344 / 421
第六部
ダンジョンの難易度
しおりを挟む
あれから五メートルほど下ったところで階段が終わり、他の罠に遭遇することもなく一階層目へと無事に到着した。どうやら最初の落とし穴は階層をまたぐような罠ではないらしい。そこまで鬼畜ではなかったことに安堵しつつも周囲を注意深く観察する。
見た目はダンジョンの外の階段と変わらないが、空気がひんやりとしている。壁や地面は平らに均されていて人工物のようなつくりだ。明かりはまったくないので莉緒が照明の魔法をあちこちに飛ばして視界を確保している。
魔の森の調査や前回ダンジョンに潜っていたときと同様に、今いる階層のスキャンを実行する。適度に魔物も引っかかるが、近くにも数匹いるようだ。
それにしても結構広い階層のようで、端までスキャンしきれなかった。しかも一階層目ではあるが通路は上り下りもしているようでアリの巣状に入り組んでいる。
「あら」
莉緒が反応するが、どうやら視界の向こう側にまで飛ばしていた照明が何者かに消されたらしい。魔力反応が消えたところと魔物の位置が同じだったので、間違いなく魔物の仕業だろうが。
「ぐるるる」
ニルも気が付いたようで唸り声をあげている。
「なんだ、魔物でも来るのか」
「そうみたいだな。なかなか強そうだから俺が出る。そこで待っててくれ」
さすが魔の森のダンジョンといったところだろうか。浅瀬の魔物ならイヴァンでも余裕だから大丈夫だと思っていたが、ちょっと認識を改める必要がありそうだ。
気合を入れていたフォニアも残念そうにしているが、危ないので諦めてくれ。
地面や壁、天井などの周囲を念入りに各種魔法とスキルで調査しながらゆっくりと歩いていく。しばらく一本道を歩き、五十メートルほど先にある十字路までたどり着いた。ここまで罠はなかったが、そろそろ近づいてくる魔物が右側の通路からやってきそうだ。他の通路からは何かがやってくる気配は感じられない。
「来たか」
やがて通路の奥から姿を現したのは四足歩行をした魔物の影だ。所々が鋭角なシルエットになっているが、よく見れば体は金属で構成されたロボットみたいだった。
腰を落として両手に嵌めたガントレットを構える。鑑定してみると名前は「TYPE0135」というらしい。よくわからない名前だけど問題はそこじゃない。ステータスの俊敏が二万近くもある。ダンジョン一階層の魔物のくせにちょっと強すぎないか?
などと心の中で悪態をついていたら、こちらを認識した相手の目が光った。そしてその姿が掻き消えるような勢いでこちらに向かってくる。
結構速いけど、魔法で強化したニルほどじゃないかな。
同時に撃ってきた風魔法を左手で払うと、噛みついて来ようと迫ってくる相手の顔を横から右手で殴りつける。金属の頭がひしゃげるが、突っ込んできた勢いはそのまま慣性に従って衰えることはない。こちらも右拳で殴った勢いを殺さずに体をひねって足で胴体を蹴りつけると十字路の正面方向へと飛んでいった。
飛んでいった先では床と天井と左右の壁から槍が無数に飛び出してきて、金属製の胴体を容赦なく貫くと空中へと縫い留める。
「うわぁ……」
「ちょっ……、このダンジョンやべぇぞ」
後ろで見ていた皆と同様に俺もドン引きだ。通路の先はまだ罠を調べてなかったけど、一階層に入った直後にこんな即死級の罠があるとは。
串刺しにされた魔物の活動停止を鑑定で確認すると、まだ何者も通り抜けていない左側の通路に視線を向ける。罠がないかと目を凝らしてみるがそうそうすぐにわかるものでもない。空間魔法で詳しく調べていくと、一部の床が薄くなっていてその下に空間があることがわかった。
「穴の底は剣山かよ……」
大きくため息をついていると、他のメンバーが恐る恐る十字路へと近づいてきた。
「……一体何があったんだ? シュウが何かやってるように見えたけど、いきなり通路の向こう側で罠が発動したかと思ったら、敵が串刺しになってるし」
イヴァンが奥を指さしているが、どうやら襲ってきた敵との攻防は速すぎて見えていなかったらしい。ステータス差を考えるとそれも当然か。
「あー、うん……、マジか……」
詳しく教えてやると歯切れ悪くしばらく考え込んでいたが、どうやら結論が出たようだ。
「ちょっと俺には難易度高すぎみたいだから帰りてぇ」
「うん……、ボクも……」
呆然としていたフォニアも耳がぺたりと倒れている。
「そうだなぁ……。俺もちょっと、守りながら攻略できるのかわからん」
地竜とか特殊なやつを除いて、今まで魔の森で戦ってきたどの魔物より強かった気がする。それがダンジョンの一階層で出るとか、この先もイヴァンやフォニアを連れていける気がしない。……もちろんニルもだ。
「そうね……。私は見えたけど、ここの魔物の強さがよくわからないから不安ね……」
「わふわふ!」
ニル自身はやる気を出しているけど、ステータスだけならさっきのやつはニルといい勝負をしそうだ。それに最初に出会った魔物だけが強くて、他の魔物は弱いなんてこともないだろう。
