と耳をへにゃりと倒して悲しそうなニルがいた。
「はは、お前も一緒に行こうか」
首元をわしゃわしゃと撫でながら言葉を続ける。
「向こうに着いたら呼んでやるから電車には乗らなくていいぞ」
「わふっ!」
乗らなくていいと聞いたとたんに尻尾と耳を立て、嬉しそうな声を上げる。
「よかったねぇ」
フォニアも一緒になって喜んでいるが、仁平さんたちと話をしているときの遊び相手がいることに安心しているだけかもしれない。
「よし、決まりだな」
こうして翌日の予定を決めた俺たちは、仁平さんに明日伺う旨を連絡するとゆっくりと風呂に入って今日の疲れを癒した。
そして翌日。顔合わせは昼からなので、午前中に魔の森の様子をちらりと見に行って結果をギルドマスターへと伝える。多少魔物が街に近づいていたけど想定の範囲内だ。すぐに何かあるわけでもなさそうなので、そのまま予定通り日本へと向かうことにした。
ちなみに開けた次元の穴は朝起きても繋がっていたので、実験結果としては最上の結果になったと思う。続きは帰ってからにしよう。
「よく来てくれた」
「お久しぶりです」
ニルを呼び出してからいつもの会議室に顔を出すと、十四郎さんがパソコンを広げて何か作業をしていた。最近はずっと仁平さんとやりとりしていたから顔を合わせるのも久しぶりに感じる。
「最近はどうだね」
キーボードを叩く手を止めて十四郎さんが話を振ってくる。会議テーブルを挟んだ向かいに座るとこちらの近況について話をするが、エルはひたすらじっとパソコンに視線を集中させている。
「そっちは厳しい世界だね……」
山岳地域のフェアデヘルデ王国に入ってからの話をしたけど、十四郎さんの眉間に皺が寄っている。
「楓さんはどうしてますか?」
異世界に召喚されて五年間行方不明だった楓さんの様子を聞けば、今は家庭教師を付けられて勉強三昧の毎日らしい。
「親として義務教育はちゃんと受けさせてやらないといけないからね」
それでも楽しそうにしていると聞いて、連れて帰ることができてよかったと思った。
「ところで、ひとつ相談したことがあるんですけど」
話がひと段落付いたところで、俺は異世界でWiFi環境を作りたいことを切り出した。
18
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる