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第六部
ギルドマスターからの依頼
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完成した収納カバンを仁平さんに送り、俺たちも異世界へと帰ってきた。あれから鞄の口が小さくて大きなものを出し入れできない問題も解決している。そもそも鞄に付与するからダメなのだ。輪っかにしたロープに付与することで解決するとか誰が予想しただろうか。
異空間ボックスを使うとき、異空間へアクセスするための入り口を作るだけで、別に袋状の何かを作ってるわけではないと気づいたのがきっかけだ。
そして収納カバンを狩りに使えるようになれば、イヴァンがDランクになるのもあっという間だ。ただの輪っかにしたロープから狩った魔物が次々と取り出される光景は異様だったという。
「やっと俺も魔の森に行けるようになったから、よろしくな」
今日はイヴァンと初めて魔の森へと行く日だ。
「うん!」
フォニアの頭をぽんぽんと撫でるイヴァンとともに冒険者ギルドへと向かう。最近俺たちはギルドに寄らずに魔の森へ行くようになったが、イヴァンはきちんと依頼を受けて狩りへ行っているのだ。常時依頼だけでもランクは上がるけど、他に出てる依頼があるのであればそれを受けたほうがランクが上がるのは確かだ。
「えへへ、イヴァン兄といっしょ」
「ははっ、俺もフォニアと一緒で嬉しいな」
「ボクも魔物を倒せるようになったから見ててね!」
「え? あ、おう……」
微妙な表情をしたままのイヴァンとギルドへと入ると、こちらに気づいた一部の人間が潮が引くようにして後ずさる。今まで同じ街に長時間滞在することがなかったから、こういう反応は初めてかもしれない。
イヴァンはそのまま一人で依頼ボードへと向かっている。
「あ、シュウさん!」
イヴァンを見送っていると、珍しく声をかけてくる人物がいた。
同じパーティなのか、グレーに赤い房の混じった髪の女性は見覚えがある。……名前は忘れたけど、パーティ名はなんだっけ?
「あぁ、あの時の。無事にたどり着けたようで何より」
「はい。さっき着いたばっかりなんですけど、さすが魔の森最前線の街ですね」
「近づくだけで、出てくる魔物が強くなってきたアルね」
もう一人の男の言葉で国士無双というパーティをはっきりと思い出す。この特徴ある口調は忘れるはずもない。
「あの、シュウさんたちはいつまでこの街にいる予定なんですか?」
「うーん。特に決めてはないけど」
山岳地帯の魔の森はどんなもんか気になっただけだしなぁ。
「まぁ、飽きるまでかな」
まだ森の浅瀬部分を端から端まで回ったくらいだ。そろそろ本格的に奥地へ行こうかと思ってるけど、いい食材があればいいなぁ。
「そうなんですね。……森の中で会うことがあればよろしくお願いします」
「ああ」
国士無双パーティとの会話が途切れたところで、ギルドの職員がこちらに近づいてくるのが見える。
「失礼します。あの、Sランク冒険者のシュウ様とリオ様でしょうか」
「はい? そうですけど?」
問いかけに対して頷いた俺たちを見て、国士無双パーティのメンバーが目を見開いている。同じタイミングでイヴァンも依頼ボードの前から戻ってきた。
「ギルドマスターが話をしたいと申しておりまして、少しお時間いただいてよろしいでしょうか」
「ん? ギルドマスターが何の用なんだ?」
ちょうど思っていたことをイヴァンが代弁してくれる。
「ここでは話せない内容なので……」
イヴァンを一瞥すると申し訳なさそうな表情になるギルド職員。
「そういうことなら気にせず行ってきていいぞ」
肩をすくめるとフォニアを連れてギルド内のテーブルへと向かっていく。俺たちと一緒に来ても退屈だと思ったのか、ニルも一緒にテーブルへと向かって寝そべると、大きいあくびを漏らした。
話を聞くと返事したわけでもないけど、聞く雰囲気になってしまった気がする。まぁいいけど。
「じゃあ行きましょうか」
「ありがとうございます。ご案内いたします」
「魔物の数が増えてる?」
「ああ、そうネ」
案内された執務室で、ギルドマスターのタイランから聞かされた話はそんな内容だった。中華風の衣装に身を包んだ細マッチョ細目な男で、ハゲなのか剃ってるのかはわからないけど頭はつるピカだ。
「森の浅瀬はそうでもないんだけどネ、森の奥まで遠征するようなAランクパーティからもそんな話が上がってネ」
「それで、私たちに魔の森の調査をしてほしいと」
「この街は過去にも何度か魔の森からのスタンピードを経験してるからネ。魔の森の魔物にはちょっと敏感になってるネ」
前回のスタンピードというのがどれくらいの規模だったのかはわからないけど、街中に点在する廃墟のままになっている建物を見れば、相当ひどかったというのは想像がつく。再び街にまで押し寄せられたらたまったもんじゃないだろう。
「といっても、俺たちは普段の魔の森の魔物分布なんて知らないですけどね」
「それは大丈夫ネ。現在の分布さえ教えてもらえればそれはこちらで判断するネ」
こちらとしても魔の森の食材を求めて幅広く活動する予定だ。魔物の分布調査であればついででできるんじゃなかろうか。
「ふむ……。そういうことなら受けてもいいですよ」
「はは、それはありがたいネ」
