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閑話(第五部)

閑話4 柳原仁平

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「ふぅ……、まずは一安心といったところか」

 孫娘の楓が戻ってきてからそろそろひと月が経とうとしている。
 異常な身体能力を見せた楓だったが、各種の精密検査をした結果問題は発見されなかった。本人に聞けば神様にスキルをもらったという話だが、いまいち儂にはよくわからん。ただまぁ、それが身体能力につながっているということだけは嫌でもわかる。
 検査の結果は問題なかったことだし、神様に体を丈夫にしてもらったとでも思っておくことにしよう。

 きっかけは先日行った妻の墓参りだ。
 財布をすられたと勘違いした楓が、犯人を追いかけて走り去る速度は尋常ではなかった。あっという間にいなくなったかと思えば階段も使わずに飛び降りたのだ。

 感慨にふけっていると、部屋の扉がノックされる。

「失礼します」

 ここはDORAGON社ビルの会長室だ。入ってきたのは秘書である望月くんである。

「どうした?」

「会長。水本柊様と莉緒様について報告に参りました」

「ああ、なるほど」

 柊くんたちには自由にスマホ決済をしてもらってかまわないと伝えているが、予想外に使い込んでいるんだろうか。あとはマンションも貸していたか。
 いくら使ったかはわからないが、この五年間、楓を探すためにいろいろと手を尽くしたことを思えば何のこともない。

「詳細は後程メールで報告させていただきますが、一点だけ気になるところがありましたので直接報告に参りました」

「ふむ」

「こちらをご覧ください」

 手渡されたのはスマホの明細書だ。スマホ決済を組み込んであるからして、スマホの使用料金として各種買い物の明細が記載されている。
 やけに食料品の割合が多い気がするが、特に注意をするほどでもない。

「ん?」

「お気づきになられましたか」

「ああ。これは……」

 買い物をした明細であるからして、支出の一覧がずらっと記載されているはずである。その中に異彩を放つのは、数字の頭にマイナスのついた項目だ。金額自体は大したことはないが、支出の中にあってひとつだけあるマイナス項目はとても目立つ。

「gougleといえば……、大手のインターネットサービス関連の会社だが……、その名前がなぜここに?」

「それが、動画投稿による広告収入のようで」

「は?」

 一瞬頭がついていかずに間抜けな返事をしてしまう。gougleの動画投稿サイトといえば思い浮かぶのは一つだけだが、柊くんが動画を投稿している?

「その動画がこちらです」

 秘書に見せられたそれには、フォニアちゃんが映っていた。相変わらずの愛らしい姿にほおが緩むが、聞こえてきた音声には眉を顰めざるを得ない。
 儂も何度か聞いたことはあるが、異世界の言葉ではなかろうか。

「いかがいたしましょう」

「うむ……」

 動画の再生回数はすでに十万を超えている。コメントも大量についており、あることないことが大量に書き込まれている。概ね好意的な内容ばかりだが、もちろんそれ以外のコメントもあるだろう。

「それなりに広がっているようだな」

「はい」

 ただのコスプレに見えているうちはいいかもしれんが、そのうち気づく人間も出るだろうか。聞いたことのない言葉からダンジョンと紐づけられる可能性も捨てきれん。今から隠したところで余計に怪しく見えるだけだろう。
 滅多にこちらの世界に来ない彼らに影響があるとも思えんが……。

「ふーむ……、妙に隠し立てするよりはいっそのこと……」

 一計を案じた儂は、その内容をおおざっぱにではあるが秘書へと伝えていく。

「プロジェクトとして立ち上げを頼む。本人には儂から伝えておこう」

「かしこまりました」

 秘書の望月くんが退室したところで、ソファへと沈み込むように背を預ける。フォニアちゃんの愛らしさを思い浮かべると、儂はこのプロジェクトが成功する未来を夢想するのであった。
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