成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
311 / 421
第五部

楓さんの帰還

しおりを挟む
「あの、少しだけ考える時間をもらってもいいですか?」

 おずおずと切り出した楓さんだったが、言うことももっともである。準備もなしにいきなりここを離れることもできないだろう。

「はい。大丈夫ですよ。俺たちもいきなり押しかけましたし、急いでるわけでもないですから」

「十四郎さんたちは首を長くして待ってるだろうけど」

「なんなら今からパッと行って話だけしてもらって帰ってきてもいいし」

「えっ?」

 莉緒の言葉に苦笑しながらそう告げると、よくわかっていない表情が返ってきた。

「えーと、行くのに何日もかかるのでは……?」

 楓さんの言葉に莉緒と顔を見合わせる。
 なんかかみ合ってないと思ったけどそういうことか?

「一時間もあれば十四郎さんの職場に行けますよ」

「……え? いやいや、いくらなんでもそれは」

「はは、魔法って便利ですよね。だいたいなんでもできちゃうので」

 あんまり信じてもらえてないようだけど、実際に一時間もかからないと思う。俺たちが拠点にしているマンションから駅まで徒歩五分。電車に乗ってる時間も三十分もなかったはずで、そこからDORAGON社のビルまで徒歩五分くらいだったはずだ。

「私も魔法を使えるようになってできることは増えましたけど、限度があるでしょう……? ……本当に?」

「ここで冗談を言ってもしょうがないでしょう。どうせ楓さんを連れていく日になればバレるでしょうし」

「そうですね……」

 俺の言葉にしばし考え込んでいた楓さんだったが、口をへの字にするとミラベルさんへと向き直る。

「すみませんミラベルさん。今からちょっとだけ行ってきてもいいですか?」

「もちろんかまわないわよ。……五年振りにご家族の方に会えるんでしょう? 行ってらっしゃい」

 申し訳なさそうにする楓さんを、ミラベルさんが苦笑しつつも快く送り出す。

「ありがとう、ございます」

 深々と頭を下げる楓さんにミラベルさんも胸がいっぱいのようだ。

「こっちのことは心配しないで。何なら一日くらい大丈夫だから、目一杯家族と一緒に過ごしてきなさい」

「……はい!」

「じゃあ孤児院にはエルを置いておきましょうか」

 楓さんの一時帰宅が決まったと同時に、莉緒からそんな声が上がった。

「え?」

 まったく予想していなかったからか、後ろから声が上がる。

「急に人手がいなくなったら大変でしょう。エルを置いていくのでどうぞこき使ってやってください」

「うん。そりゃいいな。ニルもここに残るだろ? また電車に乗るとケージに入らないとダメだしな」

「わふぅ……」

 電車と言う言葉を聞いて耳がぺたりと倒れて悲しそうになる。

「電車……!」

 楓さんからも同じ言葉が繰り返されている。

「えっと、そこまでしていただくわけには……」

「気にしないでください。押しかけたのは私たちですし、楓ちゃんがいない間の埋め合わせはさせてもらいます。エル、命令です。ミラベルさんの言うことをちゃんと聞くように」

「畏まりました」

 指名を受けたエルが背後から一歩前に出て、軽く頭を下げる。自分も日本に行きたかったオーラが背後から感じられるがスルーする。

「ニルも子どもたちと遊んであげてくれ。怪我だけはさせないようにな」

「わふっ」

「それじゃあさっそく行きましょうか」

 フォニアが莉緒の膝の上から降りると俺たちも立ち上がる。椅子をテーブルの中に仕舞うと後ろにスペースを作る。

「あの、どうやって行くんでしょうか」

「ここに今から穴を開けるので、そこをくぐればもう日本ですよ」

「はぁ……」

 莉緒が魔力を練り上げるとさっそく次元の穴を部屋の中に開ける。何度か繰り返すうちに発動もスムーズになってきた。

「じゃあ先に行ってるぜ」

「おさきにー」

 イヴァンとフォニアがためらいもなく、空間に開いた穴の中へと入っていく。

「さあ楓さんもどうぞ」

 ゴクリと唾を飲み込むような仕草をする楓さんが、真剣な表情でテーブルのこちら側へと歩いてくる。

「すごい……、魔力ですね……」

 しばらく空間に開いた穴を眺めていた楓さんだったが、意を決して足を踏み入れる。

「では俺たちもこれで失礼します。エル、あとは頼んだぞ。ニルもよろしくな」

「あの子を、カエデをよろしくお願いします」

 深々と頭を下げるミラベルさんに頷くと、楓さんの後を追って穴へと飛び込んだ。



 出た場所は日本で拠点としているマンションのベランダだ。だいたいが靴を履いたままなので、日本に来るときは出る場所をベランダにしている。
 オフィス街ほどではないが、それなりにマンションの林立する住宅エリアである。コンクリート造りの家やビルが立ち並ぶさまは、あの異世界では絶対に見られない風景だ。こちらの時間帯も昼間のようだが、そういえば一日の周期ってあっちも一緒なのかな。

「ここは……」

 ベランダから外の風景を眺めていた楓さんがぽつりとつぶやく。ゆっくりと周囲を見回していると、瞳からひとつの雫が地面へと落ちる。
 気が済むまで景色を堪能してもらうことにした俺は、さっそくポケットからスマホを取り出して仁平さんへと電話を掛けた。

『もしもし、柊くんかね!』

 ワンコールもしないうちに即電話から声が聞こえてくる。

「はい。早いですね……」

『もちろんだとも! 柊くんのほうから連絡をくれるということは、何か進展があったんだね?』

 何やら電話の背後から「会長!」という声が聞こえてくる気がするけど、聞かなかったことにしておこう。

「はい。楓さんが見つかったので、今からそちらに連れて向かいます」

『……は?』

 端的に成果を告げたが、スマホからは間抜けな一言が返ってくるだけだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...