成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

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第六部

魔の森の街

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 ほどなくしてお昼前ごろ、魔の森に一番近い街へと到着する。王都へと続く街道方面の壁もしっかりと分厚く高く作られている、まるで城塞都市のような佇まいだ。
 もちろんさっきの男女二人組冒険者は追いついてきていない。

「あー、高級宿か? うーん、この街にはないかもしれんなぁ」

 さっそく門番におすすめの宿を聞いてみたけど芳しい答えが返ってこない。荒くれ者の多いこの街では、お高い宿というと安全な宿という意味になるらしく、サービスの良さは二の次になるらしい。

「風呂付きとなるとこの街にはないかもしれんな」

「……そうなんですか」

 なんてこったい。しばらく魔の森に入り浸る予定だし、風呂付きがないとなればちょっと考えないといけないな。

「はは、この街は過去に何度か魔物のスタンピードを経験してるからな。ここには実用的なものしかないと思ってたほうがいい」

 そう言いながらもおすすめする安全な宿を教えてもらい、礼を言って街の中へと足を踏み入れる。

「ようこそ、魔の森最前線の城塞都市サタニスガーデンへ」

 門番にいざなわれてくぐった門の先は、区画の整理された場所だった。門の前は広場になっているが、そこから広がる道はそんなに広くなく、家屋の壁も頑丈に作られている。真正面の大通りも直進してすぐに壁にぶつかるようで、街中も迷路のように入り組んでいそうだ。
 冒険者ギルドの場所も聞いたので、さっそく向かってみる。街の北側にあるとのことで、とりあえずまっすぐ進んでみる。一番大きい通りをぐねぐねと曲がりながらもまっすぐ行けば、街の中央を超えて北側に出た。しばらく行けば街の規模に似合わない大きめの冒険者ギルドが見えてきた。

「へぇ、思ったよりでかいな」

「魔の森目当ての冒険者が多いって話だよな」

「ボクも魔物やっつけるよ!」

 フォニアが珍しくも鼻息荒くやる気満々だ。

「わふっ!」

 ニルもやる気になっているらしい。
 ギルド前で固まって建物を見上げていても邪魔なだけなので、さっさと中に入ることにする。
 昼前だからかそれほど混んでいないようだ。だけど広いだけあってそこそこの数の見た目屈強な冒険者がいた。一瞬だけ視線を集めるけどそれもほどなくして散っていく。
 イヴァンはいつものように依頼ボードへ向かうと、ニルとフォニアもそちらについていく。

「風呂付きの宿ってこの街にあります?」

 さっそく空いているカウンターまで行くと職員さんに聞いてみる。

「……お風呂付き、ですか?」

 予想外の質問だったのか、一瞬の間があってから言葉が返ってくる。

「はい。街の入り口でも聞いたんですけど、こっちでも念のため」

「公衆浴場が近い宿ならありますが、お風呂付きの宿はこの街にはないですね……」

「あら、そうですか」

 うーむ。風呂がないとなると野営用ハウスで過ごすことになるがどうしたもんか。

「やっぱりなかった?」

 カウンターを離れて依頼ボードへ向かっていると、莉緒から声がかかる。

「なかったなぁ。どっかに空いてる土地でもあればいいんだけど」

「あとで商会にも顔出してみようか」

「そうするか」

 依頼ボードの前まで来ると、イヴァンがボードを眺めながら眉間に皺を寄せている。

「なんかいいのあった?」

「…………ない」

「えぇ?」

 長い沈黙の後にイヴァンがぽつりと返してきた言葉に思わずジト目になってしまう。
 一通り依頼がはけきった昼前の時間帯ではあるが、魔の森での採集や討伐依頼など残っているものもある。

「魔の森の依頼にランクEで受けられるやつがない」

「へ?」

 思わず間抜けな声を出してしまったが、同時にざわついていた周囲がちょっとだけ静かになった気がする。

「――ぶははははっ!」

 と思ったら少し離れたところで同じように依頼ボードを見ていた男が盛大に噴き出した。

「ヒヨッ子がいっちょ前に魔の森に挑戦に来たってか!」

 腹を抱えて笑う男に視線が集まるが、なんだか俺たちにも生暖かい視線が集まってるようにも感じる。

「残念だったなひよっ子ども。ランクがEだとそもそも北門から出られねぇんだよ」

「え、マジで?」

 男の言葉にイヴァンが振り返るが、それがさらにツボにはまったらしくひーひー言いながら腹を抱えている。

「ぶははっ! んなことも知らねぇでここまで来たのかよ!」

 言葉には出さないけど、俺自身も心の中でマジかよと叫んでいた。そうなると冒険者じゃないエルは出られるのかな。街壁修理みたいな森に用事がない奴が出られなくなるし、なんかやりようはあると思うけど。

「他の依頼でランク上げるしかなさそうだな」

 イヴァンを慰めるように背中をたたくと、隣の男もうなずいている。

「この辺りは魔の森じゃなくても強い魔物が多いからな。死なねぇように気を付けるんだな」

 それだけ言うと依頼を一枚剥がしてカウンターへ去っていく。

「はは、まあがんばれよ」

 イヴァンを慰めるように背中を叩く。
 俺たちはただ食材探しに魔の森に行くだけで、依頼を受けるかどうかはその時による。イヴァンとはパーティを組んでるわけでもないし、例え魔の森までついてこれたとしても俺たちが受けた依頼でイヴァンが昇格することもない。

「イヴァン兄がんばって!」

 フォニアにまで励まされて肩を落とすイヴァンであった。
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