ありがたいと言いつつも眉を寄せてタイランが困ったように話を続ける。
「だけど依頼の内容や報酬の話を聞く前に了承していいのかネ」
「かまいませんよ。俺たち別にお金に困ってるわけじゃないので」
むしろ貯まりすぎて困ってます。
異空間ボックスを使うとき、異空間へアクセスするための入り口を作るだけで、別に袋状の何かを作ってるわけではないと気づいたのがきっかけだ。
そして収納カバンを狩りに使えるようになれば、イヴァンがDランクになるのもあっという間だ。ただの輪っかにしたロープから狩った魔物が次々と取り出される光景は異様だったという。
「やっと俺も魔の森に行けるようになったから、よろしくな」
今日はイヴァンと初めて魔の森へと行く日だ。
「うん!」
フォニアの頭をぽんぽんと撫でるイヴァンとともに冒険者ギルドへと向かう。最近俺たちはギルドに寄らずに魔の森へ行くようになったが、イヴァンはきちんと依頼を受けて狩りへ行っているのだ。常時依頼だけでもランクは上がるけど、他に出てる依頼があるのであればそれを受けたほうがランクが上がるのは確かだ。
「えへへ、イヴァン兄といっしょ」
「ははっ、俺もフォニアと一緒で嬉しいな」
「ボクも魔物を倒せるようになったから見ててね!」
「え? あ、おう……」
微妙な表情をしたままのイヴァンとギルドへと入ると、こちらに気づいた一部の人間が潮が引くようにして後ずさる。今まで同じ街に長時間滞在することがなかったから、こういう反応は初めてかもしれない。
イヴァンはそのまま一人で依頼ボードへと向かっている。
「あ、シュウさん!」
イヴァンを見送っていると、珍しく声をかけてくる人物がいた。
同じパーティなのか、グレーに赤い房の混じった髪の女性は見覚えがある。……名前は忘れたけど、パーティ名はなんだっけ?
「あぁ、あの時の。無事にたどり着けたようで何より」
「はい。さっき着いたばっかりなんですけど、さすが魔の森最前線の街ですね」
「近づくだけで、出てくる魔物が強くなってきたアルね」
もう一人の男の言葉で国士無双というパーティをはっきりと思い出す。この特徴ある口調は忘れるはずもない。
「あの、シュウさんたちはいつまでこの街にいる予定なんですか?」
「うーん。特に決めてはないけど」
山岳地帯の魔の森はどんなもんか気になっただけだしなぁ。
「まぁ、飽きるまでかな」
まだ森の浅瀬部分を端から端まで回ったくらいだ。そろそろ本格的に奥地へ行こうかと思ってるけど、いい食材があればいいなぁ。
「そうなんですね。……森の中で会うことがあればよろしくお願いします」
「ああ」
国士無双パーティとの会話が途切れたところで、ギルドの職員がこちらに近づいてくるのが見える。
「失礼します。あの、Sランク冒険者のシュウ様とリオ様でしょうか」
「はい? そうですけど?」
問いかけに対して頷いた俺たちを見て、国士無双パーティのメンバーが目を見開いている。同じタイミングでイヴァンも依頼ボードの前から戻ってきた。
「ギルドマスターが話をしたいと申しておりまして、少しお時間いただいてよろしいでしょうか」
「ん? ギルドマスターが何の用なんだ?」
ちょうど思っていたことをイヴァンが代弁してくれる。
「ここでは話せない内容なので……」
イヴァンを一瞥すると申し訳なさそうな表情になるギルド職員。
「そういうことなら気にせず行ってきていいぞ」
肩をすくめるとフォニアを連れてギルド内のテーブルへと向かっていく。俺たちと一緒に来ても退屈だと思ったのか、ニルも一緒にテーブルへと向かって寝そべると、大きいあくびを漏らした。
話を聞くと返事したわけでもないけど、聞く雰囲気になってしまった気がする。まぁいいけど。
「じゃあ行きましょうか」
「ありがとうございます。ご案内いたします」
「魔物の数が増えてる?」
「ああ、そうネ」
案内された執務室で、ギルドマスターのタイランから聞かされた話はそんな内容だった。中華風の衣装に身を包んだ細マッチョ細目な男で、ハゲなのか剃ってるのかはわからないけど頭はつるピカだ。
「森の浅瀬はそうでもないんだけどネ、森の奥まで遠征するようなAランクパーティからもそんな話が上がってネ」
「それで、私たちに魔の森の調査をしてほしいと」
「この街は過去にも何度か魔の森からのスタンピードを経験してるからネ。魔の森の魔物にはちょっと敏感になってるネ」
前回のスタンピードというのがどれくらいの規模だったのかはわからないけど、街中に点在する廃墟のままになっている建物を見れば、相当ひどかったというのは想像がつく。再び街にまで押し寄せられたらたまったもんじゃないだろう。
「といっても、俺たちは普段の魔の森の魔物分布なんて知らないですけどね」
「それは大丈夫ネ。現在の分布さえ教えてもらえればそれはこちらで判断するネ」
こちらとしても魔の森の食材を求めて幅広く活動する予定だ。魔物の分布調査であればついででできるんじゃなかろうか。
「ふむ……。そういうことなら受けてもいいですよ」
「はは、それはありがたいネ」
ありがたいと言いつつも眉を寄せてタイランが困ったように話を続ける。
「だけど依頼の内容や報酬の話を聞く前に了承していいのかネ」
「かまいませんよ。俺たち別にお金に困ってるわけじゃないので」
むしろ貯まりすぎて困ってます。
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