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第六部
エルの成長
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「初めて見るネ……」
遺跡で遭遇した金属製のロボットを回収し、ギルドマスターに見せた第一声がこれだった。ダンジョンに潜った経験はあんまりない俺たちだけど、ロボットタイプの魔物っていないんだろうか?
いろんな角度から興味深そうに眺めているが、手を出して触れようとはしない。見るからに精密機械のように見えるそれは、見ただけで細かい部品がたくさん使われていて触ればすぐに壊れてしまいそうに思える。
「こんなに細かい作りのゴーレムなんて初めてネ。しかもSランク相当の強さの魔物とか……、さすがダンジョン産といったところネ」
なるほど。ロボットという言葉はこっちの世界にはないのかもしれない。
「ゴーレムですか?」
「そうネ。いろいろな素材で構成された魔法生物の一種ネ。珍しい魔物だから滅多に遭遇することはないけど、ゴーレムがメインのダンジョンもあると聞いたことがあるネ」
気になって聞いてみると想像していたゴーレムとそう変わりはないようだった。砂でできたサンドゴーレムや岩でできたロックゴーレムなどが定番だが、中にはウッドゴーレムやアイアンゴーレムなんかもいるらしい。
「ダンジョンの情報はありがたくもらっておくけど、そんな魔の森の奥地にあるダンジョン誰も行かない……、というか行けないから安心するネ」
発見したダンジョンと入り口付近の罠や襲ってきた魔物など、情報提供をしたけどそんな答えが返ってきた。誰も入らないならそれはそれで周囲に気を配らなくて済むからいいかな。
さらには――
「それに警戒レベル1が出てるのに、遠方のダンジョンに潜る奴なんか他にいるわけないネ」
という言葉と共に睨みつけられてしまった。
解せぬ。
「それはそうと、魔の森の魔物のスタンピードが、そのダンジョンが原因ということはなさそうネ?」
そう問いかけられると俺は腕を組んで考え込む。
ダンジョン周辺の開けた場所に魔物はいなかったけど、それは隠れるところがないからだと思う。
「第一印象ではそういうことはなかったですね。周辺の森には普通に魔物もいたので」
「そうね。ダンジョンで見た魔物はそれ一体だけだけど、似たような魔物は森の中でも見かけてないし」
とはいえちょっとダンジョンに潜っただけでそう簡単にわかるものでもない、ということは付け加えておく。
「もちろんそれはそうネ。……ダンジョンも気になるけど、魔の森の魔物の状況も気になるネ」
腕を組んでぶつぶつと呟きだすギルドマスター。どっちも調査してほしいんだろうけどさすがに無理だろって感じだな。もともと森の魔物の様子を見つつ遺跡に潜るつもりだったけど、まさかのこのダンジョンの難易度だ。といってもダンジョンに直接テレポートで飛べるからできなくはないけどな。
「どちらにしろダンジョンの発見は国に報告する必要があるから、また早馬を出しておくネ」
「あ、はい」
「……今は魔の森の様子を優先で頼むネ」
眉間に皺を寄せながら決定を下したギルドマスターが、今の依頼継続を告げてきた。
「了解です」
用事は終わったとばかりに執務室を出る間際、「まったくスタンピードで忙しい時に」とぶつぶつと呟くギルドマスターの声が聞こえてきたので、とりあえず心の中で応援はしておいた。
ギルドを出て自宅までの道を歩いていく。
「街の様子はそんなに変わらないわね」
周囲を見回しながら莉緒がぽつりと呟く。時間帯は夕方前といったところだが、大通りを歩く人物としては武装した冒険者が一番多い。とはいえそれはここ数日見慣れたものであり、特に変わった様子はない。
「そういえばそうだな。……警戒レベル1ってそんなに大したことないのか?」
と思いながらもギルドマスターに聞いた話を思い出しながら言葉にする。レベル2で確か、魔物の群れが接近中だったっけか。レベル3で数日以内に接触で一般人の街の出入りが禁止になって、レベル4が魔物との戦争中と。
「それなら今すぐ危険があるってわけじゃなさそうだな」
イヴァンが暢気に呟いているけど、わざわざ街から逃げ出すほどじゃないのかな。というか魔の森の街だし、住人も割と訓練をされているのかもしれない。
「普通は街を出たところで行く当てなんてないからな」
続けて出てきたイヴァンの言葉に莉緒と顔を見合わせる。
街の外に出れば魔物が闊歩する世界だ。旅行なんて一般人はしないし、街から街への移動もある意味命がけということか。
なんとも世知辛いと思いながらも自宅へとたどり着き、我が家の玄関の近くで屯っている集団をスルーして家へと入っていく。
「ただいまー」
玄関を開けて家に入るも返事が返ってこない。
「あれ? 買い物にでも出てるのかな?」
今まで割と律義に返事をするエルだったので、莉緒も首をひねっている。
留守かなと思ってリビングに入れば、エルがテーブルにかじりついて国語のドリルをやっていた。
「あ……、オカエリムサイマセ」
しばらくじっと見つめているとようやく気が付いたようで、顔を上げると拙い日本語でそう返してきた。
「…………えー、あー、ただいま?」
しばらく反応できなかったがそのままというわけにもいかず、ようやく絞り出した言葉は疑問形になってしまう。
エルさんや。えらい上達しましたね?
遺跡で遭遇した金属製のロボットを回収し、ギルドマスターに見せた第一声がこれだった。ダンジョンに潜った経験はあんまりない俺たちだけど、ロボットタイプの魔物っていないんだろうか?
いろんな角度から興味深そうに眺めているが、手を出して触れようとはしない。見るからに精密機械のように見えるそれは、見ただけで細かい部品がたくさん使われていて触ればすぐに壊れてしまいそうに思える。
「こんなに細かい作りのゴーレムなんて初めてネ。しかもSランク相当の強さの魔物とか……、さすがダンジョン産といったところネ」
なるほど。ロボットという言葉はこっちの世界にはないのかもしれない。
「ゴーレムですか?」
「そうネ。いろいろな素材で構成された魔法生物の一種ネ。珍しい魔物だから滅多に遭遇することはないけど、ゴーレムがメインのダンジョンもあると聞いたことがあるネ」
気になって聞いてみると想像していたゴーレムとそう変わりはないようだった。砂でできたサンドゴーレムや岩でできたロックゴーレムなどが定番だが、中にはウッドゴーレムやアイアンゴーレムなんかもいるらしい。
「ダンジョンの情報はありがたくもらっておくけど、そんな魔の森の奥地にあるダンジョン誰も行かない……、というか行けないから安心するネ」
発見したダンジョンと入り口付近の罠や襲ってきた魔物など、情報提供をしたけどそんな答えが返ってきた。誰も入らないならそれはそれで周囲に気を配らなくて済むからいいかな。
さらには――
「それに警戒レベル1が出てるのに、遠方のダンジョンに潜る奴なんか他にいるわけないネ」
という言葉と共に睨みつけられてしまった。
解せぬ。
「それはそうと、魔の森の魔物のスタンピードが、そのダンジョンが原因ということはなさそうネ?」
そう問いかけられると俺は腕を組んで考え込む。
ダンジョン周辺の開けた場所に魔物はいなかったけど、それは隠れるところがないからだと思う。
「第一印象ではそういうことはなかったですね。周辺の森には普通に魔物もいたので」
「そうね。ダンジョンで見た魔物はそれ一体だけだけど、似たような魔物は森の中でも見かけてないし」
とはいえちょっとダンジョンに潜っただけでそう簡単にわかるものでもない、ということは付け加えておく。
「もちろんそれはそうネ。……ダンジョンも気になるけど、魔の森の魔物の状況も気になるネ」
腕を組んでぶつぶつと呟きだすギルドマスター。どっちも調査してほしいんだろうけどさすがに無理だろって感じだな。もともと森の魔物の様子を見つつ遺跡に潜るつもりだったけど、まさかのこのダンジョンの難易度だ。といってもダンジョンに直接テレポートで飛べるからできなくはないけどな。
「どちらにしろダンジョンの発見は国に報告する必要があるから、また早馬を出しておくネ」
「あ、はい」
「……今は魔の森の様子を優先で頼むネ」
眉間に皺を寄せながら決定を下したギルドマスターが、今の依頼継続を告げてきた。
「了解です」
用事は終わったとばかりに執務室を出る間際、「まったくスタンピードで忙しい時に」とぶつぶつと呟くギルドマスターの声が聞こえてきたので、とりあえず心の中で応援はしておいた。
ギルドを出て自宅までの道を歩いていく。
「街の様子はそんなに変わらないわね」
周囲を見回しながら莉緒がぽつりと呟く。時間帯は夕方前といったところだが、大通りを歩く人物としては武装した冒険者が一番多い。とはいえそれはここ数日見慣れたものであり、特に変わった様子はない。
「そういえばそうだな。……警戒レベル1ってそんなに大したことないのか?」
と思いながらもギルドマスターに聞いた話を思い出しながら言葉にする。レベル2で確か、魔物の群れが接近中だったっけか。レベル3で数日以内に接触で一般人の街の出入りが禁止になって、レベル4が魔物との戦争中と。
「それなら今すぐ危険があるってわけじゃなさそうだな」
イヴァンが暢気に呟いているけど、わざわざ街から逃げ出すほどじゃないのかな。というか魔の森の街だし、住人も割と訓練をされているのかもしれない。
「普通は街を出たところで行く当てなんてないからな」
続けて出てきたイヴァンの言葉に莉緒と顔を見合わせる。
街の外に出れば魔物が闊歩する世界だ。旅行なんて一般人はしないし、街から街への移動もある意味命がけということか。
なんとも世知辛いと思いながらも自宅へとたどり着き、我が家の玄関の近くで屯っている集団をスルーして家へと入っていく。
「ただいまー」
玄関を開けて家に入るも返事が返ってこない。
「あれ? 買い物にでも出てるのかな?」
今まで割と律義に返事をするエルだったので、莉緒も首をひねっている。
留守かなと思ってリビングに入れば、エルがテーブルにかじりついて国語のドリルをやっていた。
「あ……、オカエリムサイマセ」
しばらくじっと見つめているとようやく気が付いたようで、顔を上げると拙い日本語でそう返してきた。
「…………えー、あー、ただいま?」
しばらく反応できなかったがそのままというわけにもいかず、ようやく絞り出した言葉は疑問形になってしまう。
エルさんや。えらい上達しましたね?
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