「ちょっと出直すか」
ポツリとつぶやいた俺の言葉に反対するメンバーは、誰一人としていなかった。
見た目はダンジョンの外の階段と変わらないが、空気がひんやりとしている。壁や地面は平らに均されていて人工物のようなつくりだ。明かりはまったくないので莉緒が照明の魔法をあちこちに飛ばして視界を確保している。
魔の森の調査や前回ダンジョンに潜っていたときと同様に、今いる階層のスキャンを実行する。適度に魔物も引っかかるが、近くにも数匹いるようだ。
それにしても結構広い階層のようで、端までスキャンしきれなかった。しかも一階層目ではあるが通路は上り下りもしているようでアリの巣状に入り組んでいる。
「あら」
莉緒が反応するが、どうやら視界の向こう側にまで飛ばしていた照明が何者かに消されたらしい。魔力反応が消えたところと魔物の位置が同じだったので、間違いなく魔物の仕業だろうが。
「ぐるるる」
ニルも気が付いたようで唸り声をあげている。
「なんだ、魔物でも来るのか」
「そうみたいだな。なかなか強そうだから俺が出る。そこで待っててくれ」
さすが魔の森のダンジョンといったところだろうか。浅瀬の魔物ならイヴァンでも余裕だから大丈夫だと思っていたが、ちょっと認識を改める必要がありそうだ。
気合を入れていたフォニアも残念そうにしているが、危ないので諦めてくれ。
地面や壁、天井などの周囲を念入りに各種魔法とスキルで調査しながらゆっくりと歩いていく。しばらく一本道を歩き、五十メートルほど先にある十字路までたどり着いた。ここまで罠はなかったが、そろそろ近づいてくる魔物が右側の通路からやってきそうだ。他の通路からは何かがやってくる気配は感じられない。
「来たか」
やがて通路の奥から姿を現したのは四足歩行をした魔物の影だ。所々が鋭角なシルエットになっているが、よく見れば体は金属で構成されたロボットみたいだった。
腰を落として両手に嵌めたガントレットを構える。鑑定してみると名前は「TYPE0135」というらしい。よくわからない名前だけど問題はそこじゃない。ステータスの俊敏が二万近くもある。ダンジョン一階層の魔物のくせにちょっと強すぎないか?
などと心の中で悪態をついていたら、こちらを認識した相手の目が光った。そしてその姿が掻き消えるような勢いでこちらに向かってくる。
結構速いけど、魔法で強化したニルほどじゃないかな。
同時に撃ってきた風魔法を左手で払うと、噛みついて来ようと迫ってくる相手の顔を横から右手で殴りつける。金属の頭がひしゃげるが、突っ込んできた勢いはそのまま慣性に従って衰えることはない。こちらも右拳で殴った勢いを殺さずに体をひねって足で胴体を蹴りつけると十字路の正面方向へと飛んでいった。
飛んでいった先では床と天井と左右の壁から槍が無数に飛び出してきて、金属製の胴体を容赦なく貫くと空中へと縫い留める。
「うわぁ……」
「ちょっ……、このダンジョンやべぇぞ」
後ろで見ていた皆と同様に俺もドン引きだ。通路の先はまだ罠を調べてなかったけど、一階層に入った直後にこんな即死級の罠があるとは。
串刺しにされた魔物の活動停止を鑑定で確認すると、まだ何者も通り抜けていない左側の通路に視線を向ける。罠がないかと目を凝らしてみるがそうそうすぐにわかるものでもない。空間魔法で詳しく調べていくと、一部の床が薄くなっていてその下に空間があることがわかった。
「穴の底は剣山かよ……」
大きくため息をついていると、他のメンバーが恐る恐る十字路へと近づいてきた。
「……一体何があったんだ? シュウが何かやってるように見えたけど、いきなり通路の向こう側で罠が発動したかと思ったら、敵が串刺しになってるし」
イヴァンが奥を指さしているが、どうやら襲ってきた敵との攻防は速すぎて見えていなかったらしい。ステータス差を考えるとそれも当然か。
「あー、うん……、マジか……」
詳しく教えてやると歯切れ悪くしばらく考え込んでいたが、どうやら結論が出たようだ。
「ちょっと俺には難易度高すぎみたいだから帰りてぇ」
「うん……、ボクも……」
呆然としていたフォニアも耳がぺたりと倒れている。
「そうだなぁ……。俺もちょっと、守りながら攻略できるのかわからん」
地竜とか特殊なやつを除いて、今まで魔の森で戦ってきたどの魔物より強かった気がする。それがダンジョンの一階層で出るとか、この先もイヴァンやフォニアを連れていける気がしない。……もちろんニルもだ。
「そうね……。私は見えたけど、ここの魔物の強さがよくわからないから不安ね……」
「わふわふ!」
ニル自身はやる気を出しているけど、ステータスだけならさっきのやつはニルといい勝負をしそうだ。それに最初に出会った魔物だけが強くて、他の魔物は弱いなんてこともないだろう。
「ちょっと出直すか」
ポツリとつぶやいた俺の言葉に反対するメンバーは、誰一人としていなかった。
16
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる