成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
327 / 421
第六部

お客さん

しおりを挟む
「おはよう」

「おはよう。今日も来てるわよ」

 あくびを噛み殺しながらリビングに出て挨拶をすると、先に起きていた莉緒が玄関を指さす。みんなはすでに起きていて俺が最後のようだ。野営用ハウスのベッドはなかなかに寝心地がいいので、起きられないことがたまによくある。
 そして朝の出発が遅れると、たまにお客さんが来ていることがあるのだ。

「んじゃちょっと行ってくる」

 顔を洗ってさっぱりすると、玄関を開けて外に出る。どうやら今日のお客さんは通りすがりの冒険者パーティらしい。

「あ、どーも。同業者の方ですかね。俺たちもただの冒険者なのでお構いなく」

 襟の中からミスリル製の冒険者証を出して見えるように首にかけると、しっしと追い払うように手を振っていく。
 肩をすくめて去っていく者、ますます警戒を強める者、目を吊り上げて迫ってくる者など様々だ。魔の森という強い魔物がいる方向へ向かう道だからか、街道を行く人間は腕に覚えを持つ冒険者が多いように感じる。

「ちょっと、何なのよコレ! 今までこんなもの街道わきになかったんだけど!」

 一人の女性冒険者が近づいてきたかと思うと、勢いよくまくし立ててきた。

「何って、俺たちの移動拠点ですけど」

「は? 拠点? これが!?」

 ポカンと見上げる冒険者を置いてそのまま野営用ハウスへと戻る。もちろんしっかりと鍵はかけておいた。なんとなく面倒な相手っぽかったので。

「おかえり」

「ただいま」

「暇な奴らはどこにでもいるもんだなぁ」

 イヴァンがぼやいているが、よく知った道に見慣れないものがあれば気になるのはわかる。それでもわかった上でやってるんだけどね。俺たちもある程度の異世界生活で遠慮がなくなってきた気がする。慣れてきたとも言えるのか。

「そういえば昨日の話だけど、仁平さんからの返事は来てるんじゃない?」

 昨日のうちに仁平さんからきたメッセージについてはみんなと共有してある。日本とこっちで多少時差はあるとはいえ、一晩経てば返事が来ていてもおかしくはない。

「そうだなぁ」

 でもスマホをオンラインにするためだけに向こうに行くのも面倒なんだよなぁ。そこそこ魔力使うし。……試しに小さい穴でも開けてみるか?

「……お、繋がった?」

 直径三十センチくらいの穴で向こうとつなげてみたところ、しばらくしてスマホの通信アイコンが圏外から電波一本に変わった。

「え? ……あ、ホントだ」

 莉緒もスマホを取り出して確認しているが、同じように圏外でなくなっていたらしい。俺だけじゃないってことはちゃんと繋がってるのかな。

「ちゃんと繋がってるみたいね。天気予報開いたわ」

「へー、あ、返事きてる」

 メッセージを開けば仁平さんからの返事があった。四日後には時間を取れそうだから来てくれないかということだった。

「了解っと」

 返事を返して、皆にも四日後に日本に一度帰ることを伝えておく。エルからは鮫皮のおろし金を切望された。

「じゃあ朝ごはん食べたら出発しましょうか」

「へーい」

「はーい」

「わふぅ」

 莉緒の掛け声にそれぞれ返事が返ってくる。
 すでに朝食が用意されているテーブルに着くと、玄関の扉がガチャガチャ鳴ったかと思うと、バンバン叩かれる音が響いてきた。向こう側からは、さっき聞いた女冒険者のくぐもった声が聞こえてくる。今すぐ開けろとか聞こえてくるけどやかましい。あとで玄関から音が響いてこないように改造しようと誓いつつも、今は応急処置で空間遮断結界を玄関扉に張っておいた。

「あ、静かになった」

 玄関を見ていたイヴァンの言葉で、皆の注意がテーブルの上の朝食へと戻ってくる。

「んじゃいただきます」

「「「いただきます」」」

 玄関から音などしなかったのように、皆で朝飯を食べると出発の準備を進めるのだった。



 準備を終えて外に出るとさっきの女冒険者が、ごつい槍斧ハルバードを地面に刺して支えにして肩で息をしていた。黄色い髪を後頭部でお団子にまとめており、頬に傷のある顔でニヤリと笑うとある種の凄みがある。
 ただ、その後ろにはひょろい男が困った顔で佇んでいるのでそれも半減しているが。

「やっとお出ましか」

 ニヤリと口角を上げる女だったが、それに合わせて後ろの男が大きくため息をつく。

「あ、まだいたんだ」

 気配があるのはわかっていたけどあえて言葉にしてみる。

「んだとゴルァ!? こっちが何回もお願いしてやったのに、ようやく出てきたと思ったらソレか!?」

 どう見てもお願いしていたようには見えないが、そういうことらしい。

「あのおばちゃんこわい」

 イヴァンはドン引きしていてその後ろにフォニアが隠れている。

「いや別にそのお願いとやらを聞く義理もないけど」

「はぁ!?」

 随分とご立腹な女冒険者を無視して、誰もいなくなった野営用ハウスを異空間ボックスへと収納する。

「――はぁ!?」

 さっきとは様子の違う声を上げるとそのまま動きを止める。後ろの男も口を開いたまま動く気配がない。

「今のうちに出発するか」

「そうね。なんだかうるさそうだし」

「異議なし」

 早く出発するとばかりに、フォニアをニルの背中に乗せるイヴァン。柔軟体操もそこそこに、俺たちはいつもよりもスピードを上げて魔の森方面へと街道を走りだした。

「……あ、ちょっと、待てよ!」

 我に返った男女二人組の冒険者を置いて。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...