340 / 421
第六部
召喚状
しおりを挟む
調査を開始してはや数日。魔の森の中層は順調に埋まっていっていた。初日にギルドマスターに報告した時は、一日で調査した範囲の広さに驚かれはしたが、これがSランクの実力かと納得された。
その時に俺たち以外にSランク冒険者はいないのか聞いてみたが、今この国にSランク冒険者は他にいないとのことだ。数年前にこの街を拠点にしていたSランク冒険者がいたらしいけど、貴族とのいざこざで出ていったとのこと。
今日の報告をギルドの執務室で終えると、ギルドマスターが眉間に皺を寄せて考え込んでいた。Bランクの魔物が百匹ほどの群れを成していたが、あれくらいの強さの魔物の群れなら昔魔の森で生活していた頃に何度か出くわしている。
「うーむ……、これはまずいかもしれないネ……」
「そうなんですか?」
さっぱり危機感が湧いてこずに暢気に構えていると、ギルドマスターからジト目をもらってしまった。
「……数日以内に何かあるというほどじゃないけど、中層の中でも浅瀬の近くにまで出てきた理由にもよりそうネ」
「なるほど。じゃあ明日はそのちょっと奥を調べてみるか」
「そうしましょうか」
「よろしく頼みたいところではあるが……、これを預かってるネ」
話がひと段落しそうなところで、ギルドマスターが歯切れの悪い言葉と共に一通の手紙を差し出してくる。
「これは?」
「さあ、よく知らないネ。でも貴族の封蝋が押されているから嫌な予感しかしないネ」
その言葉を聞けば確かに嫌な予感しかしない。つい先日にも貴族とのごたごたで逃げ出したSランク冒険者の話を聞いたばかりだ。中身を見てみないことには何もわからないので、とりあえず手紙を開封する。
「召喚状?」
一番上に書かれていた文字を読んで首をかしげると。
「……何をやらかしたネ」
ギルドマスターから呆れた言葉が聞こえてきた。
「何も心当たりはないけど……、この召喚状ってなんなの?」
一応最後まで読んでみたけどよくわからない。王都の騎士団詰め所に来いというのが迂遠な表現でつらつらと書かれているような気がするけど、この解釈で合ってるんだろうか。差出人はベイファン・ローイング男爵となっているけど、唯一心当たりのある男爵といえば王都の魔道具店で出くわしたヤツしかいない。
「確かに、よくわからないわね」
莉緒に回した後にギルドマスターにも手紙を渡す。読んでいいのかとためらう素振りを見せたギルドマスターだったが、一つため息をついてから手紙へと目を落とした。
「これは貴族からの呼び出しネ。主に不敬を働いた平民を罰するために出されることが多いネ」
「ふーん」
不敬ねぇ……。男爵相手に何かやったっけかな?
「敬うような立派な貴族と会った記憶はやっぱりないよな」
「あっははは! 確かにそうね!」
莉緒に同意を求めると爆笑が返ってきた。
「……なるほど、だいたいわかったネ」
俺たちのやり取りを見ていたギルドマスターが、また大きくため息をついて話を続ける。
「まったく、こんな大変な時期に余計なことする貴族ネ……。明日からの調査は他の冒険者に頼むしかないネ」
眉間に皺を寄せて文句を垂れるギルドマスターだが、この召喚状はそこまで優先度が高いものなんだろうか。とはいえ依頼の最中だし放り出す気はないが。
「いやいや、調査は続けますよ? そんなよくわからない召喚状なんか無視するに決まってるじゃないですか」
「街の危機ですし、さすがに優先度の分別くらいつくんじゃないですか?」
莉緒が言葉を続けるが、それでもギルドマスターの表情は晴れないままだ。まさかこの国の貴族はそこまで頭が悪いのだろうか。
「調査を続けてくれるのであればこちらとしてはありがたいが、君たちが不利になるだけネ。それでもかまわないネ?」
ギルドマスターの問いかけに莉緒と二人顔を見合わせると頷き合う。
「はい、特に問題ないですね」
「そ、そうか」
自信満々に答える俺たちに返す言葉もないようだ。
「じゃあ明日からもまたお願いするネ」
「わかりました。では失礼します」
執務室を出ればもうギルドに用はないのでそのまま家に帰ることにする。このところイヴァンたちとは別行動なので、朝から魔の森に向かうときくらいしか一緒に行動していない。
いつもより遅くなってしまったが、そこそこ人通りのある大通りを歩いて我が家へと帰ってきた。
「ただいまー」
きれいに整えられた庭を通り抜けて玄関を開けると、おかえりと返ってくる。なんかこう、我が家があるっていいね。
「今日はちょっと遅かったな」
「ああ、ちょっとこんな手紙をもらってな」
イヴァンに手渡しながらざっくりと概要を説明する。
「へぇ。面倒な貴族もいたもんだな。……んで、召喚に応えるのか?」
「まさか」
「だよな」
笑い合いながら、出迎えてくれたフォニアを撫でてニルをもふもふしてからリビングのソファへと腰を下ろす。
「おかえりなさいませ」
落ち着いたところで侍女モードのエルがお茶を出してくれる。侍女モードになってるってことは何かあったのか。
「今日のお昼過ぎに冒険者と思われる三人組が訪問してきましたが、お知り合いでしょうか?」
ポケットからスマホを取り出すと、撮った写真を見せてくれる。うむ。やっぱりエルにも日本のスマホを渡しておいてよかったな。渡して数日は寝ずにスマホをいじり倒してたけど、こういう時に役には立つ。
写真をよく見れば人相の悪い男が三人写っている。が、もちろん見覚えなんてあるはずがない相手であった。
その時に俺たち以外にSランク冒険者はいないのか聞いてみたが、今この国にSランク冒険者は他にいないとのことだ。数年前にこの街を拠点にしていたSランク冒険者がいたらしいけど、貴族とのいざこざで出ていったとのこと。
今日の報告をギルドの執務室で終えると、ギルドマスターが眉間に皺を寄せて考え込んでいた。Bランクの魔物が百匹ほどの群れを成していたが、あれくらいの強さの魔物の群れなら昔魔の森で生活していた頃に何度か出くわしている。
「うーむ……、これはまずいかもしれないネ……」
「そうなんですか?」
さっぱり危機感が湧いてこずに暢気に構えていると、ギルドマスターからジト目をもらってしまった。
「……数日以内に何かあるというほどじゃないけど、中層の中でも浅瀬の近くにまで出てきた理由にもよりそうネ」
「なるほど。じゃあ明日はそのちょっと奥を調べてみるか」
「そうしましょうか」
「よろしく頼みたいところではあるが……、これを預かってるネ」
話がひと段落しそうなところで、ギルドマスターが歯切れの悪い言葉と共に一通の手紙を差し出してくる。
「これは?」
「さあ、よく知らないネ。でも貴族の封蝋が押されているから嫌な予感しかしないネ」
その言葉を聞けば確かに嫌な予感しかしない。つい先日にも貴族とのごたごたで逃げ出したSランク冒険者の話を聞いたばかりだ。中身を見てみないことには何もわからないので、とりあえず手紙を開封する。
「召喚状?」
一番上に書かれていた文字を読んで首をかしげると。
「……何をやらかしたネ」
ギルドマスターから呆れた言葉が聞こえてきた。
「何も心当たりはないけど……、この召喚状ってなんなの?」
一応最後まで読んでみたけどよくわからない。王都の騎士団詰め所に来いというのが迂遠な表現でつらつらと書かれているような気がするけど、この解釈で合ってるんだろうか。差出人はベイファン・ローイング男爵となっているけど、唯一心当たりのある男爵といえば王都の魔道具店で出くわしたヤツしかいない。
「確かに、よくわからないわね」
莉緒に回した後にギルドマスターにも手紙を渡す。読んでいいのかとためらう素振りを見せたギルドマスターだったが、一つため息をついてから手紙へと目を落とした。
「これは貴族からの呼び出しネ。主に不敬を働いた平民を罰するために出されることが多いネ」
「ふーん」
不敬ねぇ……。男爵相手に何かやったっけかな?
「敬うような立派な貴族と会った記憶はやっぱりないよな」
「あっははは! 確かにそうね!」
莉緒に同意を求めると爆笑が返ってきた。
「……なるほど、だいたいわかったネ」
俺たちのやり取りを見ていたギルドマスターが、また大きくため息をついて話を続ける。
「まったく、こんな大変な時期に余計なことする貴族ネ……。明日からの調査は他の冒険者に頼むしかないネ」
眉間に皺を寄せて文句を垂れるギルドマスターだが、この召喚状はそこまで優先度が高いものなんだろうか。とはいえ依頼の最中だし放り出す気はないが。
「いやいや、調査は続けますよ? そんなよくわからない召喚状なんか無視するに決まってるじゃないですか」
「街の危機ですし、さすがに優先度の分別くらいつくんじゃないですか?」
莉緒が言葉を続けるが、それでもギルドマスターの表情は晴れないままだ。まさかこの国の貴族はそこまで頭が悪いのだろうか。
「調査を続けてくれるのであればこちらとしてはありがたいが、君たちが不利になるだけネ。それでもかまわないネ?」
ギルドマスターの問いかけに莉緒と二人顔を見合わせると頷き合う。
「はい、特に問題ないですね」
「そ、そうか」
自信満々に答える俺たちに返す言葉もないようだ。
「じゃあ明日からもまたお願いするネ」
「わかりました。では失礼します」
執務室を出ればもうギルドに用はないのでそのまま家に帰ることにする。このところイヴァンたちとは別行動なので、朝から魔の森に向かうときくらいしか一緒に行動していない。
いつもより遅くなってしまったが、そこそこ人通りのある大通りを歩いて我が家へと帰ってきた。
「ただいまー」
きれいに整えられた庭を通り抜けて玄関を開けると、おかえりと返ってくる。なんかこう、我が家があるっていいね。
「今日はちょっと遅かったな」
「ああ、ちょっとこんな手紙をもらってな」
イヴァンに手渡しながらざっくりと概要を説明する。
「へぇ。面倒な貴族もいたもんだな。……んで、召喚に応えるのか?」
「まさか」
「だよな」
笑い合いながら、出迎えてくれたフォニアを撫でてニルをもふもふしてからリビングのソファへと腰を下ろす。
「おかえりなさいませ」
落ち着いたところで侍女モードのエルがお茶を出してくれる。侍女モードになってるってことは何かあったのか。
「今日のお昼過ぎに冒険者と思われる三人組が訪問してきましたが、お知り合いでしょうか?」
ポケットからスマホを取り出すと、撮った写真を見せてくれる。うむ。やっぱりエルにも日本のスマホを渡しておいてよかったな。渡して数日は寝ずにスマホをいじり倒してたけど、こういう時に役には立つ。
写真をよく見れば人相の悪い男が三人写っている。が、もちろん見覚えなんてあるはずがない相手であった。
15
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる