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第六部
試作品
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「いやぁ、収納カバンを作れないかと思って試してみたんだけどな」
まさか破裂するとは思わなかった。
「は?」
「ふぅん。……でも柊なら作れそうよね」
「なん……だと?」
「おおー」
イヴァンに返した言葉に四者四様の反応を返すメンバーたち。
エルには収納カバン探してと言った手前、自分でも作るとなったらキレるかもと思ったけど驚きのほうが大きいらしい。フォニアは破裂した鞄を興味深そうに手に取ってあれこれと観察している。
「エルにも探してもらうように頼んだけど、作れるかどうかわからなかったからな」
「そうなのか?」
「あ、ああ。メサリアに連絡して探してもらってるわよ」
「今まで荷物は俺と莉緒が持ってたし、単独行動するなら他の皆も鞄があったほうがいいだろ」
「……今まさに実感してる」
イヴァンがしみじみと呟くとエルが肩をすくめている。
「ここにはだいたい何でもそろってるけど、シュウたちしか持ってない食材やら調理器具もあったりするのは確かね」
フォニアもあったほうがいいかなと見れば、ファスナーを開けて腕を突っ込んで鞄を肩に装着して遊んでいた。無理にフォニアの鞄も揃えなくていいかな。
気を取り直して鞄について考えてみる。破裂したところを見ると、強度のある素材の鞄のほうがいいかもしれない。これは魔物の皮で作った鞄がよさそうだ。
適当な鞄をまたもや異空間ボックスから取り出して付与を試してみる。使わなくなった鞄なんてそんなに在庫があるわけでもなかったが、四つの鞄が犠牲になったあとの五つ目は破裂しなかった。
「お?」
「え?」
「マジで?」
期待しつつも鞄の口を開けて中を覗いてみると、異空間ボックスを開けたような空間が広がっているのが見える。
「成功した……のかな?」
試しに破裂した鞄を入れてみる。口を閉じて鞄をたたんでみれば、何も入っていない状態と同じくらいに薄く平らになる。口を開けて手を突っ込むと、壊れた鞄が入っているのがわかったので取り出してみる。
「おお……!」
嬉しそうにするイヴァンに渡してやると、嬉々として壊れた鞄を突っ込んで口を閉じ、また開けて手を突っ込んでいる。
が、なかなか取り出そうとせずに眉間に皺が寄ってきた。
「どうしたんだ?」
まさか手が抜けなくなったとか言わないよなと思っていると、おもむろに手を抜いてこっちに鞄を差し出してきた。
「取り出せないんだが」
「ええ?」
そんなはずはと思いながらも受け取った鞄に手を突っ込むと、なんなく鞄を取り出す。
「なんで!?」
「私にも貸して」
莉緒が手を差し出してきたので、作った鞄と壊れた鞄を手渡す。と、問題なく収納と取り出しができた。
「ええっ!?」
ますますショックを受けるイヴァンだったが、莉緒も何度か鞄を出し入れしつつも首をかしげている。もう一度手を突っ込んだかと思うと、今度はがさごそと鞄の中を探りつつ手を抜いて頷いた。
「たぶんだけど、私たちって物を取り出すときに無意識で空間魔法を使ってるわね」
手渡された鞄を受け取りつつも莉緒の話を聞けば、そういうことらしい。
魔法を使わないように意識をして鞄に手を突っ込めば、確かにどこに何があるかわからなかった。
「ホントだ。……ということは、鞄の中を把握する空間魔法の付与も必要ってことか」
なるほどねぇ。
「収納カバン作りはそう簡単にはいかないか」
「いやいや、一日かからずに収納だけ可能な鞄ができたことがもうすげぇんだけど!?」
なかなかやりがいがありそうだと思っていると、イヴァンはそう思ってはいないらしい。自分が使えなかったからと言って文句を言うでもなく褒めるとは、できたヤツだ。
「次の課題が見つかったけど、とりあえずは一歩前進だな」
隣を見れば、破れた鞄を肩に装備したフォニアが、肩の鞄を枕にしてすよすよと寝息を立てていた。
「続きは明日にするか。――エル」
「はい」
「この街にある丈夫な鞄を買い集めといてくれる?」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるエルに満足すると、スマホを取り出してフォニアの撮影に参戦する。しばらく莉緒と二人でフォニアを写真に収めると、この日は休むことにした。
収納だけはできるようになったからと、イヴァンは翌日に試作品の鞄を持って意気揚々と依頼に出かけたが、鞄の口が小さすぎて獲物が入らないと苦情が入ったことをここに記しておく。
異空間ボックスの入り口はかなり自由に大きさを変えられるから、そこまで意識が回っていなかったようだ。こっちも要改善だな。結局この日もイヴァンの獲物回収に付き合ったのは言うまでもない。
ちなみにメサリアさんに依頼していた収納カバンは、翌日には情報が集まっていた。テレポートで直接買いに行って入手はしたが、同じく鞄の口以上のものは収納することができなかったので、組織内で使うように丸投げしておいた。
そしてとうとう仁平さんと話をする日がやってきた。今日ばかりは全員で日本に向かう。フォニアの兄貴分であるイヴァンはもちろん、日本の文化にどっぷりと染まったエルは言わずもがなである。
「よく来てくれた」
いつものDORAGON社へと顔を出すと、仁平さんに笑顔で出迎えられた。
まさか破裂するとは思わなかった。
「は?」
「ふぅん。……でも柊なら作れそうよね」
「なん……だと?」
「おおー」
イヴァンに返した言葉に四者四様の反応を返すメンバーたち。
エルには収納カバン探してと言った手前、自分でも作るとなったらキレるかもと思ったけど驚きのほうが大きいらしい。フォニアは破裂した鞄を興味深そうに手に取ってあれこれと観察している。
「エルにも探してもらうように頼んだけど、作れるかどうかわからなかったからな」
「そうなのか?」
「あ、ああ。メサリアに連絡して探してもらってるわよ」
「今まで荷物は俺と莉緒が持ってたし、単独行動するなら他の皆も鞄があったほうがいいだろ」
「……今まさに実感してる」
イヴァンがしみじみと呟くとエルが肩をすくめている。
「ここにはだいたい何でもそろってるけど、シュウたちしか持ってない食材やら調理器具もあったりするのは確かね」
フォニアもあったほうがいいかなと見れば、ファスナーを開けて腕を突っ込んで鞄を肩に装着して遊んでいた。無理にフォニアの鞄も揃えなくていいかな。
気を取り直して鞄について考えてみる。破裂したところを見ると、強度のある素材の鞄のほうがいいかもしれない。これは魔物の皮で作った鞄がよさそうだ。
適当な鞄をまたもや異空間ボックスから取り出して付与を試してみる。使わなくなった鞄なんてそんなに在庫があるわけでもなかったが、四つの鞄が犠牲になったあとの五つ目は破裂しなかった。
「お?」
「え?」
「マジで?」
期待しつつも鞄の口を開けて中を覗いてみると、異空間ボックスを開けたような空間が広がっているのが見える。
「成功した……のかな?」
試しに破裂した鞄を入れてみる。口を閉じて鞄をたたんでみれば、何も入っていない状態と同じくらいに薄く平らになる。口を開けて手を突っ込むと、壊れた鞄が入っているのがわかったので取り出してみる。
「おお……!」
嬉しそうにするイヴァンに渡してやると、嬉々として壊れた鞄を突っ込んで口を閉じ、また開けて手を突っ込んでいる。
が、なかなか取り出そうとせずに眉間に皺が寄ってきた。
「どうしたんだ?」
まさか手が抜けなくなったとか言わないよなと思っていると、おもむろに手を抜いてこっちに鞄を差し出してきた。
「取り出せないんだが」
「ええ?」
そんなはずはと思いながらも受け取った鞄に手を突っ込むと、なんなく鞄を取り出す。
「なんで!?」
「私にも貸して」
莉緒が手を差し出してきたので、作った鞄と壊れた鞄を手渡す。と、問題なく収納と取り出しができた。
「ええっ!?」
ますますショックを受けるイヴァンだったが、莉緒も何度か鞄を出し入れしつつも首をかしげている。もう一度手を突っ込んだかと思うと、今度はがさごそと鞄の中を探りつつ手を抜いて頷いた。
「たぶんだけど、私たちって物を取り出すときに無意識で空間魔法を使ってるわね」
手渡された鞄を受け取りつつも莉緒の話を聞けば、そういうことらしい。
魔法を使わないように意識をして鞄に手を突っ込めば、確かにどこに何があるかわからなかった。
「ホントだ。……ということは、鞄の中を把握する空間魔法の付与も必要ってことか」
なるほどねぇ。
「収納カバン作りはそう簡単にはいかないか」
「いやいや、一日かからずに収納だけ可能な鞄ができたことがもうすげぇんだけど!?」
なかなかやりがいがありそうだと思っていると、イヴァンはそう思ってはいないらしい。自分が使えなかったからと言って文句を言うでもなく褒めるとは、できたヤツだ。
「次の課題が見つかったけど、とりあえずは一歩前進だな」
隣を見れば、破れた鞄を肩に装備したフォニアが、肩の鞄を枕にしてすよすよと寝息を立てていた。
「続きは明日にするか。――エル」
「はい」
「この街にある丈夫な鞄を買い集めといてくれる?」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるエルに満足すると、スマホを取り出してフォニアの撮影に参戦する。しばらく莉緒と二人でフォニアを写真に収めると、この日は休むことにした。
収納だけはできるようになったからと、イヴァンは翌日に試作品の鞄を持って意気揚々と依頼に出かけたが、鞄の口が小さすぎて獲物が入らないと苦情が入ったことをここに記しておく。
異空間ボックスの入り口はかなり自由に大きさを変えられるから、そこまで意識が回っていなかったようだ。こっちも要改善だな。結局この日もイヴァンの獲物回収に付き合ったのは言うまでもない。
ちなみにメサリアさんに依頼していた収納カバンは、翌日には情報が集まっていた。テレポートで直接買いに行って入手はしたが、同じく鞄の口以上のものは収納することができなかったので、組織内で使うように丸投げしておいた。
そしてとうとう仁平さんと話をする日がやってきた。今日ばかりは全員で日本に向かう。フォニアの兄貴分であるイヴァンはもちろん、日本の文化にどっぷりと染まったエルは言わずもがなである。
「よく来てくれた」
いつものDORAGON社へと顔を出すと、仁平さんに笑顔で出迎えられた。
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