成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
313 / 421
第五部

エピローグ

しおりを挟む
「楓!」

 会議室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは十四郎さんだ。
 音に驚いた楓さんがビクリと反応したけど、十四郎さんの姿が目に入った瞬間に座っていた椅子から立ち上がった。

「……あ」

 小さく声が漏れるがその先が続かない。瞳を揺らしながら十四郎さんを見つめる楓さんから、一滴の涙が零れ落ちる。
 十四郎さんも驚きの様子から眉をひそめるが、とうとう耐えきれなかったのかくしゃりと表情を歪めた。涙を耐えながら一歩一歩近づいていくと、楓さんの二歩ほど手前で立ち止まる。

「楓。……おかえり」

 優しい声音でそう告げると、とうとう楓さんも耐えきれなくなったのか十四郎さんに飛びついて声を上げた。

「おとうさん……、ただいま。……うわあああぁぁああん!」

 十四郎さんも楓さんを抱きしめると、もう離さないとばかりにしっかりと受け止める。

「おかえり。よく……、無事でいてくれた。……ほんとに、よがっだ」

「うう、ぐすっ、よがっだなぁ……」

 隣でイヴァンがもらい泣きをしていて、莉緒も瞳に涙を浮かべていた。フォニアが無言でイヴァンの足へと抱き着くと、その足に顔を埋めている。フォニアの両親はもういないけど、お父さんのことを思い出したんだろうか。
 フォニアに気付いたイヴァンが、しゃがみこんでフォニアをぎゅっと抱きしめる。

「楓ちゃん……、ホントによかった」

 莉緒が嬉しそうに笑顔を浮かべているけど、ちょっとだけ眉が下がっていて寂しさが垣間見えた。俺たちの知らない日本に初めて来たとき、両親に会えるかもと取り乱した莉緒がふと浮かぶ。

「ああ……、そうだな……」

 そっと莉緒を抱き寄せると背中に腕を回す。
 どれくらいの時間そうしていただろうか。しばらくするとまたもや部屋の扉が勢いよく開かれる。

「か、楓!」

 息も切れ切れに登場したのは仁平さんだ。

「じぃじ!」

 十四郎さんの肩口に埋めていた顔を上げると、楓さんは今度は仁平さんへと飛びついた。

「楓! 無事だったんじゃなぁ……」

 感慨深げに呟くと、楓さんの頭を優しく撫でて大きくため息をつく。

「大きくなったな、楓」

「うん……、うん」

 何度も大きく頷く楓さんを仁平さんが優しく抱きとめる。
 ひとしきり楓さんの無事を確認し終わったところで、仁平さんと十四郎さんが俺たちに顔を向ける。

「柊くん、莉緒くん。それにイヴァンくんとフォニアちゃんも。孫を探しだしてくれて、本当にありがとう」

「君たちには感謝してもしきれない。本当に……、本当にありがとう」

「いえ……、ホントに楓さんが見つかってよかったです」

「ホントよね。あの世界、いつ死んでもおかしくないから」

「俺たちもシュウたちに助けてもらわなければ死んでただろうしな……」

 イヴァンが実感の籠った口調でしみじみと呟くと、十四郎さんと仁平さんの表情が強張る。

「それほどかね」

「あ、はい。境遇は俺たちと違うと思いますけど、そう変わらなかったんじゃないかと思います」

 イヴァンとフォニアは奴隷だったけど、アークライト王国でも召喚したクラスメイトには隷属の首輪が嵌っていたのだ。確かにそう違いはないかもしれない。

「はは、まぁ終わり良ければすべて良しということで」

「じゃあ私たちは一旦お暇しようかしら」

「そうだな。……家族水入らずを邪魔するわけにもいかないし」

 イヴァンにも視線を向けると同意するように頷きが返ってくる。せっかく楓さんが帰ってきたので、邪魔者は退散するに限る。

「ああ、大変に残念なことであるが、気を使ってもらわなくても構わんよ」

 気を利かせたつもりではあったけど、十四郎さんが眉間に皺を寄せて本気で残念そうにしている。

「……そうじゃな」

 仁平さんも渋面を作りながらちらりと左手の腕時計で時間を気にする様子を見せている。

「仕事をほっぽり出してきたからな……、あと何分誤魔化せるやら……」

 おぉぅ。そういうことか。いやしかし、五年間も行方不明だった家族が見つかったってのに、もう今日は休みにできないものなのか。とはいえ二人は社長と会長だしなぁ……。お偉いさんの仕事はよくわからないので何も言えない。

「あ、私も、お世話になった人に挨拶もしてないから……。それに孤児院の子どもたちにもきちんと説明したいし」

「孤児院?」

「うん。私、向こうの世界で孤児院で働いてるの」

「そうだったのか……。しっかりと自立していたんだな」

 なんとも複雑そうな表情の十四郎さんだ。俺たちもそうだけど、本来なら高校生をやっているはずで、何か思うところがあるのかもしれない。

「着替えだけはしましたけど、それ以外は着の身着のままって感じで連れてきましたからね」

 苦笑と共に伝えると、少しだけ笑いが返ってきた。
 十四郎さんと仁平さんも心から笑っているように見える。

「そうかそうか。お世話になったというのであれば、儂らからもお礼をしたいところだな」

「ああ、そうだな」

 仁平さんがそう言葉にすると十四郎さんも頷いている。
 と言ってもなぁ……。

「言葉は通じないですけどね」

「はは、そういえばそうだったな」

 額に手を当てて苦笑する仁平さん。だけど安心してください。

「お礼なら俺たちからしておくので大丈夫です。孤児院の子どもたちだって飢えさせたりはしませんから」

「それならお願いするとしよう。もちろん儂らからもお礼はたっぷりとさせてもらう」

「ああ。遠慮なく受け取ってくれ」

「はぁ……、それならまぁ」

 すでにいろいろもらっている気はするけど、突っぱねるのも気が引けるので曖昧に頷いておく。実際に受け取るかどうかは現物を見てからでも遅くないだろう。

 こうして和やかな会話は、十四郎さんと仁平さんの部下が額に青筋を立てて迎えに来るまで続けられた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...