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第六部
みんなでデビュー
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「フォニアのことで話があるって聞いてきたんですけど」
「ああ、そうなんじゃ」
席に着くと改めて仁平さんから話を聞かされる。
知らない言葉をしゃべる動画が発端になり、フォニアがこちらの世界のダンジョンの向こう側からやってきたという話が一部の界隈で話題になっているらしい。
今はほんの少数らしいが、こういった話は広がるのが早い。今のうちに手を打っておきたいというのが仁平さんの話だった。
「どうするんですか?」
異世界での話だったら気にするほどのことではない。情報伝達方法が発達していないから広まることもない。だけど現代となるとどうすればいいのかさっぱりわからなかった。
「なに、そう難しいことはない」
だけど仁平さんには何か方法があるみたいだ。
「まだフォニアちゃんを知らない人にフォニアちゃんの可愛さを知ってもらえばいい」
「ほえ?」
よくわかっていないフォニアが首をかしげているが、正直俺も仁平さんが何を行おうとしているのかはわからない。
「きちんと理解できる言葉をしゃべるフォニアちゃんの情報で溢れさせてしまえばいいんじゃよ」
「そういうことね」
「うむうむ。動画であれば字幕をつけるのも良いと思うぞ」
「なるほど」
確かに考えてもみなかったけどそれはありかもしれない。字幕だったら、すでにアップロードされている動画にもつけることはできそうだ。
「そこで儂はさらに手を打ちたいと思っておるんじゃが……」
仁平さんはそこで言葉を区切るとフォニアに顔を向ける。
「どうじゃ、うちのDORAGON社のCMに出てみんか?」
「……しーえむ?」
「えっ?」
莉緒が目を丸くしている。まさかのCM出演とか考えもしかなったけど――
「本気ですか?」
いくらなんでもただの素人の、しかも子どもでこちらの世界の常識を知らないフォニアである。それにもともとDORAGON社が過去から放送してきたCMの実績というのもあるだろう。シリーズ物のCMもあるだろうし、急に方向転換になって大丈夫なんだろうか。
「もちろん本気だとも。今話題になっているフォニアちゃんを起用したとなれば話題性もばっちりじゃ。それに儂の会社のように世界規模の大企業と関りがあると知れば世間も悪しざまには言わんじゃろう」
「……でもそれって、逆にDORAGON社の評判を下げる可能性もあるのでは?」
莉緒が顎に手を当てて考え込んだあとにぽつりとつぶやく。確かにその可能性は否定できない。動画には好意的なコメントのほうが多いけど、否定的な意見もゼロではない。何かの拍子に広まってしまう可能性はあるんじゃないだろうか。
「はっはっは、そこまで気にしなくても大丈夫じゃよ。儂の独断というわけでもないし、ちゃんと会社の方針として決まったことだしの」
「お姉ちゃん、しーえむってなに?」
フォニアが莉緒の服の裾を引っ張って首をかしげている。
「え? あぁ、CMはコマーシャルって言って、商品とか会社とかをテレビで宣伝するの。可愛いフォニアちゃんが使ってると、みんなも使いたくなるんじゃないかな」
「テレビ!?」
説明を聞いたフォニアが、頭の上にある両耳をピンと立てて驚いている。野営用ハウスには置いていないが、日本の拠点になっているマンションにはテレビも置いてある。初めて見せたときは、テレビの裏側がどうなっているのか覗き見たりしたのは微笑ましい思い出だ。
俺たちとしてはテレビに出てくる人物に知っている人がまったくいなくて、もやもやが残るだけの結果になったが。
「うん。テレビのない家はほとんどないからね。いろんな人に見てもらえるよ」
「ふふふ、日本だけではないぞ。このCMは世界中に発信しようと考えておるからの」
「世界!?」
今度はイヴァンから声が上がる。エルも最近少しずつ日本語を理解するようになっていて、すべては聞き取れていないものの世界と聞いて目を見開いていた。
少数の悪い噂をどうにかするだけだと軽く考えていたけど、なんだか思ったより大掛かりな内容になってきた。まさかうちの子がCMデビューするとか……。
「みんなに見てもらえるならボクがんばるよ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいる。
「ああ、撮影の際にはニルくんも含めてぜひみんなでと思っておるんじゃが、かまわんだろうか」
「「ええ!?」」
仁平さんのその言葉には思わず俺と莉緒の声が重なった。思わず顔を見合わせるが、莉緒も似たような表情だ。アップしたフォニアの動画には俺たちもちょっとだけ映り込んだりしてるけど、まさかのCMデビュー。
「しゃべっているところは映っておらんが、柊くんと莉緒くんもあちらの言葉でフォニアちゃんに話しかけておるだろう?」
確かに仁平さんの言うとおりだ。異世界の言葉をしゃべってる映像はフォニアだけだが、画面外から異世界の言葉でそのフォニアに話しかけているのは俺たちだったりする。まとめて悪いイメージを払しょくするのは悪くないかもしれない。
「そうですね……。この際なのでイヴァンとエルもまとめて全員でやりますか」
「ええっ!?」
電車があんまり好きでないニルは連れてきていなかったけど、それはまぁなんとかなる。というか俺たちが先に来てからあとで呼べばよさそうだ。
「ふぉっふぉっふぉ。君たちだけだと一般人は知らないだろうから、何名かタレントを用意するとしよう」
「あ、はい」
知ってる有名人はいないだろうけど、CMやるならそのほうがよさそうだ。
「ああ、そうなんじゃ」
席に着くと改めて仁平さんから話を聞かされる。
知らない言葉をしゃべる動画が発端になり、フォニアがこちらの世界のダンジョンの向こう側からやってきたという話が一部の界隈で話題になっているらしい。
今はほんの少数らしいが、こういった話は広がるのが早い。今のうちに手を打っておきたいというのが仁平さんの話だった。
「どうするんですか?」
異世界での話だったら気にするほどのことではない。情報伝達方法が発達していないから広まることもない。だけど現代となるとどうすればいいのかさっぱりわからなかった。
「なに、そう難しいことはない」
だけど仁平さんには何か方法があるみたいだ。
「まだフォニアちゃんを知らない人にフォニアちゃんの可愛さを知ってもらえばいい」
「ほえ?」
よくわかっていないフォニアが首をかしげているが、正直俺も仁平さんが何を行おうとしているのかはわからない。
「きちんと理解できる言葉をしゃべるフォニアちゃんの情報で溢れさせてしまえばいいんじゃよ」
「そういうことね」
「うむうむ。動画であれば字幕をつけるのも良いと思うぞ」
「なるほど」
確かに考えてもみなかったけどそれはありかもしれない。字幕だったら、すでにアップロードされている動画にもつけることはできそうだ。
「そこで儂はさらに手を打ちたいと思っておるんじゃが……」
仁平さんはそこで言葉を区切るとフォニアに顔を向ける。
「どうじゃ、うちのDORAGON社のCMに出てみんか?」
「……しーえむ?」
「えっ?」
莉緒が目を丸くしている。まさかのCM出演とか考えもしかなったけど――
「本気ですか?」
いくらなんでもただの素人の、しかも子どもでこちらの世界の常識を知らないフォニアである。それにもともとDORAGON社が過去から放送してきたCMの実績というのもあるだろう。シリーズ物のCMもあるだろうし、急に方向転換になって大丈夫なんだろうか。
「もちろん本気だとも。今話題になっているフォニアちゃんを起用したとなれば話題性もばっちりじゃ。それに儂の会社のように世界規模の大企業と関りがあると知れば世間も悪しざまには言わんじゃろう」
「……でもそれって、逆にDORAGON社の評判を下げる可能性もあるのでは?」
莉緒が顎に手を当てて考え込んだあとにぽつりとつぶやく。確かにその可能性は否定できない。動画には好意的なコメントのほうが多いけど、否定的な意見もゼロではない。何かの拍子に広まってしまう可能性はあるんじゃないだろうか。
「はっはっは、そこまで気にしなくても大丈夫じゃよ。儂の独断というわけでもないし、ちゃんと会社の方針として決まったことだしの」
「お姉ちゃん、しーえむってなに?」
フォニアが莉緒の服の裾を引っ張って首をかしげている。
「え? あぁ、CMはコマーシャルって言って、商品とか会社とかをテレビで宣伝するの。可愛いフォニアちゃんが使ってると、みんなも使いたくなるんじゃないかな」
「テレビ!?」
説明を聞いたフォニアが、頭の上にある両耳をピンと立てて驚いている。野営用ハウスには置いていないが、日本の拠点になっているマンションにはテレビも置いてある。初めて見せたときは、テレビの裏側がどうなっているのか覗き見たりしたのは微笑ましい思い出だ。
俺たちとしてはテレビに出てくる人物に知っている人がまったくいなくて、もやもやが残るだけの結果になったが。
「うん。テレビのない家はほとんどないからね。いろんな人に見てもらえるよ」
「ふふふ、日本だけではないぞ。このCMは世界中に発信しようと考えておるからの」
「世界!?」
今度はイヴァンから声が上がる。エルも最近少しずつ日本語を理解するようになっていて、すべては聞き取れていないものの世界と聞いて目を見開いていた。
少数の悪い噂をどうにかするだけだと軽く考えていたけど、なんだか思ったより大掛かりな内容になってきた。まさかうちの子がCMデビューするとか……。
「みんなに見てもらえるならボクがんばるよ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいる。
「ああ、撮影の際にはニルくんも含めてぜひみんなでと思っておるんじゃが、かまわんだろうか」
「「ええ!?」」
仁平さんのその言葉には思わず俺と莉緒の声が重なった。思わず顔を見合わせるが、莉緒も似たような表情だ。アップしたフォニアの動画には俺たちもちょっとだけ映り込んだりしてるけど、まさかのCMデビュー。
「しゃべっているところは映っておらんが、柊くんと莉緒くんもあちらの言葉でフォニアちゃんに話しかけておるだろう?」
確かに仁平さんの言うとおりだ。異世界の言葉をしゃべってる映像はフォニアだけだが、画面外から異世界の言葉でそのフォニアに話しかけているのは俺たちだったりする。まとめて悪いイメージを払しょくするのは悪くないかもしれない。
「そうですね……。この際なのでイヴァンとエルもまとめて全員でやりますか」
「ええっ!?」
電車があんまり好きでないニルは連れてきていなかったけど、それはまぁなんとかなる。というか俺たちが先に来てからあとで呼べばよさそうだ。
「ふぉっふぉっふぉ。君たちだけだと一般人は知らないだろうから、何名かタレントを用意するとしよう」
「あ、はい」
知ってる有名人はいないだろうけど、CMやるならそのほうがよさそうだ。
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